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雑誌目次

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科85巻5号

2013年04月発行

雑誌目次

特集 急患・急変対応マニュアル―そのとき必要な処置と処方

序文

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.5 - P.5

 急変時の大原則は,まず,A(airway),B(breathing),C(circulation)に従って生命の維持を確保することである。続いて,病態を正確に把握し,緊急度に従って治療方針を決定することとなる。耳鼻咽喉科領域の救急疾患には,急性喉頭蓋炎,扁桃周囲炎・膿瘍,深頸部膿瘍などの感染症,顔面骨折・側頭骨骨折などの外傷,気道・食道異物,鼻出血,めまい,と多岐にわたる。急性喉頭蓋炎や深頸部膿瘍,喉頭外傷や気道異物などは即生命にかかわり緊急の対応が求められ,一見,単純な外傷性鼓膜穿孔や顔面打撲にみえても内耳障害や視力障害をきたしている場合など,直ちに生命にはかかわらなくても,治療のタイミングを逸して重篤な後遺症を残す疾患も少なくない。多忙な外来診療中,あるいは夜間の救急外来など,限られた時間や設備,人員のなかで「帰宅させてよいか?」「入院させるべきか?」「高次機能病院へ搬送すべきか?」「搬送中に急変するリスクはないか?」など,瞬時に的確な判断が求められる。

 いつ遭遇するかわからない多彩な急性疾患・急変病態に適切に対応するためには,日ごろからこれらの疾患・病態について精通しておくことが必須である。本特集号では,耳,鼻,口腔・咽頭,喉頭・頸部の各領域から代表的な急性疾患・急変病態,処置や周術期の合併症を取り上げ,各領域のエキスパートにより「病態の把握と緊急度の判断」と「入院や搬送の判断のポイント」が解説されている。ぜひ,本書を外来デスクに常備し,できれば一度通読し,突然の出来事に備えていただきたい。

Ⅰ 救急・急変対応の心得

ページ範囲:P.7 - P.7

夜間・休日診療,当直を担当するときに危機に陥らないために

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.8 - P.9

Point

◆他科救急医・当直医とのスムーズな連携

◆相談,連絡可能な先輩医師の確保

◆診療所,中小病院,大(学)病院との密な情報交換

◆患者を帰宅させる際の十分な説明と心構え

救急・急変対応の際のチーム医療のポイント

著者: 小川郁

ページ範囲:P.10 - P.12

Point

◆救急・急変対応は診療所,市中病院,救命救急センターなどの各医療施設で異なるが,扱う疾患が重症であればあるほどマンパワーが必要となる。

◆救急隊などからの救急搬送依頼の連絡や患者本人からの連絡から,あらかじめ可及的多くの情報を得ておき,その情報から緊急度や重症度を推測し,事前に必要なマンパワーの確保や診療機器や検査機器の準備,治療に必要な物品の確保を行うことが重要である。

◆特にマンパワーの確保およびその指令体制の準備は重要であり,チーム医療が効果的に機能するように日頃から救急診療体制を構築しておく必要がある。

救急搬送をする際,受ける際のポイント

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.14 - P.15

Point

◆病態,緊急度,重症度に従って搬送の必要性,搬送先,搬送のタイミング,搬送方法を判断する。

◆可及的に多くの情報を正確に搬送先に伝える。

◆搬送中に病状が悪化する可能性が高い場合は,気道の確保や医師の同乗を検討する。

◆受入機関では,得られた情報から病態と治療方針を検討し,人員の確保や受入れ病棟の手配,手術室への緊急手術の交渉等,迅速に準備を進める。

Ⅱ 最新の蘇生手技・救急対処法

ページ範囲:P.17 - P.17

心肺蘇生法

著者: 花田裕之

ページ範囲:P.18 - P.24

Point

◆High Quality CPR

 強く/速く/中断は最低限/過換気を避ける

◆A→B→C から C→A→Bへ

◆蘇生後のケア

◆高濃度酸素は蘇生中のみ

気管挿管/気管切開

著者: 中村謙一 ,   市村恵一

ページ範囲:P.26 - P.31

Point

◆気管挿管に際しては,緊急時であっても十分な準備を行うこと,挿管困難の予測を行い,可能な限りの対策を講じることが重要である。

◆ビデオ挿管用喉頭鏡は挿管困難症例に有用なのはもちろん,これを用いることで気管挿管の経験の浅い者でも安全で確実な気管挿管が可能となる。

◆気管切開は習得すべき外科的気道確保の1つであり,手術手技のみならず,術後管理,合併症対策についても習熟することが望まれる。

輸血療法/輸液療法

著者: 小松孝行 ,   杉田学

ページ範囲:P.32 - P.37

Point

◆体内の水分・電解質における恒常性を理解する。

◆輸液・輸血の種類と救急現場での輸液管理を理解する。

◆輸液路確保に関する基本的事項を理解する。

創傷の処置法

著者: 夏井睦

ページ範囲:P.38 - P.42

Point

◆外傷の湿潤治療

◆熱傷の湿潤治療

◆創傷治癒

◆消毒薬の薬理学

熱傷の処置法

著者: 塩見直人 ,   小池薫

ページ範囲:P.44 - P.49

Point

◆軽症例は局所療法だけで治癒するが,重症例は全身管理を必要とし,初期診療が転帰に影響する。

◆熱傷の処置においては重症度判定が重要であり,従来から熱傷部位,熱傷面積,熱傷深度などにもとづいて行われている。

◆創部の処置は面積や深達度に応じて外用薬,被覆材を使い分ける必要がある。

◆熱傷の処置に関するガイドラインが,日本熱傷学会(2009年)および日本皮膚科学会(2012年)から公表されているが,軽症例も含めた一般的な熱傷処置については日本皮膚科学会のガイドラインがわかりやすい1)(以下の概説におけるガイドラインとは,日本皮膚科学会が作成した「創傷・熱傷ガイドライン」を指す)。

ショックへの対応法

著者: 渋沢崇行 ,   堀進悟

ページ範囲:P.50 - P.53

Point

◆ショックは血圧低下+身体所見(脈拍微弱・皮膚蒼白・意識障害など)で判断する。

◆ショックを認識したら人手,資材を集め,初期診療を行う。

◆初期治療は,①不整脈(徐脈・頻脈)によるショックの除外,②細胞外液の急速投与,または③カテコラミンの使用,が根幹である。

◆初期治療の後,コンサルテーションや高次医療機関への搬送を行う。

熱中症・脱水症への対応法

著者: 石井友理 ,   服部和裕 ,   太田祥一 ,   行岡哲男

ページ範囲:P.54 - P.59

Point

◆屋内でも熱中症は起こる。

◆暑くなり始めに注意する。

◆熱中症を疑ったら直ちに処置する。

◆基本は冷却と水分・塩分を補給する。

◆診察は気道・呼吸・循環から行う。

救急で必要な薬剤

著者: 山口充 ,   堤晴彦

ページ範囲:P.60 - P.64

Point

◆急変時にはまず人を集め,次に患者の状態を把握する。

◆心電図モニターを装着し,除細動の適応の有無を判断する。

◆心肺蘇生術施行中でも定期的に心電図モニターを確認し,心電図波形の変化がないか確認する。

◆抗不整脈薬は催不整脈作用を有しているため使用量に注意する。

Ⅲ 夜間・救急外来での疾患鑑別法

ページ範囲:P.65 - P.65

耳痛/耳漏

著者: 小林一女

ページ範囲:P.66 - P.69

Point

◆耳痛,耳漏は患者の年齢で,ある程度の疾患が推定できる。

◆耳痛は耳疾患以外でも認められる。

◆耳介の牽引痛の有無を確認する。

◆耳痛・耳漏以外にめまいの訴えがある場合は内耳障害の合併を疑う。

急性難聴/耳鳴

著者: 新田清一

ページ範囲:P.70 - P.73

Point

◆詳細な問診と外耳~鼓膜所見,音叉による聴覚検査(Weber法)により,伝音難聴か急性感音難聴かを鑑別する。

◆めまいを伴う急性難聴に顔面の知覚障害を合併する場合は,脳血管障害による急性感音難聴を疑い,MRIなど精査を早急に進める。

◆耳鳴を主訴に救急外来を受診した患者は心理的背景に強い不安やうつがあるので,自殺企図に注意をして慎重に対応する。

めまい

著者: 小川恭生 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.74 - P.78

Point

◆めまいの診察で最も重要なことは,中枢性めまい,すなわち「危険なめまい」を鑑別することである。

◆救急外来では,必ずしも疾患を細かく鑑別診断する必要はない。

◆“めまい”は多義的用語である。

◆回転性めまい=末しょう性,非回転性めまい=中枢性とは限らない。

◆水平性眼振=末しょう性めまいとは限らない。

◆眼振がなくても,中枢性めまいは否定できない。

◆頭部CTが正常であっても,脳梗塞の否定にはならない。

視力障害/複視

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.80 - P.84

Point

◆視力障害・複視は眼科的疾患であるが,その原因が耳鼻科領域疾患であることも少なくない。

◆視力障害・複視の程度を迅速に判断し,重症であれば入院のうえステロイドパルス療法あるいは手術加療を行う。

◆重症度は,夜間・救急外来でも施行可能な検査を通して判断されるが,眼科的検査所見が不可欠であり,眼科医師との密な連携が望まれる。

鼻出血

著者: 片田彰博

ページ範囲:P.86 - P.91

Point

◆診察や処置に必要な器材や材料を十分に準備してから,実際の診察を始める。

◆来院時も出血が持続している場合は,まず止血処置をして出血の勢いを軽減させる。

◆止血処置が完了したら,入院による経過観察が必要であるかを判断する。

◆鼻出血の原因疾患について詳細な診断を行うよりも,出血を速やかに制御し,患者の苦痛を軽減し安心させることを第一の目標とする。

顔面痛

著者: 三輪高喜

ページ範囲:P.92 - P.95

Point

◆脳出血などの頭蓋内血管疾患でも顔面痛を訴えることがある。

◆直ちに治療が必要となるのは頭蓋内,眼窩内に病変が及んでいる場合である。

◆副鼻腔炎,副鼻腔囊胞で視力低下をきたしている場合は,早期の手術が必要とされる。

◆急性副鼻腔炎,急性乳様突起炎による視器,頭蓋内合併症の診断にはCTが有用である。

顔面神経麻痺

著者: 池田稔 ,   岸博行

ページ範囲:P.96 - P.100

Point

◆原因の診断:Bell麻痺,Hunt症候群,外傷,中耳炎,腫瘍,脳血管障害など。

◆麻痺の経過:発症して何日経過しているのか。急性期なのか。進行性なのか。

◆麻痺の程度の評価:麻痺は完全麻痺なのか不完全麻痺なのか。

◆神経障害程度の評価:急性期の高度麻痺例にはENoGやNETで顔面神経の障害程度を把握し,治療法を選択する。

◆入院治療や高次医療機関への搬送が必要な例がある。

音声障害

著者: 齋藤康一郎

ページ範囲:P.102 - P.110

Point

◆気道緊急を見逃さず,気道確保を優先する。

◆最初に行う問診と患者の様子や身体所見の観察・聴取の重要さを念頭に置いて診察にあたる。

◆耳鼻咽喉科医師のみで対処可能な範疇の疾患以外の可能性を忘れずに,他診療科医師やコメディカルスタッフと連携する。

◆内視鏡所見を記録しておく。

咽頭痛

著者: 梅野博仁

ページ範囲:P.112 - P.115

Point

◆咽頭痛を訴える疾患で,発熱の有無は疾患の鑑別に有用である。発熱がある疾患の多くは感染症であり,発熱がない疾患の多くは感染症ではないか,感染症であっても感染のごく初期か軽度の感染と考えてよい。

◆咽頭の視診所見で疾患のおおよその鑑別が可能である。咽頭粘膜・口蓋扁桃の所見は発赤・腫脹・膿栓付着,小水疱・アフタ形成,偽膜形成,びらん・潰瘍・腫瘍形成,異物の存在,所見に乏しい,に分類すると疾患の鑑別が行いやすい1)

◆主訴が咽頭痛であっても喉頭所見を見落としてはならない。急性喉頭蓋炎の主訴で最も多いのは咽頭痛である2)

◆緊急処置が必要な疾患の多くは扁桃周囲膿瘍および咽後膿瘍・急性喉頭蓋炎・咽頭異物である。扁桃周囲膿瘍および咽後膿瘍では切開排膿術が,急性喉頭蓋炎による呼吸困難では気道確保が,咽頭異物では異物摘出術が緊急処置として必要となる。

嚥下障害

著者: 三枝英人

ページ範囲:P.116 - P.121

Point

◆嚥下障害を起こす原因となる疾患,病態について,問診や各種所見から推定するとともに,まず,呼吸・循環をはじめとする全身状態の把握を行うことが重要である。嚥下障害に対する諸検査を優先することはしない。

◆診察は,頭頸部領域のみに限定せず,神経学的所見を含む全身的な観察が必要である。

◆問診を行いつつ,患者の音声や構音の状態,呼吸の状態について観察を行うことは,嚥下障害の原因となっている病態を理解し,説明するうえで重要な情報源となりうる。

意識障害/失神

著者: 杉本良介 ,   大上研二

ページ範囲:P.122 - P.125

Point

◆耳鼻咽喉科医が扱う意識障害・失神の多くは反射性失神である。

◆アナフィラキシーショックに対する対応。

◆血管迷走神経反射に対する対応。

◆頭頸部癌による頸部リンパ節転移のコントロール不良な患者で,失神を繰り返す場合には頸動脈症候群も考慮する必要がある。

Ⅳ 疾患ごとの救急処置法・処方

ページ範囲:P.127 - P.127

■外傷

鼓膜穿孔/耳小骨連鎖離断

著者: 安井拓也 ,   伊藤健

ページ範囲:P.128 - P.133

Point

◆外リンパ瘻・側頭骨骨折など緊急性を要する症状の確認が必要である。

◆感染予防などをしっかり行って,自然回復を待つ。

◆電撃性などでは自然閉鎖率が低いが,そのほかは1か月ほどで自然閉鎖する症例が多い。

◆耳小骨離断の手術は,合併症がなければいつでもよい。

側頭骨骨折

著者: 久保和彦 ,   小宗静男

ページ範囲:P.134 - P.137

Point

◆側頭骨骨折は縦骨折と横骨折に分類されるが,最近は内耳骨包に障害が及んでいるかどうかで分類する方法が臨床的に相同性があるとされている。

◆骨折線の部位によって,耳出血,難聴,めまい,顔面神経麻痺,髄液耳漏など多彩な症状が出る。

◆受傷後すぐに手術を要する症例は少ないが,後遺症を残すことも稀ではないので,早期に適切な治療方針を決定することが重要である。

眼窩吹き抜け骨折

著者: 吉村剛 ,   春名眞一

ページ範囲:P.138 - P.142

Point

◆眼球に鈍的な外傷が加わることで,眼窩内圧が上昇し眼窩壁骨折を引き起こし,その部位から内側壁型,下壁型,混合型に分けられる。

◆症状は眼瞼腫脹,眼球運動障害,複視,眼痛などがある。

◆BOFを疑う場合は,早期にCTを施行して骨折部位,程度を確認し,眼科へ依頼して眼球運動の検査を行う。

◆開放型骨折では経過観察できる場合が多いが,閉塞型骨折では,筋組織の壊死が進行しないよう緊急手術が必要である。

◆手術のアプローチは,経鼻法,経上顎洞法(歯齦部切開),経眼窩縁法があり,術者の慣れと骨折部位により整復しやすい方法を選択する。

顎顔面・鼻骨骨折

著者: 寳地信介 ,   橋田光一 ,   武永芙美子 ,   三箇敏昭 ,   大淵豊明 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.144 - P.147

Point

◆顎顔面・鼻骨骨折など顔面外傷の症例では,上気道閉塞,大出血,視力障害をきたした場合は緊急手術が必要であるが,通常は受傷後2週間以内の待機手術にて十分整復固定可能である。手術前の初期治療においては,創処置や止血処置を行い的確な診断ができればよい。

◆頭部,頸椎,胸部や腹部などの多発外傷が併存している可能性もあり,全身的検索を忘れてはならない。これらが疑われる症例では,早急に他科への診察依頼や高次医療施設への搬送などを検討する。

◆骨折の診断にはCT検査が必須であり,特に3DCTは,骨折線や転位の状態を立体的に把握するのに非常に有用である。

舌・口腔外傷

著者: 馬場奨 ,   友田幸一

ページ範囲:P.148 - P.152

Point

◆他臓器への損傷を見落とさないよう注意する。

◆気道確保と出血対策が最重要である。

◆硬口蓋・軟口蓋部においては特に鼻腔や上咽頭に達する刺創の有無を確認し,画像検査も考慮する。

◆軟部組織損傷は初期治療が重要である。

気道・頸部外傷

著者: 真栄田裕行

ページ範囲:P.154 - P.159

Point

◆外傷は突発的に発生するものであり,通常は周到な治療計画,準備が困難である。そのため救急現場での臨機応変な態度が求められる。どのような外傷でも軽症例から,即死を含む生命予後にかかわる例まで,いずれの病態も予想しておくべきである。

◆頸部は狭小な領域に生命維持に不可欠な重要臓器が密集しているため,一見軽症にみえても生命の危機に直結する場合がある。

◆待機的治療を選択する間がなく,緊急的な治療,手術になる場合が多々ある。

◆交通事故や暴力事件など,後に訴訟になる例もありうるため,詳細な記録を残すことが肝要。

■異物

外耳道・鼻腔異物

著者: 高浪太郎 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.160 - P.163

Point

◆小児など症状を訴えにくい症例では,外耳道・鼻腔異物が長期間放置されてから発見される場合がある。

◆長期間放置された例では,異物周囲の炎症が強くなるため腫脹や出血をきたしやすい。

◆悪臭を伴った難治性耳漏や鼻汁に対しては異物の可能性も考えるべきである。

◆診断・摘出方法・摘出後の処置について解説した。

咽喉頭異物

著者: 兵頭政光

ページ範囲:P.164 - P.167

Point

◆発症時の状況やエピソード,異物の種類を詳しく聴取すること。

◆内視鏡による詳細な観察が重要。

◆CTなどによる画像検査が重要だが,X線透過性の異物も念頭に置くこと。

◆呼吸障害や感染徴候の有無をまず確認すること。

気管・気管支異物

著者: 野村泰之 ,   古市基彦 ,   牧山清

ページ範囲:P.168 - P.171

Point

◆気管・気管支異物の診察に際しては急変時への対応をあらかじめ備えておく。

◆一見,症状がおさまっている時期でも,異物を疑って問診を聴取する。

◆画像検査で判別できなくとも実際に内視鏡を施行すると異物を確認することがある。

食道異物

著者: 平林秀樹

ページ範囲:P.172 - P.175

Point

◆異物症は人類の歴史とともにあり,絶えることはない。

◆異物症の診断・治療はプライマリーケアとして欠かすことのできない医療行為である。

◆幼小児の食道異物はコインやおもちゃがほとんど。

◆成人は高齢化に伴い義歯,press through pack(PTP)異物が増加しており,食道粘膜の損傷をきたし,術後に食道周囲膿瘍,縦隔洞炎,縦隔膿瘍などを併発する危険がある。

■炎症/感染症

急性中耳炎

著者: 工藤典代

ページ範囲:P.176 - P.181

Point

◆夜間や救急外来を受診する急性中耳炎は,乳幼児で耳痛や耳漏が主訴の場合が多い。

◆小児急性中耳炎診療ガイドラインに沿った治療を行う。

◆急患で受診時の重症度は,年齢条件,臨床症状,鼓膜所見から診断するが,おおむね重症に分類されると考えてよい。

◆耳漏がない場合で,高度の鼓膜所見がある場合,基本的には鼓膜切開を実施する。耳痛や発熱に対する鼓膜切開の効果は高い。

◆内服薬は アモキシシリン高用量を分3で投与する。下痢対策には酪酸菌製剤(ミヤBM®)あるいは耐性乳酸菌製剤を併用する。

耳性頭蓋内合併症

著者: 長井慎成 ,   東野哲也

ページ範囲:P.182 - P.188

Point

◆耳性頭蓋内合併症には,硬膜外膿瘍,髄膜炎,硬膜下膿瘍,脳膿瘍,血栓性静脈洞炎などがある。

◆急な耳漏の増悪や停止,頭痛,嘔吐,意識障害などの全身症状を伴う場合には耳性頭蓋内合併症を念頭に置く。

◆頭部CTでは側頭骨病変が見逃されることがあり,側頭骨ターゲットCTに加えMRIでの評価が必須。

◆治療の原則は抗菌薬投与と中耳原発巣のドレナージ。

◆抗菌薬の進歩に伴い頻度,致命率ともに激減しているが,一方そのために症状がマスクされ診断が遅れるケースが増加してきている。また肥厚性硬膜炎のような新たな疾患も念頭に置き対応する。

急性副鼻腔炎

著者: 古田厚子 ,   洲崎春海

ページ範囲:P.190 - P.196

Point

◆夜間・救急外来の限られた設備・人員で診療するにあたり,急性副鼻腔炎の合併症を念頭に置きながら,問診および鼻内所見から重症度を評価することが必要である。

◆起炎菌の薬剤感受性を考慮し,重症度によって抗菌薬投与を行う。

◆合併症を疑った場合,CTやMRIによる画像検査を行う。

◆合併症がある場合は早急に治療を開始し,手術的治療も考慮する。

鼻性頭蓋内合併症

著者: 小川知幸 ,   平川勝洋

ページ範囲:P.198 - P.201

Point

◆鼻症状に強い頭痛を伴う場合,頭蓋内合併症を疑う。

◆頭蓋内合併症を疑うときは,早急に画像検査を行う。

◆他科と十分に連携をとり,手術時期を逃さない。

◆十分な抗菌薬と副鼻腔のドレナージが必要。

鼻性眼窩内合併症

著者: 黒野祐一

ページ範囲:P.204 - P.207

Point

◆眼窩内合併症をきたす鼻疾患を鑑別する。

◆眼球突出,眼球運動障害,視力障害の有無を確認する。

◆CTを行い眼窩内炎症の病態を確認する。

◆入院のうえ強力な抗菌薬治療を行う。

◆骨膜下あるいは眼窩内膿瘍があれば積極的に手術を行う。

急性咽頭・扁桃炎

著者: 坂東伸幸 ,   原渕保明

ページ範囲:P.210 - P.214

Point

◆咽頭痛,発熱を主訴に受診した患者に対し,問診,診察から感冒,インフルエンザなどのウイルス性を除外する。

◆扁桃と咽頭の所見から重症度をスコア化し,重症度に応じた治療法を選択する。

◆重症で経口摂取や日常生活が困難な症例には入院での十分な補液と静注抗菌薬治療を行う。

急性喉頭蓋炎

著者: 松見文晶 ,   大森孝一

ページ範囲:P.216 - P.220

Point

◆急性喉頭蓋炎は上気道狭窄により窒息する可能性があり,気道確保を第一に対処する。

◆中咽頭所見に比べ嚥下痛や呼吸困難が高度の場合には本疾患を疑い,喉頭を必ず観察する。

◆保存的治療を行う場合も入院とし,喉頭を頻回に観察し気道確保に備える。

◆緊急気道確保は容易でないため,気道確保を行うか判断に迷ったら,予防的に気道確保を行うほうが安全である。

深頸部膿瘍

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.222 - P.225

Point

◆頸部腫脹,局所の熱感,発赤,疼痛,開口障害,嚥下障害,発熱,嗄声などを訴え,気道狭窄症状の存在には窒息の危険もあることから特に注意を要する。

◆初期治療を誤ると重篤な縦隔炎,縦隔膿瘍,肺炎,膿胸,心囊炎,静脈血栓や髄膜炎,脳膿瘍などに発展し,さらには敗血症,播種性血管内凝固,多臓器不全,頸胸部大血管破裂などの致命的な経過をたどることもあるので注意が必要である。

◆起炎菌として嫌気性菌が60%ほど関与しており,嫌気性菌にも有効な抗菌薬を選択する。

◆最も大切なことは,早急に病状を把握して縦隔・胸腔内や頭蓋内への炎症波及を食い止め,窒息や大血管破裂の危険を回避することである。

■急性症状を示す聴覚器疾患

音響外傷

著者: 和田哲郎 ,   原晃

ページ範囲:P.228 - P.231

Point

◆強大な音は聴覚にとって有害である。

◆一過性閾値変化(TTS)と永久閾値変化(PTS)があり,PTSは回復しない。

◆治療は可及的早期のステロイドであり,副作用のリスクを評価したうえで投与開始する。

突発性難聴

著者: 小川郁

ページ範囲:P.232 - P.235

Point

◆急性難聴では正確な問診をとり,鼓膜所見と聴力検査から伝音難聴と感音難聴の鑑別を行う。

◆突発性難聴が疑われる場合は安全に副腎皮質ステロイド投与が可能であることが確認できれば即日投与するが,確認ができない場合は翌日の通常外来での精密検査を予約するのみで,いったん帰宅させても問題はない。

◆突発性難聴の確定診断にはMRIを含めた精密検査が必要であるが,当面は突発性難聴を念頭においた治療を行うことを十分に説明しておく。

前庭神経炎

著者: 飯田政弘

ページ範囲:P.236 - P.240

Point

◆突発的に発症するめまい。

◆難聴などの蝸牛障害は伴わない。

◆前庭神経以外の神経障害はない。

◆上気道ウイルス感染の先行が疑われる。

◆救急治療として,めまい,嘔気・嘔吐に対する対症療法を行う。

外リンパ瘻

著者: 池園哲郎

ページ範囲:P.242 - P.247

Point

◆外リンパ瘻救急診療に関しても表1の臨床分類が役立つ。

◆最も緊急性が高いのはカテゴリー1の頭部外傷,側頭骨骨折に伴うもの,耳かき外傷,医原性などである。

◆次にカテゴリー2の爆風,ダイビング,飛行機搭乗などが誘因となったものであり,夜間救急外来でも外リンパ瘻を疑う明確な病歴があるか否かがポイントとなる。

メニエール病

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.248 - P.251

Point

◆メニエール病は,めまい発作を繰り返し,難聴や耳鳴などの聴覚症状を随伴する。

◆めまいの性状は回転性であることが多く,持続時間は10分程度から数時間程度である。

◆病初期は,低音障害型でかつ病期に応じて変動する感音難聴である。病変の進行とともに難聴も進行する。

◆急性期(発作期)は,前庭自律反射による悪心,嘔吐などの不快な症状が生じることが多く,心身の安静や抗めまい薬・制吐薬などの薬物による対症療法が主体となる。

◆めまいに随伴した急性感音難聴に対する治療は,突発性難聴などの急性感音難聴の治療に準じて行う。

Ⅴ 処置中・処置後の急変への対応法

ページ範囲:P.253 - P.253

耳管通気

著者: 大島猛史

ページ範囲:P.254 - P.257

Point

◆急激に高圧で多量の送気をすることは厳禁。滲出性中耳炎のなかにも「耳管閉鎖不全」は珍しくなく,図らずも過大な通気となることがある。

◆カテーテル法だけでなく,逆通気法でも事故の報告が多く注意が必要。ポリッツェルゴム球を使った逆通気は圧の調節がしにくく,多量の送気となりやすい。ブリューニングス拡大耳鏡などを使用したほうがよい。

◆急変時は瞬時に重症度を推定し,迅速に対応しなければならない。

◆不可抗力による事故もあるが,多くは慎重な操作で防げる。

鼓膜切開

著者: 小川洋

ページ範囲:P.258 - P.262

Point

◆鼓膜切開術の有効性,治療効果,起こりうる偶発症,合併症,続発症,機能障害についてあらかじめ説明し,患者,家族から手術のインフォームド・コンセントを得ておくことが最も大切。

◆鼓膜切開術は顕微鏡下で切開部位を確認し,適切な部位に施行すること。

◆イオントフォレーゼによる鼓膜麻酔の適応と禁忌について理解すること。

◆トラブルが発生した場合,支援病院との病診連携を速やかにとること。

嚥下検査

著者: 鈴木康司

ページ範囲:P.264 - P.268

Point

◆嚥下検査のなかで,一般的かつ日常的な咽頭食道造影検査と内視鏡検査の際に起こりうる急変とリスク管理について述べた。

◆咽頭食道造影検査は被検者に誤嚥させうる検査であり,内視鏡検査は異物を挿入する検査であることを今一度確認する。

◆起こりうる事態に対して迅速かつ適切に対応するためには,十分な知識と備えが不可欠である。

口蓋扁桃摘出術

著者: 小笠原徳子 ,   氷見徹夫

ページ範囲:P.270 - P.273

Point

◆気道関連手術であるため,良性疾患であっても手術適応の判断,術前リスク評価は慎重に行う。

◆起こりうる急変とその対応についてまとめた。

◆口蓋扁桃摘出術(以下,扁摘)は耳鼻咽喉科領域において経験年数の浅い医師から執刀し,実施件数も多い手術である。それゆえに医療スタッフ,患者双方に油断が生じがちである。術中,術後の急変時には速やかな気道確保,集中的維持的呼吸循環管理が求められる手術であることを肝に銘じる。

上顎洞穿刺術(下鼻道法)

著者: 金子豊

ページ範囲:P.274 - P.278

Point

◆探膿針の下鼻道挿入時,刃面は下鼻道側壁に向ける。

◆穿刺の最適箇所は下鼻甲介骨の上顎突起。

◆硬度の高い骨壁の穿刺を避ける。

◆穿刺後の洗浄液,空気送入は術者が圧調節。

◆眼窩内炎症時には上顎洞穿刺は禁忌。

Ⅵ 術中・術後の急変への対応法

ページ範囲:P.279 - P.279

■術中編

アブミ骨手術時のfloating footplate

著者: 熊川孝三

ページ範囲:P.280 - P.284

Point

◆耳硬化症の手術は狭小な視野の中で行う微細な手術であり,floating footplateや外リンパ瘻などの重大な合併症によって悪化あるいは聴力を失う懸念さえある。

◆過去においては,floating footplateを摘出してstapedectomyをめざす手技も選択肢として取り上げられてきた。

◆しかし,最近の報告ではfloating footplateを摘出せず,その上に生体膜を敷いてピストンを立てるのが最も安全な手技であるとされつつある。

◆最善の対処方法を知ったうえで,状況や熟達度に応じた処置を選択すべきである。

アブミ骨手術時のgusher

著者: 植田広海 ,   内田育恵 ,   岸本真由子

ページ範囲:P.286 - P.288

Point

◆アブミ骨手術時のアブミ骨底板開窓の際に前庭窓から外リンパ液が中耳内に流出してくることがあり,gusherと呼ばれている。

◆gusherには,外リンパ液が中耳内に噴出し中耳内にすぐ充満するような状態となる狭義の“gusher”と比較的除々に流出してくる“oozer”とに分類される。

◆術前に予想できない症例もあるが,術前にgusherを発症しやすい症例を把握しておくことが重要である。発症しやすい予測因子として,男性で小児期からの混合性難聴を自覚,CT所見で,内耳道底部の拡大,前庭の拡大,蝸牛水管あるいは前庭水管の拡大,蝸牛の奇形の有無に留意することが重要である。

◆Gusherを確認したら慌てず,まず流出量をチェックして,oozerであれば開窓部を筋膜でカバーしフィブリン糊を滴下する。筋膜でのカバー前後で人工アブミ骨を装着し,外リンパ液流出停止を確認する。噴出するようなgusherの場合,上記で流出を止めることが困難な例は,底板を全摘して筋膜片を前庭内に挿入して内側からの水圧を利用して流出を止める。あるいは前庭窓内を結合織で完全に充塡する。

乳突削開手術時の半規管瘻孔

著者: 中川尚志

ページ範囲:P.290 - P.293

Point

◆半規管瘻孔による内耳障害を予防するためには術前の予想が重要であるが,100%検出できるものではない。乳突洞削開術で半規管隆起付近の病変を処置するときには常に瘻孔があるものとして臨み,慎重に剝離する姿勢が大切である。

◆術中に半規管瘻孔が生じた場合でも感音難聴は必発でない。

◆半規管瘻孔の状態を評価し,どのような処置をするかを決定する。

◆真珠腫の合併症による瘻孔の場合,周囲の上皮をパッチ状に残し,ほかの部位を先に,半規管瘻孔は最後に処置を行う。生理食塩水でよく浸し,乾燥しないようにする。

鼻中隔矯正術時の粘膜穿孔

著者: 中川隆之

ページ範囲:P.294 - P.297

Point

◆粘膜穿孔自体は問題とならない。粘膜欠損を作らないことが大切。

◆粘膜穿孔が生じた部位の後方の粘膜剝離を行うことにより欠損を防止。

◆粘膜穿孔予防は,粘膜切開時にしっかり軟骨膜を確認することが重要。

内視鏡下副鼻腔手術時の動脈性出血

著者: 朝子幹也

ページ範囲:P.298 - P.302

Point

◆止血のためには解剖の熟知と事前の準備をおこたらないこと。

◆止血器具をそろえること。

◆蝶口蓋動脈,顎動脈止血は応用範囲が広いので必須のテクニック。

◆前篩骨動脈出血時の眼窩緊急減圧のテクニックは重要。

◆内頸動脈の出血に対する,知識の蓄積をおこたらない。

内視鏡下副鼻腔手術時の視神経管損傷

著者: 御厨剛史 ,   山下裕司

ページ範囲:P.304 - P.308

Point

◆術中視神経管損傷はいったん生じると完全回復困難な重篤な合併症を起こしうる。

◆視神経管を損傷しやすい条件として,管の隆起と骨壁の菲薄化をきたしやすいonodi cellや副鼻腔の含気化良好な例が挙げられる。

◆術前のCT読影や術中ナビゲーションの使用によりリスクは回避しうる。

◆損傷時の適切な対応には,迅速な眼科的評価とステロイド治療開始,視神経管開放術の適応判断にいたる流れの知識と準備が必要である。

内視鏡下副鼻腔手術時の頭蓋底損傷

著者: 柳清

ページ範囲:P.310 - P.315

Point

◆危険部位は常に念頭に入れて置く。

◆術前CTで個人のvariationを把握する。

◆あいまいな認識で手術を進めない。

◆マイクロデブリッダーを高速回転にして頭蓋底付近の操作はしない。

◆術者は体調管理に努める。

経口的腫瘍摘出時の咽頭穿孔

著者: 荒木幸仁 ,   山下拓 ,   冨藤雅之 ,   塩谷彰浩

ページ範囲:P.316 - P.321

Point

◆咽喉頭の解剖学的構造の熟知。

◆術中オリエンテーションの確認,慎重な手術操作。

◆頸部郭清術同日施行,放射線治療後などハイリスク症例の管理。

◆膿瘍形成防止や大血管保護など,重大な合併症予防のための再建術の適応と方法の把握。

◆慎重な術後管理と合併症発症時の迅速かつ適切な対応。

■術後編

中耳手術後の顔面神経麻痺

著者: 比野平恭之

ページ範囲:P.322 - P.326

Point

◆中耳手術により生じる即時性顔面神経麻痺は,術中に神経損傷の有無を認識できたかどうかで対応が異なる。

◆術中損傷を認識した場合は即時減荷手術で対応する。

◆顔面神経麻痺に対する治療だけではなく,患者およびその家族への対応も重要である。

耳下腺手術後の顔面神経麻痺

著者: 冨田俊樹

ページ範囲:P.328 - P.331

Point

◆耳下腺手術後に顔面神経麻痺をきたした場合,術中に顔面神経を切断していなければ,90%の症例は1か月以内に回復し全例とも6か月以内に治癒する。

◆ステロイドを含めた薬物療法は効果がない。

◆完全麻痺をきたした場合は,眼球の保護に留意し,リハビリテーションを行う。

◆術後性顔面神経麻痺に対する効果的な治療はないため,麻痺を予防することが最も重要である。耳下腺手術においては,経験豊富な術者が立ち会うこと,手術解剖を十分に理解していること,常に愛護的な手技を心がけることが求められる。

◆術前のインフォームド・コンセントを得る際に,顔面神経麻痺の可能性があることを強調するべきではないが,誠意ある説明は必要である。

耳科手術後の髄液漏

著者: 藤田岳 ,   奥野妙子

ページ範囲:P.332 - P.335

Point

◆髄液漏が起きないように手術中に予防を十分にすることが最も重要である。

◆髄液漏を疑ったら漏出しているのが本当に髄液かどうか検討する。そして漏出部位の推定を行う。

◆髄膜炎など感染の予防に努める。

◆保存的・外科的な対応を考える。脳外科など他科と連携をとる。

副鼻腔手術後の髄液漏

著者: 池田勝久

ページ範囲:P.336 - P.338

Point

◆医原性の鼻性髄液漏は高度な病変と再手術症例において,篩板側壁の損傷によって生じることが多い。

◆鼻性髄液漏を示唆する術後の症状や徴候は,激しい頭痛,嘔気や嘔吐の持続,精神状態の異常や視力異常などである。

◆副鼻腔手術による医原性鼻性髄液漏は,保存的治療に抵抗する場合には積極的に内視鏡下鼻内手術での修復を試みる。

内視鏡下副鼻腔手術に合併する眼窩内出血:予防と対応

著者: 近藤健二

ページ範囲:P.340 - P.344

Point

◆術前のCT画像で前篩骨動脈の走行や眼窩紙様板の状態,鉤状突起の外側偏位の有無を確認する。

◆術中は眼窩紙様板の損傷に注意し,おかしいと思ったら眼球を押して確かめる。

◆眼窩骨膜を損傷し脂肪が露出した場合は基本的に鼻内パッキングは行わない。

◆眼窩内出血が発生した場合は直ちに眼科医と連携をとり,必要に応じ眼球マッサージや副腎皮質ステロイドの投与,眼窩の減圧処置を行う。

甲状腺手術後の嗄声・誤嚥

著者: 齋藤幹

ページ範囲:P.346 - P.349

Point

◆反回神経を温存しえても声帯麻痺は起こりうる。

◆甲状腺術後の声帯麻痺に対しては,まずリハビリテーションを行う。

◆6か月保存的治療で改善を認めない場合は手術を検討する。

◆声帯の固定位置,レベル差,声帯突起の位置などから術式の選択を行う。

頸部郭清術後リンパ漏(乳び漏)への対応

著者: 菅澤正

ページ範囲:P.350 - P.353

Point

◆明らかになるのは術後数日経過してからのことが多い。

◆予防が最善の治療,閉創前に圧負荷して,漏れを確認。

◆リンパ漏が生じたら,まず保存的治療を。

◆リンパ流量を減らすため,脂肪制限食,中心静脈栄養に1週間以上改善が認められなければ,開創を。

喉頭全摘後の咽頭皮膚瘻

著者: 平田裕二 ,   門田伸也

ページ範囲:P.354 - P.359

Point

◆早期発見とドレナージ
◆感染制御
◆wet dressing
◆瘻孔周囲の皮膚保護

気管カニューレ周囲からの大出血

著者: 馬場均

ページ範囲:P.360 - P.363

Point

◆勢いの強い急性期の出血では,止血のために手術室へ搬送することをためらわない。

◆晩期出血は,先行する小出血の時点で危険性を把握する。

◆気管腕頭動脈瘻の救命は困難である。

急性肺血栓塞栓症

著者: 渡邉和宏 ,   長尾建

ページ範囲:P.364 - P.370

Point

◆APTEは,術後の長期臥床などにより,下肢深部静脈あるいは骨盤内静脈で形成された血栓が肺動脈を閉塞し,急速に肺高血圧および低酸素血症を引き起こす疾患である。

◆特徴的な症状や所見がなく,その自覚症状と特徴的な背景因子の組み合わせから,まずは本疾患を疑うことが重要である。

◆診断には,その診断能力と時間と簡便さからすると,ヘリカル造影CTおよび超音波検査が第一選択と考える。

◆治療は,呼吸循環管理を行い,できるだけ早期に抗凝固療法を開始することが肝要である。

創部感染

著者: 竹井慎 ,   山中昇

ページ範囲:P.372 - P.376

Point

◆手術創の清潔度分類に基づき適切な予防的抗菌薬投与を行う。

◆術後は創部を詳細に観察し,術後感染の早期発見に努める。

◆術後感染が発生したときは,適切な抗菌薬を選択する。また抗菌薬だけに頼らず,必要であれば,創部を開放・洗浄する。

術後せん妄

著者: 杉山健一 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.378 - P.381

Point

◆術後せん妄とは,術後早期に発生する一過性の意識混濁や見当識障害,幻覚がみられる高次脳機能障害をいう1)

◆頭頸部領域では,アルコールやたばことの関連が強く指摘されている頭頸部癌患者において術後せん妄が多いと考えられている。

◆薬物療法は,抗精神病薬でありブチロフェノン系抗精神病薬であるハロペリドール(セレネース®)が第一選択薬として推奨されている2)

◆頭頸部再建手術後に認める術後せん妄は,早期離床と頸部運動制限をなくすことで減少させることができると報告されている3)

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バックナンバーのご案内

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投稿規定

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出版社:株式会社医学書院

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