原著
ミトコンドリア遺伝子変異による難聴患者の遺伝子検索―インベーダー法による遺伝子検査と遺伝カウンセリング
著者:
阿部聡子
,
山口敏和
,
長野誠
,
田所健一
,
清水恒典
,
惲暁青
,
宇佐美真一
ページ範囲:P.501 - P.506
Ⅰ はじめに
近年,多くの難聴の原因遺伝子が同定されるようになってきた。なかでも日本人難聴患者に高頻度で見いだされるミトコンドリア遺伝子1555A>G(1555)変異および3243A>G(3243)変異のスクリーニングは難聴の原因検索,予後の推測,治療法の決定,あるいは予防を行っていくうえで重要な診断ツールになってきている。1555変異はアミノ配糖体抗菌薬に対する高感受性と関連すること,また3243変異は糖尿病やMELAS(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis,and stroke-like episodes)と密接に関連していることが知られている1~3)。
遺伝子解析研究を臨床にフィードバックしていくためには効率の良い正確な遺伝子検査法の開発が必要である。以前より種々のミトコンドリア点変異検出法は存在していたが,今回紹介するインベーダー法はPCR法を不要とする遺伝子解析法で,変異や多型解析に用いられ,正確で工程が簡易であるという特徴をもつ。われわれはインベーダー法を用い日本人に高頻度で見いだされる変異を同時にスクリーニングできる難聴診断パネルを開発した4,5)。インベーダー法を利用した遺伝子検査については1555変異と3243変異に関してすでに受託検査が可能になっている。2008年からは先進医療として認められた難聴遺伝子スクリーニング検査にも使われているなど,臨床応用が開始されている。先進医療では検査のみでなく結果を遺伝カウンセリングとともに返すまでを医療として位置づけているが,今後遺伝子検査を難聴の遺伝子医療のなかにどのように組み込んでいくかは症例を積み重ねていくなかで確立していかなければならない問題である。本論文ではインベーダー法による遺伝子検査を用いてミトコンドリア遺伝子変異を検索し,遺伝カウンセリングを行った2症例に関して報告する。