文献詳細
特集 こんなときどうする?―耳科手術編
アブミ骨手術,人工内耳埋め込み術で内耳開窓をした途端,突然透明な液が流出! Gusher!?どうしたらいい?
著者: 中川尚志1
所属機関: 1福岡大学医学部耳鼻咽喉科
ページ範囲:P.643 - P.645
文献概要
アブミ骨手術や人工内耳埋め込み術で内耳を開窓したときに脳脊髄液が流出してくることがあり,gusherと呼ばれている。内耳の外リンパは蝸牛小管を介してくも膜下腔と交通している。脳脊髄液は70~180 mmH2Oの髄液圧を有している。しかし,くも膜下腔と蝸牛をつなぐ蝸牛小管は細いため,髄液圧を外リンパ腔に直接伝えるには抵抗が高い。このため,内耳の外リンパ腔の圧は低く保たれており,内耳開窓によって脳脊髄液が流出することはない。Gusherはくも膜下腔と外リンパとが広く交通しているために生じる。外リンパはわずかの容積しかないので,gusherで流出してくる液体はほとんど脳脊髄液である。
外リンパ腔への脳脊髄液の交通路としては,当初,拡大した蝸牛小管が想定された。Farriorら1)は蝸牛小管を閉塞させることにより,外リンパ液の流出を停止させた症例を示し,蝸牛小管からの交通がgusherの原因であったと説明している。しかし,SchuknechtとReisser2)は彼らの有する側頭骨標本の中で最も太い蝸牛小管でも径が0.2mmしかなかったと述べており,拡大した蝸牛小管がgusherの原因であることを否定した。Schuknecht3)は内耳道底の骨欠損がgusherの原因であると考え,彼の著書で内耳道底と蝸牛の間に広く開存する骨欠損を有する側頭骨標本を列挙している。また,側頭骨高解像度CTが撮影されるようになり,内耳道の拡張,内耳形態異常に内耳道底の欠損が伴っている症例が報告されている。現状においては内耳道底の骨欠損がくも膜下腔から蝸牛への脳脊髄液の交通路となり,gusherが生じるとの説が有力である(図1)。
参考文献
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