文献詳細
特集 こんなときどうする?―耳科手術編
文献概要
Ⅰ.概説
耳科手術における顔面神経損傷は,患者と術者の双方にとって最も遭遇したくない合併症の一つである。術前に患者からインフォームド・コンセントを得ていても,実際に顔面神経麻痺が起こればその精神的ダメージは大きい。特に後遺症が残れば深刻なQOLの低下が生涯持続するため,細心の注意を払って手術に臨まなければならない。顔面神経損傷に対する備えとしては,その対応よりも顔面神経走行の解剖学的な知識と,術中の顔面神経モニタリングによる確認が重要である。そこで本稿では,まず顔面神経損傷を避けるための方策について解説する。しかし,残念ながら経験豊富な術者であっても,ちょっとした不注意やオリエンテーションの誤りにより顔面神経を損傷する可能性は常にある。損傷が生じやすいのは,神経の同定が困難な場合や,神経に解剖学的問題がある場合が多い。例えば,乳突蜂巣の発育抑制,高度の真珠腫もしくは肉芽病変,易出血例,再手術例,外耳道閉鎖症,顔面神経管の骨欠損,神経の走行異常などでは,十分な注意が必要である。顔面神経の損傷はバーやピックによる擦過や圧迫,伸展,挫滅,切断が一般的である。しかし,電気メス,バイポーラによる熱傷や局所麻酔による一過性の麻痺などもある。本稿の後半では,耳科手術時にやむなく顔面神経を損傷した際に考慮すべきことや,最適な対応の選択法について述べる。
耳科手術における顔面神経損傷は,患者と術者の双方にとって最も遭遇したくない合併症の一つである。術前に患者からインフォームド・コンセントを得ていても,実際に顔面神経麻痺が起こればその精神的ダメージは大きい。特に後遺症が残れば深刻なQOLの低下が生涯持続するため,細心の注意を払って手術に臨まなければならない。顔面神経損傷に対する備えとしては,その対応よりも顔面神経走行の解剖学的な知識と,術中の顔面神経モニタリングによる確認が重要である。そこで本稿では,まず顔面神経損傷を避けるための方策について解説する。しかし,残念ながら経験豊富な術者であっても,ちょっとした不注意やオリエンテーションの誤りにより顔面神経を損傷する可能性は常にある。損傷が生じやすいのは,神経の同定が困難な場合や,神経に解剖学的問題がある場合が多い。例えば,乳突蜂巣の発育抑制,高度の真珠腫もしくは肉芽病変,易出血例,再手術例,外耳道閉鎖症,顔面神経管の骨欠損,神経の走行異常などでは,十分な注意が必要である。顔面神経の損傷はバーやピックによる擦過や圧迫,伸展,挫滅,切断が一般的である。しかし,電気メス,バイポーラによる熱傷や局所麻酔による一過性の麻痺などもある。本稿の後半では,耳科手術時にやむなく顔面神経を損傷した際に考慮すべきことや,最適な対応の選択法について述べる。
参考文献
1)村上信五:側頭骨内顔面神経損傷の予防と対応.JOHNS 3:312-316,2003
2)Sheehy JJ, et al:Inatrogenic facial nerve injury during otologic surgery. Laryngoscope 104:922-926, 1994
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5)Lalwani AK, et al:Delayed onset facial nerve dysfunction following acoustic neuroma surgery. Am J Otol 16:758-764, 1995
6)柳原尚明:手術のコツ―顔面神経減荷術.日耳鼻 93:1448-1449,1993
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