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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科84巻9号

2012年08月発行

雑誌目次

特集 HPV・EBVと頭頸部腫瘍

HPVと頭頸部癌

著者: 徳丸裕

ページ範囲:P.619 - P.625

Ⅰ HPVとは

 ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)は,約8000塩基対の環状DNAからなる小型DNAウイルス(図1)1)で,パピローマウイルス科として分類されている。HPVの型はゲノム配列の相同性から決定されており,現在約120種類のHPVが登録されているが,いずれのタイプも主要カプシド蛋白L1と微量カプシド蛋白L2からなるカプシド殻をもっている。皮膚や粘膜に感染するが,宿主特異性が高く,宿主を超えて感染することは稀である。ヒト乳頭腫ウイルスというように宿主名を冠して分類される。

 1983年にzur Hauzenらが子宮頸癌組織からHPV16をクローニングし,子宮頸癌の因果関係を示唆したことから,HPVと癌の関連について研究が始まった。HPVは発癌との関わりによりハイリスク型とローリスク型のHPVに分類される。ハイリスク型HPVに分類されるのはタイプ16,18,31,33,35,39,45など16種類で,ローリスク型HPVにはタイプ6や11が含まれる。ハイリスク型HPVは子宮頸癌をはじめ,頭頸部癌,肛門癌,性器癌などの発癌に関与しているが,ローリスク型HPVは性器や上気道の疣贅,乳頭腫を生じるものの,発癌に関与することは稀である。またHPV自体は日常生活において感染しやすく,多くの男女が一度は感染するありふれたウイルスである。

HPVと鼻腔乳頭腫

著者: 土井清司

ページ範囲:P.627 - P.632

Ⅰ はじめに

 ヒトパピローマウイルス(human-papilloma virus:HPV)と疾病とのかかわりは,今から約30年前にドイツのzur Hausen博士が婦人科領域における子宮頸癌からHPV16とHPV18のDNAを発見したことから始まり1),現在ではHPV感染により子宮頸癌が発症することは確立した見解となっている。その功績により,彼は2008年にノーベル医学・生理学賞を受賞している。近年,頭頸部領域においてもHPVが腫瘍の発生要因となっている可能性が注目されるようになり,研究・解明が進んでいる。実際に頭頸部腫瘍とHPVとの関連性を検討した報告は数多く存在しており,特に中咽頭領域における扁桃癌に関しては,HPV16の感染と発癌との因果関係が解明され,HPV16陽性か否かが予後判定の重要な要素となるという認識がすでに確立されている2)。鼻副鼻腔領域においても同様の流れを受けて,良性乳頭腫および悪性腫瘍組織でのHPVのDNA検出が行われ,その結果をもとに腫瘍とHPVとの関連性や悪性転化への関与を検討した報告が見受けられるようになっている。本稿では,鼻腔乳頭腫とHPVとのかかわりを中心に,国内・海外の報告を参考にしながら解説を行う。

HPVと喉頭乳頭腫

著者: 梅野博仁

ページ範囲:P.634 - P.640

Ⅰ はじめに

 喉頭乳頭腫はヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)が喉頭粘膜上皮に感染し腫瘍を形成する疾患である。喉頭乳頭腫は良性腫瘍であるが再発しやすく,音声機能と気道の機能を考慮した治療が必要である。また,わずかながら癌化する症例もあり,臨床上の取り扱いが厄介な疾患でもある。本稿では,喉頭乳頭腫の感染と発症・癌化・診断・治療について述べる。

HPVと中咽頭癌

著者: 猪原秀典

ページ範囲:P.641 - P.647

Ⅰ はじめに

 子宮頸癌の原因として知られるヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)は一部の頭頸部癌,特に中咽頭癌の原因となる。HPVは外陰部との直接的な接触感染,あるいは唾液を介した間接的な接触感染により咽頭粘膜,特にWaldyer咽頭輪の陰窩から侵入して基底細胞へ感染し,その一部で持続感染が成立し発癌に至ると考えられている。HPVは120種類以上の型が同定されているが,子宮頸癌で見つかるものが高リスク型,そうでないものが低リスク型に分類される。高リスク型(16,18,31,33,35,45,51,52,58型など)は子宮頸癌のほぼ100%から検出され,また腟,外陰部,陰茎部や肛門周囲の癌からも高率に検出される。低リスク型(6,11型など)は良性の尖圭コンジローマなどの原因となる。中咽頭癌から検出されるHPVも高リスク型HPVであるが,その約90%は16型である。HPVの検出法としては,ウイルスDNAをPCRやin situ hybridizationで同定する方法に加え,p16の免疫組織化学が汎用されている。以下,本稿では高リスク型HPVを単にHPVと記載する。

EBVと上咽頭癌

著者: 中西庸介 ,   吉崎智一

ページ範囲:P.649 - P.654

Ⅰ はじめに

 頭頸部は人体の約10%の領域であるが,多種多様な亜部位に分類されている。そして,それらの亜部位から発生する癌はおのおの固有の生物学的もしくは臨床的特徴を有している。そのため,頭頸部癌とひとくくりにして治療法を考えるのではなく,それぞれの解剖学的部位ごとに最適な治療法を吟味する必要がある。

 上咽頭癌は解剖学的にもEpstein-Barrウイルス(EBV)が発癌に関与する点でもほかの頭頸部癌とは異なる特徴を有する。EBV-DNAが上咽頭癌組織中に認められて以来,上咽頭癌患者では血清中のEBV抗体価が上昇していること,上咽頭癌組織においてEBVが発現する蛋白質が検出されることなどにより上咽頭癌はEBVと密接に関連する腫瘍であることが示唆されてきた1)。さらに,上咽頭癌組織中のEBVは単クローン性であることが示され,EBVは上咽頭癌の発癌に関与することが明らかとなった2)。近年では,EBVがコードする核内小RNA(EBERs)に対するin situ hybridizationが確立し,検出がさらに容易となってきている。このように,ウイルス学的な研究の進歩と共に臨床への応用もすすんでいる。

 本稿ではEBVと上咽頭癌の関連を中心に最近の知見を紹介する。

EBVと悪性リンパ腫

著者: 岸部幹 ,   原渕保明

ページ範囲:P.655 - P.661

Ⅰ はじめに

 ヒト癌全体の20~25%は,ウイルスが原因といわれている。悪性リンパ腫も組織型によっては,ウイルスがその発生に根深く関与している。悪性リンパ腫に関連するウイルスとしては,アフリカの小児に好発するバーキットリンパ腫の原因ウイルスであるEBVが古くから有名である。また,成人T細胞白血病/リンパ腫はヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型感染がその原因として知られている。近年では悪性リンパ腫とさまざまなウイルスとの関連が報告されている。それらのウイルスの中で,EBVはさまざまな癌との関連が報告されており,頭頸部領域の悪性リンパ腫との関連もある。EBVは試験管内でCD21を介して,Bリンパ球に潜伏感染し,無限に増殖するBリンパ芽球株にトランスフォームさせる(不死化感染,試験内発癌)。ほかにも核抗原EBNA2(EBV nuclear antigen 2)や膜蛋白質LMP1(latent membrane protein 1)などのEBV蛋白質が宿主であるリンパ球の不死化に重要な役割を担っている。これまでに,多数のリンパ増殖性疾患との病因的関連が報告されてきている(表1)。本稿では,これらの中でそのほとんどが頭頸部領域から初発し,EBVがその腫瘍化に密接にかかわる鼻性NK/T細胞リンパ腫について概説する。

目でみる耳鼻咽喉科

食道入口部が持続的に開大していた3症例

著者: 槙大輔 ,   西山耕一郎 ,   杉本良介 ,   大田隆之 ,   戎本浩史 ,   酒井昭博 ,   大上研二 ,   松井和夫 ,   飯田政弘

ページ範囲:P.604 - P.608

Ⅰ.はじめに

 輪状咽頭筋は食道入口部に存在し,安静時には一定の筋緊張を保つように持続収縮することで食道入口部を閉鎖させているが,嚥下運動時には弛緩して食道入口部を開大させる。輪状咽頭筋が弛緩不全となる病態はよく知られており日常的に経験するが,弛緩したままの状態が観察されることは珍しい。今回われわれは食道入口部が持続的に開大していた3症例を経験した。いずれの症例も胃・食道から咽頭への逆流が強く疑われ,嚥下性肺炎の原因となっていたと考えられる。症例提示に若干の文献的考察を加えて報告する。

Current Article

純音聴力検査の深淵―モデルに基づく再探検への誘い

著者: 伊藤健

ページ範囲:P.609 - P.617

Ⅰ はじめに

1.聴覚医学への入門

 耳鼻咽喉科の医師にとって純音聴力検査は大変身近であるのに,聴覚医学は敷居が高いという印象がもたれ入門が敬遠される傾向があるように思える。純音聴力検査は聴覚医学の入り口の「門」という役割を超えて「鳥居」のような象徴的意味合いまで含む必要不可欠な検査であるが,実際には客観的生理検査のように単純明快なものではない。特に骨導検査の場合には検査音がほとんど減衰することなく反対側の蝸牛に伝わるため,必ずマスキングを行わなければならない。むしろ両側の内耳に骨導音を自由に聞かせておいて(骨導振動子の位置はさほど重要ではない),マスキングで非検査側を遮蔽することにより検査側の蝸牛の能力を知るというスタンスこそ本質的であり,骨導検査イコールマスキングであるといえる。この純音聴力検査におけるマスキングは一見単純にみえて実際には理解が容易でないことはよく知られており,初学者に聴覚医学に対する苦手意識を形成させやすい。このような困難を惹起する原因としては以下の点が挙げられる。

原著

原発性気管腺癌の1例

著者: 山下恵司 ,   亀倉隆太 ,   高野賢一 ,   近藤敦 ,   白崎英明 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.663 - P.667

Ⅰ.はじめに

 原発性気管癌は全悪性腫瘍中の0.04~0.1%1,2)とされる稀な疾患で,われわれ耳鼻咽喉科医が遭遇する機会は少ない。さらにその組織型は,扁平上皮癌と腺様囊胞癌が大部分を占めており,腺癌の報告は少ない。今回われわれは,原発性気管腺癌の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

鼻中隔より発生した多形腺腫の1症例

著者: 平賀幸弘 ,   黄淳一 ,   霜村真一

ページ範囲:P.669 - P.671

Ⅰ.はじめに

 多形腺腫は大唾液腺,特に耳下腺や顎下腺に最も多く発生する良性腫瘍であるが,鼻腔の小唾液腺原発は全頭頸部の4%と稀である1)。今回われわれは,鼻中隔原発の多形腺腫の一症例を経験したので,文献的考察を加えてここに報告する。

鏡下囁語

Menièreの原著とその周辺 第三編 Menièreの主論文(2)

著者: 飯沼壽孝

ページ範囲:P.673 - P.677

第三編の概要

 Menièreの主論文の後半を紹介する。前半はMenière病の疾患としての概念に至る経過を示した。内耳病変であるとまず説明を行い,次いで有名な若い娘の剖検例を呈示して,病変は三半規管にあったことを証明した。最後にFlourensの三半規管切断実験における動物の旋回運動から,実験的にもMenière病が三半規管病変とする立証を得たと結論した。これから紹介する後半では,まず片頭痛を取り上げてMenière病の症状を共有することを根拠として片頭痛は内耳性であると主張した。次に異物による鼓膜裂傷が耳小骨を経由して卵円窓から内耳に衝撃を与える結果,Menière病の症状に類似した症状を呈することを例証とした。さらに耳管閉塞で生じた内耳の陰圧の結果で,鼓膜が内陥し,通気でこれを急に解除すると鼓膜の急激な動きが耳小骨連鎖を経て内耳に影響を及ぼすことを説明した。次は,小脳と小脳脚の損傷実験に話題を転じて旋回運動は生ずるが難聴は生じないことを述べて,Menière病における小脳と小脳脚の損傷の関連を否定した。論議が転々とする傾向があるが,次は鑑別診断であり,突然に生ずる難聴を鑑別点とした。最後は診断を誤った医師の行った当時のさまざまな治療法を紹介した。Menièreの結論では難聴に関する治療法は無いとした。この間に抽象的な難聴に関する感想が述べられる。最後は4項目の結論である。Flourensの原著は現在の科学論文に近い様式であるが,Menièreの論文はかなりに散文的であっておわかり難かったと拝察する。これから引き続き紹介する症例報告や,ことに講演見聞録はきわめて散文的である。

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欧文目次

ページ範囲:P.598 - P.598

〔お知らせ〕第71回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会

ページ範囲:P.678 - P.678

 第71回日本めまい平衡医学会総会ならびに学術講演会を下記の通り開催いたします。多数の先生方のご出題とご参加をお願い申し上げます。

会   期:2012年11月28日(水)~30日(金)

会   場:学術総合センター,如水会館(東京都千代田区一ツ橋)

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.679 - P.679

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.680 - P.680

投稿規定

ページ範囲:P.682 - P.682

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.683 - P.683

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.684 - P.684

 今日7月1日から大飯3号機が再起動しました。5月に国内の原発50基がすべて停止して以来,運転再開するのは初めてです。福島第1原発事故の検証が十分になされたとはとても思えず釈然としませんが,私が住む関西の今夏の電力需給見通しは本当に厳しいらしく,経済に与える影響を考えれば当面のこととしては致し方ないのかもしれません。一方,太陽光や風力などで発電した電力を電力会社が買い取る再生可能エネルギーの全量買い取り制度も本日からスタートしました。買い取り費用は,電力会社が電気料金に上乗せして回収するとのことです。今年度の一般的な家庭の負担増は月当たり平均87円。今後,買い取り量が増えるにつれさらに増加するのでしょうが,原発事故で失った大切な命や社会が支払ったコストを考えれば,私には価値ある出費だと思えます。

 さて,今月号の特集は「ウイルスと頭頸部腫瘍」です。EBVと上咽頭癌や悪性リンパ腫の関連は以前からよく知られていましたが,最近,鼻腔や喉頭の乳頭腫,子宮頸癌発症の原因として知られるHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)と中咽頭癌との関連が注目され,臨床の場でも治療方針の決定に参考にされるようになってきました。そこで,わが国を代表する先生方にEBVとHPVについて,ご自身の研究を交え最先端の知見について解説していただきました。Current Articleは伊藤 健教授(帝京大学)の純音聴力検査モデルです。先生のHP(www.itokencorp.com)に入ると伊藤先生が開発されたマスキングシュミレータや純音聴力検査シュミレータを体験できます。ぜひお試しください。目でみる耳鼻咽喉科は「食道入口部が持続的に開大していた3症例」,原著論文は「原発性気管腺癌の1例」と「鼻中隔より発生した多形腺腫の1症例」,鏡下囁語は飯沼先生のMenièreシリーズ第三弾と,今月号も力作揃いです。ぜひ,ご一読ください。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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