耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻2号

2012年02月発行

目でみる耳鼻咽喉科

乳突皮質形成による残存聴力活用型人工内耳の術後聴力への影響

著者： 塚田景大¹ 岩崎聡² 茂木英明¹ 工穣¹ 宮川麻衣子¹ 西尾信哉¹ 宇佐美真一¹

所属機関： ¹信州大学医学部耳鼻咽喉科 ²信州大学医学部附属病院人工聴覚器学講座

ページ範囲：P.91 - P.95

文献概要

Ⅰ．はじめに

　現在，低音部は音響刺激で，高音部は人工内耳で音を刺激する残存聴力活用型人工内耳（electric acoustic stimulation：EAS）が登場し，その有用性については広く知られるようになって来た。

　EASは，高度難聴を適応とする従来の人工内耳とは異なり，残存聴力をいかに保存できるかが重要な点である。先端が柔らかくより蝸牛に侵襲が少ない電極を用いたり^1），正円窓からのアプローチ（round window approach：RWA）が低侵襲で蝸牛組織の損傷を軽減させる^2）ことが報告されており，良好な聴力温存を可能にしている。しかし，手術では乳突洞削開術，後鼓室開放術により中耳内を操作するため術後の聴力に気骨導差を生じる。そのため残存聴力活用型人工内耳の術後聴力の評価は中耳が落ち着いた後の術後1か月以降で行われて来た。これまでの重度感音難聴に対する人工内耳と異なり，術前から低音部の残聴がある場合はできるだけ術後に生じる気骨導差の縮小や早期改善に努めることは患者へのQOL向上につながる。

　今回われわれは中耳の術後の変化を少なくすることで，術後早期の気骨導差の改善を目的に乳突削開部に骨パテ板を用いた乳突皮質形成を行い，術後1か月までの短期的な鼓膜所見および聴力の経時的変化について検討したので報告し，代表的な症例を合わせて提示する。

参考文献

1）宇佐美真一：最新技術　補聴器と人工中耳・人工内耳―補聴器と人工内耳の融合　残存聴力活用型人工内耳について．耳喉頭頸 83：393-401，2011

2）Skarzynski H, et al：Preservation of low frequency hearing in partial deafness cochlear implantation（PDCI）using the round window surgical approach. Acta Otolaryngol 127：41-48, 2007

3）五十嵐文雄：乳突蜂巣3つの謎．JOHNS 26：995-998，2010

4）柳原尚明・他：骨パテによる乳突皮質形成術と中耳含気．耳鼻臨床 95：975-981，2002

5）Yanagihara N, et al：Mastoid cortex plasty using bone pate. Otol Neurotol 23：422-424, 2002

6）Kim HH, et al：Titanium mesh for functional reconstruction of the mastoid cortex after mastoidectomy. Otol Neurotol 27：33-36, 2006

7）Jung TT, et al：Reconstruction of mastoidectomy defect with titanium mesh. Acta Otolaryngol 124：440-442, 2004

8）Caylan R, et al：Preservation of the mastoid aeration and prevention of mastoid dimpling in chronic otitis media with cholesteatoma surgery using hyaluronate-based bioresorbable membrane（Seprafilm）. Eur Arch Otorhinolaryngol 264：377-380, 2007