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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科86巻10号

2014年09月発行

雑誌目次

特集 咽頭癌・頸部食道癌の治療戦略Update

ページ範囲:P.797 - P.797

≪個別化治療の現在≫

EBVからみた上咽頭癌の個別化治療

著者: 室野重之 ,   吉崎智一

ページ範囲:P.798 - P.806

POINT

●EBVと上咽頭癌の関係について,発癌機構および高転移能は解明されてきたが,これまで臨床的な応用はなされていない。

●HPVと中咽頭癌の関係とは異なり,EBVの有無に基づく個別化治療への傾向はない。

●血漿中のEBV DNAは,上咽頭癌の診断だけでなく,病勢監視にも有用である。

●治療前および治療後の血漿中EBV DNAは予後と関連付けられる。後者がより強い相関を示す。

●治療後の血漿中EBV DNAに基づく補助化学療法の重要性に関する臨床試験が,好発地域で行われている。

HPVからみた中咽頭癌の個別化治療

著者: 家根旦有

ページ範囲:P.807 - P.811

POINT

●日本でもHPV陽性中咽頭癌は約50%で増加傾向にある。

●HPV陽性中咽頭癌は手術,放射線,化学療法のいずれの治療方法でも予後はよい。

●進行癌であれば患者のQOLを考慮した化学放射線治療を選択することが多い。

●HPVの検出方法は確定されていないが,代替マーカーとしてp16免疫染色法が広く用いられている。

●現在HPV陽性中咽頭癌を対象とした低侵襲治療の臨床試験が行われているが,明らかな結論が出るまでは実際の臨床で用いるべきではない。

PETからみた咽頭癌の個別化治療

著者: 花本敦

ページ範囲:P.812 - P.818

POINT

●ワールブルグ効果によって咽頭癌の糖の取り込みは亢進する。

●FDG-PETは普及し3次元解析も一般化。

●MTV,TLGが化学放射線療法の予後を予測する能力が高い。

●治療効果判定としてのPERCISTの評価。

●MTVやPERCISTを用いての個別化治療。

≪放射線療法と薬物療法≫

過去の臨床試験から咽頭癌・頸部食道癌の新しい放射線治療の意義と問題点を考える

著者: 久保田彰

ページ範囲:P.820 - P.827

POINT

現在明らかになっている咽頭癌・頸部食道癌に対する放射線治療の意義と問題点を示す。

●咽頭癌,頸部食道癌の標準治療に組み入れられている放射線治療は,導入化学療法に奏効後の放射線と化学放射線同時併用療法である。

●非通常分割照射は標準分割照射よりloco-regional control率が向上する。

●化学放射線同時併用療法,非通常分割照射は標準分割照射より急性有害事象を増強する。

●強度変調放射線治療は耳下腺線量を減量して口腔乾燥を軽減する。さらに嚥下機能に関連する部位の線量を減量して遅発性嚥下障害を軽減する可能性がある。

●標準分割照射の化学放射線同時併用療法の治療効果が最も高い。

分子標的薬時代の咽頭癌に対する薬物療法

著者: 田口享秀 ,   折舘伸彦

ページ範囲:P.828 - P.833

POINT

●現在,頭頸部癌においてセツキシマブ(cetuximab)が唯一の分子標的薬として進行症例を対象に承認されている。

●一次治療として,放射線治療とセツキシマブの同時併用は,シスプラチンを含む従来の化学放射線療法とともに治療選択肢の1つに挙げられる。

●再発あるいは遠隔転移で根治治療ができない頭頸部扁平上皮癌症例に対して,白金製剤,フルオロウラシル,セツキシマブの併用は有用な治療法と考えられる。

●セツキシマブの併用法として,導入化学療法後の放射線治療への併用,導入化学療法への併用,術後補助療法としての放射線治療への併用なども検討されている。

≪機能温存手術≫

咽頭癌に対する機能温存手術—経口的切除術

著者: 荒木幸仁 ,   冨藤雅之 ,   山下拓 ,   塩谷彰浩

ページ範囲:P.834 - P.841

POINT

●経口的切除術は低侵襲,機能温存治療の1つとして,近年機器の発達とともに普及しつつある。

●さまざまな術式があり,世界的にはレーザーを用いたTLM,手術用ロボットを用いたTORS,わが国では内視鏡下手術TOVSなどが開発されてきた。

●経口的切除術の治療成績は良好であり,適切な症例の選択を行えば低侵襲な機能温存手術として有用性が高い。

●化学放射線治療後の救済手術や,導入化学療法による腫瘍縮小症例に対する機能温存手術としても,適応可能であれば効果的な治療となりえる。

●N0症例ではセンチネルリンパ節生検と組み合わせることで,原発巣に対する低侵襲手術と頸部郭清術省略が可能となり,低侵襲・個別化治療として期待される。

下咽頭・頸部食道癌に対する機能温存手術—外切開による喉頭温存手術

著者: 松浦一登

ページ範囲:P.842 - P.849

POINT

●喉頭温存手術は治療後のQuality of Survival(QOS)を考えた場合に戦術上重要である。

●下咽頭癌に対する喉頭温存・下咽頭喉頭部分切除術の最大切除範囲は,一側の梨状陥凹,後壁を切除し,喉頭の一側の披裂・披裂喉頭蓋ヒダを切除するまでと考えている。

●頸部食道癌に対する喉頭温存・頸部食道切除術の適応は,腫瘍が頸部食道〜頸胸境界部に局在する症例で,反回神経麻痺がなく,喉頭浸潤・気管浸潤がないことである。

●喉頭温存・下咽頭喉頭部分切除術では,一側の披裂喉頭蓋ヒダと梨状陥凹に留まる切除なら一期縫縮が可能である。一方,一側の梨状陥凹を越えて後壁や輪状後部に達する切除例や,一側の披裂喉頭蓋ヒダを越えて披裂軟骨上半分を含む切除を要する症例では,遊離組織再建が必要である。

●術直後の喉頭・咽頭の観察が浮腫や唾液の貯留などで困難であることから,モニター空腸やモニター皮弁を頸部に留置している。

●完全喉頭機能温存が果たせた症例は85%であった。

●喉頭温存・下咽頭喉頭部分切除術症例のKaplan-Meier法による5年疾患特異的生存率は90.0%であった。

原著

MRIにて非典型像を呈した鼓室型グロームス腫瘍例

著者: 橘智靖 ,   小河原悠哉 ,   松山祐子 ,   清水藍子 ,   阿部郁 ,   小田晋輔 ,   内野かおり ,   和仁洋治 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.851 - P.855

はじめに

 グロームス腫瘍は中耳に発生する良性腫瘍の1つである。確定診断は病理組織診断によるが,症状・鼓膜所見に加え,画像検査が診断の重要な手がかりとなる。また血流豊富な腫瘍であり,摘出に出血のリスクを伴うため,術前に腫瘍の血流・進展範囲を正確に評価する必要がある。今回われわれはMRIにて非典型像を呈した鼓室型グロームス腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

耳下腺発生の高分化型脂肪肉腫症例

著者: 平賀幸弘 ,   霜村真一 ,   黄淳一 ,   金井真理 ,   小山敏雄

ページ範囲:P.857 - P.861

はじめに

 わが国における悪性軟部腫瘍の発生率は10万人に2人で,剖検数からみた全悪性腫瘍に占める頻度は0.14%であった1)。日本整形外科学会の全国骨軟部腫瘍登録一覧表(2010年)によると,脂肪肉腫の組織別発生頻度は最も高く38.4%であった2)。一方,頭頸部における脂肪肉腫の発生は稀であり全肉腫中の約1%3),全脂肪肉腫中の3.4〜4.4%と報告されている4,5)。さらに,耳下腺発生の詳細な症例報告はわれわれが渉猟した限りわが国では認められず,国外では6症例がみられたのみであった6〜8)

 今回われわれは,中年男性の耳下腺に発生した高分化型脂肪肉腫の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

視器障害を主訴とし内視鏡手術を行った鼻副鼻腔疾患症例の検討

著者: 遠藤稔 ,   塚原清彰 ,   中村一博 ,   本橋玲 ,   佐藤宏樹 ,   鈴木衞

ページ範囲:P.863 - P.866

はじめに

 副鼻腔と視器は解剖学的に隣接しており,鼻副鼻腔疾患ではさまざまな視器障害が生じやすい。また,視器障害を呈した場合,早期の診断,治療が重要である。一方で,視器障害を主訴に耳鼻咽喉科を初診することは少ない。今回,視器障害を主訴とし,鼻副鼻腔内視鏡手術を行った症例について検討したので報告する。

扁桃周囲膿瘍治療における細菌検査の役割

著者: 津田香南子 ,   竹中幸則 ,   佐々木崇博 ,   猪原秀典

ページ範囲:P.867 - P.870

はじめに

 扁桃周囲膿瘍は,扁桃炎,扁桃周囲炎に引き続いて扁桃周囲に膿瘍を形成する病態であり,耳鼻咽喉科領域でよくみられる救急疾患である。深頸部膿瘍や縦隔膿瘍といった重篤な状況に進行することがあり早期に適切な治療が必要となる1)。扁桃周囲膿瘍の起炎菌としては溶連菌や口腔内細菌が挙げられる2)。通常,感染症治療においては使用抗菌薬を選択するために細菌検査は必須と考えられているが,一方で扁桃周囲膿瘍に関しては細菌検査は有用でないとする海外の報告もみられる3〜5)。しかし,わが国では扁桃周囲膿瘍に対して細菌検査を施行するのが一般的である。そこで今回われわれは扁桃周囲膿瘍の治療において細菌検査結果が治療に与える影響について検討した。

鏡下囁語

ベルリンの自然科学博物館(Museum für Naturkunde)の恐竜の大きな三半規管

著者: 加我君孝

ページ範囲:P.872 - P.874

 ベルリンにあるフンボルト大学の附属病院Charitéの近くに自然科学博物館(Museum für Naturkunde)があり,沢山の恐竜コレクションの巨大な骨格が展示されている。そのため展示室は体育館のように大きい(図1)。恐竜の名はブラキオザウルスで高さが13mもある。その頭部だけでも大きいのでびっくりさせられた(図2)。このような大きな体格を維持するには,どれだけの量を食べていたのであろうか。

 爬虫類である恐竜の眼は発達しており,聴覚よりも視覚優位の巨大動物である。体のバランスや回転運動を感じる三半規管は魚類や両棲類,爬虫類,鳥でもよく発達している。私は小動物の進化の各段階に沿って三半規管や耳石器を,連続切片の標本にしてよく観察したものであるが,恐竜のものは見たことがなかった。ベルリンのフンボルト大学での耳鼻咽喉科の学会で,会長のScherer教授がその鋳型を見せてくれた(図3,4)。手のひらに置いて見せてくれたが,サイズが大きいのには驚かされた。各三半規管の輪はヒトの親指ほどもある。ヒトの三半規管の輪の曲率直径は約6.4mmと小さい1)。体の大きい動物,例えば,ゾウの三半規管はもっと大きいのであろう。私はそっと近寄って写真に撮らせてもらった。爬虫類のため蝸牛は形成されず三半規管と耳石器だけである。哺乳類の内耳を見慣れていると妙な印象を与えるが,貴重な写真となった。三半規管の曲率直径は,Scherer教授の親指ほどもあるので,恐らく18mmほどはあると考えられる。ヒトの三半規管の3倍近くの大きさである。

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欧文目次

ページ範囲:P.793 - P.793

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.875 - P.875

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.876 - P.876

投稿規定

ページ範囲:P.878 - P.878

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.879 - P.879

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.880 - P.880

 エボラ出血熱の集団感染が大変なことになっています。西アフリカで拡大するエボラ出血熱についてWHOは「緊急事態」を宣言し,世界的流行を防ぐため国際協調による対応を呼びかけました。さらに死者が1,400名を超え,アフリカ大陸外への波及が懸念される状況から,「制御が困難な状況に陥っている」として各国の水際作戦の必要性を強調しました。3月にギニアで集団感染が報告され,その後,隣国のリベリア,シエラレオネにも波及し,7月にはナイジェリア,サウジアラビアでも感染が確認されました。成田空港を初めとして日本でも厳戒態勢となっています。

 以前,アフリカからアメリカに持ち込まれた致死性の高いウイルスに立ち向かう人々を描いたダスティン・ホフマン主演の『アウトブレイク』という映画が話題になりました。主役のウイルスは架空のモターバ・ウイルスでしたが,そのモデルはエボラウイルスといわれています。実際,ワシントン首都圏で発生したエボラ出血熱のカニクイザルへの流行を描いた『ホットゾーン』という小説がモデルとなったようです。モターバ・ウイルスは致死率は100%ときわめて高いという設定でしたが,実際のエボラ出血熱も致死率は50〜90%といわれ,その恐ろしさは深刻です。映画さながらのパニックが現実になっています。グローバルな世の中になるということは,このような世界規模の感染症が国内に波及する危険があるということですので,感染症に対する認識を新たにしなければなりません。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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