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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻2号

2011年02月発行

特集 診療所における工夫―私はこうしている

耳管開放症―一般診療所としての診療と耳管開放症のピットフォール

著者: 山口展正1

所属機関: 1山口内科耳鼻咽喉科

ページ範囲:P.113 - P.120

文献概要

Ⅰ.はじめに

 耳管開放症は比較的稀な疾患と考えられていた1)が,稀な疾患でなく2)今や一般の人がその疾患の存在を知り,耳鼻咽喉科外来を受診する時代になってきている。典型的耳管開放症は耳閉塞感,自声強聴,呼吸性耳鳴などを主訴とし,鼓膜の呼吸性移動を認め,オトスコープにて呼吸音,自声強聴が聴取でき,診断も容易である。しかしながら鼓膜の呼吸性移動の認められない症例,耳管機能検査の結果と一致しないこともよくみられる。問診の中で,『スースー・ゴーゴーいう耳鳴。嚥下したときに音がする(耳管閉鎖障害)。息をしたり,げっぷすると鼓膜が動く感じがする。寝た姿勢,頭を低くするおじぎの姿勢で症状が軽減する。』などの症状があれば,耳管閉鎖障害を含めた耳管開放症が強く予測される。そのうえで視診,聴取音,耳管機能検査装置を用いて診断するようにしている。耳管咽頭口を試験的に閉鎖し,症状が改善されればほぼ確実である3)。耳管咽頭口の処置を行い,生理食塩水の点鼻療法1,4),予防・生活指導5)にて経過観察することが多い。2010年のような猛暑日が長い間持続した夏場には,脱水症にならないように水分補給をし,食事を摂取し痩せに気配りをするように指導をした。耳管が高度に開いている症例,感音難聴,聴覚過敏症を伴っている症例などのコントロールは難しいことが多い。

 筆者の診療所へ来院する耳管開放症絡みの患者は多愁訴であり自分なりにその疾患を調べ,耳管開放症と自己診断して来院することが多い。耳管・中耳・内耳の摸型,中耳・内耳のシェーマ,鼻腔から上気道の摸型を用いて耳管開放症の説明とそれに関する症状,鼻咽腔・アレルギーなどを含めて説明をしている。そのため一人一人に診療時間を要している。症例を顧みて今まで教科書的に通用していた症状・疾患と異なる症例に数多く触れ,そこで今回常説では考えにくい耳管開放症に関する症例およびピットフォールを中心に記した。今後の外来診療に役立てばうれしい。

 中耳炎後に耳閉塞感,自声強聴が生じ,治療が悪かったのでは来院する患者もいる。中耳炎後の耳管開放症2,6~8)もあることを知っていればトラブルに巻き込まれることは少ない。感音難聴の中には耳管開放症の症状が隠蔽されていることがあり3),患者自身が耳管開放症による症状でないかと外来へ来院する。一般の耳鼻咽喉科医が考えている以上に耳管開放症にこだわる患者が増えているのが現状であると感じている。また低音障害型感音難聴の中には耳管を試験的に閉鎖することにより聴力が改善する症例もみられ,耳管と内耳のかかわりは深い。

参考文献

1)高原滋夫:耳管開放症.日本耳鼻咽喉科全書,第一巻聴器 第三冊臨床編 各論Ⅰ,鳥居惠二・他(編),日本医書出版,東京,1953,pp286-288
2)山口展正:耳管開放症に関する病態および疾患.Otol Jpn 5:199-203,1995
3)山口展正:耳管開放症の治療的診断.Otol Jpn 10:150-154,2000
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5)山口展正:耳管開放症の診断と治療.耳喉頭頸 77:911-916,2005
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:Proceedings of the fifth international Symposium on Recent Advances in Otitis Media, Hamilton, Ont:BC Decker, 1993, pp95-97
21)菊地俊晶・他:耳管開放症診断基準(案)の提唱.Otol Jpn 19:643-648,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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