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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科82巻6号

2010年05月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科領域の術後機能評価

1.鼓室形成術

著者: 松田圭二 ,   三代康雄 ,   東野哲也

ページ範囲:P.359 - P.365

Ⅰ.はじめに

 鼓室形成術後の聴力成績を報告する際の基準は,いくつかの国で標準化されている。わが国においては,気骨導差,聴力改善,聴力レベルの3判定基準を組み合わせた聴力改善の成績判定案〔日本耳科学会(以下,耳科学会と略す),1999年〕が用いられている1)。欧米の基準である伝音難聴の治療成績に対する評価ガイドライン〔American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery(AAO-HNS)1995年〕2)では,気骨導差のみを判定基準としており,本邦案とは少し異なる。両ガイドラインの運用上の注意点などについて述べる。

 また,手術後に耳漏やデブリの溜まりが消失しメインテナンスフリーの状態になることが鼓室形成術の最終的な目標となる。よく含気化された中耳の構築は,聴力を含むこれらの機能を安定的に維持するための必要条件となる。術後含気腔評価については,標準化された方法はないが,機能評価の一法を紹介したい。

2.鼻内内視鏡手術

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.367 - P.373

Ⅰ.はじめに

 鼻内内視鏡手術(endoscopic sinus surgery:ESS)後の機能評価法として画像所見,鼻内内視鏡所見,線毛機能,嗅覚機能,鼻腔通気度,下気道検査が挙げられる。鼻症状(鼻閉,鼻漏,後鼻漏,嗅覚障害など)は,聴力と異なり他覚的に症状を表現させることは難しく,上記の評価法を術後の自覚症状の改善程度と照らして評価している報告が多い。

3.嚥下機能改善手術

著者: 藤本保志

ページ範囲:P.375 - P.382

Ⅰ.嚥下機能改善手術の定義

 嚥下機能改善手術とは喉頭を温存しつつ,より安全な経口摂取を目指した手術のことと定義される。気道と発声機能を温存するため,気道防御機構が維持されていることが条件となる。具体的には咳反射や痰の喀出力などの程度の評価が重要である。

 喉頭全摘術,気管喉頭分離術,喉頭閉鎖術など音声を犠牲にしても絶対に誤嚥しない構造をつくる術式は“誤嚥防止手術”として区別されることが多い。外科的治療をする前に重要なことは嚥下動態の詳細な評価と病態診断,患者・家族の希望/目標,介護力を含めた総合的な判断である。

4.音声機能改善手術

著者: 谷亜希子 ,   大森孝一

ページ範囲:P.384 - P.391

Ⅰ.はじめに

 声の障害を訴えて来院した患者に対しては,喉頭疾患の診断と声の障害の程度を客観的に評価したうえで,治療方針を決定する。喉頭疾患の診断には,詳細な問診,内視鏡での視診やストロボスコピーによる声帯振動の評価などが実施され,音声障害の評価には聴覚心理的評価,音響分析検査,空気力学的検査などが用いられる。音声障害の原因として良性疾患が考えられれば,一般に音声機能改善手術の適応となる。病変が軽度の場合はまず保存的治療や音声訓練を行ってみて改善しない場合に手術が選択されることがある。

 音声検査は,原因疾患の診断には補助的な役割であるが,音声障害の程度を客観的に把握するのに重要であり,特に治療前後で比較することでその効果を判定することができる1)。音声機能改善手術を行うのであれば,音声の客観的評価,できれば定量的評価を行う必要がある。本稿では,音声機能改善手術の術後機能評価について述べる。

5.頸部郭清術

著者: 鬼塚哲郎 ,   田沼明

ページ範囲:P.393 - P.398

Ⅰ.はじめに

 頸部リンパ節転移の浸潤などによって副神経が切除されると,体積の大きな僧帽筋の脱神経により,肩の下垂,鎖骨上の陥没,肩周囲関節の偏位,上肢運動障害などを伴うshoulder syndromeと呼ばれる状態となる。一方,近年一般的となった副神経を保存する頸部郭清術においても僧帽筋麻痺が回避できているわけではない。術中の筋鉤をはじめとした副神経への障害により,多くが僧帽筋麻痺をきたしていることが知られている。この僧帽筋麻痺は一過性であるが,適切な指導が行われないと,肩周囲の複数の関節障害に発展し,運動障害や痛みなどの後遺症を残すことになる。根治的,保存的の頸部郭清術のいずれにしろ,僧帽筋麻痺に対する評価と適切なリハビリテーションが行われれば,上肢機能の改善が得られる。ここでは,頸部郭清術後の僧帽筋麻痺の上肢機能に与える重要性とその評価,対応,経過などを述べる。

目でみる耳鼻咽喉科

下咽頭に腫瘤性病変をきたした尋常性天疱瘡の1例

著者: 齋藤亜希子 ,   池園哲郎 ,   中溝宗永 ,   酒主敦子 ,   堺則康 ,   川名誠司 ,   功刀しのぶ ,   土屋眞一 ,   八木聰明

ページ範囲:P.354 - P.356

Ⅰ.はじめに

 尋常性天疱瘡は,約半数の症例で口腔内に初発し,約5か月で全身の粘膜,皮膚に広がるといわれる1)。今回,われわれは口腔多発潰瘍に加えて,下咽頭にも腫瘤性病変をきたした天疱瘡の1例を経験したので報告する。

シリーズ 知っておきたい生理・病態の基礎

5.顔面運動

著者: 勝見さち代 ,   江崎伸一 ,   村上信五

ページ範囲:P.399 - P.404

Ⅰ はじめに

 顔面運動は顔面神経に支配される表情筋の動きである。表情筋は横紋筋であるが骨格筋と異なり皮筋,すなわち顔面頭蓋に張る菲薄な筋群である。随意的に額や眉間のしわ寄せ,閉眼,開眼,眉間のしわ寄せ,口の動きなどを行うとともに,感情や情緒をも表現することができる。顔面運動の異常には動きが悪くなる麻痺(paralysis)と過剰に動くhyperkinesiaがある。前者の代表は顔面神経麻痺で後者の代表は顔面痙攣である。

原著

開口障害で耳鼻咽喉科を初診した破傷風の2症例

著者: 芦澤圭 ,   中山雅博 ,   谷紘輔 ,   髙橋邦明

ページ範囲:P.409 - P.412

Ⅰ はじめに

 破傷風(tetanus)は破傷風菌(Clostridium tetani)によって産生される神経毒素により強直性痙攣を引き起こす感染症である。わが国では1968年に開始されたDTPワクチンの定期予防接種により近年では破傷風患者は年間100人前後と稀な疾患となった1)。しかし,発症すると死に至る例もあり,不幸な転機を招かないためには早期の診断および全身管理を含めた適切な治療が重要である。2008年3月~6月までの間に嚥下障害,開口障害を主訴として当科を受診した破傷風患者2例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

深頸部・縦隔膿瘍を生じた壊死性筋膜炎の1例

著者: 山口洋平 ,   西田幸平 ,   小林正佳 ,   竹内万彦

ページ範囲:P.413 - P.417

Ⅰ はじめに

 頸部壊死性筋膜炎は筋膜や筋肉のみならず皮膚や皮下組織へも急速に出血性壊死性病変が拡大する重篤な病態である1)。下降性に縦隔まで炎症が及ぶと縦隔膿瘍を形成して治療に難渋することもあるので,早急かつ適切な治療が必要である。特に高齢者では,全身性疾患の合併症を伴う例が多く,急激な経過をとる場合や,また自覚症状が乏しく訴えが少ないために診断と治療が遅れて死に至る場合があるので,注意が必要である。

 今回われわれは,頸部壊死性筋膜炎から深頸部膿瘍と縦隔膿瘍を形成し,治療に難渋した高齢の症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する。

鏡下囁語

Lucerne Festival(ルツェルン音楽祭)

著者: 髙坂知節

ページ範囲:P.405 - P.408

 スイスのほぼ中央部にある州都ルツェルンは,人口約7万5千人の比較的小さな湖畔の街である(写真1)。この街を世界的に有名にしているのがクラシック音楽祭で,特に毎年夏に行われている音楽祭には世界各国からクラシックファンが集まってくる。この音楽祭の起源は,1910年代に遡ることができるほど歴史的なイベントであるが,オーストリアのザルツブルグ音楽祭が隆盛を極めるに従って徐々に衰退し,1920年代にはほとんど行われなくなったという。ところが,ナチスによる強引なオーストリア併合があってザルツブルグ音楽祭が中止されてしまうと,状況が一変して再びこの地での音楽祭が息を吹き返すことになった。もともとこの風光明媚な湖畔には,リヒャルト・ワーグナーやセルゲイ・ラフマニノフが暮らしたことがあり,ヨーロッパ各地の音楽家達がしばしば彼らを訪れたこともあって,有名な観光地としてはクラシック音楽との所縁が深い土地柄でもあった。なかでも,ルツェルン音楽祭の発祥にかかわりのある,リヒャルト・ワーグナーとその妻コジマが愛の巣を営んだ郊外のトリープシェンにある白亜の館は,現在もワーグナー博物館として一般に公開されている(写真2)。超絶技巧のピアニスト兼作曲家として有名なフランツ・リストの娘であり,父親の愛弟子に当たる指揮者のハンス・フォン・ビューローとの間に既に2人の子どもをもうけていたコジマが,1862年にリヒャルト・ワーグナーと初めて出会い,次第に惹かれるようになった。その3年後にはワーグナーとの間に長女イゾルデが誕生し,やがてルツェルン郊外トリープシェンの館に移り住むことになったのだ。有名な『ジークフリート牧歌』は,1870年12月25日のコジマの誕生日のプレゼントとして作曲され,その朝に館の寝室横の階段で,ワーグナー自らが指揮をして友人達によって演奏された。事前にそのことを知らされていなかったコジマは,寝室から出てきてその様子を見て驚くと同時にいたく感激したと伝えられている。『ジークフリート牧歌』は室内オーケストラのための音詩あるいは交響詩といわれ,その初演の朝には狭い階段に譜面台が慎重に並べられてチューリッヒから駆けつけた選りすぐりの楽団員達によって数回にわたって繰り返し演奏されたという。ワーグナー家では,この曲を『階段の音楽』と呼んで大切に保管したため,楽譜が出版されて一般に公開されるまでにはそれから8年ほどを要した。

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あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.424 - P.424

 あとがきを書いている今日は4月も後半,そろそろ花粉症が終息に向かっていくところです。今年は患者さんにとっては比較的過ごしやすいシーズンだったと思いますが,その一方で毎日の温度が真冬になったり,初夏になったり,また東京では一昨日みぞれが降り,地方によっては季節はずれの雪が積もりました。さらにはアイスランドの火山爆発とまさに異常気象に振り回されています。農作物にとっても痛手となっていますが,体調を崩し風邪ひきの患者さんも多くみられます。

 政局も不安定,景気もいまひとつ。医師会もJ党支持かM党支持かと意見が分かれていますが,現与党のM党も近いうちにどうなるかも不透明。病院向け診療報酬がアップするとのことですが,勤務医の待遇改善に直接反映するかは不透明……などなど,天候と同様で落ち着きません。今年の終わり頃にはどういう状態になっているのか予想がつきませんが,すべて前向きにかつ楽天的に考えたいところです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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