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特集 こんなときどうする?―耳科手術編
Floating Footplateか!?
著者: 植田広海1 内田育恵1 岸本真由子1
所属機関: 1愛知医科大学耳鼻咽喉科
ページ範囲:P.639 - P.642
文献購入ページに移動Ⅰ.概説
アブミ骨手術時には,アブミ骨可動術を除いて基本的にアブミ骨底板に穴をあけるか全摘する必要がある。その処理の際にアブミ骨底板の全周で卵円窓との固着がはずれて,底板が前庭のなかに落ちてしまい,外リンパの液面に浮いてしまうことがある。この状態をfloating footplate(図1)と呼ぶ1)。アブミ骨手術には,stapedectomy(アブミ骨摘出術),stapedotomy(アブミ骨底開窓術),stapes mobilization(アブミ骨可動術),vestibulotomy(前庭開窓術)がある2)が,一般的に行われるのはstapedotomyである。一般的なstapedotomyの手術手順を図2に示す。Floating footplateは,②の上部構造摘出時か③の底板に開窓する際に起こるとされる3)。Floating footplateの形成は顔面神経水平部下垂による卵円窓の狭小化とともにアブミ骨手術時の際に認めやすいやっかいな問題点である4)。Floating footplateが起こりやすい例は,アブミ骨底板のみが耳硬化症病変に侵され肥厚するいわゆる「ビスケット型」5)といわれるが日本人には少ない。また,CTにて異常所見のない例が有意に起こりやすいとの報告4)があり,日本人は異常所見の少ない例すなわち卵円窓との固着が軽度の例が多くfloating footplateを生じやすいといえる。Floating footplateが問題になるのは,いったんfloating footplateになるとそのfloating footplateを摘出しstapedectomyを目指さざるを得ないが摘出が困難である点と,無理に摘出すると不可逆的な内耳障害を生じて聴力改善手術が目的であるのに高度の感音難聴あるいは持続性のめまいを残す可能性が高い点である。そのため,floating footplateになった場合は細心の注意を払って処置する必要がある。また,floating footplateにならないための手術法の工夫も必要である。以下にfloating footplateになった場合の処置法およびfloating footplateを予防するための手術法について述べる。
アブミ骨手術時には,アブミ骨可動術を除いて基本的にアブミ骨底板に穴をあけるか全摘する必要がある。その処理の際にアブミ骨底板の全周で卵円窓との固着がはずれて,底板が前庭のなかに落ちてしまい,外リンパの液面に浮いてしまうことがある。この状態をfloating footplate(図1)と呼ぶ1)。アブミ骨手術には,stapedectomy(アブミ骨摘出術),stapedotomy(アブミ骨底開窓術),stapes mobilization(アブミ骨可動術),vestibulotomy(前庭開窓術)がある2)が,一般的に行われるのはstapedotomyである。一般的なstapedotomyの手術手順を図2に示す。Floating footplateは,②の上部構造摘出時か③の底板に開窓する際に起こるとされる3)。Floating footplateの形成は顔面神経水平部下垂による卵円窓の狭小化とともにアブミ骨手術時の際に認めやすいやっかいな問題点である4)。Floating footplateが起こりやすい例は,アブミ骨底板のみが耳硬化症病変に侵され肥厚するいわゆる「ビスケット型」5)といわれるが日本人には少ない。また,CTにて異常所見のない例が有意に起こりやすいとの報告4)があり,日本人は異常所見の少ない例すなわち卵円窓との固着が軽度の例が多くfloating footplateを生じやすいといえる。Floating footplateが問題になるのは,いったんfloating footplateになるとそのfloating footplateを摘出しstapedectomyを目指さざるを得ないが摘出が困難である点と,無理に摘出すると不可逆的な内耳障害を生じて聴力改善手術が目的であるのに高度の感音難聴あるいは持続性のめまいを残す可能性が高い点である。そのため,floating footplateになった場合は細心の注意を払って処置する必要がある。また,floating footplateにならないための手術法の工夫も必要である。以下にfloating footplateになった場合の処置法およびfloating footplateを予防するための手術法について述べる。
参考文献
1)坂井 真:合併症.耳鼻咽喉科・頭頸部外科MOOK20,耳硬化症,野村恭也(編).金原出版,東京,1991,pp74-82
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