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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科82巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ―書類作成と留意点

1.身体障害者申請

著者: 青柳優

ページ範囲:P.829 - P.836

Ⅰ.はじめに

 わが国における福祉施策は,東大寺毘盧遮那仏の建立を発願した聖武天皇の皇后であった藤原光明子(安宿媛)が奈良時代に建てた悲田院と施薬院を嚆矢とする。約1,300年の歴史があるわけであるが,法的な整備は児童福祉法〔1947(昭和22)年〕の制定を待たなければならなかった。その後に制定された身体障害者福祉法〔1949(昭和24)年〕と生活保護法〔1950(昭和25)年〕と合わせて福祉三法と呼ばれるが,2006(平成18)年には少子高齢化社会に向け,従来の支援費制度に代わり,障害者に費用の原則1割負担を求め,福祉サービスを一元化し,『保護』から『自立』に向けた支援に切り替えるため障害者自立支援法が施行された。

 身体障害者福祉法は身体障害者の更生援護を目的としたものであるが,『更生』とは日常生活能力の回復を意味する。すべての国民は平等に福祉施策の恩恵を受ける権利を有するものであり,われわれ医師には障害者の福利厚生に尽力する義務がある。本稿では,専門医研修を始めるに当たって知っておくべき身体障害者手帳申請に係る事項について概説する。

2.結核届出の手順―改正感染症法に統合されてから

著者: 南場淳司 ,   新川秀一

ページ範囲:P.837 - P.844

Ⅰ.はじめに

 1951(昭和26)年に成立施行された『結核予防法』により,国内における結核の死亡率や罹患率は順調に低下していたが,近年罹患率の低下速度は減少し,1997(平成9)年に新規罹患患者が前年を上回ったことから,1999(平成11)年7月に当時の厚生大臣から『結核緊急事態宣言』が出された。宣言では『現在の我が国の結核の状況は,今後,患者数が増加し多剤耐性結核がまん延する等,再興感染症として猛威をふるい続けるか否かの分岐点に立っており,まさに今日,医療関係者や行政担当者を含めた国民一人一人が結核を過去の病気として捉えるのを改め,国民の健康を脅かす大きな問題として取り組んでいかなければ,将来に大きな禍根を残すこととなる』としている。この宣言を受け,結核予防法は2005(平成17)年4月に定期健康診断,定期外健康診断の対象者,方法などの見直し,BCG直接接種の実施などの改正が施行され,さらに2006(平成18)年には結核予防法を廃止して,感染症法に統合する法律案が成立し,2007(平成19)年度から改正感染症法の施行となった。また,BCG接種については,予防接種法に統合された。

 わが国の2008(平成20)年の結核新登録患者数は24,760人,人口10万人対の罹患率は19.4人であり,減少傾向にある。しかしGlobal Tuberculosis Control WHO Report 2009の報告では,日本の罹患率は他の先進諸国の罹患率に比べ,2~4倍もの罹患率であり(表1),現在も中まん延国とされている。

 結核予防会結核研究所疫学情報センター(http://jata.or.jp/rit/ekigaku/)が公表している『活動性分類別結核登録者数および有病率の年次推移』によると,結核のなかで『肺外結核』の全結核症中に占める割合は増加傾向にある。活動性全結核に対する活動性肺外結核の割合は1989(平成元)年に6.2%だったが,2008(平成20)年には22.5%(4,503人)と増加している。肺外結核はわれわれ耳鼻咽喉科医師が直接治療を担当する機会が多く,ここ数年でも結核性中耳炎や鼻腔結核,咽頭喉頭結核,頸部リンパ節結核など多数報告されており1~8),結核に関する十分な知識をもって日常診療に従事する必要がある。

3.介護保険意見書の書き方

著者: 伊藤裕之

ページ範囲:P.845 - P.851

Ⅰ.介護保険制度と意見書

 介護保険制度は,2000年4月より始まった比較的新しい社会福祉制度である。これは,日常生活に支援や介護を必要とする状態になった場合に公的介護サービスを受けられ制度である。被保険者の介護度は,要支援1,2,要介護1~5の7段階に分けられ,要介護5が最も介護を要する。介護度の認定は,市区町村の介護認定審査会にて全国一律の基準に基づいて行われ,書式もほぼ全国一律のものが使用される。訪問調査結果による一次判定と主治医の意見書が介護度の認定に必要である。介護保険主治医意見書(以下意見書と略す)の作成は,医師にしかできないものであり,被保険者から依頼があれば,作成することが望まれる。

4.医療安全にかかわるレポートシステム

著者: 佃守

ページ範囲:P.852 - P.860

Ⅰ.報告システムの考え方

 さまざまな医療行為で約10%が事故につながる可能性があり(ヒヤリハット),また30回の医療行為で1回は事故になると考えられている(図1)。そのため医療事故発生のリスクを可能な限り下げる目的で,医療機関内で何が生じ,どこに問題があるかを考え,その対策を講ずることが医療安全の根幹となっている。医療に関する報告システムの目的は職員が自己の行為を見直し,事故防止策によって職場,業務の改善を図るだけでなく,その過程で職員間のコミュニケーションの活性化によってチーム医療を充実させることである(表1)。

 現在,医療機関では医療に関して患者に有害事象が生じる可能性があった(ヒヤリハット,狭義のインシデント),また医療行為を行って生じた事象(オカレンス,アクシデント)に関してその内容を問わずに収集,分析し,再発防止策を決め,院内に周知することが義務づけられている(表2)。医療事故が起こりそうだったヒヤリハット,また生じた事象の内容を医療の安全をつかさどる部門(医療安全管理室など)に報告するシステムを広義のインシデントレポートと呼ぶ。

5.紹介状・診療情報提供書の作成

著者: 土井勝美

ページ範囲:P.861 - P.864

Ⅰ.はじめに

 外来・病棟診療で担当する症例に関して,病院,診療所,他科の医師に何らかの依頼を行う際,紹介状もしくは診療情報提供書(以下,あわせて紹介状に統一する)を準備する必要がある。受け取る医師の立場に自分を置き換えてみれば,どのような紹介状を準備するべきか自ずと理解できる。

 耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師の多くは,大学附属病院,医療センター,市中の基幹病院などの病院勤務で研修をスタートさせることになるため,本稿では,そのような医療機関から他の医療機関,診療所で診療を行う医師への紹介状作成における留意点について述べる。

6.生命保険

著者: 赤羽誉 ,   谷口由希子 ,   細野研二

ページ範囲:P.866 - P.872

Ⅰ.はじめに

 医師が作成しなければならない診断書や証明書のなかで,生命保険に関する書類は,最も作成する機会が多く,診療を行った時点から,書類作成を依頼される可能性がある。

 近年,多彩な保険内容があり,契約内容も複雑化しており,個人で複数の保険に加入している例も珍しくはない。なかには4~5種類の書類作成を求められる場合もあり,医師の負担が大きくなっている。

 また,主に海外で仕事をしている日本人で,外国の保険に加入している例もある。このような場合,英文の診断書(図1)を作成しなければならず,日本の様式とは異なるため戸惑うこともまれに経験する。

 いずれにしても,医師は,診療で得た情報を正確に記載しなければならず,これらの留意点や書類作成における注意点について以下に述べる。

Current Article

鼻症状を引き起こすケミカルメディエーター

著者: 白崎英明

ページ範囲:P.821 - P.828

Ⅰ はじめに

 アレルギー反応には,多くのケミカルメディエーターが重要な役割を演じていることが知られている。アレルギー性鼻炎においても局所で産生・遊離されたケミカルメディエーターが,標的細胞に発現している特異的受容体に作用してくしゃみ,鼻汁,鼻閉などの鼻症状を引き起こしている。ケモカイン,サイトカインにて鼻粘膜を刺激しても鼻症状は生じないが,ケミカルメディエーターは直接的に鼻症状を引き起こすため,ケミカルメディエーターの特異的受容体拮抗薬ないしケミカルメディエーター遊離抑制薬は,鼻アレルギー治療薬として既に臨床に広く用いられている。アレルギー性鼻炎患者に対する鼻粘膜単回抗原誘発後の鼻腔洗浄液中のケミカルメディエーターの経時的濃度変化は,ヒスタミンとプロスタグランディンD2が即時性かつ一過性の上昇を示すのに対し1,2),ブラディキニン1,2),システイニルロイコトリエン2),血小板活性化因子(PAF)3),トロンボキサンA24)では即時性のみならず抗原誘発4~8時間後の遅発相にも再上昇を示すことが確認されている(表1)。つまり,上気道において,抗原刺激後の肥満細胞の活性化と脱顆粒は,即時性かつ一過性であるのに対し,遅発相では,好酸球を中心とする浸潤細胞の活性化が引き起こり,ロイコトリエンなどの脂質メディエーターの放出が起こっているものと推定される。上気道においては,抗原刺激により表2に示す細胞からこれらのケミカルメディエーターが産生遊離され,特異的受容体を介して作用するものと考えられている。アレルギー性鼻炎では薬物療法が主であるが,鼻噴霧用ステロイド剤以外の日常臨床で用いられるほとんどの鼻アレルギー治療薬はケミカルメディエーターに拮抗する薬剤が主となっている。本稿では,これらケミカルメディエーターのアレルギー性鼻炎の鼻症状発現への関与につき,これまでの報告を整理し,その推定される役割について概説する。

原著

診断まで長期間を要した甲状腺結核の1例

著者: 渡辺健太 ,   中屋宗雄 ,   大貫裕香 ,   阪下健太郎 ,   阿部和也

ページ範囲:P.881 - P.884

Ⅰ はじめに

 本症例はかつて当院の前身である東京都立府中病院から『皮膚瘻孔を生じた亜急性甲状腺炎(de Quervain)の1例』として本誌に報告した症例である1)。その後の長期にわたる経過観察により頸部から結核菌が同定され,加療を行うと同時に,稀な甲状腺結核であったと判明したので,文献的考察を加えて報告する。

眼瞼脂腺癌リンパ節転移に対する治療法についての検討

著者: 森本浩一 ,   大月直樹 ,   土井清司 ,   齋藤幹 ,   丹生健一

ページ範囲:P.885 - P.887

Ⅰ はじめに

 脂腺癌はマイボーム腺や眼瞼皮膚および眉毛部の脂腺から発生する稀な上皮性悪性腫瘍で,多くが眼瞼に生じる。原発巣に対する手術は眼科で治療される場合が多いが,17~33%と比較的高頻度に耳下腺または頸部リンパ節転移をきたし1,2),われわれ耳鼻咽喉科医もその取り扱いについて知っておくべき疾患である。今回われわれは,眼瞼脂腺癌の局所治療後に耳下腺および頸部リンパ節に転移を認めた5症例を経験したので,術式を中心とした治療法について文献的考察を加えて報告する。

急速な喉頭浮腫をきたした悪性リンパ腫の2症例

著者: 金沢弘美 ,   長谷川雅世 ,   原真理子 ,   松澤真吾 ,   児玉梢 ,   新鍋晶浩 ,   金澤丈治 ,   飯野ゆき子

ページ範囲:P.889 - P.892

Ⅰ はじめに

 悪性リンパ腫は,日頃の外来診療で忘れてはならない疾患の1つである。今回,無痛性両側頸部リンパ節腫脹が出現し,1か月後には顔面頸部腫脹,喉頭浮腫が起こり,診断前に気管切開を必要とした悪性リンパ腫症例を2例経験した。2例とも,急速なリンパ節腫脹が内頸静脈を圧迫し,静脈還流障害により浮腫を起こしたことが原因と考えられた。この悪性リンパ腫症例を呈示し,この病態について考察する。

鏡下囁語

須藤五百三先生と魯迅

著者: 増田游

ページ範囲:P.877 - P.879

 須藤五百三は,岡山大学医学部の前身だった第三高等学校医学部を,1897(明治30)年に卒業した62名中の1人であった。その後,陸軍軍医となり,北京,台北にも居たことがある。約20年を経て,上海で医院を開業した。

 なぜ私が彼のことについて魯迅との話を書くことになったかというと,それは,はや今から20年も前のことから始まる。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.900 - P.900

 原稿を書いているこの時期は日中・尖閣諸島の問題が毎日,新聞,TVで報道されています。政治的な問題については本稿で述べるのは適当ではありませんので差し控えますが,本誌が出版されるころには政府は日本の立場を明確にし,良い方向に舵取りしていることを期待しています。

 さて,今月号はシリーズで企画させていただいている『耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ』で本号は『書類作成の留意点』の特集です。日常の臨床のなかで特に咄嗟のときにしばしば頭を悩ますのはさまざまな書類に関するものです。病院にとっても,また患者さんにとりましてもミスや誤解を招いてはいけない重要案件になります。執筆いただいた先生方には難しい項目をご依頼したにもかかわらずわかりやすく,かつ正確に解説いただき,編集委員および本誌編集室一同,感謝する次第です。本特集が入局まもない医師のみでなく多くの耳鼻咽喉科医にとりましても日常診療において貴重な一助となると確信しています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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