目でみる耳鼻咽喉科
乳突皮質形成による残存聴力活用型人工内耳の術後聴力への影響
著者:
塚田景大
,
岩崎聡
,
茂木英明
,
工穣
,
宮川麻衣子
,
西尾信哉
,
宇佐美真一
ページ範囲:P.91 - P.95
Ⅰ.はじめに
現在,低音部は音響刺激で,高音部は人工内耳で音を刺激する残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation:EAS)が登場し,その有用性については広く知られるようになって来た。
EASは,高度難聴を適応とする従来の人工内耳とは異なり,残存聴力をいかに保存できるかが重要な点である。先端が柔らかくより蝸牛に侵襲が少ない電極を用いたり1),正円窓からのアプローチ(round window approach:RWA)が低侵襲で蝸牛組織の損傷を軽減させる2)ことが報告されており,良好な聴力温存を可能にしている。しかし,手術では乳突洞削開術,後鼓室開放術により中耳内を操作するため術後の聴力に気骨導差を生じる。そのため残存聴力活用型人工内耳の術後聴力の評価は中耳が落ち着いた後の術後1か月以降で行われて来た。これまでの重度感音難聴に対する人工内耳と異なり,術前から低音部の残聴がある場合はできるだけ術後に生じる気骨導差の縮小や早期改善に努めることは患者へのQOL向上につながる。
今回われわれは中耳の術後の変化を少なくすることで,術後早期の気骨導差の改善を目的に乳突削開部に骨パテ板を用いた乳突皮質形成を行い,術後1か月までの短期的な鼓膜所見および聴力の経時的変化について検討したので報告し,代表的な症例を合わせて提示する。