文献詳細
特集 メニエール病Update
文献概要
Ⅰ はじめに
メニエール病の全体像を知るには多数例の観察が必要である。2006年5月に当施設を開設し,過去6年間に4千余名が受診し,メニエール病患者は全体の約16.5%,700名弱を占めた。多くが他施設で長らく投薬治療を受け,難聴が進行した例である。さらに,中耳加圧,水分摂取,内リンパ囊開放術やゲンタマイシン鼓室内投与を受け,無効や再発,副作用や後遺症のために受診している1)。
浸透圧利尿薬やステロイド薬は投薬初期に一時的効果があるが,すぐに無効となり2,3),前者を長期,後者を頻回投薬され副作用を訴える例が多数にのぼる。浸透圧利尿薬の中止で症状は影響されず,不眠,頭痛,下痢,倦怠感などの副作用が解消し,体調は改善する。内リンパ水腫に対する治療は投薬,手術ともに進行予防に無効なため,メニエール病治療は水腫をきたす有害要因の解消以外にはあり得ない。
メニエール病は長らくストレス病といわれてきたが,ストレスの実体が曖昧で,研究者も無関心であった4)。筆者は15年来,患者の生活環境,発症誘因,行動特性,増悪・改善要因を調査してきた5~11)。患者は発症時あるいは継続的に,職場や家庭で我慢や奉仕を強いられ,心労が発症につながる実態が判明している。これより,日常生活中の有害要因が情動中枢を介して,内耳を標的臓器とし内リンパ水腫を発現させる可能性が示唆されてきた12,13)。
最近は,心療内科ばかりでなく耳鼻咽喉科で,鎮静薬,抗うつ薬,睡眠薬が安易に投薬されているが,根本的な解決策になっていない。患者は日常生活を詳細に質問されて,我慢や奉仕がストレスであったと自覚することも稀でない。軽症や発症早期例はストレス対策で改善するが,進行例の難聴改善は至難であった。6年前,有酸素運動が症状改善にきわめて有効なことが判明し,新治療が生まれた14)。新治療の概要,症例,治療成績,現時点の解釈を記した。
メニエール病の全体像を知るには多数例の観察が必要である。2006年5月に当施設を開設し,過去6年間に4千余名が受診し,メニエール病患者は全体の約16.5%,700名弱を占めた。多くが他施設で長らく投薬治療を受け,難聴が進行した例である。さらに,中耳加圧,水分摂取,内リンパ囊開放術やゲンタマイシン鼓室内投与を受け,無効や再発,副作用や後遺症のために受診している1)。
浸透圧利尿薬やステロイド薬は投薬初期に一時的効果があるが,すぐに無効となり2,3),前者を長期,後者を頻回投薬され副作用を訴える例が多数にのぼる。浸透圧利尿薬の中止で症状は影響されず,不眠,頭痛,下痢,倦怠感などの副作用が解消し,体調は改善する。内リンパ水腫に対する治療は投薬,手術ともに進行予防に無効なため,メニエール病治療は水腫をきたす有害要因の解消以外にはあり得ない。
メニエール病は長らくストレス病といわれてきたが,ストレスの実体が曖昧で,研究者も無関心であった4)。筆者は15年来,患者の生活環境,発症誘因,行動特性,増悪・改善要因を調査してきた5~11)。患者は発症時あるいは継続的に,職場や家庭で我慢や奉仕を強いられ,心労が発症につながる実態が判明している。これより,日常生活中の有害要因が情動中枢を介して,内耳を標的臓器とし内リンパ水腫を発現させる可能性が示唆されてきた12,13)。
最近は,心療内科ばかりでなく耳鼻咽喉科で,鎮静薬,抗うつ薬,睡眠薬が安易に投薬されているが,根本的な解決策になっていない。患者は日常生活を詳細に質問されて,我慢や奉仕がストレスであったと自覚することも稀でない。軽症や発症早期例はストレス対策で改善するが,進行例の難聴改善は至難であった。6年前,有酸素運動が症状改善にきわめて有効なことが判明し,新治療が生まれた14)。新治療の概要,症例,治療成績,現時点の解釈を記した。
参考文献
1)高橋正紘:浸透圧利尿剤,ステロイド,内リンパ囊開放,GM鼓室内注入の現状と弊害.前庭機能異常に関する調査研究平成21年度報告書,2010,pp175-181
2)鈴木幹男・他:メニエール病のイソバイド投与期間に関する検討.Equilibrium Res Suppl 9:116-120,1993
3)山中敏彰・他:メニール病に対する薬物治療の短期および長期評価.Equilibrium Res 56:594-600,1997
4)高橋正紘・他:文献検索からみたメニエール病研究の課題.前庭機能異常に関する調査研究平成16年度報告書,2005,pp22-27
5)高橋正紘・他:アンケートによるストレスの定量化―企業内アンケート調査結果の検討.聴覚・平衡機能系疾患調査研究班前庭機能異常平成9年度報告書,1998,pp43-47
6)高橋正紘・他:ストレス反応とメニエール病.聴覚・平衡機能系疾患調査研究班前庭機能異常平成10年度報告書,1999,pp29-32
7)高橋正紘・他:内リンパ水腫患者の発症誘因.前庭機能異常に関する調査研究平成13年度報告書,2002,pp73-76
8)高橋正紘・他:一般勤労者と内リンパ水腫患者のライフスタイル・アンケートの比較.前庭機能異常に関する調査研究平成13年度報告書,2002,pp77-81
9)小田桐恭子・他:性,年齢がマッチしたメニエール病患者群と地域住民群の行動特性比較.前庭機能異常に関する調査研究平成16年度報告書,2005,pp15-17
10)Onuki J, et al:Comparative study of the daily lifestyle of patients with Meniere's disease and controls. Ann Otol Rhinol Laryngol 114:927-933, 2005
11)Takahashi M, et al:Personal factors involved in onset or progression of Meniere's disease and low-tone sensorineural hearing loss. ORL 67:300-304, 2005
12)高橋正紘:生活指導と有酸素運動によるメニエール病の治療.Otol Jpn 20:727-734,2010
13)高橋正紘:メニエール病の新しい疾患概念.前庭機能異常に関する調査研究平成22年度報告書,2011,pp124-129
14)高橋正紘:有酸素運動で著明に改善したメニエール病進行例の一例.Otol Jpn 18:126-130,2008
15)高橋正紘・他:内リンパ水腫の発症増悪要因と治療への応用.前庭機能異常に関する調査研究平成14年度報告書,2003,pp53-60
16)大貫純一・高橋正紘・他:生活指導によるメニエール病の治療効果.前庭機能異常に関する調査研究平成15年度報告書,2003,pp22-26
17)高橋正紘・他:メニエール病の生活指導.耳鼻咽喉科診療プラクティス,EBMに基づく診断と治療,武田憲昭(編).文光堂,東京,2001,pp134-138
18)高橋正紘:メニエール病患者における生活指導の留意点.めまい診療のコツと落とし穴,高橋正紘(編).中山書店,東京,2005,pp116-117
19)高橋正紘:薬も手術もいらないめまいメニエール病治療.角川マガジンズ,東京,2012,pp85-209
20)高橋正紘:めまい専門施設におけるメニエール病367名の集計分析.前庭機能異常に関する調査研究平成21年度報告書,2010,pp153-159
21)高橋正紘・他:内リンパ水腫の聴力変動に見られる規則性.Otol Jpn 13:135-140,2003
22)竹田泰三:メニエール病の成因と病態生理.Equilibrium Res 60:146-158,2001
23)高橋正紘:文献検索からみたメニエール病研究の問題点と展望.前庭機能異常に関する調査研究平成22年度報告書,2011,pp150-155
24)水越鉄理・他:厚生省特定疾患メニエール病調査研究班によるメニエール病の疫学調査と症状調査.耳鼻臨床70:1669-1686,1977
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