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文献詳細

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻12号

2012年11月発行

特集① 耳鼻咽喉科疾患と遺伝子

頭頸部癌と遺伝子

著者: 太田一郎1 家根旦有2

所属機関: 1奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科 2近畿大学医学部奈良病院耳鼻咽喉科

ページ範囲:P.910 - P.914

文献概要

Ⅰ はじめに

 頭頸部癌は大腸癌や肺癌など他領域の癌に比べて基礎研究の面で遅れているのが現状である。その理由として頭頸部癌は一言で「頭頸部癌」と称しても亜部位が多く,それぞれが独立した特徴をもつために,頭頸部癌全体を一括りに解析しても明確な姿がみえてこなかったことは当然である。胃癌,肝癌,膵癌を「腹部癌」として取り扱わないのと同様に,頭頸部癌も亜部位をそれぞれ明確に区別して検討する必要があったと思われる。その点において近年の画期的な報告は,何といっても中咽頭癌とヒトパピローマウイルス(HPV)との関係である。従来,頭頸部癌の発癌要因としては喫煙と飲酒が2大リスクであることは広く知られていたことであるが,この数年でHPVが中咽頭癌,特に口蓋扁桃原発の扁平上皮癌の要因としてクローズアップされてきたことは注目すべきことである。HPVが原因の中咽頭癌は,喫煙や飲酒が原因で発症した中咽頭癌とは異なる生物学的特性を有し,同じ中咽頭癌であっても全く異なる腫瘍であることがわかってきた。

 一方,検査技術の発達に伴い遺伝子検索を高速大量処理することが可能となり,今までみえてこなかった複雑な発癌の遺伝子ネットワークも徐々に解明されつつある。その成果としては2011年に“Science”誌で発表された頭頸部癌におけるNotch遺伝子があり,今後はさらに未知の遺伝子の関与が解明される可能性がある。

 今までの癌研究はp53EGFRRASなど個々の遺伝子変異や欠失の検索に力が注がれていたが,現在ではDNA配列異常,染色体異常,DNAメチル化などのエピジェネティック修飾,マイクロRNAなど多くの検索項目から包括的に癌を捉えることが必要であると考えるようになってきた。しかし,今後はこれらの検索から得られた大量の情報量をいかに解析するかが重要な問題となるであろう。

 今や癌研究はすさまじいスピードで進化しており,それに追いつくことは一般の医師にとっては並大抵のことではない。「癌の概念」も10年前と比べて大きく変化しつつあり,それを理解するのも容易ではない。本稿では「癌の概念」をわかりやすく解説し,頭頸部癌における遺伝子研究の現状についても述べたい。

参考文献

1)Hanahan D, et al:Hallmarks of cancer:the next generation. Cell 144:646-74, 2011
2)Hanahan D, et al:The Hallmarks of Cancer. Cell 100:57-70, 2000
3)Fearon ER, et al:A genetic model for colorectal tumorigenesis. Cell 61:759-767, 1990
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5)Califano J, et al:Genetic progression model for head and neck cancer:implications for field cancerization. Cancer Res 56:2488-2492, 1996
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7)Prince ME, et al:Identification of a subpopulation of cells with cancer stem cell properties in head and neck squamous cell carcinoma. Proc Natl Acad Sci USA 104:973-978, 2007
8)Agrawal N, et al:Exome sequencing of head and neck squamous cell carcinoma reveals inactivating mutations in NOTCH1. Science 333:1154-1157, 2011
9)Stransky N, et al:The mutational landscape of head and neck squamous cell carcinoma. Science 333:1157-1160, 2011
10)Fan X, et al:Notch pathway inhibition depletes stem-like cells and blocks engraftment in embryonal brain tumors. Cancer Res 66:7445-7452, 2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1316

印刷版ISSN:0914-3491

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