耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻4号

2011年04月発行

原著

経過中に顔面神経断裂をきたした真珠腫術後耳の1例

著者： 長谷川雅世¹ 原真理子¹ 松澤真吾¹ 児玉梢¹ 新鍋昌浩¹ 金沢弘美¹ 滝沢克己¹ 椿恵樹¹² 金澤丈治¹ 太田康¹ 飯野ゆき子¹

所属機関： ¹自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科 ²つばき耳鼻咽喉科

ページ範囲：P.301 - P.304

文献概要

Ⅰ　はじめに

　中耳炎が原因となる顔面神経麻痺は末しょう性顔面神経麻痺の3.5％を占め^1），多くは真珠腫性中耳炎や急性中耳炎による。また真珠腫性中耳炎において顔面神経麻痺が発症する頻度は1.5％との報告がある^2）。一般的に真珠腫性中耳炎による顔面神経麻痺は不全麻痺が多く，減荷術を含めた早期の外科的治療でその予後は比較的良好である^3）。真珠腫による圧迫から顔面神経に虚血性変化が生じるため，その圧迫を解除することによって麻痺が改善すると考えられる。真珠腫の手術としては，大きく2つの方法がある。外耳道後壁削除型鼓室形成術と外耳道保存型鼓室形成術である。前者は後者に対し真珠腫の再発が少ないという長所をもつ。しかし，今回われわれは外耳道後壁削除型鼓室形成術の真珠腫術後耳にもかかわらず，経過中に真珠腫の再発と顔面神経の断裂をきたし，完全麻痺を認めたため再手術となった1症例を経験した。本症例を呈示するとともに，若干の文献的考察を加えて報告する。

参考文献

1）村上信五・他：急性・慢性中耳炎による顔面神経麻痺．Otology Jpn 14：51-54，2004

2）高橋　姿：中耳炎，中耳手術による顔面神経麻痺．21世紀耳鼻咽喉科領域の臨床9，野村恭也・他（編）．中山書店，東京，2001，pp163-167

3）暁　清文：真珠腫性中耳炎．21世紀耳鼻咽喉科領域の臨床4，野村恭也・他（編）．中山書店，東京，2007，pp238-239

4）山田武千代：顔面神経麻痺を生じた両側中耳真珠腫と耳下腺悪性腫瘍に対する手術．Facial Nerve Research Japan 25：29-31，2005

5）本多伸光・他：当科における耳炎性顔面神経麻痺の検討．Facial Nerve Research Japan 20：80-82，2000

6）原　誠：真珠腫性中耳炎．新臨床耳鼻咽喉科学2，加我君孝・他（編）．中外医学社，東京，2002，p198

7）山本悦生：外傷性顔面神経麻痺．JOHNS 16：407-411，2000

8）Psillas G, et al：Estimating the prognosis of peripheral facial paralysis：is the minimal nerve excitability test still up to date? HNO 55：625-629, 2007

9）Cornelius JF, et al：Surgical treatment of facial nerve schwannomas. Prog Neurol Surg 21：119-130, 2008

10）Wang ZM, et al：Analysis of prognostic factors in microsurgery of intratemporal facial nerve schwannoma. Zhonghua Er Bi Yan Hou Tou Jing Wai Ke Za Zhi 42：30-32, 2007