icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻1号

2011年01月発行

雑誌目次

特集 めまい―最新のトピックス

メニエール病の画像診断

著者: 中島務

ページ範囲:P.19 - P.25

Ⅰ.はじめに

 MRIを用いて内リンパと外リンパを区別して描出できるようになって4年ほどが経過した。当初は,ガドリニウム造影剤を鼓室内に投与していたが1,2),最近は,造影剤を静脈内に投与しても描出できるようになってきた3~5)。静脈内投与だと患側内耳だけでなく健側内耳も評価できる。症例が増えるとともに内リンパ水腫と症状や検査所見との関係についてみえてきたものがあり,本稿では,症例を呈示しながら現状と今後の展望について述べる。

メニエール病の治療

著者: 北原糺

ページ範囲:P.27 - P.33

Ⅰ.はじめに

 メニエール病はその80~90%が生活指導,薬物治療などで軽快,治癒すると考えられている1)。保存治療と呼ばれるこの段階の治療に,最近では水分大量摂取2)や有酸素運動3)などの新しいアイディアが取り入れられてきている。一方で保存治療を行ったにもかかわらず,めまい発作が止まらず難聴が進行する難治例が存在する。難治例には外科治療という選択肢が呈示される。外科治療の効果判定には,その治療が必要であろうと判断される難治例にあえてその治療をせずに経過観察をする対照群を準備する必要があり,良質なEBMを得るのは困難な場合が多い。実際に難治性メニエール病に対する手術治療の論文は多いが,それらのほとんどは単なる治療成績の報告であり,対照比較試験を行っているものは少ない。難治性メニエール病の手術治療に関する良質なEBMが存在しないことは大きな問題であり,そのためにやむを得ず無効な保存治療を漫然と続けることになれば,高度感音難聴の進行4),さらには両側メニエール病への移行5,6)と,患者のQOLは著しく低下していくことになる。

 本項ではメニエール病に対して行われている薬物治療,その他の保存治療を概説するとともに,難治性メニエール病に対して選択される外科治療を紹介する。特に外科治療に関しては,治療成績を示すとともに,それらの問題点および限界についても言及したい。

良性発作性頭位めまい症

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.35 - P.42

Ⅰ.はじめに

 めまいは,半規管や耳石器,前庭神経の病変を原因とする耳性めまいと,小脳や脳幹,大脳などの病変を原因とする中枢性めまいの2つに大きく分けることができる。耳性めまいは中枢性めまいよりも頻度が高く(5~7倍),難聴や耳鳴,耳閉感などの蝸牛症状が,めまいに随伴することが多い。耳性めまい,中枢性めまいを問わず,これらの中で最も頻度が高いのは,良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)である(めまい疾患の30~40%)。表1に,BPPVの診断基準(日本めまい平衡医学会)を示す。“めまい頭位”と呼ばれるある特定の頭位(洗濯物を干したり取り込もうとしたとき,寝返りをうったとき,靴紐を結ぼうとしたときなど)をとると,回転性あるいは動揺性のめまいが出現し,同時に回旋成分の強い眼振が解発される。めまいと眼振は,めまい頭位で次第に増強し,次いで減弱ないし消失する。また引き続いて同じ頭位をとると,これらは軽くなるか,起こらなくなる。めまい以外に蝸牛症状や中枢神経症状を伴わない,予後良好な疾患である。BPPVは特定の頭位でめまいが認められることから当初は,耳石系(卵形囊,球形囊)の障害であると考えられていた1,2)。Schuknecht3)はBPPV症例の側頭骨標本において後半規管のクプラに,卵形囊の耳石(otoconia)由来と考えられる好塩基性の物質の沈着を認めた。そのためクプラの質量が変化して,頭位の変換による重力方向の変化でクプラが偏位するようになり,眼振やめまいが生じるとする,cupulolithiasis(クプラ結石症)という概念を提唱した。その後Hallら4)は後半規管内に迷入した小耳石片が,体位の変換に伴う重力方向の変化に応じて後半規管の管腔内を移動することによって内リンパ流動が生じその結果,クプラが偏位して,眼振やめまいが生じるとする,canalithiasis(半規管結石症)という概念を提唱した。Parnesら5)は本疾患の治療法の1つである後半規管閉塞術中,後半規管内を移動する小耳石片を手術顕微鏡下に確認したとする報告を行った。これらの報告をきっかけに本疾患の本態は耳石器ではなく後半規管にあることが明らかとなった。

上半規管裂隙症候群

著者: 鈴木光也

ページ範囲:P.43 - P.50

Ⅰ.はじめに

 迷路瘻孔は外傷性,炎症性,先天性などさまざまな原因により,中耳側や頭蓋底側に生じることが知られている。迷路瘻孔では,瘻孔部分が内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働くため,音刺激や圧刺激などの外的刺激を受けることによって外リンパを介して内リンパ還流が生じる。その内リンパ還流によって多くは半規管や前庭が刺激されて眼振やめまいが誘発される。これらの徴候はそれぞれ瘻孔症状およびTullio現象と呼ばれている。迷路瘻孔は,外側半規管隆起が圧倒的に多く,上半規管,後半規管または蝸牛外側壁など他の部位に生じることは稀である1,2)。そのため瘻孔症状およびTullio現象でみられる眼振はほとんどが水平性眼振である。上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome)とは,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲の骨に欠損が生じることによって瘻孔症状およびTullio現象を生じる新しい疾患単位であり,誘発される眼振の向きは垂直・回旋であることが特徴的である。

外リンパ瘻とめまい

著者: 池園哲郎

ページ範囲:P.51 - P.57

Ⅰ.はじめに

 外リンパ瘻は今まで考えられてきたよりも,さまざまな原因で発症し,多彩な臨床像を呈する(表1)。外リンパ瘻の定義は『外リンパ腔が骨迷路の異常な交通路を介して外腔と交通している状態』である。最近報告が多い半規管裂隙症候群は漏出がない外リンパ瘻の代表である。わが国で外リンパ瘻といえば,外リンパ漏出がその原因とされる特発性外リンパ瘻(鼻かみ型)が想起される。また,アブミ骨外傷による外傷性外リンパ瘻は,耳かき習慣のあるわが国からの報告がほとんどである。世界的にみると『外リンパ瘻』という疾患名を用いた論文は徐々にその数を減少しつつあり,とりわけ特発性外リンパ瘻はその存在すら否定されてきた。

 最近報告された外リンパ漏出の生化学的確定診断マーカーCTPを用いた報告では,外リンパ瘻の特徴が明らかになりつつある。例えば,特発性外リンパ瘻は確かに存在し,めまいを訴える頻度が高い,眼振が認められる症例が多い。アブミ骨外傷症例やアブミ骨術後症例では難聴よりもむしろめまいを主訴として受診する,など前庭系の症候が診断の鍵となる。この点についてもフォーカスを当てながら,本稿では外リンパ瘻の診断・治療を論ずる。

脳脊髄液減少症

著者: 國弘幸伸 ,   相馬啓子

ページ範囲:P.59 - P.65

Ⅰ.はじめに

 脳脊髄液減少症は,脳脊髄腔から髄液が漏出することによって生じる。最も顕著な症状は座位または立位において出現または増悪する緊張型の頭痛である。この頭痛は臥位をとることによって軽快・消失する。しかし本疾患では頭痛以外にも多彩な神経症状が出現する(表1)。めまいも出現頻度の高い症状である。

 脳脊髄液減少症患者の大多数は,職を失ったり長期の休職を余儀なくされている。家族の介護なしでは日常生活すら満足に送れない患者も少なくない。しかし,正確な診断がなされることなく,長年にわたってさまざまな医療機関や診療科を転々と受診していることがある。

 本稿では脳脊髄液減少症の診断に重点を置いて,本疾患でみられるめまいや随伴症状の特徴を述べる。脳脊髄液減少症は決して稀な疾患ではない。本稿が読者の皆様の日常臨床に役立てば幸いである。紙数の都合で治療については述べない。また,個々の症例の紹介も別の機会に譲ることとする。

新しい検査法:SVV

著者: 小川恭生

ページ範囲:P.67 - P.72

Ⅰ.はじめに

 耳石器は,直線加速度のセンサーである末しょう受容器で,球形囊と卵形囊からなる。この耳石器の機能検査としては,前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential:VEMP),偏垂直軸回転検査(off-vertical axis rotation),偏中心回転検査(eccentric rotation),眼球反対回旋(ocular counter rolling)などの検査法が挙げられるが,VEMP以外は検査装置が巨大であること,設備コストの問題で一般的に普及していないのが現状である。

 自覚的視性垂直位(subjective visual vertical:SVV)は,暗室で自覚的な垂直位を計測し,実際の垂直位(客観的な垂直位)とのずれを測定する検査である。SVVに関する研究はさまざまな領域で行われているが,めまい・平衡障害の機能検査としてのSVV測定の主たる目的は耳石器,前庭神経および中枢における重力認知経路の機能評価である。SVVでなく自覚的視性水平位(subjective visual horizontal:SVH)を測定している施設もあるが,SVVとSVHに本質的な違いはないと考えられる。

目でみる耳鼻咽喉科

悪性黒色腫が疑われて紹介されたTornwaldt囊胞症例

著者: 春田友佳 ,   井口広義 ,   山口友紀 ,   山根英雄

ページ範囲:P.6 - P.8

Ⅰ.はじめに

 Tornwaldt囊胞は,胎生期の遺残物である咽頭囊の開口部が閉鎖して生じる囊胞で,上咽頭後壁正中部に表面平滑で灰白色ないし黄白色の隆起性病変として存在する。典型例では内視鏡検査のみにて推測が可能であるが,時に悪性腫瘍との鑑別が必要となる。今回われわれは,その色調が黒色ゆえに悪性黒色腫の可能性も疑われて紹介されたTornwaldt囊胞症例を経験したので呈示する。

Current Article

ラミニンγ2鎖発現を指標とした頭頸部癌の浸潤・転移能の評価

著者: 倉富勇一郎

ページ範囲:P.9 - P.17

Ⅰ はじめに

 生体を構成する大きな成分である細胞外マトリックスは,古くは細胞の隙間を埋めるものであり組織と組織を区切る物理的な構造物ととらえられていたが,近年ではインテグリンなどの細胞表面受容体を介して細胞内にシグナルを伝え,細胞の増殖・分化を制御する細胞機能制御因子としての役割を担っていることがわかってきた。この細胞外マトリックスの特殊型が生体内に普遍的に存在し上皮組織を裏打ちしている基底膜であり,Ⅳ型コラーゲンやプロテオグリカンなどとともに基底膜を構成する細胞外マトリックス蛋白の一つがラミニンである。基底膜に接する細胞では,ラミニンに代表される細胞外マトリックス蛋白との接着により細胞内にシグナルが伝わり,増殖・分化や形質の発現が制御され,その機能調節が行われている1,2)

 一方,癌は上皮細胞に生じた遺伝子変異により悪性化した細胞が,正常の制御機構から逸脱し正常構築を失い自律的増殖能を獲得した病変である。さらに癌細胞はプロテアーゼ活性や細胞遊走活性を増大することにより浸潤能を強め,所属リンパ節転移を生じ,ひいては血行性の遠隔転移を形成する。この転移形成能が,癌が生命を脅かす悪性疾患であるゆえんの一つであり,癌の制御にはその増殖を抑制するとともに浸潤や転移を制御することが必要となる。こうした癌の浸潤・転移能の亢進,言いかえれば悪性度増大の過程にはさまざまな因子が作用しているが,ラミニンの構成鎖の一つであるラミニンγ2鎖が,癌細胞の浸潤・転移能の亢進,悪性度の増大に関与することがわかってきた3~5)。そこで本稿ではラミニンの知見を紹介するとともに,ラミニンγ2鎖の発現を指標とした頭頸部癌の浸潤・転移能の評価について概説する。

原著

高度な鼻閉を訴えたらい反応患者の1例

著者: 服部玲子 ,   伊藤由紀子 ,   日下秀人 ,   中西朝子 ,   中林洋 ,   石井則久

ページ範囲:P.75 - P.78

Ⅰ はじめに

 らい反応とはハンセン病の経過中に起こる皮疹,末しょう神経,眼や全身に起こる急性の炎症のことである。今回,ハンセン病治療中の出産直後の女性が高度な鼻閉を訴え受診し,らい反応であったことが判明した稀な症例を経験したので報告する。

眼症状を呈した好酸球性副鼻腔炎の1例

著者: 本間あや ,   高木大 ,   鈴木清護 ,   中丸裕爾 ,   福田諭

ページ範囲:P.79 - P.82

Ⅰ はじめに

 好酸球性副鼻腔炎は副鼻腔粘膜に好酸球浸潤がみられる難治性の副鼻腔炎で,気管支喘息を高頻度で合併することが報告されている。その臨床像は,両側性の粘膜浮腫や鼻茸による鼻閉,好酸球性ムチンと呼ばれる粘稠性の鼻汁を特徴とする。今回われわれは,篩骨洞内に充満したムチンが眼窩紙様板を圧排し,眼球運動障害をきたした好酸球性副鼻腔炎の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.4

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.84 - P.84

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.86 - P.86

投稿規定

ページ範囲:P.88 - P.88

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.89 - P.89

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.90 - P.90

 私ごとですが,先日50歳になりました。ちょうどその日は回診日。遅れて真っ暗なカンファレンス室に入っていくと,いきなりクラッカーが鳴って明りがつき,目の前にバースデーケーキが二つ。教授になって今年で10年目。新人達にとって兄貴分でいたつもりが,いつの間にか親子ほどの年の差になりつつあります。会議や出張で一緒に過ごす時間も少なくなり,たまに会ったらガミガミいっているようじゃあ嫌われるだけですね。10年後の誕生日も祝ってもらえるように,50代は『ちょい良い親父』になろうと思います。という訳で,家庭でも頑固親父な私に家内が教えてくれた詩を紹介します。教授室のコルクボードに貼ってあるのですが,なかなかこの通りにはいきません。

 親の祈り(一部抜粋)

 神様 もっと良い私にしてください。―子どもの小さい間違いには目を閉じて,良いところを見させてください。良い所を心からほめてやり,伸ばしてやることができますように。―子どもが自分で判断し自分で正しく行動していけるよう,導く知恵をお与えください。感情的にしかるのではなく正しく注意でしてやれますように。―子どもが心から私を尊敬し慕うことができるよう,子どもの愛と信頼にふさわしい者としてください。(マリオン・B・ダーフィーの『祈り』より)

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?