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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻6号

2011年05月発行

雑誌目次

特集 最新技術―補聴器と人工中耳・人工内耳

補聴器の最新技術

著者: 杉内智子

ページ範囲:P.365 - P.370

Ⅰ.はじめに

 1900年頃に誕生した電気式補聴器は,1990年代に入ってデジタル信号処理が導入されるようになった。このデジタル技術によって,音を増幅するだけではなく,聞き取りやすく加工することが追及されるようになってきた。以来,年月を経て,さまざまな機能が開発され,それと同時に小型化と機種の多種多様化が進んでいる。市場の現状としては,最新の技術を搭載した機種は高機能,高価格を記されている一方で,前の世代の機種の一部が求めやすい価格で供給されている。つまり,高価格な最新技術が循環し,低価格帯機種の充実をもたらしている。補聴器は,軽度から重度のさまざまな難聴の老若男女に広く,そして買い替えながら長く用いられる医療機器である。また価格,福祉という社会的側面の色も濃い1)。ここでは補聴器の最新技術について,デジタル化の変遷とともに最近の動向を概観したい。

次世代補聴器の開発:軟骨伝導補聴器―既存の気導補聴器が使用できない難聴者のための補聴器

著者: 細井裕司 ,   柳井修一 ,   西村忠己

ページ範囲:P.373 - P.376

Ⅰ.はじめに

 近年のデジタル補聴器の発達は,難聴者の音声コミュニケーションの回復に寄与し,大きな福音となっている。しかし,いかにデジタル信号処理技術が発達しても,外耳道に問題があるために気導イヤホンが使用できない人はその恩恵に浴せない。そのような難聴者のために骨導補聴器があるが,種々の問題点がある。本稿では,骨導補聴器の問題点を解決する目的で新規に開発中の軟骨伝導補聴器を紹介するとともに,その理論的基礎となっている軟骨伝導聴覚について述べる。

人工中耳の進歩:BAHA

著者: 野口佳裕 ,   喜多村健

ページ範囲:P.377 - P.383

Ⅰ.はじめに

 Bone-anchored hearing aid(BAHA)は,チタン製のインプラントとサウンドプロセッサーにより構成される半埋め込み型骨導補聴器である1)。従来,骨導補聴器としては,眼鏡型やヘアバンド型のものが使用されてきた。これらの補聴器は,皮膚に直接骨導端子を設置させるため骨導端子の不安定性,圧迫に伴う疼痛などの欠点があり,審美性も必ずしも良好とはいえない。また,骨を振動させるために高い出力が必要となるため骨導聴力レベル45dB以内が限界とされてきた2)。一方,BAHAでは,骨に直接インプラントを埋め込むため,装用感や審美性に優れており,皮膚を介さずに直接骨に振動を伝えるため良好な音質が得られるという特徴がある。しかし,BAHAは,手術が必要となること,術後インプラント周囲の清掃などの管理上の煩雑性があること,サウンドプロセッサーとインプラントへの打撲に注意を要することなどの欠点がある。さらに,術後インプラント周囲に生じる皮膚の炎症反応やインプラント脱落などの合併症が生じる可能性もある。

人工内耳の最新技術

著者: 熊川孝三

ページ範囲:P.384 - P.390

Ⅰ.はじめに

 従来の手術では治療困難であった高度の難聴に対する,最新のテクノロジーを応用した人工聴覚臓器治療の進歩には目を見張るものがある。中耳,内耳,聴神経が原因である難聴に対して,それぞれ埋め込み型人工聴覚臓器が開発され,すでに臨床で応用されている。ここでは,内耳と聴神経,脳幹に対する人工聴覚臓器を中心に述べる。

補聴器と人工内耳の融合―残存聴力活用型人工内耳について

著者: 宇佐美真一

ページ範囲:P.393 - P.401

Ⅰ.はじめに

 デジタル補聴器や人工内耳の発達には目覚ましいものがあり,個々の症例の聴力像に応じてより良い補聴効果が提供できるようになってきた。しかし低音部に残存聴力を有するが,高音域の聴取能がきわめて悪い,いわゆる高音急墜あるいは漸傾型の聴力像を呈する難聴患者に対しては従来型の補聴器ではフィッティングが困難であることが多い。周波数変換型あるいは周波数圧縮型補聴器を使用しても実際には患者の望む補聴効果,語音弁別能の改善はなかなか得られないことも多い。また低音域の聴力が残存しているために従来の人工内耳の適応には含まれない。現在の人工内耳の適応は,全周波数が90dB以上の重度難聴患者に限られており,高音急墜型あるいは高音漸傾型の聴力を示す難聴患者は適応外となっている。近年,そのような難聴患者に対して,低音部は音響刺激で,高音部は電気刺激で音を送り込む「残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation:EAS)」が開発され注目を集めている。新しく登場した残存聴力活用型人工内耳は音刺激と電気刺激を併用しても脳の聴覚中枢で統合できることを示した画期的な技術であり,人工内耳の適応や可能性を広げるものとして注目されている(図1,2)。残存聴力活用型人工内耳はヨーロッパではその有用性が認められCEマークを取得し,すでに臨床で用いられており,米国FDAでも現在治験が進められている。わが国でも2010年8月に厚生労働省から「残存聴力活用型人工内耳挿入術」が高度医療(第3項先進医療)として承認を受けて臨床研究が開始されている。当施設では現時点(2011年4月)までに14例(うち高度医療5例)の経験を重ねており,現在日本語における有効性を検証しているが,本稿では自験例を紹介するとともに,文献的考察も含めて解説を加えたい。

目でみる耳鼻咽喉科

口蓋扁桃に発生した髄外性形質細胞腫の1例

著者: 槙大輔 ,   大上研二 ,   酒井昭博 ,   濱田昌史 ,   飯田政弘

ページ範囲:P.360 - P.363

Ⅰ.はじめに

 頭頸部領域に発生する髄外性形質細胞腫は比較的稀であり,治療法や治療成績,病理組織学的な切除断端の評価についての報告は少ない。今回われわれは口蓋扁桃に発生した髄外性形質細胞腫の1例を経験したので,手術方法や治療方針について文献的考察を加えて報告する。

鏡下囁語

ギリシャ神話と語音聴取

著者: 廣瀬肇

ページ範囲:P.408 - P.409

 私が小学生の頃,横浜の夜空は暗く,街中でも星がよく見えた。一等星や星座の名前を一所懸命に覚えたのもこの頃で,今でもそのほとんどが記憶に残っている。多くの星座の名前がギリシャ神話に由来していることもあって,こども向けのギリシャ神話の本でオデッセウスの旅の物語(オデッセイ:Odyssey)を読んだことなども懐かしく思い出される。

 東大出版会から毎月『UP』(University Pressの略語)という小冊子が送られてくるが,2010年(39巻)の11号に『卵母セイレーン―誘惑する女たちの深層』という興味深い記事が載っているのが目についた1)

原著

鼻副鼻腔に発生したrespiratory epithelial adenomatoid hamartoma症例

著者: 野村一顕 ,   関伸彦 ,   山﨑徳和 ,   池田健 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.411 - P.414

Ⅰ はじめに

 過誤腫は正常器官の1つないし複数の組織構成要素が過剰に増生した混合異常であり,良性の非腫瘍性奇形である1)。全身どこにでも発生し,特に肺,腎,小腸に多く2),鼻副鼻腔領域の発生はきわめて稀である3)

 Respiratory epithelial adenomatoid hamartoma(REAH)は1995年にWenigら4)により初めて報告された鼻副鼻腔領域に発生する稀な病変である。今回われわれはREAHの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

重症化したLudwigアンギーナの1症例

著者: 松本理佐 ,   塩盛輝夫 ,   花栗誠 ,   竹内頌子 ,   三箇敏昭 ,   大久保淳一 ,   大淵豊明 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.415 - P.418

Ⅰ はじめに

 Ludwigアンギーナとは舌下間隙~顎下間隙に波及した口腔底蜂窩織炎であり,扁桃炎や齲歯に起因することが多い。本疾患は早期に炎症が周囲に波及する特徴を有し,喉頭に炎症が及んだ場合は気道閉塞をきたすことがあるため,早期の診断が重要である。今回われわれは,両側顎下間隙膿瘍を伴う重症化したLudwigアンギーナの1症例を経験したので報告する。

新生児舌根部囊胞例

著者: 加藤明子 ,   北村拓朗 ,   松本理佐 ,   高橋里沙 ,   佐藤薫 ,   佐藤哲司 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.419 - P.422

Ⅰ はじめに

 舌根部囊胞は,舌根部甲状舌管囊胞や舌根部貯留囊胞など舌根部にできる囊胞の総称で,比較的稀な疾患である1,2)。新生児期から乳児期に発生する舌根部囊胞は,呼吸障害や哺乳障害をきたすことがあり,早期診断治療が必要である3~7)

 今回,われわれは囊胞開窓術後に再発をきたし再手術を施行した新生児の舌根部囊胞の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

敗血症ショックを生じた急性喉頭蓋炎の1例

著者: 吉村豪兼 ,   坂口正範

ページ範囲:P.423 - P.426

Ⅰ はじめに

 急性喉頭蓋炎はときに急激な気道狭窄をきたすことがあるため,局所の気道管理がきわめて重要である1)。しかし局所病変だけでなく,全身状態の把握が重要で,重篤な合併症を伴う症例では迅速な対応が必要とされる2)

 今回われわれは敗血症ショック,ならびに急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS),播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),多臓器不全(mutiple organ failure:MOF)を生じた急性喉頭蓋炎を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

放射線同時併用超選択的動注化学療法が奏効した中咽頭進行癌3例

著者: 大久保淳一 ,   永谷群司 ,   若杉哲郎 ,   武永芙美子 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.427 - P.432

Ⅰ はじめに

 近年,頭頸部領域の形成外科的技術の向上により手術適応範囲が拡大してきた。しかし口腔・咽喉頭進行癌においては,手術により構音障害,失声,嚥下障害など重大な機能障害が生じ得ることは周知の通りである。こうした進行癌の場合でも患者のQOL維持の観点から臓器・機能温存を目ざすことが近年重視されてきており,放射線化学療法の意義が見直されてきている1)

 今回われわれは放射線同時併用超選択的動注化学療法(IA-CRT)が奏効した中咽頭進行癌3例を経験したので報告する。

良性対称性脂肪腫症の2例

著者: 細川誠二 ,   鈴木綾乃 ,   岡村純 ,   細川久美子 ,   竹下有 ,   足守直樹 ,   深水秀一 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.433 - P.437

Ⅰ はじめに

 良性対称性脂肪腫症(benign symmetric lipomatosis:BSL)はMadelung病とも呼ばれ,主として頸部および背部に対称的に,脂肪組織がびまん性に過剰沈着する疾患である1)。体幹および四肢に増殖した脂肪腫症が独特の外観を示すのが特徴であるが2),本邦における報告例は稀である。今回われわれは,頸部腫脹を呈しBSLと診断した2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.356 - P.356

〔お知らせ〕第73回耳鼻咽喉科臨床学会総会・学術講演会サテライトシンポジウム―New Trends in Hearing Implant Science-EAS and VSB Workshop in Hakuba-

ページ範囲:P.402 - P.402

■人工内耳・人工中耳の新しい流れ「残存聴力活用型人工内耳・低侵襲手術・VSB」

 本シンポジウムでは、医師向けプログラムとして、新しい人工内耳「残存聴力活用型人工内耳」および人工内耳手術の新しい流れである「低侵襲手術」、さらに新しい埋め込み型人工中耳であるVSBに関するトピックスについて世界トップレベルの研究者によるレクチャーを中心にプログラムを編成いたしました。また、言語聴覚士向けプログラムとして、新しい人工内耳「残存聴力活用型人工内耳」のマッピング理論とともに人工内耳医療を取り巻く新しい話題についてのプログラムを編成いたしました。

 人工内耳・人工中耳研究の新しい流れに関する世界トップレベルの講演とともに、信州・白馬の自然を満喫していただけるよう準備を進めておりますので、ぜひご参加ください。

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.438 - P.438

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.440 - P.440

投稿規定

ページ範囲:P.442 - P.442

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.443 - P.443

あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.444 - P.444

 3月11日東北地方太平洋沖地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに,被災された皆様,そのご家族の方々,耳鼻咽喉科の先生方に心よりお見舞い申し上げます。本号も地域によってはお届けできない,あるいは遅延することがあるかもしれません。購読される先生方が本号を読まれるころには,東北地方が少しでも復旧していることを期待しています。日夜職務に励んでおられる自衛隊(暴力装置と言った不謹慎な議員もいましたが),消防,警察,各自治体職員,そして医療関係者の方々には感謝の意を表したいと思います。また米軍をはじめ各国の支援の有難さを改めて痛感しています。近い将来には,学会参加をはじめ海外からのDr. が安心して来訪されることも強く望んでいます。原発事故については長期戦となることが推測されますが,外国からの援助,原子力関連の学者,他の電力会社などの総力戦で解決に向かって欲しいところです。

 さて,本号では特集としまして「最新技術―補聴器と人工中耳・人工内耳」が掲載されていますが,いずれも耳鼻咽喉科医が知っておきたい最新の知識,臨床応用が解説されています。また鏡下囁語では,廣瀬肇先生より「ギリシャ神話と語音聴取」というタイトルのお話をいただきました。おそらく実在した女性たちの歌声の歌詞(意味)を聴きたくて誘惑され,島につい下りてしまった船乗りの何らかの失敗談が,いつか船乗りを誘惑する魔女の話になっていったのかもしれません。ぜひ一読していただければと思います。また母音と音楽の関係について知ることができます。原著については6編もいただき,充実した冊子となっております。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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