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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻4号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 最新の漢方診療

漢方診療総論

著者: 猪健志 ,   花輪壽彦

ページ範囲:P.261 - P.267

Ⅰ 漢方医学の特徴

 漢方医学の原点は古代中国にあり,6~7世紀頃から日本に渡ってきた。特に江戸時代に腹診技術の発達など日本の文化・風土・思考法に合わせて,日本化し,独特の発展をとげた伝統医学である。近代ヨーロッパで発達した西洋医学とは,使用する薬物が違っているばかりでなく,病気を認識する態度にも,治療の手段にも,格段の違いがある。漢方医学の特徴は以下の点である1)

 (1)病気を全体としてとらえる。現代医学でももちろん病気は全身的な影響を与えると考えるが,漢方治療においても異常の部位だけでなく,常に心も含めた全身状態への配慮をする。

難聴・耳鳴

著者: 神崎晶

ページ範囲:P.269 - P.271

Ⅰ はじめに

 難聴・耳鳴の原因は感覚器である内耳,脳神経に由来することから,従来まで特効薬がなく,一つの手段として漢方薬を試される場合も少なくない。一例報告は多数ある。また,漢方薬を試したところ,奏効した経験がおありの方も多いと思われる。数十例の規模の報告でも時間の経過とともに耳鳴が気にならなくなることもあり,プラセボとの比較がないと有効性を議論するのが難しいと思われる。

 本領域における漢方薬の有効性を証明する臨床研究が少ないため,データが少ない。この背景として,①難聴・耳鳴の病態が解明されていないこと,②耳鳴という症状に対して動物モデルが適応しにくい,③証を配慮して投薬するという性質が多施設共同研究の実施を困難にしていること,④すでに臨床応用されているうえに社会的背景も加わってプラセボと効果を比較した臨床試験が実施しにくいこと,などが考えられる。そもそもエビデンスという言葉自体が漢方薬になじまない部分があるかもしれない。しかし,一方で,後述するGinkgo biloba(イチョウ)では耳鳴に対する有効性が証明された薬剤も存在する。また,エフェドリンは漢方薬の生薬である麻黄から開発されたものであり,まだ耳疾患にも有効性のある,新たに開発されるべき薬剤が存在する可能性を秘めている。耳鼻咽喉科医の努力が望まれる領域である。

 残念ながら現在,難聴・耳鳴に対して漢方薬が第一選択になることはない。ただし,患者全体を診てから治療するという中医学,漢方医学の考え方は難聴・耳鳴治療において重要な考え方である。

 本稿では,今までに記載された漢方薬の文献から将来性に期待してまとめることとする。

 僭越ながら,筆者が行っている漢方診療であるが,まず証も考慮する。合うか合わないかわからないが,試してみましょう,と患者に説明する。いつまで内服するか期限を決めて処方する。証が合わなかったからか数日で体にあわない方も意外に少なくないので短期間内服してもらう。副作用がない限り,約2か月間は試したうえで,効果が期待できないならば投薬を中止し,異なる薬剤を試していきましょう,と説明している。いうまでもなく漢方薬にも副作用があることもあらかじめ説明する。

めまいに対する漢方治療

著者: 鈴木康弘 ,   角田篤信

ページ範囲:P.273 - P.278

Ⅰ はじめに

 漢方治療は,1976年に保険適応となってから一般臨床でも幅広く用いられている。しかし,その治療効果に対する臨床的検討が乏しい点,気血水などの東洋医学的な解釈が難しいといった点から,実地臨床で使用することに躊躇してしまう医師もいるのではと思われる。そのため,これまでの漢方治療は,西洋薬が有効ではなかった症例に対しての補助的治療手段という面をもっていた感がある。実際,第一選択としての西洋薬を投与した症例で,無効だったものに対して漢方治療を行い,その有効性を報告した文献が散見される1,2)

 しかし近年になり,医学部での必須講義項目として,東洋医学を据える大学が大部分になってきているという状況もあり,今後臨床現場において,漢方治療も西洋医学と同等の重要性をもってくることが容易に推測できる。実際本誌を始め,多くの雑誌で漢方治療が取り上げられている3~6)

 本稿ではこういった状況を踏まえて,最新の漢方治療について,めまいに対して用いられる漢方薬を列挙するとともに,自家の経験や諸家の報告も取り入れながら,実際の臨床現場に応用しやすいような内容になるように解説していきたい。こんな主訴の人にはこんな漢方がいいのではと思えるように,本稿がその第一歩を担えたら幸いである。

アレルギー性鼻炎

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.279 - P.281

Ⅰ アレルギー性鼻炎の漢方治療

 アレルギー性鼻炎に対する漢方治療には,症状を改善するためのもの(発作時の標治)と,体質を改善するもの(寛解期の本治)があり,前者として小青竜湯,麻黄附子細辛湯,葛根湯加川芎辛夷,苓甘姜味辛夏仁湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,越婢加朮湯,葛根湯,麻黄湯,荊芥連翹湯,辛夷清肺湯,五虎湯,桂枝湯などが,後者として当帰芍薬散,桂枝伏苓丸,真武湯,人参湯,補中益気湯,六君子湯,八味地黄丸,滋陰降火湯などが挙げられる。前者の薬剤の使い方を図1にまとめる。

副鼻腔炎

著者: 金子達

ページ範囲:P.283 - P.287

Ⅰ はじめに

 副鼻腔炎は古来から漢方でも鼻漏の性状などからアレルギー性鼻炎と区別されてきた。現在のアレルギー性鼻炎の病態に近いのを鼻鼽と呼び,その透明で比較的希薄な鼻汁を清涕という。また,鼻淵は今の副鼻腔炎に当たる疾患であり,膿性な鼻汁のことを濁涕という。このように漢方方剤の選択もアレルギー性鼻炎とは異なってくる1)。また現代医学の観点からは急性の場合や慢性の場合でも抗菌薬との併用も考慮されなければならない。また,アレルギーの関与も薬剤選択にかかわったりして併用薬として西洋薬も考える必要がある。

咽喉頭異常感症

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.289 - P.292

Ⅰ はじめに

 咽喉頭異常感症に対して漢方薬を使用する場合,まず咽喉頭異常感症について適切な認識を持っておく必要がある。そのうえで状況に応じた漢方薬を選択することが大切である。

 咽喉頭に異常な感じを訴えることを咽喉頭異常感症という。その原因となる疾患は全身,局所を合わせてきわめて多彩であり,そのうえ,一般社会の中で咽喉頭異常感を自覚している人が意外に多いことが推定されている1)。そうしたことから,咽喉頭異常感症はわれわれ耳鼻咽喉科医にとっては軽視できない疾患の一つといえる。咽喉頭異常感は経過が長く難治の場合が多いので漢方薬の適応が期待される疾患といえる。本項では,咽喉頭異常感症の西洋医学的な原因に対応した漢方薬処方の紹介となるため,東洋医学的な診断や証を考慮した投与法ではないことを理解いただきたい。

上気道炎・インフルエンザ

著者: 今中政支

ページ範囲:P.293 - P.296

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科医の中には,外科志向派(頭頸部外科医)と内科志向派(内耳関連疾患担当医など)と,そのハイブリッド型(鼻疾患担当医など)の医師がおられると思う。悪い所(病変)をすぱっと切って治すのを潔しとする外科志向派は,頭頸部癌など腫瘍性病変に力を発揮し,なかなか治らないめまいや耳鳴を苦手とする一方で,鼻アレルギーに対して不必要な手術をしてしまったりする。筆者に腹診を指導してくれた千福貞博先生は,消化器外科医出身だが,切れ味の良い効き方をみせてくれる漢方に魅了されるのは内科志向派ではなく,外科志向派だという。内科志向派の先生は,いつまでも執拗に学習を繰り返し,古典を読み尽くすまで実践しないなどと躊躇するのに対し,外科志向派は効くとわかれば,即実践に活かすというのだ。2000年の歴史を有する漢方を隅から隅まで勉強していたのでは,個人の寿命が尽きてしまう。かといって,医学部生時代の国家試験対策はもとより,医師になってからの専門医試験対策でも勉強しなかった漢方薬を使いこなすことなどできるのであろうか? 鼓膜切開術もままならず,眼振の観察にも自信がないままに市中病院へアルバイトに行ったことのある先生方が,真顔で質問してくるので笑ってしまう。われわれはすでに習うより慣れろを実践していたはずである。臆せずにまずは使ってみて欲しい。

 漢方に少し精通すれば,鼻アレルギーに対して行う手術のほとんどは不要になるし,口蓋扁桃摘出術もしなくてすむようになる。究極のハイブリッド型・耳鼻咽喉科医になりたければ,漢方を知らなくてはならない。話がそれたので,もとに戻そう。

目でみる耳鼻咽喉科

声門下狭窄を認めた限局型Wegener肉芽腫症の1例

著者: 山内彰人 ,   林崇弘 ,   上羽瑠美 ,   二藤隆春 ,   山岨達也 ,   神田浩子 ,   萩野昇 ,   鈴木毅

ページ範囲:P.255 - P.259

Ⅰ.はじめに

 Wegener肉芽腫症は,上気道および下気道の肉芽腫性病変,血管炎および糸球体腎炎を3主徴とする症候群であり,上気道,肺,腎の3病変が揃う全身型と,揃わない不全型あるいは限局型に分類される。耳鼻咽喉科領域では鼻副鼻腔に病変が生じることが多く,喉頭や気管に生じることは比較的稀である1)。筆者らは,経過中に声門下狭窄を認めて気管切開術を必要としたWegener肉芽腫症の1例を経験したので,文献的考察を交えて報告する。

書評

今日の救急治療指針 第2版

著者: 平出敦

ページ範囲:P.288 - P.288

多様な救急ニーズに対応するために,各専門家がエッセンスを込めて執筆

 本書は,初版から15年の間使われてきた『今日の救急治療指針』の改訂版である。救急医学は,少子高齢化,産業構造の変化,交通安全社会の構築といった社会の構造変化の大きなうねりの中で,急速に変貌しつつある。

 かつて救急医学が,重症救急患者や外因性救急を主な対象として組み立てられていた時代から,内因性の疾病を中心に多様な救急医療ニーズの増大に対応できる効率の高い組み立てが注目されるようになってきた。したがって,こうした多様な領域で,エビデンスに基づいた系統的な診療モデルに基づき,どんな医師でも確実な初期治療ができることが求められるようになってきた。

原著

DICを合併したEBウイルス関連血球貪食症候群の1例

著者: 野山和廉 ,   橘智靖 ,   多田寛 ,   平井美紗都 ,   三木健太郎 ,   銅前崇平

ページ範囲:P.299 - P.303

Ⅰ.はじめに

 血球貪食症候群(hemophagocytic sndrome:HPS)は,骨髄やリンパ網内系において組織球の増殖と血球貪食を呈する病態である。成人症例では大部分が2次性で,感染症,悪性リンパ腫および膠原病などさまざまな基礎疾患が原因となり得る。なかでもウイルス感染症の頻度が高く,Epstein-Barr virus(EBV)によるものが最多といわれている。EBV関連血球貪食症候群(Epstein-Barr virus-associated hemophagocytic syndrome:EBV-AHS)では,EBVがT細胞に感染し過剰に活性化されたT細胞とマクロファージによる高サイトカイン血症(cytokaine strom)が持続し,多臓器不全から死亡に至る例も少なくない。特に成人におけるEBV-AHSは重症化例が多いと報告されている1,2)。しかし,小児に比べ頻度が低く認知度は十分とはいえない。今回われわれは,EBV-AHSを発症し,劇症化した1例を経験したので報告する。

突発性難聴74例の入院治療の検討

著者: 平賀幸弘

ページ範囲:P.305 - P.310

Ⅰ.はじめに

 突発性難聴(idiopathic sudden sensorineural hearing loss:ISSNHL)は,1944年にDe Kleyn1)が21症例をはじめて報告した疾病である。その病因は感染説,血管障害説,代謝障害説などが挙げられてきているが,いまだに解明されていない2)。したがって,エビデンスのある有効な治療は唯一副腎皮質ステロイドの投与のみであり3),十分な治療法が確立されたとはいえない。よって,治療法は施設間あるいは個々の医師によってまちまちであるのが現状である。

 今回の検討の対象は,同一の主治医がほぼ同じ治療方針で治療を続けてきた74症例であるが,ここから得られた結果をふまえて,突発性難聴の病態を解析し,より的確な治療を行うことが本論文の目的である。

腐食性咽頭喉頭食道炎の喉頭温存頸部食道再建例

著者: 永井洋輔 ,   百島尚樹 ,   浅野勝士 ,   小池啓司 ,   佐野晋司 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.311 - P.314

Ⅰ.はじめに

 酸・アルカリなどの腐食性薬物による咽喉頭,食道外傷は耳鼻咽喉科医にとって頻繁に遭遇する疾患ではない。また酸・アルカリによる咽喉頭や食道の高度な瘢痕性狭窄により生じた嚥下障害は保存的治療で軽快しない場合,治療に難渋することが多い。これまで症例数が少ないこともあり,咽喉頭の高度な腐食を認め喉頭を保存した食道再建は非常に稀であり,われわれが渉猟しえた1981年以降に報告された1)1例のみである。

 今回アルカリ腐食による咽頭喉頭,食道の狭窄に対して喉頭を温存した食道再建を行った症例を経験したため報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.250 - P.250

〔お知らせ〕第22回日本耳科学会総会・学術講演会演題申し込みについて

ページ範囲:P.298 - P.298

会  期:2012年10月4日(木),5日(金),6日(土)

会  場:名古屋国際会議場(名古屋市熱田区熱田西町1番1号)

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.315 - P.315

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.316 - P.316

投稿規定

ページ範囲:P.318 - P.318

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.319 - P.319

あとがき

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.320 - P.320

 昨年の3月11日以降,各委員の先生方の本誌あとがきには震災の話が幾度も取り上げられています。本号あとがきを書いております2日前,前夜,そして本日と連日のように地震を感じています。私自身も原発も含め落ち着かない日をおくっています。首都直下型が襲来したときには,東北復興の支援どころか被害は日本全体に及びます。不安を煽るのも問題ですが,少しでも心の準備をしておきたいところです。

 4月号は特集として「最新の漢方診療」ということで,漢方診療の総論に始まり,耳鼻咽喉科の疾患のうち,難聴・耳鳴,めまい,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎,咽喉頭異常感症,上気道炎・インフルエンザについて漢方の有用性,使用法について概説していただきました。日常の耳鼻咽喉科診療で,比較的手軽に使用している漢方ですが,やはり個々の患者への処方の選択や,副作用については,クリアカットに判断できないことも多々あります。本特集で少しでも多くの先生がスッキリと理解されることを期待しています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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