icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科85巻9号

2013年08月発行

雑誌目次

特集 局所副腎皮質ステロイドの正しい使い方

ページ範囲:P.655 - P.655

局所副腎皮質ステロイド総論

著者: 川村将弘

ページ範囲:P.656 - P.662

POINT

●副腎皮質ステロイド全般について,①生理・薬理作用,②抗炎症作用機序,③副作用,④ステロイド化合物の構造活性相関を示した。

●局所副腎皮質ステロイドについて,①アンテドラッグとは,②ステロイド アンテドラッグ,③副作用について紹介する。

急性感音難聴

著者: 佐藤宏昭

ページ範囲:P.664 - P.669

POINT

近年,急性感音難聴に対するステロイドの局所治療(鼓室内注入)は注目されつつあるが,まだ発展途上の治療であることも事実である。本稿で本治療法の現状について以下の事項について述べる。

●ステロイドの局所投与の利点

●ステロイド全身投与と局所投与の内耳移行の比較

●原因の明らかな急性感音難聴に対する局所投与

●原因不明の急性感音難聴に対する局所投与

メニエール病

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.670 - P.674

POINT

●メニエール病に対する局所副腎皮質ステロイド療法には,鼓膜経由で鼓室内に投与する方法,内リンパ囊開放術の際,開放した内リンパ囊から内耳に直接投与する方法がある。

●鼓室内投与については,めまいの改善あるいは軽快については有効とする報告が多い。しかしながら,聴力については有効とする報告は少なく,プラセボ効果にすぎないとする報告もある。

●鼓室内投与と全身投与を併用すると,めまいや耳閉塞感,耳鳴に対して高い有効率が得られたとする報告がある一方,自然寛解の可能性も否定できないとするもの,drug deliveryの観点から,正円窓経由による副腎皮質ステロイド薬投与の限界について述べている報告もある。

●内リンパ囊開放術の際,開放した内リンパ囊から内耳に直接投与する方法については,内リンパ囊開放術施行群,保存的治療群に比し,聴力の改善については7年間を通じ有意に良好な成績が持続したとする報告がある。

好酸球性中耳炎・副鼻腔炎

著者: 中川尚志

ページ範囲:P.676 - P.681

POINT

●局所副腎皮質ステロイド単独では好酸球性副鼻腔炎を制御することができない。局所副腎皮質ステロイドはcontrollerとして,抗ロイコトリエン受容体拮抗薬やTh2サイトカイン阻害薬,マクロライド療法などと併用して用いる。

●副腎皮質ステロイド鼻噴霧薬と抗ロイコトリエン受容体拮抗薬を併用することで,それぞれの薬剤の単独治療と比較して,好酸球性副鼻腔炎において鼻茸の好酸球浸潤が抑制され,鼻茸の縮小効果が得られる。喘息の治療薬として,吸入副腎皮質ステロイド薬と長期作用型β2刺激薬の配合剤を併用することで,その作用が増強する。

●好酸球性副鼻腔炎に対する経口副腎皮質ステロイドの使用は,急性増悪期や術後に限った,短期間投与が原則である。

●好酸球性副鼻腔炎に対して内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)を行った症例では再発率が高い。副腎皮質ステロイド鼻噴霧薬などを適宜,使用した術後加療が再発予防に大切である。

●好酸球性中耳炎の治療は喘息と同じ考えで行う。完治をめざすのではなく,制御する姿勢で臨む。治療は症状の軽減のみならず,難聴の進行の予防に有効である。

●一剤単独で効果が出ることは軽症例のみであるため,抗ヒスタミン作用を中心とした抗アレルギー剤を基本として,抗ロイコトリエン受容体拮抗薬やTh2サイトカイン阻害薬,トロンボキサンA2阻害薬を二剤併用する。二剤併用で症状が治まらないとき,局所副腎皮質ステロイド薬を追加使用する。

●好酸球性中耳炎をターゲットにした経口副腎皮質ステロイドの投与は気管支喘息にリバウンド発作を生じるリスクがあるため,中耳の状態で経口剤を投与することは原則行わず,気管支喘息の状態に合わせた使用としている。ただ初診時に多量の耳漏や高度の耳茸を認めるときには,治療の導入時に短期間,用いる。

鼻アレルギー

著者: 神崎晶

ページ範囲:P.682 - P.688

POINT

●鼻噴霧用ステロイド薬の使用方法を中心に以下の項目について述べる。

●アレルギー性鼻炎に対する鼻噴霧用ステロイド薬の機序

●本薬のアレルギー性鼻炎ガイドラインにおける位置づけ

●鼻噴霧用ステロイド薬の長所・短所について

●使用法上の注意

●小児,妊婦,高齢者への使用法について

嗅覚障害

著者: 三輪高喜

ページ範囲:P.690 - P.695

POINT

●嗅覚障害の原因は多岐にわたり,原因により局所副腎ステロイド治療は強い武器となる。

●ステロイド点鼻療法は懸垂頭位による投与が一般的であるが,頭位の維持が困難な場合は,枕なし側臥位法を用いる。

●好酸球性副鼻腔炎はステロイド治療の最もよい適応であり,病状に応じてステロイドの内服,点鼻,噴霧を適宜選択する。

急性咽喉頭炎・嗄声

著者: 楠山敏行

ページ範囲:P.696 - P.701

POINT

●咽喉頭の炎症性疾患に対する局所ステロイド治療は,ネブライザー療法として古くから臨床応用されてきた安全かつ簡便な治療法とされる。

●現在までに検討されてきたネブライザー療法の基礎的および臨床的研究結果を概説した。

●咽喉頭の重要疾患の局所治療として,適切な選択により十分な効果が期待できる。

●より有効な喉頭ネブライザー療法を確立するために,エアロゾル粒子の気道内沈着様式や吸入中の呼吸および発声様式に関するさらなる検討が望まれる。

外耳道湿疹・口内炎・鼻前庭炎

著者: 杉本一郎 ,   平川勝洋

ページ範囲:P.702 - P.707

POINT

●外耳道湿疹,口内炎,鼻前庭炎はありふれた疾患であり,治療に局所ステロイド薬を使用する。局所ステロイド薬は,基剤やステロイドの薬理作用の強さなどの違いにより,さまざまな種類があるため,その特徴をしっかり把握し,選択する。また使用量や使用期間にも注意を払い,局所の副作用の回避とほかの疾患の鑑別も常に念頭におく必要がある。

目でみる耳鼻咽喉科

気道閉塞の危険があった乳児舌血管腫の1例

著者: 松下直樹 ,   井口広義 ,   和田匡史 ,   中野友明 ,   山根英雄

ページ範囲:P.652 - P.654

はじめに

 乳児血管腫は自然消退することが多いため,症状が問題とならなければ経過観察をすることが多い。しかし,時に発生部位とその大きさから治療を要することもある。今回われわれは気道閉塞の危険があり,気管切開を施行し,プロプラノロールによる治療を行った乳児舌血管腫の症例を経験したので紹介した。渉猟し得る限りでは同様の乳児舌血管腫の報告はこれまでにない。

書評

がんを見逃さない―頭頸部癌診療の最前線《ENT臨床フロンティア》

著者: 海老原敏

ページ範囲:P.709 - P.709

 『がんを見逃さない―頭頸部癌診療の最前線』は,《ENT臨床フロンティア》シリーズの5冊目となるものである。シリーズ刊行にあたって,編集委員が目的とした「実戦重視」耳鼻咽喉科診療の第一線ですぐに役立つという趣旨に沿って,頭頸部癌診療の現状について提示され,必要なことも網羅されている。

 第2章の「頭頸部のさまざまな症状」では,日常診療でどのような場合に癌を疑い,その場合どのように対処すればよいかが,症状別に書かれている。それぞれ貴重な体験に基づいて書かれており,本書にあることをすべて実行できれば日常の癌診療では十分であろうといえるほどである。「頭頸部の前癌病変」にも章を設け,8頁を費やしている。前癌病変とはよく耳にする言葉であるが,実態はないに等しく,前癌病変という定義すらはっきりしていないし,粘膜内のとどまるいわゆる表在癌についても,病理学者により癌ととるか過形成ととるか意見が分かれるところも多い。この点著者たちも苦労されたところであろう。その結果がこの短い章として表れているのだと思う。付録に診断に役立つ資料集という日常診療,特に電子化が進む診療録に取り込むのに絶好な企画があるので,これと同じように付録として,前癌病変,早期癌,表在癌について扱う方法もあったのではないかと思う。また,この項については病理医の意見が反映されるべきとも考える。

原著

鼻腔腺様囊胞癌の1例

著者: 吉浜圭祐 ,   西山崇経 ,   川井俊郎 ,   小川郁 ,   馬場優

ページ範囲:P.711 - P.714

はじめに

 鼻副鼻腔悪性腫瘍は扁平上皮癌が大半を占め,腺系癌は10%程度と比較的頻度が低い1)。腺系癌それぞれの組織型における報告症例数は十分とはいえず,その少なさのために明確な治療指針は定まっていない。

 鼻副鼻腔腺系癌のなかでは,唾液腺癌の1つである腺様囊胞癌が最もその頻度が高いとされているが,その発生部位は鼻腔よりも上顎洞が高頻度といわれている2)

 今回われわれは,鼻出血を契機に診断された,比較的珍しい鼻腔腺様囊胞癌の1例を経験したので,ここに報告する。

輪状甲状靭帯切開によって救命し得た深頸部感染症の1例

著者: 志摩温 ,   坂口正範 ,   菅沼和樹 ,   鹿島健

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに

 深頸部感染症は頸部の間隙に蜂窩織炎や膿瘍を生ずる重篤な疾患であり,気道狭窄によって窒息死する危険がある1)。そのため気道確保が重要な問題となるが,気管内挿管で対処できることが多いが今回われわれは気道狭窄が著明なため気管内挿管ができず,輪状甲状靭帯切開によって気道を確保せざるを得なかった症例を経験したので若干の文献的考察を交えて報告する。

肺多形癌の口腔転移症例

著者: 須藤敏 ,   崎浜教之 ,   梅木寛 ,   近藤俊輔 ,   嵩下英二郎 ,   国島文史 ,   田中麻紀

ページ範囲:P.719 - P.723

はじめに

 転移性口腔腫瘍は比較的稀であり1.2),全口腔癌の約1%を占めるのみといわれている3)。さらにその多くは下顎骨に発生し,歯肉に発生する頻度は稀である1~3)

 今回われわれは,肺癌のなかでも稀な,肺多形癌の口腔転移症例を経験した。

 本症例は全身検索中,口腔腫瘤の急速な増大を認めた。嚥下障害と睡眠障害が重篤化し,QOLの著しい低下をきたしたため,口腔腫瘍切除術を先行させた。術後は早期より経口摂取可能となり,睡眠障害も改善された。

 肺原発の多形癌は予後不良であるが,頭頸部領域の転移巣において積極的な手術療法を行うことにより,終末期のQOLの改善に寄与できたと考えられた1例を経験したので報告する。

重症組織球性壊死性リンパ節炎の1例

著者: 瀧正勝 ,   二之湯弦 ,   山道怜 ,   中野宏 ,   水谷浩美 ,   益田浩司 ,   古林勉 ,   黒田純也 ,   久育男

ページ範囲:P.725 - P.728

はじめに

 組織球性壊死性リンパ節炎は1972年に菊池1),藤本ら2)によって報告された疾患で,発熱,頸部リンパ節腫脹を主症状とする。副腎皮質ステロイドの投与が有効だが,皮疹や肝障害をきたす例も報告されている3,6)。今回,われわれは重症の組織球性壊死性リンパ節炎を経験したので報告する。

耳下腺腫瘍における穿刺吸引細胞診の臨床統計的検討

著者: 平賀幸弘 ,   黄淳一 ,   霜村真一 ,   小山敏雄

ページ範囲:P.729 - P.733

はじめに

 穿刺吸引細胞診(fine-needle aspiration cytology:FNAC)は,耳下腺腫瘍の術前検査として古くは播種の危惧から禁忌とされていた。しかし,1980年初頭より徐々に行われるようになり1),現在は一般的な検査となっている。当科では,筆者が赴任した1988年からエコーガイド下にほぼ全症例に行ってきた。

 今回,手術を行った耳下腺腫瘍一次症例の術前FNACの結果と術後病理組織診断の結果を統計的に解析・検討し,当院におけるFNACの有用性を明確にし,さらに精緻な術前検査とすることが本報告の目的である。

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.651 - P.651

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.735 - P.735

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.736 - P.736

投稿規定

ページ範囲:P.738 - P.738

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.739 - P.739

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.740 - P.740

 先週は私の本拠地,神戸市のポートアイランドで「第75回耳鼻咽喉科臨床学会」が開催されました。「耳鼻咽喉科臨床の実践と教育」というキャッチフレーズどおり,聴衆参加型パネルディスカッション,卒後臨床や女性医師のキャリアアップについての特別企画など,阪上雅史会長(兵庫医科大学)のアイディアが随所に盛り込まれた充実した素晴らしい学会でした。私は気楽な立場でしたので,期間中は毎晩,関東から来られた恩師に神戸の味を堪能していただくことに専念していました。

 さて,今月号の特集は「局所副腎皮質ステロイドの使い方」です。局所副腎ステロイドは経口投与や静注などと比べ,全身的副作用が少なく,高濃度の薬剤を病変に直接作用させることができる利点があり,とりわけ,妊婦や乳幼児など,全身投与を避けたい患者では非常に有用です。しかしながら,局所あるいは全身への副作用が全くないわけではなく,薬理作用の強さや使用量,使用期間には十分注意を払う必要があります。そこで本特集では,総論を東京慈恵会医科大学薬理学の川村将弘名誉教授にお願いし,日常臨床において局所副腎皮質ステロイドの局所投与が行われている代表的な疾患について,急性感音難聴を佐藤宏昭先生(岩手医科大学),メニエール病を肥塚 泉先生(聖マリアンナ大学),好酸球性中耳炎・副鼻腔炎を中川尚志先生(福岡大学),鼻アレルギーを神崎 晶先生(慶應義塾大学),嗅覚障害を三輪高喜先生(金沢医科大学),急性咽喉頭炎・嗄声を楠山敏行先生(東京ボイスクリニック),外耳道湿疹・他を杉本一郎先生(広島大学)に解説をお願いしました。いずれも副腎皮質ステロイド薬の作用機序や特徴,位置づけ,至適な投与方法,小児や妊婦,高齢者への安全性,使用上の注意点など解りやすく簡潔に記載していただいています。ぜひ,ご一読ください。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?