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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科83巻8号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 知っておきたい唾液腺疾患

MALTリンパ腫

著者: 岩井大

ページ範囲:P.544 - P.550

Ⅰ.はじめに

 悪性リンパ腫の発生母地にはリンパ節と節外リンパ装置とがある。この節外リンパ装置は粘膜付属リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue:MALT)と呼ばれ,リンパ節とは異なる固有のB細胞亜群が存在する。その分布は,粘膜・皮膚・分泌腺などであり,体外環境と接し,抗原の付着や進入の防御機構として作用している。MALTのB細胞はhoming(帰還)現象を示し,例えば胃腸管粘膜のB細胞は腸間膜リンパ節を経由して胸管や末しょう血に入り,循環後に再びB細胞や形質細胞として粘膜に戻る1)。1983年,Isaacsonら2)はこのMALTを母地とする胃腸管のB細胞悪性リンパ腫(MALTリンパ腫あるいはMALToma)の存在を報告した。その後このMALTリンパ腫は,甲状腺・耳下腺・喉頭・皮膚・肺・胸腺・眼窩・膀胱など,いずれも節外リンパ装置を有する臓器(節外臓器)に発生することが報告された。さらに,その組織像・進展様式・生物学的特性は,リンパ節性悪性リンパ腫とは別に1つの疾患単位をなしていることが提唱されている3)。かつて,胃や耳下腺(シェーグレン症候群)での腫瘍性リンパ組織増殖は偽リンパ腫(pseudolymphoma)と呼ばれたが,単クローン性増殖であることが示され,MALTリンパ腫であることが判明している4)

MTX関連リンパ増殖性疾患

著者: 長門利純 ,   原渕保明

ページ範囲:P.551 - P.556

Ⅰ.はじめに

 メトトレキサート(methotrexate:MTX)は従来から白血病や悪性リンパ腫などの非上皮性腫瘍に対する抗癌剤として使用されている。最近になって,慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)を中心とした自己免疫疾患に対する免疫抑制剤として低用量(5~15mg/week)を長期間服用することが推奨されている1,2)。MTX関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders:MTX-LPD)とは,このように低用量のMTXを長期間服用した結果,細胞性免疫の低下によって生じる日和見リンパ腫などのリンパ球増殖性疾患と考えられている。RAの定型的治療法としてMTX低用量持続療法の使用頻度の上昇に伴い,本疾患も増加している。また,本疾患は40~50%の症例がリンパ節以外に発生し3,4),その中で頭頸部のワルダイエル扁桃輪が最も多い。唾液腺に発生することは稀ではあるが,唾液腺腫大を主訴としほかの唾液腺疾患と鑑別を要するため,耳鼻咽喉科専門医として知っておきたい疾患である。本稿では,筆者らが経験した症例を提示し,唾液腺を含めた耳鼻咽喉科領域に生じるMTX-LPDに関して概説する。

IgG4関連疾患

著者: 宮本真理子 ,   吉原俊雄

ページ範囲:P.557 - P.561

Ⅰ.はじめに

 IgG4関連疾患(IgG4-related plasmacystic disease)は,全身の諸臓器にCD4やCD8陽性Tリンパ球とIgG4陽性形質細胞が浸潤する全身性の疾患であり,IgG4陽性形質細胞の浸潤は,唾液腺,膵臓,甲状腺,後腹膜などに認められる。ミクリッツ病(Mikulicz's disease)や慢性硬化性顎下腺炎(いわゆるキュットナー腫瘍:Küttner's tumor)は,多くのIgG4関連疾患のなかでも,耳鼻咽喉科におけるIgG4関連唾液腺疾患として,唾液腺腫脹を主訴に受診・診察される疾患である。特にミクリッツ病は,シェーグレン症候群の一亜型として長年捉えられてきた疾患であるが,近年その両疾患において,血清学的,免疫組織学的相違点が指摘され,独立した疾患として提唱されるようになった。

 今回,ミクリッツ病,慢性硬化性顎下腺炎について,IgG4関連疾患という観点から論説する。

シェーグレン症候群―特に耳鼻咽喉科医が見過ごしがちの全身疾患について

著者: 住田孝之

ページ範囲:P.563 - P.568

Ⅰ.概念・疫学

 シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome:SS)は,慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし,多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症をきたす自己免疫疾患の一つである。病理学的には,唾液腺や涙腺の導管,腺房周囲の著しいリンパ球(T細胞およびB細胞)浸潤が特徴とされる1)。腺房の破壊,萎縮による乾燥症(sicca syndrome)が主症状であるが,唾液腺,涙腺だけでなく,全身の外分泌腺が系統的に障害されるため,autoimmune exocrinopathyとも称される。

 SSはほかの膠原病の合併がみられない一次性(primary)SSと関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)や全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)などの膠原病を合併する二次性(secondary)SSとに大別される。一次性SSは病変が涙腺,唾液腺に限局する腺型(glandular form)と病変が全身諸臓器におよぶ腺外型(extraglandular form)とに分けられる。

唾液腺腫瘍診断のピットフォール

著者: 廣川満良

ページ範囲:P.569 - P.575

Ⅰ.はじめに

 唾液腺腫瘍は他に類をみないぐらい多くの組織型,組織亜型があり,しかもそれぞれの発生頻度が低いことから,一般病理医にとって馴染み難い分野になっている。また,一つの腫瘍内に多彩な組織像がみられることがあるし,異なる腫瘍でも部分的に類似した組織像を有することもあることから,診断に苦慮する症例が多く,病理診断の観察者間変動が大きい臓器として知られている。本稿では,唾液腺腫瘍を診断する際に注意すべき点,言い換えれば陥りやすい過ち(ピットフォール)に焦点を当てて解説する。

目でみる耳鼻咽喉科

咽頭痛を主訴としたクローン病の1症例

著者: 川崎泰士 ,   深谷和正 ,   窪田裕幸 ,   寺田忠史

ページ範囲:P.540 - P.543

Ⅰ.はじめに

 クローン病は,主として若い成人にみられ,線維化や潰瘍を伴う肉芽腫性病変が,口腔から肛門まで消化管のどの部位にでも起こりうる疾患である。腸管以外では,眼,関節,皮膚症状がみられ,口腔咽頭病変の合併は約10%とされる。今回,咽頭病変を契機に発見されたクローン病症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

原著

耳下腺oncocytomaの1症例

著者: 上田雅代 ,   弘中志央 ,   高田剛資 ,   山本聡 ,   高木伸夫 ,   任書晃 ,   立本圭吾

ページ範囲:P.577 - P.581

Ⅰ はじめに

 Oncocytomaは主に唾液腺に発生する比較的稀な良性腫瘍であり,全唾液腺腫瘍に占める割合は1%以下とされている1)。病理学的には好酸性顆粒を細胞質内に含む膨大細胞(oncocyte)の増殖がみられる腫瘍である。Oncocyteの定義は,①唾液腺が成熟した後に出現する,②酸素活性が高い,③大型で多量のミトコンドリアを細胞質に含む,④通常の導管細胞の特徴を欠くこととされている2)。耳下腺oncocytomaは術前診断が困難であり,ほとんどの報告は摘出標本を用いた病理組織診で診断を得ている。文献的考察3,4)より穿刺吸引細胞診は術前診断を可能とする有用な検査法であると考えられた。

 本稿では摘出標本を用いて診断し得た耳下腺oncocytomaの1症例につき,その治療経過を報告する。

動眼神経麻痺を呈した蝶形骨洞囊胞の1例

著者: 橘智靖 ,   中田道広 ,   小河原悠哉 ,   松山祐子 ,   阿部郁

ページ範囲:P.583 - P.587

Ⅰ はじめに

 蝶形骨洞囊胞により視力障害や眼球運動障害を呈した報告は比較的多くみられるが,動眼神経麻痺を唯一の症状として呈した報告はきわめて稀である。今回われわれは動眼神経麻痺のみを呈した蝶形骨洞囊胞の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻腔から発生した孤立性線維性腫瘍の1例

著者: 榊優 ,   佐伯忠彦 ,   渡辺太志 ,   大河内喜久 ,   武木田誠一

ページ範囲:P.589 - P.593

Ⅰ はじめに

 孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)は1931年にKlempererら1)により初めて報告された間葉系細胞由来の良性腫瘍である。SFTの多くは胸膜・腹膜などの漿膜に発生し,耳鼻咽喉科領域では比較的稀である。今回われわれは左鼻副鼻腔に生じたSFTの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

下咽頭神経鞘腫の1例

著者: 田中友佳子 ,   栗田宣彦 ,   松本有 ,   原田品子 ,   佐多由紀 ,   畑裕子 ,   小嶋康隆 ,   奥野妙子

ページ範囲:P.595 - P.599

Ⅰ はじめに

 神経鞘腫が頭頸部領域に発生する場合,頸部腫瘤を主症状とすることが多い。下咽頭に発生することは稀であり,渉猟し得た限りでは国内外合わせて15例であった。今回われわれは,下咽頭神経鞘腫の1例を経験した。過去の報告と本症例を併せて考察する。

挿管後に出現した広範囲な気管狭窄に対するダイナミックステント治療例

著者: 千葉恭久 ,   菊池信幸 ,   中村寧 ,   古屋信彦 ,   原田勇彦 ,   小林武夫

ページ範囲:P.601 - P.605

Ⅰ はじめに

 気管狭窄は呼吸困難が出現するため,患者のQOLは著しく低下する。また,その原因,位置,長さ,狭窄部位の病理によっては,治療は難渋し長期間にわたることも多い。

 気管狭窄の治療の一つに,ステントを使用する方法がある。文献上では,悪性腫瘍で生じた気管狭窄に気管内ステントを留置する報告が散見される1,2)。しかし,良性病変による広範囲な狭窄にダイナミックステントを使用した報告は稀である。

 今回は,気管内挿管後に出現した広範な気管狭窄に対し,気管支鏡下にKTP/YAGレーザーによる狭窄除去とダイナミックステントの気管内留置を行い,良好な結果が得られた症例を報告する。

鏡下囁語

初期の鼻・副鼻腔内視鏡の歴史

著者: 飯沼壽孝 ,   善浪弘善 ,   中嶋正人

ページ範囲:P.607 - P.611

I.はじめに

 18世紀から19世紀にかけて多くの内視鏡が発明されたが,これは人体に重大な侵襲なくして人体の内部を観察したいとの当時の医師たちの熱烈な探求心によるものであった。しかし,最も重大な障害は光源であった。古くは窓際の日光,ローソク,各種の油,あるいはガス発生装置などが用いられたが,いずれも光源が体外にあるために,内腔の観察には原理からして不満足な結果であったことは自明である。この障害の解消の発端となったのは白熱電球の発明であり,Joseph Wilson Swan(1828~1914)が1879年2月に,Thomas Alva Edison(1847~1931)が1879年10月に,各独立して炭素フィラメントを用いた白熱電球を発明したことである。彼ら以外にも欧米のところどころで白熱電球の開発に携わった人々が多くいたといわれる(白熱電球の歴史は国立科学博物館から教授いただいた)。

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欧文目次

ページ範囲:P.534 - P.534

〔お知らせ〕第13回耳鼻咽喉科手術支援システム・ナビ研究会

ページ範囲:P.581 - P.581

 第13回耳鼻咽喉科手術支援システム・ナビ研究会を下記の通り開催いたします。

 耳鼻咽喉科,頭頸部外科領域におけるナビゲーションシステムをはじめとする様々な手術支援機器,さらに手術教育システムに関する演題を幅広く募集いたします。

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.614 - P.614

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.616 - P.616

投稿規定

ページ範囲:P.618 - P.618

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.619 - P.619

あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.620 - P.620

 学術誌である本誌に政治的な言葉はそぐわないと思いつつも,現在の政治の迷走,遅れる復興,解決に向けてのメドがたたない原発事故処理など,先の展望もみえず閉塞感が強まる毎日です。本誌が印刷・発刊される頃もおそらく政治的混迷は続いていると想像されますが,少しずつでも状況の改善がみられることを切望しています。医学界のみでなくさまざまな分野の学会開催などにも影響が出ています。中止あるいは延期となった会もありますが,特に学術・学問については常に前向きに進んでいくべきと思います。

 さて本号では,唾液腺疾患に関する新しい知見,耳鼻咽喉科医の見落としがちな唾液腺関連事項などを「知っておきたい唾液腺疾患」として特集を組みました。疾患として「MALTリンパ腫」,「MTX関連リンパ増殖性疾患」,「IgG4関連疾患」,「シェーグレン症候群」を挙げましたが,いずれも興味ある疾患です。入局したばかりの若い先生に理解を深めていただきたいことはもちろん,専門医の先生方にも再確認していただきたい内容です。また今回は,5編の原著が掲載されていますが,いずれも貴重な報告で,ぜひ一読していただきたい疾患群です。鏡下囁語として飯沼壽孝先生の「初期の鼻・副鼻腔内視鏡の歴史」が掲載されています。まさに温故知新という内容です。本誌ならではのコーナーですが,編集室からのご依頼だけでなく,今後,多くの先生方に自由に寄稿していただければと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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