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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻5号

2011年04月発行

雑誌目次

特集 耳鼻咽喉科感染症の完全マスター 序文

『耳鼻咽喉科感染症の完全マスター』の発刊によせて―感染症との戦い

著者: 小川郁

ページ範囲:P.7 - P.11

 『人類は,これまで,疾病,とりわけ感染症により,多大の苦難を経験してきた。ペスト,痘そう,コレラなどの感染症の流行は,時には文明を存亡の危機に追いやり,感染症を根絶することは,正に人類の悲願といえるものである。医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により,多くの感染症が克服されてきたが,新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により,また,国際交流の進展などに伴い,感染症は,新たな形で,今なお人類に脅威を与えている。―中略―このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者などが置かれてきた状況を踏まえ,感染症の患者などの人権を尊重しつつ,これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し,感染症に迅速かつ的確に対応することが求められている』。後述する新感染症法の序文にある新感染症法制定の目的である。まさに人類は感染症とともにその歴史を刻んできたといっても過言ではない。感染症は人類にとって常に大きな災禍であったが,一方で文化,芸術,哲学を育み,科学と医学の発展を鼓舞してきた。『黒死病』とも呼ばれたペストは14世紀にヨーロッパの人口の1/3を奪ったといわれているが,その恐怖はミヒャエル・ヴォルゲムートの『死の舞踏』やピーテル・ブリューゲルの『死の勝利』にも描かれている(図1,2)。

 その後もペストは何度か世界的に流行しており,17世紀にロンドンを中心に流行したペストをダニエル・デフォーは『疫病の年(A Journal of the Plague Year)』に克明に描いている。ペストは19世紀に中国でも猛威をふるったが,日本では鎖国が幸いして大きな被害はなかった。日本での最初の流行は1899年であるが,もともとネズミからのペスト感染を仲介するケオプスネズミノミが日本には生息していなかったため,大流行とまでは至らず,1926年以降は発生していない。18~19世紀になって世界的に流行したのがコレラである(図3)。コレラの世界的流行(パンデミック)は1817年にカルカッタから始まり,アフリカや日本を含めたアジアに広がった初めてのパンデミック以来これまでに7回あるが,2006年に発生したパンデミックはジンバブエを中心に現在も続いている。日本では1822年に初めての流行があった。当時,コレラは『虎烈刺』,『虎列拉』,『虎列刺』などと記載されたが,虎のように恐ろしい猛烈な感染症と恐れられた様子がわかる。感染者がコロリ,コロリと死ぬため『コロリ』(虎狼痢),発症して3日で死亡する進行の早さや激しい症状から,『鉄砲』,『見急』,『三日コレラ』などとも呼ばれた(図4)。3回目のパンデミックも1858年(安政5年)に日本にまで蔓延し,『安政のコレラ』と呼ばれたが,日本全国で20万人以上が死亡し,第13代将軍の徳川家定もその犠牲になったといわれている。第2次世界大戦後は防疫体制の強化によって日本での流行はみられなくなっている。

Ⅰ.耳鼻咽喉科感染症の基本をマスターする

1.耳鼻咽喉科感染症の動向

著者: 戸川彰久 ,   山中昇

ページ範囲:P.13 - P.18

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科領域感染症の最近の大きな変化は,肺炎球菌やインフルエンザ菌に代表される起炎菌の抗菌薬に対する耐性化の著明な進行である。この変化は日常臨床における急性中耳炎や急性鼻副鼻腔炎の難治化に現れている。すなわち,従来,ペニシリン系抗菌薬やセフェム系抗菌薬の投与で治癒していた急性中耳炎や急性鼻副鼻腔炎症例において,治療に難渋する例がここ数年劇的に増加してきた。

 1996年から耳鼻咽喉科領域の全国的な感染症分離菌サーベイランスが行われるようになり,2008年に第4回の結果が報告された。さらに,増加する耐性菌対策として,代表的な耳鼻咽喉科感染症に対する治療指針として,診療ガイドラインの作成が検討され,エビデンスに基づいた治療を行うために,小児急性中耳炎診療ガイドラインが2006年に発表され,2009年にその改訂版が発表された。さらに2010年には急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインが発表され,治療の統一化がなされるようになった。

 本稿では耳鼻咽喉科領域感染症全国サーベイランスおよび急性中耳炎診療ガイドライン,急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインについて解説する。

2.知っておくべき新感染症法

著者: 小川郁

ページ範囲:P.19 - P.22

Ⅰ 新感染症法の公布

 新感染症法は1998年10月2日,法律114号として公布,1999年4月1日に施行されたが,正確には『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』と呼ばれる。従来の伝染病予防法,性病予防法および後天性免疫不全症候群の予防に関する法律を廃止,統合したものである。この法律制定の目的として『人類は,これまで,疾病,とりわけ感染症により,多大の苦難を経験してきた。ペスト,痘そう,コレラ等の感染症の流行は,時には文明を存亡の危機に追いやり,感染症を根絶することは,正に人類の悲願と言えるものである。医学医療の進歩や衛生水準の著しい向上により,多くの感染症が克服されてきたが,新たな感染症の出現や既知の感染症の再興により,また,国際交流の進展等に伴い,感染症は,新たな形で,今なお人類に脅威を与えている。一方,我が国においては,過去にハンセン病,後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め,これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ,感染症の患者等の人権を尊重しつつ,これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し,感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。ここに,このような視点に立って,これまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため,この法律を制定する。』と記載されており,その基本理念は第二条に『感染症の発生の予防及びそのまん延の防止を目的として国及び地方公共団体が講ずる施策は,これらを目的とする施策に関する国際的動向を踏まえつつ,保健医療を取り巻く環境の変化,国際交流の進展等に即応し,新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう,感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し,これらの者の人権を尊重しつつ,総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする。』とされている。

3.抗菌薬の使い方(PK/PD解析を含めて)

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.23 - P.30

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科領域急性感染症(急性中耳炎,急性副鼻腔炎,急性扁桃炎,急性咽喉頭炎)は,一般的にはウイルス感染で発症し,二次的に細菌感染症に移行することが多い。近年,小児急性中耳炎,急性鼻副鼻腔炎,急性咽頭・扁桃炎などの診療ガイドラインが発表されて重症度に応じた抗菌薬の種類・量の選択が示され,ガイドラインに準じた推奨治療方針が活用され,その有用性が検証されている。耳鼻咽喉科領域においては,特に肺炎球菌,インフルエンザ菌の耐性化が進んでおり,耐性化を食い止めるために,PK/PD解析に則った抗菌薬の開発も進んでおり,その適正使用が推奨されている。本稿では,はじめにPK/PD理論につき詳細を解説し,耳鼻咽喉科領域主要疾患からの検出菌の年次推移を検討し,主要な推定起炎菌の薬剤耐性率を勘案して,PK/PD解析に則った抗菌薬の適正使用につき考察を加える。

4.抗真菌薬の使い方

著者: 川内秀之

ページ範囲:P.31 - P.39

Ⅰ はじめに

 真菌による感染症としては,感染が皮膚や粘膜の表層にとどまる表在性真菌症と,皮下組織や粘膜下組織に侵入していく深在性真菌症がある。耳鼻咽喉科領域で抗真菌薬使用の対象となる疾患は,外耳道真菌症,鼻副鼻腔真菌症,口腔咽頭領域の真菌症などであり,局所的な軟膏の投与や,シロップ剤の内服,抗真菌薬の全身投与など,疾患やその重症度に応じて使い分けらえているのが実情である。

 本項で取り上げるのは,抗真菌薬の分類や市販されている薬剤,薬物代謝のうえで基本的な理解が必要な事項,真菌症に罹患している患者への実際の使用について解説する。薬物療法については,外耳道真菌症と侵襲性鼻副鼻腔アスペルギルス症などを中心に解説する。

5.抗ウイルス薬の使い方

著者: 江崎伸一 ,   木村宏 ,   村上信五

ページ範囲:P.41 - P.46

Ⅰ はじめに

 人に感染するウイルスは多種多様であるが,耳鼻咽喉科領域に発症するウイルス疾患は数多く知られている。かつてウイルス疾患に対する治療法は対症療法がほとんどであったが,現在ではヘルペスウイルスやインフルエンザに対する抗ウイルス薬が開発され,頻用されるようになってきた。

6.SSI(surgical site infection)の概念とその予防

著者: 中山明峰

ページ範囲:P.47 - P.49

Ⅰ はじめに

 手術部位感染(surgical site infection:SSI)は患者自身に負担がかかるのみならずその治療は医療従事者にとっても負担となるうえ,患者の不信を生む可能性も孕んでおり,場合によっては医療訴訟に至る症例もある1)。そのため,術前より万全を期するべく対策を立てる必要がある。

 米国では1999年にThe Hospital Infection Control Practices Advisory Committeeより,SSI予防のガイドライン2)が発表され,以来世界的に積極的な討論や報告がなされている。これに対し,わが国ではSSIに関する報告は少ない。感染症に起因する疾患が手術対象になることが多い耳鼻咽喉科領域の手術において,術後感染の可能性が高いにもかかわらず一般外科と比較するとその情報量の少なさは顕著である。SSI予防をすることにより手術を成功に導くのみならず,必要のない抗菌薬投与を削減できると考える3,4)

 本項では米国のガイドラインをもとにSSIに対する考え方ならびに抗菌薬投与方法を紹介する。

7.院内感染とリスクマネージメント

著者: 齊藤秀行

ページ範囲:P.51 - P.56

Ⅰ はじめに

 院内感染とは,病院など医療機関内で新たに接触した微生物による感染症に罹患することであり,市中感染と対をなす用語である。医療機関はさまざまな感染症に罹患した患者が訪れる場所であり,しかも,何らかの体調不良を訴える人が多く集まる場所であるから,当然,病原体に対する抵抗力が低下した人も多い。したがって,医療機関では,感染症の集団発生を生じることが多く,市中感染にない特殊な注意を払う必要がある。

 特に耳鼻咽喉科は,上気道の感染症を生じた患者が受診することが多く,その多くは伝染の可能性があるため,それぞれの感染症の特徴を把握し,それに応じた対策が必要である。

 一方で,現在では抗菌薬の開発が進んでいるが,皮肉なことに抗菌薬の使用量が増加するにつれ,抗菌薬に対して抵抗性を獲得した病原体が多く出現し,それらに対しては,耳鼻咽喉科に限らず病院全体をあげての取り組みが必要な状況になってきている。

 本稿では,まず,院内感染対策全般について述べる。次に,耳鼻咽喉科として注意すべき上気道感染症を生じる病原体と,院内感染対策として重視される多剤耐性菌について簡単に取り上げ,それぞれに対する対策を述べる。最後に院内感染に対する組織的取り組みについて述べる。

8.ワクチン医療の動向

著者: 岩田敏

ページ範囲:P.57 - P.70

Ⅰ はじめに

 ワクチンで防ぐことのできる疾患(vaccine preventable diseases:VPD)と呼ばれている)は,ワクチン接種により防ぐのが望ましいことはいうまでもないことであり,近年国内でもその機運が盛り上がっている。日本は諸外国と較べて接種できるワクチンの種類が少なく,特に公費負担で接種できるワクチンの種類が限られているということで,ワクチン後進国といわれてきた経緯があるが,そう呼ばれないように,少しずつではあるが諸外国に追いつこうとする努力が払われているところである。

 VPDをワクチンで防ぐことの意義は,社会における疾病のコントロールにあることはもちろんであるが,細菌性髄膜炎などの予後の悪い重症感染症から個人を守るワクチン,ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンのように癌(子宮頸癌)の発生を予防するワクチンも開発され,ワクチンの重要性はより高まっている。またワクチンは,職業感染予防,施設内感染予防,耐性菌増加の抑制といった医療福祉施設内感染対策としても重要な意味をもっている。社会全体でVPDを減らすことにより医療経済的効果が得られ,医療福祉施設では施設内感染・職業感染予防により安心して医療ができる環境が整うことになる。

 本稿では現在わが国で実施されている主要なワクチンの最近の動向について概説する。

Ⅱ.病原体をマスターする 1.細菌・原虫感染症

1)ブドウ球菌(含MRSA)

著者: 小川慶

ページ範囲:P.73 - P.75

Ⅰ 分類,疫学

 ブドウ球菌はグラム陽性菌の代表的な属の1つであり,ヒト・動物の皮膚・粘膜に広く存在する常在菌の1つである。好気性・通性嫌気性であり,直径0.8~1μmの無方向に配列したぶどうの房状の形態をもつ。大きく分けて黄色ブドウ球菌(図1)と非黄色ブドウ球菌(表皮ブドウ球菌など)に分かれ,前者が強病原性であるのに対し後者は弱病原性である。毒性の有無はコアグラーゼの有無と関係が深く,前者がコアグラーゼをもち後者のほとんどがコアグラーゼをもたないことによる。

 2007年に施行された第4回耳鼻咽喉科領域主要検出菌全国サーベイランスにおける,黄色ブドウ球菌の各耳鼻咽喉科疾患での分離頻度は表1の通りである。前回サーベイランスに比較し,急性化膿性中耳炎・慢性中耳炎ではやや減少している。

2)肺炎球菌

著者: 平野隆

ページ範囲:P.77 - P.82

Ⅰ 一般的特徴と感染機序

 肺炎球菌は,ブドウ球菌とならびヒトに対して病原性の強いグラム陽性球菌であり,感染症原因菌として最も頻回に分離される細菌の1つである。肺炎球菌は厚い莢膜をもった細菌で,莢膜は細胞質で合成された単糖体が重合し,細胞膜転移酵素により細胞表面に移動した多糖体であり,細胞壁のpeptideglycanと共有結合している。その莢膜多糖体の抗原特異性は多様であり,少なくとも91種類もの血清型に分類されている。

 肺炎球菌は鼻咽腔に侵入する際に,まず鼻咽腔粘液層と遭遇するが,多くの肺炎球菌の莢膜多糖体は電荷が負に帯電しており,粘液に多く含まれるシアル酸が豊富なムコ多糖体との電気斥力により,肺炎球菌の莢膜は粘液層における取り込み作用を減弱させ粘膜上皮への接着を容易にしている。肺炎球菌の菌体表面には多数の病原性因子を有しており,菌体の粘膜上皮への付着と定着に大きく関与していることが解明されている1)(表1)。

3)β溶血性連鎖球菌

著者: 朴澤孝治

ページ範囲:P.83 - P.87

Ⅰ 一般的特徴

 連鎖球菌は直径1μm程度のグラム陽性球菌で,一つ一つの球菌が規則的に,直鎖状に配列して増殖し,光学顕微鏡下で観察すると『連なった鎖』のように見えるため,連鎖球菌と名付けられた。属名のStreptococcusは,ラテン語で『よじる』を意味するstrephoから派生したstreptos(曲げやすい,柔軟な)と,球菌を意味するcoccus(元は『(穀物の)粒』や『木の実』の意)に由来し,曲がりやすい紐のような配列をする球菌を意味する。鞭毛をもたないため非運動性であり,菌株によっては莢膜を有するものもある。一般に呼吸によるエネルギー産生は行わず,酸素のある状態でもない状態でも,もっぱら乳酸発酵によってエネルギーを得る。生化学的には,カタラーゼ陰性であることから,ほかの代表的なグラム陽性球菌と鑑別される。英語圏では,A群溶血性連鎖球菌を意味する『Group A Streptococci』の略であるGASが頻用されるため,日本でもこれを略称として用いることが多い。

 連鎖球菌は,まずその溶血性によりα,β,γ溶血性の3群に分けられる。連鎖球菌をヒツジ血液寒天培地で培養すると,増殖した連鎖球菌コロニーの周りに溶血を起こし溶血環が観察されるものがある。完全な溶血を起こし透明な溶血環が観察されるものをβ溶血性連鎖球菌といい,不完全な溶血を起こし暗い緑色の変色でコロニーが囲まれるものをα溶血性連鎖球菌(緑色連鎖球菌),溶血を起こさないものをγ溶血性連鎖球菌という。γ溶血性連鎖球菌は,口腔内などに常在する菌であり,歯性感染症や化膿性リンパ節炎などの起炎菌となる可能性はあるが,臨床的に重要となる菌は少ない。

4)インフルエンザ桿菌

著者: 菅原一真 ,   山下裕司

ページ範囲:P.88 - P.90

Ⅰ 一般的特徴(疫学,分類など)

 1889年,1890年のインフルエンザの世界的大流行の際,患者の咽頭から分離され,1892年,Richard Pfeifferが同定したのが最初とされる。当初はインフルエンザの病原体として報告されたが,後にインフルエンザの病原体がインフルエンザウイルスであることが明らかにされたため,発見の歴史をその名に残し,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)と命名された。

 インフルエンザ菌はそのポリサッカライド莢膜多糖体の抗原性より,6つの血清型(a~f)に分類される。また,ポリサッカライド抗原をもたない株は無莢膜型(nontypable)と呼ばれ,分離頻度は最も高い。臨床的に重要となるのはtype b(Hib)と無莢膜型とされる。また,生物学的性状(インドール産生性,ウレアーゼ産生性,オルニチン脱炭酸能)による生物型別の分類では,Ⅰ型~Ⅷ型の8種類に分類される。Hibの大部分はⅠ型であり,無莢膜型の大部分はⅡ,Ⅲ型に分類される1)

5)モラクセラ・カタラーリス

著者: 福田宏治 ,   佐藤宏昭

ページ範囲:P.91 - P.95

Ⅰ はじめに

 モラクセラ・カタラーリスは鼻咽腔細菌叢の常在菌であるが,宿主の状態により,慢性下気道感染症や乳幼児の中耳炎,副鼻腔炎の起炎菌となる。

 近年,モラクセラ・カタラーリスは呼吸器と耳鼻咽喉科領域の感染症の3大起炎菌の一つとして注目されている。本稿では,主に耳鼻咽喉科領域のモラクセラ・カタラーリス感染症の臨床像について述べたい。

6)緑膿菌

著者: 原田保

ページ範囲:P.96 - P.100

Ⅰ はじめに

 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は,耳鼻咽喉科領域の感染症でしばしば遭遇する菌種である。本菌は広く自然界に存在し,土壌,下水あるいは汚水などや人では常在菌として上気道,消化管内(健常者の約10%)でみることができる。

 本菌は弱毒菌であるため健常者に感染を引き起こすことはほとんどないが,免疫不全など全身的,あるいは慢性呼吸器感染症や尿路感染症など局所的な感染防御機能が低下した場合に原因菌になることがある。耳鼻咽喉科領域では菌交代症を起こしやすい慢性疾患,すなわち中耳炎,副鼻腔炎,上気道炎また気管切開後の管理時などで検出することが多い。そこで特徴,代表的感染部位,最近の話題および治療などについて述べる。

7)嫌気性菌

著者: 星田茂 ,   吉崎智一

ページ範囲:P.101 - P.108

Ⅰ 一般的特徴

 無酸素条件下で発育できる菌を嫌気性菌と総称するが,単純に好気性菌vs嫌気性菌という単純なものではなく,酸素下では発育できない偏性嫌気性菌,酸素濃度が十分に低ければ増殖できる微好気性菌,酸素があってもなくても増殖できる通性嫌気性菌などに分けられる。単に嫌気性菌という場合は,一般には偏性嫌気性菌を指すことが多いが,通性とも偏性とも分類しがたい菌種も少なくなく,明確な区分とはいいがたい。嫌気性菌はヒトの常在菌叢を構成する主要な細菌群であり,特に口腔,上気道,腸管,腟などの粘膜面の常在菌叢の99%以上を占めるといわれる。

 宿主の何らかの要因によりこれらの常在嫌気性菌の感染を起こすものを内因性感染,外傷などに引き続いて環境から非常在性嫌気性菌の菌体外毒素による障害を起こすものを外因性感染と分類する。嫌気性菌には多数の菌種が存在するが,内因性の化膿性感染症からの三大分離菌である,Bacteroides属,Prevotella属,Streptococcus属と,外因性感染症の起炎菌であるClostridium属が特に重要である。本稿ではこれらの菌種および,近年注目されてきているFusobacterium属を中心に概説する。Streptococcus属については,該当の章を参照していただきたい。

8)ジフテリア菌

著者: 田村悦代

ページ範囲:P.109 - P.112

Ⅰ 疫学

 1948年予防接種法の制定とともに,ジフテリアトキソイドが導入され,1958年には百日咳との混合ワクチンが,1964年には百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチンなどが使用され,ジフテリアの予防に効果を挙げてきた。しかし,一方では近年,ジフテリア患者は激減し,図1に示されるように年間数例が散発的に報告されるだけである。したがって,各医療機関では,ジフテリア患者に遭遇する機会が減り,ジフテリア患者を診察した経験のある医師がほとんどいないことから,適切な診断を早期に行うことが困難となっている。また,細菌学や血清学的診断に必要な知識をもった技術者や選択培地が配置されている検査機関がきわめて少なくなり,診断の遅れが医療現場での早期治療の障害となることが懸念される1)

 1994年に施行された感染症法では,二類感染症に分類され,診断医師の届出が義務付けられている2)。ジフテリアもしくは病原体保有者であると診断した医師は,直ちに最寄りの保健所に届け出る。患者は原則として第二種感染症指定医療機関に入院となるが,無症状者は入院の対象とはならない。また,ジフテリアには疑似症の適用はない。

9)結核菌

著者: 坂口博史 ,   久育男

ページ範囲:P.113 - P.117

Ⅰ はじめに

 わが国における結核の新規罹患率は,1960年に人口10万人当たり542.2人であったのが,その後減少し,2009年には19.0人と過去最低になった。しかし,ほかの先進国と比較すると罹患率は高率であり,日本は依然として中程度の結核蔓延国である1)。耳鼻咽喉科領域の結核も減少傾向にあるが,現在でも日常診療の場で時に遭遇する重要な感染症であることに変わりはない。本稿では,特に頻度の高い結核性中耳炎と喉頭結核について述べる。

10)梅毒トレポネーマ

著者: 余田敬子

ページ範囲:P.118 - P.122

Ⅰ 一般的特徴

 1.形態

 細菌は,その形態によって球菌,桿菌,らせん菌に分類される。らせん菌は,桿菌のように菌体が細長くらせん状に回転している細菌で,らせんの回転数が多い(5回以上)ものをスピロヘータという。梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum)はスピロヘータ科,トレポネーマ属に位置する。菌体は,太さ0.1~0.2μm,長さ6~20μm,8~20回の規則正しい深い屈曲をもつらせん状のグラム陰性桿菌で,コルク栓抜きのような運動がみられる。

11)マイコプラズマ

著者: 蓑田涼生

ページ範囲:P.123 - P.128

Ⅰ はじめに

 マイコプラズマは直径1~2μm程度の大きさの非常に小さな細菌である。ほかの細菌と異なり細胞壁をもたない。ヒトに対して病原性が確認されているのは,Mycoplasma hominisMycoplasma genitaliumMycoplasma pneumoniaeなどがある。M. hominisは泌尿生殖器,周産期,新生児の感染症の起炎菌として報告されており1)M. genitaliumも泌尿生殖器感染症の起炎菌であることが示唆されている2)。最も臨床上重要なのはM. pneumoniae(以下,マイコプラズマと略)である。マイコプラズマは,主に呼吸器感染症を引き起こし,非定型肺炎の原因菌としても重要である。通常は不顕性あるいは軽症に経過することが多いが,マイコプラズマ感染者の3~5%は肺炎を引き起こす3)。罹患者は幼児期から若年成人に多く高齢者に少ない。

12)クラミジア

著者: 橋口一弘

ページ範囲:P.131 - P.135

Ⅰ はじめに

 クラミジアは細菌であるが自らATPを産生できないためにほかの細胞に寄生感染し増殖する,偏性細胞内寄生性グラム陰性菌である。ユニークなライフサイクルをとることが知られている。感染力はあるが増殖能のない基本小体(elementary body:EB),感染力はないが増殖能を有する網様体(reticular body:RB)およびRBからEBへの移行菌体(intermediate form:IF)の形態を繰り返しながら宿主細胞に感染・増殖する1)。ヒトに感染症を引き起こすクラミジアとして,クラミジアトラコマティス,肺炎クラミジア,オウム病クラミジアがあるが,前2者のクラミジアが咽頭感染を起こすことが知られており,耳鼻咽喉科領域の感染症として重要である。しかし感染経路,感染陽性者における臨床的背景に大きな違いがあることからそれぞれのクラミジア感染について分けて記載する。

 1999年に16Sおよび23SリボゾームRNA遺伝子解析,染色体DNAの相同性に基づき新しい分類が提唱され,クラミジアは1目,4科,2属になった2)。クラミジア科を2属に分け,クラミジア(Chlamydia)属とクラミドフィラ(Chlamydophila)属とし,前者にはクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)が,後者には肺炎クラミジア〔Chlamydophila(Chlamydia)pneumoniae〕とオウム病クラミジア〔Chlamydophila(Chlamydia)psittaci〕が含まれることになった。しかしこられの名称の使い分けはいまだ一般化されておらず,従来どおりクラミジアと表現している論文が多い。

2.真菌症

1)カンジダ

著者: 加瀬康弘

ページ範囲:P.136 - P.140

Ⅰ 一般的特徴

 カンジダは常在菌であり,自然環境,人体に広く存在し,例えば,健康人の口腔からも30~50%で検出される1)。一般にカンジダ属はアスペルギルス属にみるような分生子頭を形成しない酵母様真菌に属するが,時に菌糸も形成する二形成真菌である。150種のカンジダが存在するが,そのうち15種類が人体に病原性をもたらす2)。真菌症には病変部位により表在性真菌症と深在性真菌症に分類されるが,剖検数に対する深在性真菌症の発生頻度によると,カンジダ症はアスペルギルス症に次ぐ頻度である3)。表在性真菌症の代表である口腔カンジダ症ではCandida albicansが最も多く検出され,約4割を占める4)。一方,耳鼻咽喉科診療ではあまり経験することはないが,深在性カンジダの代表であるカンジダ血症でもC. albicansが小児,成人とも4割から7割と報告され最多である2)。しかし,最近では抗真菌薬に対する抵抗性の点からnon-albicans Candidaによるカンジダ血症も問題になっている5~7)

 カンジダ症は,易感染性宿主に対する日和見感染であるが,Pappas2)によれば,①抗菌薬使用による正常細菌叢変調に起因するカンジダ菌量の増加,②皮膚,粘膜の損傷すなわち,長期のカテーテル留置,手術や外傷,化学療法や放射線治療などによる重度の粘膜びらん,③免疫機能不全,特に細胞性免疫機能の低下をきたす状態など,が誘因となる。具体的な危険因子を表18)に示す。

2)アスペルギルス

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.141 - P.146

Ⅰ 一般的特徴:疫学,分類

 真菌の種類は5万を超えるが,そのうちで人類に病原性を有する菌種は数百種とも50~75種ともいわれ,そのうちの数十種のみで全体の9割の疾患を引き起こす1)。空気中浮遊真菌の約88%は糸状菌であり,その60%以上をペニシリウム,アスペルギルス,クラドスポリウムが占めるという。また山下2)によれば空中真菌叢の主要構成要素である上記3種は外耳道,鼻腔,上顎洞から高頻度に分離される。

 アスペルギルス(Aspergillus)は,ごく普通にみられる不完全菌の一群である。その菌糸は有隔性2分岐性(45度で分岐するのが特徴)であり,これでほかの菌種と鑑別できる。銀染色でよく染まる。このうち一部のものが,麹として味噌や醤油,日本酒を作るために用いられてきたことからコウジカビの名がついた。アスペルギルス属の胞子は環境中に広く存在し,ヒトは毎日吸入しているが,免疫に障害のある例では体内での増殖が原因の日和見感染症を起こし,アスペルギルス症と呼ばれる。アスペルギルス属には170種以上の菌種が知られるが,一般的な原因菌はAspergillus fumigatusであり,頻度は低いがA. flavusA. nigerA. terreusでも疾患を発生することがある。至適繁殖条件は,①湿度が85%以上,②温度が20~30℃,③ある程度の栄養源(有機物)の存在,④酸素の存在である。A. fumigatusはほかの菌種と異なり,ヒトの体温付近でよく繁殖するために発症頻度も高いと考えられている。

3)接合菌症(ムーコル症)

著者: 大越俊夫

ページ範囲:P.147 - P.151

Ⅰ はじめに

 接合菌による疾患を接合菌症という。接合菌は接合胞子を形成する菌糸形真菌で広く自然界に分布する。人および動物に感染するのは接合菌門のなかのムーコル目とエントフトラ目である。

 ムーコル目の感染が接合菌症の大半を占めるため臨床現場ではムーコル症と呼ばれていることも多いが学術的には接合菌症と呼ぶのが正しい1)

 ムーコル目のリゾバス属(Rhizopus),リゾムーコル属(Rhizomucor),ムーコル属(Mucor),アブシジア属(Absidia),カニングハメラ属(Cunninghamella)が起因菌として知られる。Rhizopus oryzaeが最も多く,特に鼻脳型では90%以上といわれている2)。接合菌はいわゆる日和見感染を起こし重症化する。本菌は動脈,特に脳や肺などの比較的太い血管に親和性が強く菌は血管壁に沿って進展し血栓形成を誘発する。鼻副鼻腔,中枢神経系,肺,消化器などに進展して急激な臨床経過をたどり,致命率がきわめて高い。電撃的に進行し最も予後不良な疾患でありinfectious cancerと呼ばれる3)

3.ウイルス感染症

1)インフルエンザウイルス

著者: 増田佐和子 ,   竹内万彦

ページ範囲:P.152 - P.157

Ⅰ はじめに

 疾病としてのインフルエンザの歴史は古く,松本1)によれば,わが国では冨士川の『日本医学誌』中の鎌倉時代の疫病の項にすでにインフルエンザと考えられる記載があるという。1917年~1918年にはスペインかぜが世界的に猛威をふるい,1931年にブタから,1933年にヒトから,インフルエンザウイルスが初めて分離された。以来約80年が経過し,2009年にブタ由来の新型のパンデミック・インフルエンザH1N1(パンデミックインフルエンザA/H1N1 2009,以下A/H1N1pdm)が出現したことは記憶に新しい。本稿では,インフルエンザウイルスの分類,疫学,感染による臨床像,ワクチンと治療薬などについて概説する。

2)サイトメガロウイルス

著者: 小川洋

ページ範囲:P.159 - P.164

Ⅰ 一般的な特徴

 ヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus:HCMV)はヘルペスウイルスのなかで,ヒトヘルペスウイルス5(HHV-5)に分類され,ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)やヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)と同じヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNAウイルスである。サイトメガロウイルスは種特異性が高く,ヒトにはヒト,マウスにはマウス,モルモットにはモルモットのサイトメガロウイルスが感染する。表1にヒトを宿主とするヘルペスウイルスを示す1)。以下,ヒトサイトメガロウイルスについて述べるが,サイトメガロウイルス(CMV)と記載する。

 CMVはほかのヘルペスウイルスと同様に初感染後宿主の体内に潜伏感染し,生涯宿主と共存するという特徴をもつ。感染ルートとして,周産期には産道の分泌液,出生後には母乳,唾液,尿,体液などと粘膜の接触が挙げられる。CMVは健常人の多くが幼少時不顕性感染し,特に大きな病態を引き起こすことなく潜伏した状態にある。この状態では感染性ウイルス粒子は検出されず,ウイルスゲノムのみが骨髄などの潜伏感染部位に観察される。ところが,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)などの免疫不全個体,あるいは癌化学療法や造血幹細胞移植時における免疫抑制剤の使用など,宿主の免疫が低下した際に潜伏感染状態から再活性化し,重篤な日和見感染症やさまざまな病態を引き起こす。さらに妊婦が初感染,もしくは再感染した場合,経胎盤的に胎児に感染し,きわめて重篤な先天感染症を引き起こす場合がある2)

3)風疹ウイルス

著者: 福岡久邦 ,   宇佐美真一

ページ範囲:P.165 - P.168

Ⅰ 一般的特徴(疫学,分類など)

 風疹ウイルス(rubella)はトガウイルス科ルビウイルス属に属する一本鎖RNAウイルスで,直形60~70nmの球状粒子で正20面体のカプシド構造をもち,外側をエンベロープで包まれている。エンベローブには赤血球凝集素,補体結合抗原の2種類の糖蛋白が存在する。血清学的には亜型のない単一のウイルスでありヒトだけが感染源となる。

 上気道粘膜より排泄されるウイルスが飛沫を介して伝播されるが,その伝染力は麻疹,水痘よりは弱い。わが国では風疹の流行は3~4年の周期を有し,しかも10年ごとに大きい流行がみられていた。最近では,1976年,1982年,1987年,1992年に大きい流行がみられているが,次第にその発生数は少なくなり,流行の規模も小さくなってきている。季節的には春から初夏にかけて発生しやすいとされるが,冬にも少なからず発生があり,次第に季節性が薄れ1年を通して発生している。

4)麻疹ウイルス

著者: 藤原圭志 ,   古田康 ,   福田諭

ページ範囲:P.169 - P.174

Ⅰ 一般的特徴

 麻疹ウイルスはMorbillivirusParamyxovirus科のエンベロープを有する直径100~200nmの1本鎖RNAウイルスである。麻疹ウイルスは6つの構造蛋白を有しており,そのうちエンベロープに存在するF(fusion)proteinとH(hemagglutinin)proteinがその病原性に大きくかかわり,F proteinがウイルスと宿主細胞の膜融合を引き起こし,宿主細胞へのウイルスの侵入を可能にしている。麻疹ウイルスはA~Hに分類され,さらに23の遺伝子型に細分される。国内の流行ではD5型が検出されることが多い。

 感染経路は空気感染,飛沫感染,接触感染とさまざまであり,気道,鼻腔の粘膜上皮に感染し増殖する。さらに,リンパ球,マクロファージなどに感染して所属リンパ節に運ばれ2~3日後に一次ウイルス血症をきたす。その後,全身の網内系リンパ組織に広がり,感染から5~7日後に二次ウイルス血症を生じ臨床症状が出現する。診断は特徴的な発疹やKoplik斑などの特有の臨床像(後述)によって行われることが多いが,咽頭ぬぐい液や血液,髄液からのウイルスの分離もしくはPCRによる遺伝子の検出,血清検査による急性期の麻疹IgM抗体の検出,急性期と回復期のペア血清での麻疹IgG抗体の有意上昇(抗体価4倍以上の上昇)など,確定診断が必要となることもある。ウイルスの分離やPCRは健康保険適用がなされていないため,血清ウイルス抗体価による診断が通常は行われるが,麻疹IgM抗体はパルボウイルスB19による伝染性紅斑患者においても上昇することがあり注意を要する1)

5)EBウイルス

著者: 高原幹 ,   原渕保明

ページ範囲:P.175 - P.179

Ⅰ はじめに

 EBウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)は,1964年にEpsteinらがバーキットリンパ腫の培養細胞内に発見したヘルペスウイルスの一つである。その特徴はヒトに広く常在していながら癌原性を併せもつことである。EBVはヒトB細胞に親和性を有し,伝染性単核球症などの良性B細胞増殖疾患やバーキットリンパ腫,免疫不全に伴う日和見リンパ腫などのB細胞リンパ腫との深い関連性がいわれていた。その後の研究により,ホジキン病,上咽頭癌,鼻性NK/T細胞リンパ腫といったB細胞以外の起源を有する悪性腫瘍や血球貪食症候群,慢性活動性EBV感染症,自己免疫疾患などとのかかわりが明らかになってきている。本稿では,EBVの特徴と感染の診断,およびEBVが病因になっている耳鼻咽喉科領域の疾患について概説する。

6)ムンプスウイルス

著者: 古田康 ,   福田諭

ページ範囲:P.181 - P.184

Ⅰ はじめに

 ムンプスウイルス(mumps virus)は,両側または片側の耳下腺腫脹を主徴とする急性伝染性ウイルス感染症である。本稿では,ムンプスウイルスの特徴と臨床像,ワクチンによる予防,耳鼻咽喉科で問題となるムンプス難聴について概説する。

7)水痘帯状疱疹ヘルペスウイルス

著者: 渡辺知緒 ,   青柳優

ページ範囲:P.186 - P.190

Ⅰ はじめに

 水痘帯状疱疹ヘルペスウイルス(varicella zoster virus:VZV)はヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスであり,ヒトに対して水痘(varicella)と帯状疱疹(zoster)を引き起こす。本稿ではVZVの疫学的特徴,代表的な感染部位と臨床像,問題となる事項と治療について概説する。

8)単純ヘルペスウイルス

著者: 濵田昌史

ページ範囲:P.191 - P.194

Ⅰ 一般的特徴

 ヘルペスウイルス科ウイルスのうち,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)とともにαヘルペスウイルス亜科に分類され,シンプレックスウイルス属に属する2本鎖DNAウイルスであり,単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と2型(HSV-2)が存在する。直径は150~200nmで,最外層には脂質と糖蛋白より成るエンベロープがあり,外側にはスパイクと呼ばれるトゲ状の突起をもつ。内側には電子密度の高い外殻(テグメント),さらにおよそ100nmの直径をもつ正20面体のカプシドが存在する1~3)(図1)。DNAの分子量はおよそ100×106ダルトンで,約150kbpの塩基があり,その全配列はすでに明らかにされている。

 ウイルスの増殖は,前初期遺伝子群が発現してからウイルスDNAの合成に関与する早期遺伝子群,さらにウイルス蛋白の合成に関与する後期遺伝子群が順次発現することで行われるが,後期遺伝子の発現にはある一定量以上のウイルスの感染が必要であり,ウイルスDNAが合成されても必ずしも感染性のウイルス粒子は作られない。

9)アデノウイルスを中心に―耳鼻咽喉科領域よりアデノウイルスを診る

著者: 山口展正 ,   藤本嗣人 ,   岡部信彦

ページ範囲:P.195 - P.200

Ⅰ はじめに

 ヒトアデノウイルスはRoweら1)により1953年アデノイド組織から分離されadenoid degeneration agent(A. D. agent)として当初報告された。その後Roweがアデノイド由来のアデノウイルス(Adv)の第一発見者となっている。小児の口蓋扁桃・アデノイドを手術摘出した組織から50~90%アデノウイルスが分離されたことよりアデノウイルス,特にC種(1,2,3,5型)はそれらの組織に長い間潜在的に存在する可能性があるという報告2)がある一方,扁桃より分離できず潜在性に否定的な報告3)もある。Advは直径約80nmの正20面体構造の2本鎖DNAウイルスで,エンベロープをもたないため消毒剤に抵抗を示し物理的に安定したウイルスである。Advは1~51型までの51種の血清型に分類されていたが,最近新たにAdv 52~54型が認められ,そのうち53,54型は流行性角結膜炎に関するものである4,5)。赤血球凝集反応,ウイルスゲノムの物理化学的性状,動物に対する腫瘍原性などによりA~Gの7つの種に分類され血清型とともに感染部位との関係が判明している6,7)

 Advは耳鼻咽喉科領域においても重要なウイルス感染症の一つである。しかしながら,Advのアデノイドに関する研究の進展は遅れていて,眼科,小児科を中心にAdvが探究され,厚生労働省による感染症の全国的なサーベイランス事業としてAdvサーベイランスが流行性角結膜炎(眼科定点),咽頭結膜熱(小児科定点)を対象に行われている。耳鼻咽喉科医にとって一般臨床に必須のウイルスにもかかわらず薄い存在となっているのが現状である。

 この項では本特集が耳鼻咽喉科医への細菌,ウイルス性疾患の理解,対応であるため,耳鼻咽喉科医が取り扱うAdv感染症としてワルダイエル咽頭リンパ輪を中心に内視鏡所見を添えて記した。

10)RSウイルス

著者: 黒野祐一

ページ範囲:P.201 - P.205

Ⅰ はじめに

 RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)は主として乳幼児のウイルス性気管支炎や肺炎の原因となる呼吸器ウイルスであるが,最近,成人においても気道感染症の病原体となりうることが報告されている1)。また,RSV感染症はアレルギー性鼻炎あるいは急性中耳炎などの急性上気道感染症とも深く関与するため,耳鼻咽喉科領域においても注意すべき疾患である。

 そこで,本稿では,RSV感染症の病態と耳鼻咽喉科疾患との関連性について概説する。

11)乳頭腫ウイルス

著者: 猪原秀典

ページ範囲:P.206 - P.211

Ⅰ 一般的特徴

 1.はじめに

 ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)は乳頭腫(papilloma)や疣贅(verruca)を造るDNAウイルスである。宿主特異性が高くHPVはヒトにのみ感染し,皮膚や粘膜への接触感染により伝播する。120種類以上の型が同定されているが,疫学的調査によりリスク分類され,子宮頸癌で検出されるものが高リスク型,そうでないものが低リスク型とされる。高リスク型(16,18,31,33,35,45,51,52,58型など)は子宮頸癌のほぼ100%から検出され,また腟,外陰部,陰茎部や肛門周囲の癌からも高率に検出される。低リスク型(6,11型など)は良性の尖圭コンジローマなどの原因となる。本稿ではHPVの構造と生活環,HPVによる発癌,そしてHPVと関連した頭頸部領域の乳頭腫・癌について概説する。

12)HIVウイルス

著者: 松延毅 ,   塩谷彰浩

ページ範囲:P.212 - P.216

Ⅰ HIV感染症の現状と疫学

 世界全体でみると,2008年の新規ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染者は270万人(成人230万人,15歳未満43万人)である。新規HIV感染率がいまだに高いことや抗レトロウイルス療法により長期間の生存が可能になったことから総HIV感染者数は増加し続けている。2008年末の世界のHIV感染者数は3,340万人(成人3,130万人,15歳未満210万人)と推計されている。アフリカには約70%が分布していると報告されている。近年は東ヨーロッパと中央アジア(中国など)で新規HIV感染率が高く,原因として注射器による薬物使用が指摘されている。これら薬物使用者はしばしば風俗業にも従事しており感染リスクを拡大している。

 わが国においてはアメリカなどに比べはるかに低い水準で推移してきているが,近年増加傾向が顕著になり2005年には国内での累計感染者数が1万人を超え,検査態勢の拡充など,感染状況の把握,拡大防止策がとられているところである。感染者の傾向として,現在では若年者の性的接触によるものが多数を占めるようになってきており,異性間の性的接触による感染も増加している1)。近年,医療の進歩によりHIVに感染しても長期間社会の一員として日常を営むことができるようになり,さらにさまざまな支援体制も整備されつつあるが,わが国ではいまだにAIDSを発症して医療機関を受診する例も多い。今後は日常診療の現場でも耳鼻咽喉科医がHIV感染症に遭遇する機会が増加すると予想される。2003年11月の感染症法改正で4類から5類感染症に変更され,発見から7日以内に所定の様式に従って届け出る必要がある。

Ⅲ.診断・治療をマスターする

1.外耳炎

著者: 中川尚志

ページ範囲:P.217 - P.220

Ⅰ 外耳炎の病因・病態

 外耳炎は,耳鼻科の外来診療でしばしばみる一般的な疾患である。その多くは,簡単な処置や投薬で治癒するが,時には難治性となる。

 外耳炎を理解するために,まず外耳道の解剖と特殊性について述べる1)。外耳道は,外耳道孔から鼓膜まで皮膚が袋状に陥凹した管腔である。長さは約2.5cmで,内腔の直径は約0.7cm,二つの屈曲部を有し,緩いS字状を呈する。外側の3分の1は外耳道軟骨に囲まれた軟骨部外耳道で,内側の3分の2は側頭骨の外耳孔に囲まれた骨部外耳道である。骨部外耳道は薄い皮下組織を伴って骨が皮膚にほぼ直接覆われている。一方,軟骨部外耳道の皮下組織は厚く,耳垢腺や皮脂腺,有毛部を有している。

2.中耳炎

著者: 飯野ゆき子

ページ範囲:P.221 - P.227

Ⅰ 病因・病態

 1.病態分類

 中耳炎は側頭骨に生じる炎症性疾患として定義される。病期による分類では発症から3週間以内を急性期,3週間から3か月を亜急性期,3か月以上を経過したものを慢性期とするのが一般的である。また病態から,急性中耳炎,滲出性中耳炎,慢性中耳炎に大きく分類される。病態による分類を表1に示した。急性中耳炎は急性上気道感染に伴って鼻咽腔で増殖したウイルスあるいは細菌が耳管を通じて中耳に感染する病態である。また滲出性中耳炎は上気道感染に伴って,あるいは急性中耳炎の急性炎症が消退した後に貯留液が遷延している場合である。成人の場合は耳管機能障害から生じる。慢性中耳炎はほとんどの場合,幼小児期に上記の中耳炎病態が反復あるいは遷延し,その後遺症として起こる。鼓膜に穿孔がある穿孔性中耳炎,鼓膜の癒着が主病変である癒着性中耳炎,さらに鼓膜弛緩部あるいは緊張部後上部が上鼓室に陥凹してゆく真珠腫性中耳炎に大きく分類される。これらの中耳炎はさまざまな病態,すなわち肉芽性炎症あるいは硬化性病変などを合併することもある。

3.内耳炎

著者: 大竹宏直 ,   中島務

ページ範囲:P.229 - P.234

Ⅰ はじめに

 内耳は蝸牛,前庭および半規管よりなる聴覚・平衡感覚をつかさどる繊細な部位であるため,迷路骨包につつまれ厳重に保護されている。以前は症状,所見,聴覚検査や平衡機能検査で診断していたが,近年の画像検査の進歩によりMRIを用いて内耳の評価が可能となり,さらに,内耳の炎症を描出し障害程度を分析することは治療方針の指針となり得る1)

 本稿では,内耳炎の病因・病態および診断・治療のほか,3T MRIによる画像評価について論じたい。

4.乳様突起炎

著者: 泰地秀信

ページ範囲:P.235 - P.239

Ⅰ 病因・病態

 急性乳様突起炎は急性中耳炎の炎症が乳突洞,乳突蜂巣に波及したもので,2歳以下の乳幼児に多い。抗菌薬が広く使用されるようになって発症は少なくなったとされていたが,近年は再度増加しているとした報告もある1)。急性乳様突起炎が増加している理由として薬剤耐性菌の増加や起炎菌の病原性が強くなったことなどが推測されている。

 鼓室と乳突洞は乳突洞口でつながっているので,急性中耳炎では鼓室から乳突洞・乳突蜂巣へと膿が進展するが,中耳炎が軽快するとともに乳突蜂巣の滲出液は通常消退する2)。しかし,重症の急性中耳炎で乳突洞口が粘膜肥厚や肉芽により閉塞すると,乳突蜂巣内の膿は排出されなくなり,細菌が増殖して乳突蜂巣の骨炎および乳様突起の骨膜炎を生じる(急性乳様突起炎の初期)。次の段階では肉芽の増生から骨の破壊へと進み,壊死を起こし,蜂巣隔壁が融解して乳突部に膿瘍を形成する2)。さらに進行すると膿瘍が外側に破れて骨膜下膿瘍となり,乳様突起部皮膚の発赤と耳後部の腫脹が生じる。また胸鎖乳突筋内面に沿って膿瘍が流れると乳様突起先端下方が膨隆する(Bezold膿瘍)。

5.蝸牛神経炎・前庭神経炎

著者: 佐野肇

ページ範囲:P.240 - P.244

Ⅰ 病因・病態

 『前庭神経炎』という疾患は一つの独立した疾患として診断基準が確立し広く認知されているが,その病因が感染による炎症であるかは明らかではない。一方,『蝸牛神経炎』という疾患名にはあまり馴染みがないと思われるが,立木ら1)により,感冒に併発する急性感音難聴で聴覚機能検査において後迷路性難聴の特徴を示すもの,としてその疾患概念が示されている。しかしこの『蝸牛神経炎』は,現状では突発性難聴の中に含まれて診断と治療が行われているのが通常であると思われる。以上の二つの疾患概念は,感染症が原因として疑われてはいるものの確定はできていないものであり,現状では一般臨床においても感染症として対応がなされているわけではない。

 一方,明らかな感染症と考えられる蝸牛神経炎・前庭神経炎としては,髄膜炎に伴う場合と帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)によるものが挙げられる。VZVにより蝸牛・前庭神経炎を生ずる代表的疾患はハント症候群であり,VZVについては顔面神経麻痺の項で説明されると思われるのでここでは詳しくは述べない。

6.顔面神経麻痺

著者: 羽藤直人

ページ範囲:P.245 - P.249

Ⅰ 病因・病態

 感染症として顔面神経麻痺を考える際,ウイルス感染,特にヘルペス属ウイルスが重要である。1907年にJames Ramsay Hunt1)は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による顔面神経麻痺の存在を報告し,Ramsay Hunt(RH)症候群の疾患概念を確立した。また,1972年にはMcCormick2)が特発性顔面神経麻痺であるBell麻痺の病因として,単純ヘルペスウイルス(HSV)の関与を示唆した。1996年,この説はMurakami3)らにより立証され,現在ではBell麻痺の主病因として定着している。

 VZVとHSVによる顔面神経麻痺の病態には類似点が多い。ともに膝神経節で再活性化したウイルスが側頭骨内の膝神経節周囲で炎症を起こし,狭い顔面神経管内で浮腫と虚血,絞扼の悪循環により神経変性が進行する(図1)。神経炎症の程度が強ければ脱髄よりも軸索変性の割合が増え,側頭骨外末しょうへWaller変性が広がる。高度麻痺となるのは,初期の膝神経節でのウイルス性神経炎症の程度と相関すると考えられている。一方,VZVとHSVでは神経障害性が異なる。RH症候群の多くは第Ⅷ神経障害を伴う多発脳神経炎であり,HSV性顔面神経麻痺よりも重篤である。VZVとHSVの神経障害性の違いは,VZVの潜伏感染部位と再活性化様式の差に由来する。HSVはニューロンに潜伏し,再活性化は高頻度であるがマイルドで,再活性化後はニューロンに再び潜伏感染する。HSVは自身の住処であるニューロンに対しては愛護的で,ニューロン障害は局所免疫の低下時や特定のHSV株,特殊なニューロンに限定されると考えられている。一方,VZVはサテライト細胞に潜伏感染し,その再活性化は低頻度だが神経障害性が高い。ニューロンは破壊されることが多いため障害は不可逆的となり,後遺症に終生悩まされる患者も多い。

7.鼻・副鼻腔炎

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.250 - P.254

Ⅰ 病因・病態

 1.病態分類1)

 ウイルスなどの上気道感染に伴い,鼻粘膜が腫脹し副鼻腔自然口が閉塞すると,副鼻腔の換気・排泄障害が生じる。そこに細菌感染が加わり,副鼻腔粘膜に炎症性変化をきたすと,線毛機能は低下し粘液分泌は亢進する。これらの結果,分泌物や炎症産物が洞内に貯留し,細菌増殖や炎症産物の活性化が粘膜の状態を悪化させ,炎症は遷延し慢性になる。炎症が長期化すると,粘膜腫脹が高度になり,しばしば鼻茸が形成される。

8.上咽頭炎

著者: 杉山健一 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.255 - P.258

Ⅰ 病因・病態

 1.病態分類

 咽頭の急性炎症の中で口蓋扁桃の主病変を除いたものを急性咽頭炎,その中で上咽頭の病変を主体とするものを上咽頭炎とする。細菌性上咽頭炎とウイルス性上咽頭炎に分類される。

9.扁桃炎・扁桃周囲膿瘍

著者: 関伸彦 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.259 - P.263

Ⅰ 病態・病因

 1.概念

 扁桃は,乳幼児期には外来抗原認知のための誘導部位として働く免疫器官であるが,細菌感染のターゲットにもなる1)。口蓋扁桃にみられる陰窩には細菌塊が認められ,リンパ上皮共生という特異な構造をとっている。また,この陰窩上皮において,粘膜上皮細胞の機械的バリアであるタイト結合の断裂を思わせる構造を認める。これらの構造は,抗原や病原体を粘膜下に進入させ,抗原認知には有利に働くが易感染性となり,扁桃は感染臓器としての側面をもつことになったと推測される2)

 扁桃の急性炎症は,日常診療で頻繁に遭遇する疾患であるが,炎症が扁桃に限局することはほとんどなく,通常の上気道感染などに伴う咽頭炎を併発している。このため,急性咽頭・扁桃炎という呼称が一般的になっている。さらに,炎症が扁桃周囲に波及して扁桃被膜と咽頭収縮筋膜との間に膿瘍形成したものを扁桃周囲膿瘍という。

10.咽喉頭炎

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.264 - P.267

Ⅰ 病因・病態

 咽頭と喉頭は近縁臓器であるがそれぞれ特異性,独立性があるので咽喉頭炎と一言でいっても個別の病態を呈することがある。通常,咽喉頭炎はウイルスや一般細菌によるかぜ症候群の一部分症であることが多い1,2)。その中で扁桃周囲膿瘍,咽頭後膿瘍,急性喉頭蓋炎,急性声門下喉頭炎など気道狭窄をきたす情況に進展すると緊急気道確保を要求されることがあるので注意すべき状態である3,4)。一方,稀ながら百日咳,ジフテリア,結核,梅毒など特殊な感染症(特異性咽喉頭炎)も今でもみられるので,その存在には注意が必要である5,6)。最近は喘息患者への吸入ステロイドの使用頻度が高まり咽喉頭真菌症も注目を集めている4)。また社会風俗の関係から性感染としての咽頭クラミジア(Chlamydia trachomatis)も忘れてはならない感染症である7)

11.かぜ症候群

著者: 佐藤公則

ページ範囲:P.269 - P.274

Ⅰ はじめに

 気道は鼻腔,咽頭,喉頭,気管,気管支,細気管支を経て肺胞に達する。このうち鼻腔から喉頭までを上気道,気管より末しょうを下気道という。

 急性上気道感染症とは,外界から微生物が侵入して上気道で急性炎症が起こった病態であり,これには急性上気道炎(いわゆるかぜ症候群),急性咽頭炎,急性扁桃炎,急性喉頭炎,急性喉頭蓋炎が含まれる。

 上気道を専門領域にする耳鼻咽喉科・頭頸部外科医はかぜ症候群を含めた急性上気道感染症を診療する機会が多い。本稿ではかぜ症候群の診断と治療を解説する。

12.唾液腺炎

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.275 - P.279

Ⅰ 病因・病態と症状について

 感染による唾液腺炎には急性,慢性の耳下腺炎と顎下腺炎,また両腺に同時に発症する場合がある。以下代表的疾患について概説する。

13.甲状腺炎

著者: 藤原和典 ,   北野博也

ページ範囲:P.281 - P.284

Ⅰ はじめに

 甲状腺炎には,急性化膿性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,無痛性甲状腺炎および慢性甲状腺炎が挙げられる。それぞれの疾患ごとに,病態,所見および治療法について述べる。

14.頸部リンパ節炎

著者: 河田了

ページ範囲:P.285 - P.289

Ⅰ 病因・病態

 頸部リンパ節炎とは炎症により反応性に頸部リンパ節が腫脹する疾患である。原因はさまざまであるが,最も多いのは急性化膿性リンパ節炎であり,咽頭炎,扁桃炎,口腔内炎症などに随伴してみられる。そのほかの炎症疾患として亜急性壊死性リンパ節炎,結核性リンパ節炎などがある。頸部リンパ節腫脹がみられた場合,炎症性リンパ節炎と悪性疾患,すなわち癌のリンパ節転移,悪性リンパ腫との鑑別が重要である。

15.深頸部膿瘍

著者: 佐藤邦広 ,   髙橋姿

ページ範囲:P.290 - P.294

Ⅰ 病因・病態

 頸部には筋,血管,神経などの器官の周囲に,線維性結合織として筋膜(fascia)が存在し,その筋膜間間隙に炎症が生じた状態が深頸部感染症である。一般的に頸部間隙内のリンパ節炎,あるいは疎性結合織の炎症である蜂窩織炎が先行し,炎症が悪化・進行して膿瘍形成に至ると深頸部膿瘍となる1)

 深頸部膿瘍は頸部間隙内の炎症であるため,間隙に関する解剖学的知識が重要である。図1に舌骨上(中咽頭レベル)と舌骨下(喉頭レベル)における軸位断で示される間隙を示す2)。炎症は,進行すると一つの間隙にとどまらず,隣接する間隙に容易に進展する。また,内臓間隙,頸動脈間隙,咽頭後間隙は縦隔への主な侵入ルートとなるため,これらの間隙に炎症が生じている場合には縦隔炎・縦隔膿瘍の合併の有無に留意する必要がある3)

16.頭頸部癌と感染症

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.296 - P.299

Ⅰ はじめに

 頭頸部癌の手術では口腔咽頭粘膜の切開を伴い,準清潔手術あるいは汚染・感染手術となることが多い。死腔や瘻孔形成によって感染を生じることもあり,手術部位感染症(surgical site infection:SSI)は術後管理における重要なポイントである。一方,最近,頭頸部癌の治療において主要な役割を担うようになってきた化学放射線療法(concomitant chemoradiotherapy:CCRT)では,発熱性好中球減少はしばしばみられる副作用・合併症であり,感染対策は治療完遂の鍵となる。

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投稿規定

ページ範囲:P.300 - P.300

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.301 - P.301

次号予告

ページ範囲:P.302 - P.302

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

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