耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻5号

2012年04月発行

特集 最新の診療NAVI―日常診療必携

Ⅷ．囊胞性疾患診療NAVI

2．副鼻腔囊胞

著者： 竹野幸夫¹ 久保田和法¹

所属機関： ¹広島大学大学院医歯薬総合研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科

ページ範囲：P.239 - P.243

文献概要

Ⅰ　疾患の概説

　副鼻腔は粘膜上皮で覆われる複数の含気空洞より構成されており，それぞれの副鼻腔は固有鼻腔と生理的排泄路である自然口を通して交通している。この自然口が何らかの原因（炎症，外傷，手術など）で閉塞した場合，あるいは副鼻腔根本術後の治癒過程で生じる瘢痕組織の中に粘膜上皮が残存した場合，上皮粘膜組織から産生・分泌された粘液が物理的に閉鎖された副鼻腔や瘢痕内に貯留して副鼻腔囊胞が形成される^1,2）。囊胞の形成過程は一般に非常に緩徐であり，初期にはほとんど症状はない。しかしながら長期間にわたる貯留液の存在により，囊胞内の圧力は徐々に高まり，物理的に周囲組織を圧迫する。これにより骨組織の吸収プロセスが進行し，骨の菲薄化や融解が生じてくる。このように副鼻腔囊胞の発生機序は共通したものがあるが，囊胞の発生部位と周囲組織との関係によって発現症状が異なるので注意が必要である。

　副鼻腔囊胞は，その成因から大きく原発性（特発性）と二次性（続発性）に分けられる。諸家の報告によると，原発性が15～16％，術後性が81～82％，外傷性が1～2％と，副鼻腔根本術を成因とする二次性（術後性）囊胞が頻度的に最も多い。また年齢的には50～60歳代に多いとされている^3）。原発性（特発性）は前部篩骨洞や前頭洞に多く，上顎洞では比較的少ないとされている。特に前頭洞の排泄路である鼻前頭管は，他の副鼻腔の自然口に比べて長く狭小であるため，ひとたび副鼻腔炎などを契機とした病的変化が起こると物理的に通過障害をきたしやすい。このため前頭洞は副鼻腔各洞の中でも原発性囊胞が最も発生しやすいとされている（過去の文献では30～50％）^4,5）。

参考文献

1）飯沼壽孝：副鼻腔囊胞概論．JOHNS 5：661-668，1989

：The Frontal Sinus, eds by Kountakis SE, et al. Springer, Heidelberg, 2005, pp 75-81

3）都築建三・他：副鼻腔囊胞手術症例の臨床検討．日耳鼻 112：801-808，2009

4）田中　聖・他：前頭・篩骨・蝶形骨洞囊胞の臨床統計的観察―殊に視力障害の分析．日耳鼻 96：182-191，1993

5）児玉　悟・他：前頭洞囊胞30症例の検討―術式と成績について．耳鼻臨床 100：725-730，2007

6）市村恵一：篩骨・蝶形骨洞囊胞と鼻副鼻腔手術．JOHNS 18：1555-1559，2002

7）藤吉達也・他：Onodi蜂巣の発現頻度とその臨床的意義．日鼻誌 39：313-318，2000

8）Pérez-Piñas, et al：Anatomical variations in the human paranasal sinus region studied by CT. J Anat 197（Pt 2）：221-227, 2000

ed. Theme, New York, 2008, pp 115-132

10）友田幸一・他：副鼻腔囊胞疾患手術―鼻外法．頭頸部外科 18：109-113，2008

11）月舘利治・他：前頭洞囊胞に対する手術法の検討とその予後―囊胞交通路の開存率を中心に．耳展 41：609-614，1998

12）Weber R, et al：Modern concepts of frontal sinus surgery. Laryngoscope 111：1302-1305, 2001