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文献概要
原著
下顎骨骨髄炎が原因と考えられた深頸部ガス壊疽の1例
著者: 吉﨑直人1 渡邊健一1
所属機関: 1仙台社会保険病院耳鼻咽喉科(現:独立行政法人地域医療機能推進機構JCHO仙台病院)
ページ範囲:P.937 - P.942
文献購入ページに移動はじめに
ガス壊疽とは,軟部組織壊死を引き起こす軟部組織内感染症のうち,嫌気性菌感染によって体内にガス産生を生じた壊疽性感染症の総称で,嫌気性桿菌であるClostridium 属を起炎菌とするClostridium 性と非Clostridium 性に大別される。その臨床症状は急速に進行し,局所所見では組織内ガス像や筋組織破壊に伴う激しい疼痛,著明な発赤腫脹などを認め,敗血症やdisseminated intravascular coagulation(DIC)などの重篤な病態に陥る危険性を有している。深頸部感染症は歯原性の炎症や,扁桃炎や顎下腺炎といった耳鼻咽喉科領域の感染症の続発症として発症することが多く,形成された膿瘍や組織内ガスは頭頸部領域の疎な頸部組織の間隙を通じて縦隔にまで進展することもあり,縦隔炎を生じた場合には死亡率が上昇するといわれている1〜7)。ガス壊疽の治療には,切開・排膿・デブリドマンといった外科的処置,感染部位の生理食塩水洗浄,起炎菌に対して感受性を有する抗菌薬の投与が必要であり,特に抗菌薬投与は長期間継続して必要となる場合もある。今回われわれは,下顎骨骨髄炎が原因と考えられた右深頸部ガス壊疽を発症した血液透析症例を経験したので,その概要と経過に文献的考察を加えて報告する。
ガス壊疽とは,軟部組織壊死を引き起こす軟部組織内感染症のうち,嫌気性菌感染によって体内にガス産生を生じた壊疽性感染症の総称で,嫌気性桿菌である
参考文献
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