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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻5号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 最新の診療NAVI―日常診療必携

序文

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.5 - P.5

 耳鼻咽喉科・頭頸部領域の診断と治療に関する情報・資料はこれまで学術誌,教科書をはじめとした多くの書籍が出版されており,それぞれが耳鼻咽喉科医の日常診療に役立ってきました。

 このたび,「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」増刊号として「最新の診療NAVI―日常診療必携」を企画し,その道のスペシャリストの先生方に診療のNavigation(NAVI)という方向性でまとめていただきました。内容はこどもの診療NAVIにはじまり,難聴,めまい,音声・嚥下・睡眠,麻痺と痛み,外傷,炎症・感染症,囊胞性疾患,腫瘍性疾患,アレルギー性疾患,好酸球関連疾患,特殊疾患の診療NAVIという大項目のもと,さらに興味ある疾患のNAVIが列記されています。また参考文献も必須のものを選択しています。

Ⅰ.こどもの診療NAVI

1.こどもの中耳炎

著者: 上出洋介

ページ範囲:P.7 - P.12

Ⅰ 中耳炎の疾患分類

 小児中耳炎は急性の炎症所見を呈する急性中耳炎と貯留液はあるが炎症がみられない滲出性中耳炎に大別できる。しかし乳幼児では必ずしも境界が明瞭であるとはいえない。

 慢性中耳炎は慢性化膿性あるいは慢性穿孔性中耳炎のことで,鼓膜に穿孔のみられる中耳の慢性炎症である。反復性または持続性の耳漏があり,難聴を認める。繰り返す急性中耳炎や鼓膜切開,鼓膜チューブ留置後の後遺症であることが多い。

2.こどものめまい

著者: 室伏利久

ページ範囲:P.13 - P.17

Ⅰ 疾患の概説

 「めまい」という用語は,広義に用いられる場合も,狭義に用いられる場合もあるが,一般的には,「安静時あるいは運動中に,自分自身の体と周囲の空間との相互関係・位置関係が乱れていると感じ,不快感を伴ったときに生じる症状」と定義できる。人体の平衡は,視覚,内耳(前庭迷路)由来の平衡覚,固有知覚などの情報に基づき,中枢神経系において平衡感を認知し,また,姿勢の制御を行うことによって維持されている(図1)。したがって,これらの部位の不具合でめまいが生じることになるが,めまいを広義にとらえた場合,それ以外のシステム,具体的には,循環器系や心理的な問題によるものも考慮する必要がある。

 一般的に,めまいを主訴として耳鼻咽喉科を受診する症例は,高年齢層に多く,小児は少数である。小児ではめまい症例自体が高齢者と比較して少ないことと,小児の場合は,めまいが主訴であっても小児科を受診することが少なくないものと考えられる。

3.こどもの難聴

著者: 福島邦博

ページ範囲:P.18 - P.21

Ⅰ 疾患についての概説

 新生児期の難聴は1,000人に1人の頻度で発生する。発見が遅れることによって言語発達に影響が出るため,その検出・診断・療育を迅速に行う必要がある。難聴による言語発達への影響を最小限にとどめる療育には,音声言語や,視覚的手段を用いた方法がある。音声言語の獲得を目標とする場合,補聴器による効果が限定的であれば人工内耳の装用についても検討する。

4.こどものアレルギー性鼻炎

著者: 岡野光博

ページ範囲:P.23 - P.28

Ⅰ 疾患についての概説

 アレルギー性鼻炎は,発作性反復性のくしゃみ,水性鼻漏,鼻閉を3主徴とするⅠ型アレルギー疾患であり,この点では小児も成人も同様である。有病率の増加が問題となっており,特に小児スギ花粉症で著しい。耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした全国疫学調査では,1998年でのスギ花粉症の有病率は0~4歳で1.7%,5~9歳で7.2%,10~19歳で16.7%であったが,2008年では0~4歳で1.1%,5~9歳で13.7%,10~19歳で31.1%となった。5~9歳では倍増し,10歳代では成人と同等の有病率を示す。

 アレルギー性鼻炎では吸入アレルゲンに対する感作が必須である。遺伝的素因および環境要因の両者が寄与する1)。抗原感作率も急増している。アレルギー児においては3歳以上で半数以上がスギおよびダニへの感作を示し,非アレルギー児においても思春期には50%前後の感作がみられる2)

5.こどもの扁桃疾患

著者: 泰地秀信

ページ範囲:P.29 - P.33

Ⅰ 疾患の概説

 こどもの扁桃疾患として,アデノイド・扁桃肥大(睡眠時無呼吸),急性扁桃炎,反復性扁桃炎,扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍,PFAPA症候群,扁桃腫瘍について述べる。睡眠時無呼吸症候群や扁桃周囲膿瘍は小児では成人と治療方針が大きく異なることに注意が必要である。

Ⅱ.難聴診療NAVI

1.聴神経腫瘍

著者: 村上信五 ,   高橋真理子

ページ範囲:P.35 - P.39

Ⅰ 疾患の概説

 聴神経腫瘍は第Ⅷ脳神経に発生する良性の神経鞘腫で,発症率は人口5~10万人当たり1人と,比較的まれな疾患である。大部分が内耳道内の前庭神経から発生し,病理組織的には紡錘状細胞が観兵様配列(palisading)を呈するAntony A型と粗な網状構造を呈すAntony B型,および両者の混在型がある。一側性の難聴と耳鳴り,めまいで発症することが多く,腫瘍の増大とともに近隣する脳神経を圧排し,顔面神経麻痺や三叉神経麻痺が発現する。さらに腫瘍が増大すると脳幹圧迫症状や小脳失調を呈し,最後には中脳水道を閉塞して水頭症から死に至る疾患である。一方,両側性に発症する聴神経腫瘍も存在し,神経線維腫2型(Neurofibromatosis Type 2:NF 2)といわれている。一側性の聴神経腫瘍と異なり遺伝的素因が強く,第22染色体長腕(22q11.21-q13.1)に原因遺伝子を有し,聴神経以外の脳神経や脊髄に神経線維腫が多発することがある。

2.急性感音難聴

著者: 佐野肇

ページ範囲:P.40 - P.44

Ⅰ 概説

 急性の感音難聴をきたす疾患としては表1に示したように多くの疾患が挙げられる。原因および病態ともに不明なものから原因,病態が明らかなもの,内耳性難聴あるいは後迷路性難聴,片側性または両側性,随伴症状を伴うものとそうでないものなど,多種多様でありその診断を明確に下すことは容易ではない場合も多い。以下にこれらの疾患を鑑別して診断し,治療を行っていくうえでの道筋について説明していくことにする。

3.心因性難聴

著者: 工藤典代

ページ範囲:P.45 - P.49

Ⅰ 心因性難聴とは

1.定義

 心因性難聴は純音聴力検査では「難聴という結果が得られているにもかかわらず,聴器や聴覚路には異常がない」か,あるいは「聴器や聴覚路には異常があるが,その異常から説明できる難聴のレベルよりも,高度の難聴を示す場合」である。定義としては表1のように考えられており,難聴の症状がある場合もない場合もあるが,発症の背景には心理的要因がある,とされている。

4.薬物による聴覚障害

著者: 中川尚志

ページ範囲:P.50 - P.54

Ⅰ 薬物による聴覚障害について1,2)

 薬物による内耳障害はほとんどの場合,望ましくない副作用である。薬物による内耳毒性には可逆性のものと非可逆性のものがある。また,複数の薬剤の組み合わせや投与を受ける個体による感受性の差,腎障害など全身状態,難聴の有無においても薬物による内耳障害作用が増強することもある。単独作用でなく,相互作用としての障害も認識しておくべきであろう。内耳毒性をもつ薬剤では蝸牛障害が主なもの,前庭に主に症状が出るものなど障害部位の特異性がある。また全身投与の場合と局所投与の場合でも異なる。内耳障害を有する薬剤の作用機序の解析は内耳の基礎研究として,動物実験では知識の蓄積がある。しかしながら,人への投与では副作用であるために,統計になりにくく,どのくらいの頻度や濃度で発症するのか,具体的数値を挙げることは難しい。

 局所投与の場合,薬剤は正円窓膜を透過して,内耳リンパに侵入する。このため,薬剤は正円窓に近い,高音域の受容を担当している基底部が先に障害される。障害が高度になると中音域,低音域に難聴が波及する。また全身投与においても初期においては高音障害型の聴力像を呈する。全身投与では両側対称性であるが,局所投与の場合は左右差が生じる。

5.遺伝性難聴

著者: 野口佳裕

ページ範囲:P.55 - P.59

Ⅰ 遺伝性難聴について

 先天性難聴は出生数1,000人に1人の割合で生じる1)。先天性難聴の50%以上が遺伝性と考えられ,残りは先天性風疹症候群,サイトメガロウイルス感染など環境要因が関与する。遺伝性難聴は症候群性と非症候群性に分類されるが,非症候群性遺伝性難聴の割合は70%と高い(図1)。非症候群性遺伝性難聴の中で常染色体優性遺伝形式のものはDFNA,常染色体劣性遺伝形式のものはDFNB,X連鎖性のものはDFNXと略され,それぞれ報告順に番号が付けられている。さらに,ミトコンドリア遺伝性のものなどが存在する(The Hereditary Hearing Loss Homepage:http://hereditaryhearingloss.org/)。近年では次世代シークエンサーを用いた解析も行われるようになり,50以上の非症候群性遺伝性難聴の原因遺伝子(難聴遺伝子)が同定されている2)

6.老人性難聴

著者: 柿木章伸

ページ範囲:P.61 - P.64

Ⅰ はじめに

 老人性難聴とは,加齢変化に伴い徐々に進行する両側性感音難聴である。特徴的な症状としては,主に高音域から始まる最小可聴閾値の上昇,音情報の中枢処理の遅延,音源定位の悪化などが挙げられる。発症頻度は,65歳以上で25~40%,75歳以上で40~66%,85歳以上で80%以上と推定される。

 初発症状としては,騒音下での聴取能の低下を親近者に指摘されることが多い。難聴が進行するにしたがい,子音の弁別が困難となり聞き返しが多くなってくる。さらに進行すると,母音の弁別も困難となりコミュニケーションが著しく障害される。最小可聴閾値の上昇は高齢になるにつれ加速していく。難聴の発現時期や程度には個人差が大きく,同年代では男性に比して女性のほうが難聴は軽度であることが多い。

7.耳硬化症

著者: 植田広海 ,   内田育恵 ,   岸本真由子

ページ範囲:P.65 - P.69

Ⅰ 疾患の概説

 耳硬化症は,側頭骨内の骨迷路の骨の異常な骨海綿状変性とそれに伴う骨新生(リモデリング)によって発生する病態である。通常骨迷路は生涯にわたってほとんど骨代謝は生じないが,何らかの原因によって骨吸収が生じその修復機転として骨新生が起こる。原因は不明であるが環境因子と遺伝因子両方が関与した多因子疾患であるとされる1)。その好発部位が卵円窓窩であるためアブミ骨固着を生じて伝音難聴を呈する。また,蝸牛骨包に生じれば(蝸牛性耳硬化症)内耳障害を生じ混合難聴を呈する。

Ⅲ.めまい診療NAVI

1.メニエール病

著者: 北原糺

ページ範囲:P.71 - P.76

Ⅰ 疾患の概説

 内耳を満たす内リンパ液は,主として血管条で産生され内リンパ囊で吸収される。メニエール病の原因はいまだ不明であるが,何らかの原因で内リンパ液が生産過剰になるか吸収不良になることで生じる内リンパ水腫を病態とする疾患である1,2)(図1)。この内リンパ水腫の破綻により前庭系,蝸牛系の有毛細胞が障害を受け,回転性めまい,耳鳴り,難聴を引き起こす3)。発作直後には半規管刺激による患側向き水平回旋混合性自発眼振,寛解期には半規管麻痺による健側向き水平回旋混合性自発眼振を生じる。発症初期の難聴は低音障害型感音難聴で可逆性であるが,罹病期間の長期化により次第に不可逆的な高度感音難聴へと進行する。

2.良性発作性頭位めまい症

著者: 中山明峰 ,   栗山真一

ページ範囲:P.77 - P.81

Ⅰ 歴史的背景

 良性発作性頭位めまい症(BPPV)はdf1921年Barany1)により初めての症例が報告され,1952年,Dix2)によって診断基準(表1:眼振の性質が潜伏期をもち,向地性で回旋性,一過性,反復性をもちながら疲労性を示す)となる報告がなされた。この病態は近年までクプラに耳石が付着したクプラ結石症(cupulolithiasis)3)として解釈された。つまり卵形囊などで脱落した耳石がすぐ横にある半規管クプラに付着するものだと考えられた(図1a)。しかしこの説ではDix2)が観察した症状と矛盾した点が生じる。こうした問題点を指摘しながら1979年に耳石の塊が半規管を通ってクプラの耳石膜と反対側に浮遊する半規管結石症説(canalithiasis)4)が出現し(図1b),この説はDixが報告した症状とより矛盾しない。この頃より半規管結石症説に基づいて考えられたEpley法5,6)が報告され,この治療法は世界的に支持された。Epley法の出現により,これまで認識されたBPPVは後半規管結石症であると確認された。しかしながら,BPPVの治療に対する研究がなされるにつれ,クプラ結石症,また,いろいろな半規管に病巣がある複雑型が報告されるようになった7)

 この章では,BPPVの複雑な病態を鑑別する方法および治療について述べる。

3.上半規管裂隙症候群

著者: 鈴木光也

ページ範囲:P.82 - P.86

Ⅰ 疾患(症候)についての概説

 上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome)は,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損が生じることによって,瘻孔症状,Tullio現象などさまざまな臨床症状をきたす比較的新しい疾患単位である。上半規管裂隙症候群の報告はそのほとんどが欧米からであり,わが国をはじめとしたアジア諸国では少ない。側頭骨病理標本による観察では,中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲の骨の菲薄化が1.4%に,骨の裂隙が0.5%に確認されている1)。上半規管裂隙症候群の発症には,弓状隆起を被っている骨の先天的菲薄化に続発して生じた天蓋骨の発達異常,外傷,脳脊髄圧や内耳圧の急激な変化,上錐体静脈洞の異常発達に伴った慢性的な圧迫など後天的要因が関係していると考えられている1~3)。上半規管裂隙症候群の瘻孔部分は,内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働くため,音刺激や圧刺激などの外的刺激によって外リンパ還流に変化が生じて前庭症状が誘発される。迷路瘻孔における代表的な前庭症状にはTullio現象と瘻孔症状がある。本症候群の瘻孔症状やTullio現象は上半規管の刺激によって生じるため特徴的な眼球偏倚がみられる。つまり時計回りまたは反時計回りの回旋成分を含んだ垂直性の眼球運動であり,上半規管が正に刺激された場合には上方へ,負に刺激された場合には下方への眼球の偏倚が誘発される。なおこの眼球偏倚は眼振の緩徐相に一致する。

4.外リンパ瘻・脳脊髄液減少症

著者: 池園哲郎 ,   戸田茂樹

ページ範囲:P.87 - P.93

Ⅰ はじめに

 外リンパ瘻と脳脊髄液減少症にはさまざまな共通点がある。表1のように症状は多彩であり1,2),診断基準はまだ確定しておらず,治療法はいずれも体液の漏出の停止と瘻孔閉鎖である。さらに頭部外傷や全身打撲が誘因になることも共通しており,両者が合併する可能性も示唆されている。しかしながら,筆者らは脳脊髄液減少症の精査目的で入院した症例で,前庭系の障害も疑われるケースを診療した経験があるが,いまのところ両者が合併した症例は経験していない。

Ⅳ.音声・嚥下・睡眠の診療NAVI

1.嗄声・音声障害

著者: 中村一博 ,   渡邊雄介

ページ範囲:P.95 - P.99

Ⅰ はじめに

 言語は人間に特有のコミュニケーションツールである。言語を用いて何かを伝達するには文字として記すか,音声として発するかが必要である。人間は音声言語・話しことばを用いた会話でコミュニケーションをとる。ゆえに音声障害はコミュニケーション障害といえる。

 本稿ではその音声障害の診断と治療を,なるべく簡潔に記述した。そのために割愛している事項も多いが,詳細については成書を参照されたい。

2.咽喉頭異常感

著者: 齋藤幹

ページ範囲:P.100 - P.103

Ⅰ 疾患についての概説

 喉の違和感を主訴に病院を受診する患者は多い。咽頭癌や甲状腺癌など悪性腫瘍に注意を払う必要があるのはもちろんであるが,一方で器質的な病変を認めず,診断に苦慮することも少なくない。咽喉頭異常感は「患者が咽喉頭に異常を訴えるが,通常の耳鼻咽喉科的視診によっては,訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないもの」と定義されており1),除外診断名であるため詳細な問診ののち原因となりうる疾患を想定し,局所的,全身的な検査を行う必要がある。

3.嚥下障害

著者: 兵頭政光 ,   西窪加緒里

ページ範囲:P.105 - P.108

Ⅰ 疾患の概説

 嚥下障害は,口腔から胃までの食物の円滑な搬送が障害されることによって起こる症状を総称し,その原因は脳血管障害や神経・筋疾患をはじめとして非常に多岐にわたる。特に重要な症状は誤嚥であり,そのほか嚥下困難,咽頭残留感,嚥下痛,鼻咽腔逆流などがある。嚥下運動は口腔準備期,口腔期,咽頭期,食道期に分けられるが,このうち最も複雑で臨床的に問題となるのは,反射運動により食物を咽頭から食道に搬送する咽頭期である。

4.いびき,睡眠呼吸障害

著者: 北村拓朗 ,   宮崎総一郎

ページ範囲:P.111 - P.117

Ⅰ 疾患の概説

 睡眠障害については2005年の国際分類(ICSD-2)1)で107の診断名が挙げられているが,睡眠センターを受診する睡眠障害初診患者のうち,閉塞性睡眠時無呼吸症候群を中心とした睡眠関連呼吸障害群がその過半数を占める。睡眠呼吸障害は生活習慣病の発症要因となり,集中力・記憶力・学習能力や感情のコントロール,作業能率などを障害し,事故などの原因となる。さらに近年の疫学研究により,高血圧,不整脈,動脈硬化などを高頻度に合併することが明らかとなっている。

 国際分類では,睡眠中の呼吸障害は「睡眠関連呼吸障害」と分類され,さらに中枢性睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea syndrome:CSAS),閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS),睡眠関連低換気/低酸素血症症候群,二次性睡眠関連低換気/低酸素血症,そのほかの睡眠関連呼吸障害に分類されている(表1)。ここでは,睡眠時無呼吸症候群の中でも最も頻度が高いOSASを中心に解説する。なお睡眠呼吸障害や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)はOSASとほぼ同義と用いられることが多いが,臨床症状の有無を考慮しないときを睡眠呼吸障害(Sleep-disordered Breathing:SDB)とし,臨床症状を伴った時にOSAS(あるいはSAS)と定義され用いられている。

Ⅴ.麻痺と痛みの診療NAVI

1.顔面神経麻痺

著者: 能田淳平 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.119 - P.122

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科医が診療する顔面神経麻痺は大半を末しょう性が占める。末しょう性顔面神経麻痺のうち,60~70%を占めるのがBell麻痺であり,その多くは単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の再活性化により発症する。次いで水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により,耳帯状疱疹,末しょう性顔面神経麻痺,第8脳神経症状を呈するRamsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群)が10~15%を占める。その他,中耳炎,顔面神経鞘腫や耳下腺癌などの腫瘍性病変,側頭骨骨折や顔面の外傷などにより末しょう性顔面神経麻痺が発症する。主な末しょう性顔面神経麻痺の原因を表1に示す。

 顔面神経麻痺の原因として,中耳炎や腫瘍病変などの存在を見逃してはならないが,高頻度なBell麻痺とHunt症候群の2疾患に対する診断と治療を中心に,本稿では解説を行う。

2.味覚障害

著者: 池田稔

ページ範囲:P.123 - P.127

Ⅰ 疾患の概説

 味覚障害は加齢に伴い顕著に増加する疾患で,受診患者は高齢者が多い。性差は2:3で女性が多いが,これは軽症であっても受診する例が男性に比べ女性に多いためといわれている。

 味覚異常の症状にはいくつかあり,何も食べていないのに口の中で苦味や塩味がするという自発性異常味覚や,何を食べても苦いとかまずいなどという異味症や悪味症などがある。しかし最も多くみられる症状は,味がわからないという味覚低下や味覚脱失である。ここでは味覚障害として味覚低下や味覚脱失について述べる。

3.嗅覚障害

著者: 都築建三 ,   阪上雅史

ページ範囲:P.129 - P.133

Ⅰ 疾患の概説

 五感の一つである嗅覚は,呼吸機能とともに重要な鼻の機能の一つである。有害物(腐敗・ガス・煙など)を察知する生命維持に加え,ヒトではQOLの向上に役立っている。嗅覚の伝導路は,鼻孔→鼻腔→嗅粘膜(嗅細胞:受容)→一次中枢(嗅球:仕分け作業)→二次中枢(大脳辺縁系の梨状皮質・扁桃核・嗅結節・海馬など:認識・好み・記憶)→三次中枢(視床背内側核)→高次中枢(嗅覚皮質・眼窩前頭野:統合)となる1)。いずれの部位でも嗅覚障害をきたしうる。嗅覚障害の部位と主な原因を以下に示す。

4.顎関節痛

著者: 佐藤公則

ページ範囲:P.134 - P.138

Ⅰ 疾患の概説

 顎関節痛とは文字通り顎関節の痛みであるが,実際の臨床では,顎関節疾患による顎関節痛以外に,顎関節疾患以外の疾患による顎関節部の痛みあるいは顎関節周囲の痛みも存在する(図1)。また患者が訴える疼痛の部位が,顎関節の痛みなのか,顎関節周囲の痛みなのかが明らかでない場合もある。

 顎関節痛をきたす顎関節症の診断基準1)(表1)では,顎関節の疼痛のみならず咀嚼筋などの疼痛,いわゆる顎関節周囲の疼痛も主要症候として挙げられている。

5.口腔・咽頭の痛み

著者: 八木正夫 ,   友田幸一

ページ範囲:P.139 - P.149

Ⅰ はじめに

 耳鼻咽喉科診療において口腔・咽頭の痛みは頻繁に遭遇する訴えである。口腔・咽頭の痛みを呈する疾病の大半は,いわゆるself-limitedであるが,早期に診断することで病悩期間を短縮できる可能性があり,また合併症を防ぐことになる。視触診にて診断可能なものもあるが,病変のみからは鑑別困難な疾病もあり,問診や全身症状の有無が鑑別の鍵になる。また明確な器質的所見が乏しいにもかかわらず症状を訴える神経性ないしは心理的要因によるものもあれば,口腔や咽頭とは離れている病変(心臓,食道,頸部の管腔臓器以外など)によって生じる口腔・咽頭痛もある。

 他稿にこどもの診療および腫瘍性疾患についての記載があるため,本稿では,主に成人について腫瘍性病変を除いた口腔および咽頭の痛みを呈する疾病について概説する。なかには口腔・咽頭の両方に痛みを呈する疾病があるが,主に口腔の痛みを呈する疾病は前半に,後半に咽頭を主に冒す疾病について述べる。

6.顔面の痛み

著者: 増山敬祐

ページ範囲:P.151 - P.156

Ⅰ 症候についての概説

 顔面痛facial painを引き起こす疾患は多岐にわたる。頭痛と同様に多岐多様な症候であり,その診断および治療は複数の診療科が関与している。国際頭痛分類第2版(ICHD-Ⅱ)によると,頭痛(headache)とは“眼窩耳孔線より上部にある痛み“Pain located above the orbitomeatal line”であり,顔面痛(facial pain)とは眼窩耳孔線より下部,頸部より上部,耳介より前方の痛み“Pain below the orbitomeatal line, above the neck and anterior to the pinna”である,と定義されている1,2)。つまり,顔面痛とは眼から下の顔の痛みである。しかしながら,痛みの局在に関しては曖昧なところも多く,眼窩や耳介周囲の疼痛は頭痛と顔面痛の境界領域でもあり,その診断に当たっては頭痛の鑑別診断も含めて総合的に対応していく必要がある。

Ⅵ.外傷診療NAVI

1.鼓膜穿孔・耳小骨連鎖離断

著者: 三代康雄

ページ範囲:P.157 - P.161

Ⅰ はじめに

 外傷性鼓膜穿孔は日常診療でしばしば遭遇する外傷性疾患であり,その発生頻度は10万人当たり1.4~8.6人という報告がある1)。穿孔をきたす原因は,①直達性と,②介達性に大別される。直達性鼓膜穿孔は原因となる物体が直接鼓膜に作用して生じる穿孔で,綿棒や耳かきが原因であることが最も多く,ほかに無生異物(石,薬品など)や虫などの有生異物の侵入,花火や溶接の火花による熱傷などにより起こる。耳かき外傷はわが国では最も頻度が高いが,日本人特有のもので,耳掃除中に転倒したり,子どもや犬に飛びつかれたりして生じることが多い。一方,介達性鼓膜穿孔は物体が間接的に関係して起こる穿孔で,殴打(特に平手打ち),飛行機搭乗,潜水,頭部外傷などにより起こる。頭部外傷(特に側頭骨骨折)による鼓膜穿孔は顔面神経麻痺や耳小骨離断などを合併することが多い。また稀なものとして,耳鼻咽喉科診療のカテーテル通気が原因になることがある。特に鼓膜の菲薄化した症例では,通気に当たっては細心の注意が必要である。

 一方,外傷性耳小骨連鎖離断も原因として,直達性と介達性に分けられるが,直達性としては耳かき外傷,介達性としては頭部外傷が多い。頭部外傷では側頭骨骨折,顔面神経麻痺を合併することが多く,また受傷直後にはほとんどの症例が意識障害を伴っているため,耳鼻咽喉科を受診するのは,ある程度外傷が落ち着いて難聴を主訴に受診することが多い。

2.側頭骨骨折

著者: 伊藤吏 ,   欠畑誠治

ページ範囲:P.163 - P.168

Ⅰ はじめに

 側頭骨骨折は交通外傷によるものが最も多く,その他,転落,暴行などが原因となる1,2)。側頭骨には聴器や前庭・三半規管,顔面神経が存在しており,この部位の骨折では耳出血,難聴・耳鳴り,めまい,顔面神経麻痺,髄液漏など多彩な症状をきたす。また,脳挫傷や脳出血など重篤な頭蓋内合併症を伴うことも多く,対応は慎重に行わなければならない。

 側頭骨骨折は古典的には,錐体骨の長軸方向に対して骨折線が平行な縦骨折(longitudinal fracture)と垂直な横骨折(transverse fracture),両者を認める混合骨折(complex fracture)に分類され(図1),80~90%を縦骨折が占める。

1.縦骨折

 縦骨折は通常,側頭部から頭頂部に外力が及んで生じる。骨折線は側頭骨鱗部から外耳道後上方,鼓室天蓋を経て内耳前方を通り,破裂孔に至る。骨折線は迷路骨包を迂回することが多く,内耳障害は少ない。

2.横骨折

 横骨折は前頭部や後頭部,乳様突起後方など,前後方向からの強い衝撃を受けた際に生じる。骨折線は後頭蓋窩から錐体骨を横断して中頭蓋窩に至る。横骨折は側頭骨骨折の10~20%と発生頻度は低いが,骨折線が内耳を横切るため高度感音難聴や回転性めまいを生じ,しばしば重篤な頭蓋内合併症を伴い致死率も高い。

3.顎顔面・鼻骨骨折

著者: 寳地信介 ,   鈴木秀明 ,   橋田光一 ,   池嵜祥司 ,   武永芙美子 ,   大久保淳一

ページ範囲:P.169 - P.174

Ⅰ 疾患(症候)の概説

 上顎骨は顔面中央部に位置し,周辺に眼窩,鼻・副鼻腔,口腔といった特殊な機能を有する臓器の骨組みを維持している。解剖学的な特徴から上顎骨単独の骨折は少なく,多くの場合周辺の骨と複合して骨折する場合が多い(図1)。耳鼻咽喉科で扱った顔面骨骨折の治療統計では,上顎骨骨折は鼻骨骨折に次いで多い。上顎骨骨折はLe Fort型骨折Ⅰ~Ⅲ型とsagittal fracture(口蓋の矢状骨折)の4つの基本型に大別される(表1)。Le Fort型骨折では,骨折の位置が低いほど骨折線が単純で,位置が高いほど粉砕を伴いやすい傾向がある。可動性はⅠ型ほど大きく(floating maxilla),より上方のⅡ型,Ⅲ型になるほど少なくなる。骨折の状態により,顔面全体の高度な腫脹,鼻出血,咬合異常,中顔面の変形(咬合不全が原因となるlong face,顔面中央部が陥凹するdish face,時に短縮)など多彩な症状を呈する(表1)。診察時は,受傷前の顔写真があると非常に有用である。また顔面を触診し,圧痛の有無や骨格の段差,異常な可動部位の有無,知覚障害の有無をチェックすることでより正確な部位診断ができる1)

 下顎骨は顔面骨の中でも外力を受けやすい位置にあり,中下顔面の強打で下顎骨折を生じる。一般に青年男子に多いが,高齢者では歯牙の脱臼や骨粗鬆症があるため,軽微な打撲でも下顎骨体部骨折や顎関節突起骨折をきたすことがある。下顎骨折は関節突起部,オトガイ部,体部の順に頻度が高く,下顎枝や筋突起に骨折が生じることは比較的少ない。咬筋粗面前縁より前方の骨折では開口筋群の作用で前上方へ転移しやすく,これにより,咬合・開口障害,開咬,歯列弓の変形が生じ,圧痛,軋轢音,動揺性疼痛,歯牙の損傷,下顎部顔面の変形,下顎神経領域の神経障害などが起こりうる2)

4.眼窩吹き抜け骨折

著者: 春名眞一

ページ範囲:P.175 - P.178

Ⅰ はじめに

 鈍的な外力が眼窩部に加わることによって,眼窩内圧が上昇し眼窩壁骨折を引き起こす。同時に眼窩内容物が副鼻腔内に逸脱し,眼球運動を制限することで複視,眼痛などの眼症状を呈する。急性疾患であり早期の診断および治療を基本とするが,骨折の状況および眼症状の程度および小児と成人との臨床的差異があり,治療方針の異なることに注意が必要である。

Ⅶ.炎症・感染症診療NAVI

1.中耳炎

著者: 小島博己

ページ範囲:P.179 - P.184

Ⅰ 疾患の概説

 中耳炎は急性中耳炎,慢性中耳炎,滲出性中耳炎の3つに分類される。急性中耳炎および滲出性中耳炎は小児に発症することがほとんどであるため,他稿(こどもの中耳炎)に譲る。

 慢性中耳炎は急性中耳炎に続発して慢性化したと考えられる単純穿孔性中耳炎(一般的に慢性中耳炎はこれを指す)と,小児期の反復する中耳炎が一因と考えられている真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎に分けられる。慢性中耳炎(単純穿孔性中耳炎)は最近では抗菌薬などの発達によりまれになったが,滲出性中耳炎の治療目的に挿入した換気チューブの抜去,あるいは脱落後に残存した穿孔を認める症例は増加している。

2.鼻副鼻腔炎

著者: 荻野枝里子 ,   中川隆之

ページ範囲:P.185 - P.190

Ⅰ 疾患の概説

 鼻副鼻腔炎は,耳鼻咽喉科領域で最も頻度の高い炎症性疾患である。原因には,ウイルスや細菌による感染性の炎症を主体とするものとアレルギー性の炎症を主体とするものに大別されるが,両者が混在するものも少なくない。鼻副鼻腔炎については,2007年にヨーロッパ鼻科学会による診断治療のガイドライン(EPOS),European Position Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps 20071)が呈示され,2010年には日本鼻科学会より急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2)が呈示されている。後者から引用すると,「急性に発症し,発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で,鼻閉,鼻漏,後鼻漏,咳嗽といった呼吸器症状を呈し,頭痛,頰部痛,顔面圧迫感などを伴う疾患」を急性鼻副鼻腔炎と定義している。慢性鼻副鼻腔炎は,一般に上記の症状が3か月以上持続している状態とされている3)。EPOSでは,鼻副鼻腔炎を①急性化膿性鼻副鼻腔炎,②鼻茸を伴わない慢性鼻副鼻腔炎,③鼻茸を伴う慢性鼻副鼻腔炎に大別し,それぞれについて推奨しえる診断,治療法をまとめている。詳細については,それぞれのガイドラインを参照いただくこととし,本稿では,急性,慢性に分類し,小児,成人について,それぞれのガイドラインのポイントを抽出した。最初に,ガイドラインはあくまでガイドラインであり,現在得られているエビデンスに基づいてまとめられたものであり,エビデンスが得られていない治療法を否定するものではなく,現時点で明確なエビデンスが得られていないにすぎないことに留意していただきたい。なお,急性鼻副鼻腔炎については,日本鼻科学会の急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインを基本とし,EPOSとの違いを付記する形とした。

3.唾液腺炎

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.191 - P.194

Ⅰ 疾患についての概説

 唾液腺の感染症はさまざまな細菌やウイルス感染によって引き起こされるが,末しょう導管の先天異常,唾石の存在,全身疾患や免疫力低下,妊娠,ワルチン腫瘍などを背景に発症するものも存在する。主な症状は唾液腺の腫脹,疼痛,皮膚発赤と発熱などがみられるが,一方炎症症状を欠き慢性経過を呈する例もみられる。多くは耳下腺,顎下腺など大唾液腺の炎症疾患が臨床上の問題となる。大唾液腺では腫脹を認めるものの必ずしも感染によらない炎症性疾患があり,それらの鑑別も重要である。小唾液腺の炎症の頻度は低く局所的病変と全身疾患の一部を反映することがあり,口内炎や口唇腺の炎症として発現する。感染性,非感染性唾液腺炎についてその病態の把握と鑑別が大切である。

4.扁桃炎病巣感染

著者: 関伸彦 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.195 - P.200

Ⅰ 疾患(症候)の概説

 扁桃病巣感染症とは,「扁桃に慢性炎症があって原病巣となり,それ自体はほとんど無症状であるか,時に痛みや違和感といった軽い症状を呈するにすぎないが,扁桃から離れた諸臓器に症状が現れる疾患」であり,扁桃摘出術(以下,扁摘と略す)の高い有効性から,掌蹠膿疱症,胸肋鎖骨過形成症,IgA腎症がその代表的疾患とされている。ヒポクラテスの時代から,ある臓器での感染が他部位に症状をもたらすことが知られており,20世紀初頭に病巣感染(focal infection)という概念が誕生した。近年,その病態が感染性炎症ではなく,自己免疫的機序であることが明らかになるにつれ,扁桃病巣疾患(tonsillar focal diseases)という呼称が用いられつつある。

5.深頸部膿瘍

著者: 黒野祐一

ページ範囲:P.201 - P.205

Ⅰ 疾患についての概説

1.深頸部膿瘍とは

 深頸部膿瘍は頸部間隙内に生じた膿瘍で,頸部リンパ節炎,蜂巣炎とともに深頸部感染症に含まれる。一般的には頸部リンパ節炎や表在の感染部位から頸部筋膜の間隙に感染が広がり蜂巣炎となり,組織の崩壊によって生じた空洞に膿が貯留して膿瘍が形成される1)。したがって,深頸部感染の初期に適切な抗菌薬を用いれば膿瘍化することなく治癒する。しかし,いったん膿瘍が形成されれば抗菌薬だけで治癒させるのは困難で,外科的治療が必要となる。蜂巣炎にとどまるか膿瘍へと進行するかは,解剖学的特徴や起炎菌の病原性,生体防御機構の強弱も関与する1)

6.結核

著者: 中田誠一 ,   鈴木賢二

ページ範囲:P.207 - P.211

Ⅰ はじめに

 結核とは,マイコバクテリウム属の細菌,主に結核菌Mycobacterium tuberculosisにより引き起こされる感染症であるが,いまだ日本でも大都市を中心に蔓延しており注意が必要である。この結核は肺のみならず全身の至るところでも発症する。耳鼻咽喉科領域も例外ではなく,中耳,鼻副鼻腔,咽喉頭,頸部リンパ節と多彩な部位に出現し,それらはしばしば,結核が疑われずに診断が遅れてしまうケースもある。今回は結核の一般的な診断・治療から耳鼻咽喉科における特殊な結核に至るまで概説してゆく。

7.インフルエンザ

著者: 林達哉

ページ範囲:P.212 - P.216

Ⅰ 疾患の概説

 インフルエンザは感冒様症状に高熱,強い倦怠感,筋肉痛,関節痛などの全身症状を伴い,毎年,世界中で流行する。非常に一般的な感染症であるが,通常の感冒より重症化しやすく,幼小児における急性脳症や高齢者における二次性細菌性肺炎などを合併すると死亡に至る例があることから,単なる感冒とは区別して対策を立てる必要がある。

 インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するRNAウイルスで,ウイルス粒子内の核蛋白複合体の抗原性の違いにより,A型,B型,C型の3種類に分類される。毎年流行を引き起こすのはA型とB型であり,ワクチンもA型とB型に対してのみ製造される。ウイルスは表面に赤血球凝集素(hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(neuraminidase:NA)という2種類の糖蛋白からなるスパイク状構造を有する。HAは気道粘膜細胞のレセプターと結合して,細胞内感染を成立させるうえで主要な役割を果たしており,ワクチン成分でもある。NAは宿主細胞内で増殖したウイルスが宿主細胞からウイルス粒子として遊離する際に酵素として作用する。抗インフルエンザ薬である各種ノイラミニダーゼ阻害薬はこの働きを阻害することにより,ウイルスの増殖を抑制する。A型インフルエンザのHAには16種類の亜型(H1~H16),NAには9種類の亜型(N1~N9)があり,その組合わせによりさまざまな動物(ヒト,トリ,ブタなど)に感染することのできる人獣共通感染症の性格を有する。

8.EBV感染症

著者: 高原幹

ページ範囲:P.217 - P.222

Ⅰ はじめに

 EBウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)の発見は,1964年にEpsteinら1)が電子顕微鏡にてバーキットリンパ腫の培養細胞内にヘルペスウイルスに似たウイルスを同定したことによる。彼らはその培養上清にてBリンパ球を培養するとB細胞が不死化することを発見し,EBVを癌ウイルスとして定義づけた2)。その後の研究により,バーキットリンパ腫,ホジキン病,上咽頭癌,鼻性NK/T細胞リンパ腫といった悪性腫瘍や血球貪食症候群,慢性活動性EBV感染症,自己免疫疾患などとのかかわりが明らかになってきている。本稿では,EBVの特徴と感染の診断,および耳鼻咽喉科領域のEBV関連疾患について概説する。

9.HPV感染症

著者: 齋藤康一郎 ,   矢部はる奈

ページ範囲:P.223 - P.226

Ⅰ HPV感染症―特に喉頭気管乳頭腫症について

 ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)は,2本鎖DNAウイルスで,その感染に際しては,種特異性が高い。HPVの遺伝子情報は,非構造蛋白質をコードする初期遺伝子群と,構造蛋白質をコードする後期遺伝子群および遺伝子をコードしていない発現調節領域から構成されている。

 HPVは皮膚・粘膜の表皮の小さな傷を通して表皮最下層の基底層に感染し,基底層とその上の有棘層に潜伏する。細胞分化とともにウイルスゲノムは複製され,顆粒層から角質層といった,表皮の上層にかけてウイルス粒子が形成される。この位置関係から,抗原性のあるウイルス粒子は血中に侵入せず,また基底膜下の抗原呈示細胞に曝露されないことから,免疫応答による排除を受けにくい。

10.HIV感染

著者: 松延毅

ページ範囲:P.227 - P.232

Ⅰ HIV感染症の現状と疫学

 世界全体でみると,2008年の新規Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス:HIV)感染者は270万人(成人230万人,15歳未満43万人)である。新規HIV感染率がいまだに高いことや抗レトロウイルス療法により長期間の生存が可能になったことから総HIV感染者数は増加し続けている。2008年末の世界のHIV感染者数は3,340万人(成人3,130万人,15歳未満210万人)と推計されている。アフリカには約70%が分布していると報告されている。近年は東ヨーロッパと中央アジア(中国など)で新規HIV感染率が高く,原因として注射器による薬物使用が指摘されている。これら薬物使用者はしばしば風俗業にも従事しており感染リスクを拡大している。

 わが国においてはアメリカなどに比べはるかに低い水準で推移してきているが,近年増加傾向が顕著になり厚生労働省のエイズ動向委員会報告によると,2011年3月27日現在わが国におけるHIV感染者数の累計は1万2866人,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者数の累計は5,900人である。ここ数年,HIV感染者は年間1,000人強,AIDS患者は年間400人強のペースで増え続けており,検査態勢の拡充など,感染状況の把握,拡大防止策がとられているところである。感染者の傾向として,現在では若年者の性的接触によるものが多数を占めるようになってきており,異性間の性的接触による感染も増加している1)。近年,医療の進歩によりHIVに感染しても長期間社会の一員として日常を営むことができるようになり,さらにさまざまな支援体制も整備されつつあるが,わが国ではいまだにAIDSを発症して医療機関を受診する例も多い。今後は日常診療の現場でも耳鼻咽喉科医がHIV感染症に遭遇する機会が増加すると予想される。2003年11月の感染症法改正で4類から5類感染症に変更され,発見から7日以内に所定の様式に従って届け出る必要がある。

Ⅷ.囊胞性疾患診療NAVI

1.先天性囊胞

著者: 加瀬康弘

ページ範囲:P.233 - P.237

Ⅰ 甲状舌管囊胞(正中頸囊胞)

 最も多い先天性頸部囊胞で,性差はなく,70%が30歳までに発見される1)。甲状腺は胎生3週頃の発生の過程で形成される甲状舌管に沿って舌根部より下降し,本来の下頸部正中の気管前面に到達する。その後甲状舌管は退縮消失し,舌根部には舌盲孔として,痕跡を残すのみとなる。何らかの異常により甲状舌管が残存した場合,囊胞化する。したがって本囊胞の存在しうる部位は例外を除き,舌根部の舌盲孔から甲状腺までの甲状舌管が存在していた頸部正中付近に限られる。また舌骨より下方レベルに生ずることが多い1)。なお甲状腺組織そのものが本来の部位に下降せずに甲状舌管の途中に残存すると異所性甲状腺となる。甲状舌管囊胞との鑑別が必要である。

2.副鼻腔囊胞

著者: 竹野幸夫 ,   久保田和法

ページ範囲:P.239 - P.243

Ⅰ 疾患の概説

 副鼻腔は粘膜上皮で覆われる複数の含気空洞より構成されており,それぞれの副鼻腔は固有鼻腔と生理的排泄路である自然口を通して交通している。この自然口が何らかの原因(炎症,外傷,手術など)で閉塞した場合,あるいは副鼻腔根本術後の治癒過程で生じる瘢痕組織の中に粘膜上皮が残存した場合,上皮粘膜組織から産生・分泌された粘液が物理的に閉鎖された副鼻腔や瘢痕内に貯留して副鼻腔囊胞が形成される1,2)。囊胞の形成過程は一般に非常に緩徐であり,初期にはほとんど症状はない。しかしながら長期間にわたる貯留液の存在により,囊胞内の圧力は徐々に高まり,物理的に周囲組織を圧迫する。これにより骨組織の吸収プロセスが進行し,骨の菲薄化や融解が生じてくる。このように副鼻腔囊胞の発生機序は共通したものがあるが,囊胞の発生部位と周囲組織との関係によって発現症状が異なるので注意が必要である。

 副鼻腔囊胞は,その成因から大きく原発性(特発性)と二次性(続発性)に分けられる。諸家の報告によると,原発性が15~16%,術後性が81~82%,外傷性が1~2%と,副鼻腔根本術を成因とする二次性(術後性)囊胞が頻度的に最も多い。また年齢的には50~60歳代に多いとされている3)。原発性(特発性)は前部篩骨洞や前頭洞に多く,上顎洞では比較的少ないとされている。特に前頭洞の排泄路である鼻前頭管は,他の副鼻腔の自然口に比べて長く狭小であるため,ひとたび副鼻腔炎などを契機とした病的変化が起こると物理的に通過障害をきたしやすい。このため前頭洞は副鼻腔各洞の中でも原発性囊胞が最も発生しやすいとされている(過去の文献では30~50%)4,5)

3.ガマ腫・リンパ管腫

著者: 深瀬滋

ページ範囲:P.244 - P.248

Ⅰ 疾患の概説

 ガマ腫は舌下腺からの唾液漏出に伴う上皮をもたない偽囊胞である。リンパ管腫はその名称からは良性腫瘍ととらえられがちであるが,現在ではその本態はリンパ系の奇形(lymphatic malformations)と考えられるようになってきた。囊胞状リンパ管腫(大囊胞性),海綿状リンパ管腫(小囊胞性),混合型に分類される。海綿状リンパ管腫は他の脈管奇形(血管腫など)を合併することも稀ではなく,基本的に先天性である。

 本稿では,頸部囊胞として顎下型ガマ腫との鑑別が重要である囊胞状リンパ管腫について主に記載し,加えて顎下部の囊胞の鑑別では避けて通れない類皮囊胞についても触れる。

Ⅸ.腫瘍性疾患診療NAVI

1.鼻副鼻腔腫瘍

著者: 本間明宏

ページ範囲:P.249 - P.253

Ⅰ 疾患(症候)の概説

 鼻腔および副鼻腔には,皮膚,粘膜,腺組織,軟部組織,骨,軟骨,神経/神経外胚葉組織,血液リンパ細胞,歯原性装置などに由来したさまざまな腫瘍が発生する1)。また,近傍にある脳,眼窩,上咽頭から発生した腫瘍が鼻副鼻腔に進展し発見される場合もある。

 鼻腔に発生する腫瘍は,ほぼ半数が良性であるが,副鼻腔では悪性腫瘍が多い。副鼻腔別の発生頻度をみると,上顎洞が圧倒的に多く,次いで篩骨洞が多い。蝶形骨洞,前頭洞に腫瘍が発生することも稀ではないが頻度は低い2)。悪性腫瘍では扁平上皮癌が多いが,それ以外にも悪性リンパ腫,悪性黒色腫,嗅神経芽細胞腫など,良性腫瘍では血管腫,乳頭腫など多彩で,病理診断に苦慮する場合もある。

2.唾液腺腫瘍

著者: 河田了

ページ範囲:P.254 - P.257

Ⅰ 疾患・症候

 唾液腺腫瘍には大唾液腺(耳下腺,顎下腺,舌下腺)由来のものと小唾液腺由来のものがあるが前者のほうが断然多い。そのなかでも頻度が高い耳下腺腫瘍について主に述べることにする。

 耳下腺良性腫瘍は病理組織学的に10種類に分類されているが,その90%程度が多形腺腫あるいはワルチン腫瘍である。多形腺腫は,悪性化することがあること(多形腺腫由来癌),緩徐に増大することから,一般に手術適応である。腫瘍は小さいほうが顔面神経温存にはより有利であるから,診断が確定した時点で手術を勧めている。一方ワルチン腫瘍は,穿刺吸引細胞診(FNA)などで診断が確定しているならば,特に高齢者に多い組織型でもあるから経過観察を選択してもよい。ワルチン腫瘍に対して手術を施行する利点としては,整容的な面と組織学的に確定できることである。一方,悪性腫瘍は絶対的手術適応である。ただ悪性腫瘍は,病理組織学的に23種類に細分類されており,それぞれの組織型で悪性度は著しく異なる。5年生存率でいえば,90%以上のものから20%以下のものまである。耳下腺癌の予後規定因子はステージと組織学的悪性度である1)。そのため術前診断がきわめて重要になる。しかし,悪性腫瘍に対するFNAの正診率は不良であり,画像診断,術中迅速診断(FSB)を活用する必要がある。特に低悪性腫瘍の診断は時に困難であり,安易に良性腫瘍と診断して,術後診断で悪性が判明することがある。耳下腺腫瘍の場合圧倒的に良性が多いが,FNAをはじめとした術前診断で多形腺腫かワルチン腫瘍と診断されない症例について,悪性を疑ってみる必要がある。

3.口腔癌

著者: 鬼塚哲郎

ページ範囲:P.259 - P.262

Ⅰ 疾患概説

 口腔癌の頻度は,舌癌が約60%を占め,その他が,歯肉癌,口腔底癌,頰粘膜癌,硬口蓋癌,口唇癌の順となっている。扁平上皮癌が90%以上を占める。舌癌は舌縁に好発し,歯や義歯による慢性刺激が原因となることが多い。内側に傾いた下顎臼歯による舌癌は20~30歳代の若年者にもみられる。下歯肉癌では比較的高齢者に多いが,義歯の接触による発癌がよくみられる。喫煙,飲酒に最も関連するものは口腔底癌であり男性が約80%を占める。また口腔内の粘膜白板や扁平苔癬が長期経過で発癌することもある。実際には,口腔癌の多くは口腔不衛生,歯周病,飲酒,喫煙,3.w歯・義歯の物理的刺激などの因子が絡み合って発癌に至っていると考えられる1)

4.上咽頭癌

著者: 遠藤一平 ,   吉崎智一

ページ範囲:P.263 - P.266

Ⅰ 疾患の概説

 顔面頭蓋の最深部でblind spotもしくはsilent areaと呼ばれる上咽頭に発生する癌は,頭頸部癌のうち数%を占める比較的稀な疾患である。しかし上咽頭癌はほかの頭頸部癌とは異なる病態を呈するため,その腫瘍特性を理解することが,診断・治療において重要である。民族的背景として中国南部,台湾,香港,シンガポールなどでは年間10万人当たり約40人と高罹患率であるが,わが国を含めほかの地域では年間10万人当たり約0.6人と低く人種差が著しい。また発癌成因にEpstein-Barrウイルス(EBV)の関連が強く,40~60歳代に多く発症する一方で,若年層にも発症者の頻度がほかの頭頸部癌より高い。上咽頭の構成粘膜は円柱上皮,扁平上皮が混在するユニークな部位であり,また両者の境界に移行上皮が存在し,特に分布が著明な後上壁,側壁のローゼンミューラー窩が癌の好発部位である。組織学的に低分化または未分化癌が多く,高転移性である反面,化学放射線療法に高感受性である。

5.中咽頭癌

著者: 菅澤正

ページ範囲:P.267 - P.271

Ⅰ 疾患の概説

 中咽頭癌は頭頸部癌の約10%を占めており,わが国では年間1,500~2,000例程度発症すると推定されている。扁平上皮癌が大部分を占めるが,小唾液腺由来の癌も少なからず認められる。飲酒と喫煙が誘因であり,50~60歳代の男性が多く下咽頭癌同様,重複癌の頻度が高い。喫煙率の低下など,生活習慣の変化で頭頸部癌は減少が予想されるが,中咽頭癌は世界的に増加している。その理由として,中咽頭癌患者とpapilloma virus感染の関連が注目を集めている。1980年代に子宮頸癌におけるpapilloma virusの関与が明らかになり,頭頸部領域では口腔癌においても関連が示唆されていた。2000年代に入り,中咽頭癌の,特に扁桃癌の50%にpapilloma virus genomeが確認され,子宮頸癌同様16型が大半を占めていた。予防可能な性感染症の側面があり,sexual partner数がリスクファクターとなっていることなどが報告された1)。中咽頭癌の感染率も近年80%近くに達するとの報告もある2)

 治療面ではvirus関連中咽頭癌は放射線,化学療法に対する感受性が高く,治療成績は良好であることが明らかになった。一方,喫煙者では生存率改善効果が減弱することも明らかになり,中咽頭癌は,papilloma virus感染,喫煙状態で,high risk,intermediate risk,low riskの3群に分類できることが提唱された3)。わが国においても中咽頭癌とpapilloma virus感染の共同研究が行われ,ほぼ半数の症例で感染していることが報告されている4)

6.下咽頭癌

著者: 下出祐造 ,   辻裕之

ページ範囲:P.273 - P.277

Ⅰ 概説

 下咽頭癌は頭頸部癌の約10%を占め,近年増加傾向を示している。解剖学的に梨状陥凹,後壁,輪状後部の3つの亜部位に分類され,梨状陥凹部発症が約半数と最も多く,病理組織学的にはほとんどが扁平上皮癌である。自覚症状が出にくいこと,頸部リンパ節転移を高率に認めることから,初診時の段階ですでにStage Ⅲ以上の進行状態である場合が80%と多い反面,近年上部消化管内視鏡検査機器の進歩により,偶然にごく早期の病変で発見される症例もみられる。また食道,胃など上部消化管領域を中心に約20%で同時性または異時性に重複癌を認める。

 好発年齢は60歳代で男女比は6~7:1で男性に多い。発癌の誘発因子は主に飲酒,喫煙歴である。なお輪状後部型に関しては鉄欠乏性貧血とプランマービンソン症候群を呈する女性に多いといわれる。

7.喉頭癌

著者: 中山明仁 ,   岡本牧人

ページ範囲:P.278 - P.281

Ⅰ 症候NAVI

 喉頭癌の3/4は声門癌,1/4は声門上癌に分類される。声門癌の声門下進展ではなく,声帯に病変のない純粋な声門下癌は稀である。

 声帯に発生する声門癌は早期から嗄声が出現し,小さい病変でも発見が容易である。声門癌の嗄声は声帯炎と異なり1か月以上持続し,声帯ポリープと異なり増悪傾向を示すことが特徴である。癌は病期が進行すると呼吸困難をきたす。

8.甲状腺腫瘍

著者: 三宅成智 ,   北野博也

ページ範囲:P.283 - P.288

Ⅰ 病態

 わが国で用いる甲状腺腫瘍の分類は,WHOの腫瘍組織分類をもとに,日本甲状腺外科学会が制定した甲状腺癌取扱い規約に準拠する。

 本稿では良性腫瘍については,遭遇する機会の多い濾胞腺腫および腺腫様甲状腺腫について述べる。濾胞腺腫とは,濾胞上皮由来の良性腫瘍で通常は単発性である。組織学的には線維性被膜により被包され,ほぼ均一な細胞が濾胞状増殖を示す。乳頭状増殖を示す場合,以前は乳頭腺腫と呼ばれていたが,現在はこの名称は用いられない。特殊型には,好酸性細胞型濾胞腺腫,明細胞型濾胞腺腫,異型腺腫がある。

Ⅹ.アレルギー性疾患診療NAVI

1.鼻アレルギー

著者: 大久保公裕

ページ範囲:P.289 - P.295

Ⅰ はじめに

 アレルギー性鼻炎(AR)は古典的アレルギー分類におけるI型アレルギーの代表的疾患である1)。現在,アレルギー疾患はARをはじめ,アトピー性皮膚炎,喘息でも顕著に増加している。ARは抗原特異的に生じる発作の症状と慢性的に経過する症状が入り混じる2)。症状は鼻の痒み,くしゃみ,水性鼻汁,鼻閉であるが,急性鼻炎(風邪症候群),慢性鼻炎,慢性副鼻腔炎などとの鑑別が必要である。

2.アレルギー性真菌性副鼻腔炎

著者: 野田謙二 ,   鈴木正志

ページ範囲:P.297 - P.301

Ⅰ 疾患の概説

 アレルギー性真菌性副鼻腔炎(allergic fungal sinusitis:AFS)は真菌に対するⅠ型・Ⅲ型アレルギーにより発症し,副鼻腔粘膜や鼻茸中に著明な好酸球浸潤をきたす再発率の高い難治性副鼻腔炎である。

 1981年Millarら1)によりallergic aspergillosis of the maxillary suinusesとして最初に報告され,その後,Katzensteinら2)によりallergic aspergillus sinusitisとして報告された。さらにアスペルギルス以外の真菌でも同様の病態を起こすことから1989年にAFSと命名された3)。現在では副鼻腔炎は鼻炎より起こることが多く,その病態が副鼻腔にとどまらないことからアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosinusitis:AFRS)ともいわれている4)

3.口腔・喉頭アレルギー

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.302 - P.305

Ⅰ はじめに

 「口腔・喉頭アレルギー」という一つのタイトルではあるが,口腔アレルギーと喉頭アレルギーは異なった疾患概念であるので,それぞれ別々に示す。

Ⅺ.好酸球関連疾患診療NAVI

1.好酸球性中耳炎

著者: 松原篤

ページ範囲:P.307 - P.311

Ⅰ 好酸球性中耳炎とは

 好酸球性中耳炎は,好酸球を豊富に含んだ膠状の中耳貯留液を特徴とする難治性の中耳炎である。本症は1992年に「気管支喘息における難治性中耳炎」として富岡らにより報告され1),1995年に好酸球性中耳炎(eosinophilic otitis media)と命名された2)

 本症の最大の問題点は難聴の進行にある。鈴木ら3)よる全国調査では,聾に至った症例は6%であり,Nakagawaら4)によれば,適切な治療が行われない場合の難聴の進行速度は,通常の慢性中耳炎に比べて約10倍とされている。

2.好酸球性副鼻腔炎

著者: 野中学 ,   田中友佳子

ページ範囲:P.313 - P.317

Ⅰ 概説

 好酸球浸潤を顕著に伴う慢性副鼻腔炎を好酸球性副鼻腔炎という。成人型喘息(特にアスピリン喘息)を合併する慢性副鼻腔炎や,下気道疾患の合併がみられなくても血中好酸球増多を伴う慢性副鼻腔炎に多くみられる。Ⅰ型アレルギーの関与は問われないが,早期から嗅覚障害を訴え,両側の多発性鼻茸や粘稠な副鼻腔分泌物を認める1)(表)。

 アレルギー性鼻炎と喘息は高率に合併し,1つの臓器として気道に起こる同じ炎症病態と考えられ,上・下気道の病態をまとめて把握しようとするone airway,one diseaseの概念が確立している。慢性副鼻腔炎と喘息の関係については,喘息患者の40~73%に慢性副鼻腔炎を合併し,逆に慢性副鼻腔炎患者の約20%は喘息に罹患する,と報告されている。また成人型喘息を有する慢性副鼻腔炎の副鼻腔陰影の程度をCTでスコア化し重症度分類すると,CTスコアと血中の好酸球数,CTスコアと喀痰中好酸球とは正の相関があると報告されている2)。喘息の重症度は喀痰中の好酸球数がよい指標になることを考えると,慢性副鼻腔炎の程度がひどいほど,喘息も重症であると考えられる。

3.線維素性唾液管炎

著者: 山下大介 ,   小川郁 ,   丹生健一

ページ範囲:P.319 - P.322

Ⅰ 疾患についての概説

 線維素性唾液管炎とは,1879年Kussmaul1)によって初めて報告された発作性反復性に唾液腺腫脹をきたす疾患である。末しょう腺組織ではなく主に導管系が閉塞し,唾液管開口部からは白色の索状分泌物が排出されるのが特徴的である。この線維素塊の中には多数の好酸球が認められる。唾液腺造影では,主導管の高度な拡張像を呈する。これまで国内外からの報告は約40例と決して多くはないが,Pearson2)は耳下腺の反復性腫脹を伴う患者104名中16例(15.4%)に本疾患を認めたと報告している。このように本疾患に対する認識の低さから臨床上,見逃されている可能性もあると考えられる。そこで反復する唾液腺腫脹を主訴とする場合には,本疾患を念頭に入れておくことが重要であると思われる。

4.軟部好酸球性肉芽腫症

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.323 - P.325

Ⅰ 疾患についての概説

 軟部好酸球性肉芽腫症は1948年に木村ら1)が特異な病理学的特徴を報告し,1959年に飯塚ら2)が臨床所見と病理所見を基に木村病と命名したことに始まる。西欧に少なく,青年期から壮年期の若いアジア系の男性に好発することが知られている。本疾患は全身に発生しうるが,主として顔面,頸部などの皮膚軟部組織やリンパ節に無痛性の腫瘤を形成する疾患であり,特に耳下腺部に多くみられ耳下腺腫瘍を疑わせる腫脹を示す3)。その発生機序はいまだ不明であるが,妊娠,疲労,ストレスなどで腫脹の増悪することと,血中好酸球および抗IgE抗体の高値を特徴とすることから,何らかのアレルギー特にⅠ型アレルギーを背景とすることが示唆されている。

Ⅻ.特殊疾患診療NAVI

1.サルコイドーシス

著者: 峯田周幸

ページ範囲:P.327 - P.331

Ⅰ 疾患の概説

 全身の多臓器に生じる非乾酪性類上皮細胞肉芽腫性疾患をいう。

1.原因

 不明だが,持続的な抗原や自己抗原の刺激に対する過剰なTh1細胞応答の結果として二次的に肉芽腫が形成されたもの,と考えられている。

2.Behçet病

著者: 内田真哉

ページ範囲:P.332 - P.336

Ⅰ 疾患の概説

 ベーチェット病(以下,BDと略す)はシルクロードに沿った地帯から,韓国・日本に多くみられる多臓器侵襲性の難治性疾患である。20~40歳以下の若年者に多く発症し,口腔粘膜のアフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍の4つを主症状とし,急性炎症発作を繰り返しながら遷延した経過をとる。

 BDの報告は紀元後200年頃,中国の漢方医・張仲景により「弧惑病」として示されたといわれているが,西洋医学においてはトルコのHulusi Behçet1)により報告されたのが最初である。いまだ明らかな病因は不明だが,環境的素因や遺伝的素因などが考えられている。

3.Wegener肉芽腫症

著者: 豊田実 ,   近松一朗

ページ範囲:P.339 - P.343

Ⅰ 疾患の概説

 Wegener肉芽腫症(以下,WGと略す)は1939年にWegenerによって報告された①上気道・下気道の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性病変,②全身の中・小型動脈の壊死性血管炎,③腎の壊死性半月体形成糸球体腎炎の3つの病理学的所見を特徴とする全身性炎症性疾患である。発生機序に抗好中球細胞質抗体の一種であるPR3-ANCA(C-ANCA)が関与するとされているが原因は不明である。好発年齢は30~50歳代に多く性差はない。病型は上気道,下気道,腎すべてに所見があるものを完全型,腎を除いた部位に症状があるものを限局型としたCarringtonの分類と上気道(E),肺(L),腎(K),の3つの病変の有無によりE,L,EL,LK,EK,ELKの6型に分類したDeRemeeの分類がある。また重症度は1~5度までの5段階に分類した厚労省調査研究班の分類がある。治療はステロイドとシクロフォスファミドの併用療法による寛解導入療法とその後の維持療法が基本となる。

4.IgG4関連疾患

著者: 高野賢一 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.345 - P.350

Ⅰ はじめに

 IgG4関連疾患は,高IgG4血症および組織学的にIgG4陽性形質細胞浸潤を病態基盤とする全身性,慢性炎症性疾患であり,今世紀に入りわが国より提唱された新しい疾患概念である1)。シェーグレン症候群の一亜種あるいは同一の病態としてみなされていたミクリッツ病も,血清学的・病理組織学的特徴から,その疾患独立性が認められ,IgG4関連疾患としてあらためて認識されるに至っている2,3)。本稿では,耳鼻咽喉科医が日常診療において接する機会が多いミクリッツ病を中心に,IgG4関連疾患の診断・治療について概説する。

 代表的なIgG4関連疾患であるミクリッツ病は,1888年にJohann von Mikulicz-Radeckiが無痛性の両側性,対称性の涙腺および顎下腺・耳下腺腫脹を伴う症例を報告したことに始まる4)。しかし1953年に病理学的解析からシェーグレン症候群と同一疾患であるとする見解が,著名な病理学者であったMorganとCastlemanによって報告5)されて以来,特に欧米ではミクリッツ病の疾患概念は大きく後退した。しかしわが国では,ミクリッツ病の独立性やシェーグレン症候群との相違についてしばしば議論がなされていた6)。特にIgG4関連疾患としての概念が確立した今日より約20年前に,今野ら7,8)によって詳細な臨床的・血清学的検討がなされ,ミクリッツ病の疾患独立性が耳鼻咽喉科領域よりすでに示されていたことは,特筆すべきことである。

 21世紀に入りYamamotoら2,3)はシェーグレン症候群と診断されていた症例の中からミクリッツ病と考えられる一群を見出し,これらの症例群が自己免疫性膵炎などとともに,著明な高IgG4血症および罹患臓器へのIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることを示し,IgG4関連疾患としてミクリッツ病の疾患独立性が提唱されるに至っている。炎症性偽腫瘍として位置づけられていたキュットナー腫瘍(慢性硬化性唾液腺炎)も,今日ではこうしたIgG4関連疾患に含まれると考えられている9~11)

 著明な高IgG4血症と病変部へのIgG4陽性細胞浸潤を呈する免疫学的特徴は,自己免疫性膵炎12)において報告されて以来,同様の所見が硬化性胆管炎13),後腹膜線維症14),間質性腎炎15),下垂体炎16)など多数の臓器で報告された。その結果,日本国内だけでもIgG4-related sclerosing disease17),Systemic IgG4 plasmacytic syndrome(SIPS)18),IgG4-related multiorgan lymphoproliferative syndrome(IgG4 MOLPS)19)など,同一と考えられる疾患群に対して複数の異なる疾患名が提唱され,使用されていた。そこで厚生労働省研究班を中心に,2010年にIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4RD)という名称に統一された。

5.MTX関連疾患

著者: 長門利純

ページ範囲:P.351 - P.355

Ⅰ はじめに

 メトトレキサート(methotrexate:MTX)は白血病や悪性リンパ腫などの非上皮性腫瘍に対する抗癌剤として使用されるほか,慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)を中心とした自己免疫疾患に対する免疫抑制薬としても使用される1)。近年,MTXを内服している患者にMTX関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders:MTX-LPD)が生じうることが明らかとなっている。本疾患は,造血器腫瘍のWHO分類に表記されている疾患であるが,通常の悪性リンパ腫と異なりMTXの服用を中止または減量するだけで寛解しうるといった特徴がある。本疾患のこの特徴を知らず,治療の第一選択として化学療法や放射線照射などの過剰治療が行われる場合も懸念される。また,本疾患は40~50%の症例がリンパ節以外に発生し2),頭頸部の節外性病変も比較的多いため3),耳鼻咽喉科専門医として本疾患を理解しておく必要がある。本稿では,MTX-LPDに関して診断・治療のフローチャートを示しながら概説するとともに,当科で経験した症例を提示する。

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

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