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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科87巻10号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 長引く咳を診る

ページ範囲:P.769 - P.769

成人の咳嗽の鑑別

著者: 檜澤伸之

ページ範囲:P.770 - P.775

POINT

●慢性咳嗽は,原因が曖昧な状態で漫然と鎮咳薬,抗炎症薬や抗菌薬が投与され,生活の質が著しく低下したまま放置されてしまう危険がある。

●肺炎,肺結核,肺がん,間質性肺炎,喘息,慢性閉塞性肺疾患の有無を病歴聴取,身体所見や胸部画像検査,呼吸機能検査で鑑別する。

●咳喘息,アトピー咳嗽,副鼻腔気管支症候群,さらには胃食道逆流などを念頭に治療的鑑別を進める。

●原因によらず内因性の咳感受性亢進が慢性咳嗽に一定の役割を果たしている可能性がある。

小児の咳嗽の鑑別

著者: 徳山研一 ,   古賀健史

ページ範囲:P.776 - P.781

POINT

●小児の長引く咳嗽の診断は年齢を考慮して行う必要がある。

●診断の基本は,詳細な病歴聴取などにより原因疾患の手掛かりとなる所見(特異的所見)を明らかにし,鑑別を進めていくことである。

●診断的治療を行う場合は,一定期間内に治療効果を判定し,無効の場合は診断を再考する。漫然と治療を継続することは避けるべきである。

咳に対する対症療法

著者: 西耕一

ページ範囲:P.782 - P.789

POINT

●咳嗽治療薬には原因疾患に特異的な治療薬と非特異的な治療薬(いわゆる鎮咳薬)がある。

●長引く咳嗽の場合はできるだけ原因疾患を明らかにし,特異的治療を行う。

●特異的治療を行っても効果が不十分な咳嗽や原因不明の咳嗽により患者のQOLが著しく低下している場合に,非特異的治療薬を投与する。

●乾性咳嗽の非特異的治療薬として主に中枢性鎮咳薬が用いられるが,鎮咳効果は限定的である。

●湿性咳嗽の非特異的治療薬として主に去痰薬が用いられるが,鎮咳効果は限定的である。

●新規の強力な非特異的咳嗽治療薬の開発が待たれている。

≪疾患別:咳の診かた≫

鼻副鼻腔疾患による咳

著者: 竹内万彦

ページ範囲:P.791 - P.797

POINT

●鼻副鼻腔疾患が咳嗽の原因となる頻度は多く,湿性咳嗽を呈する。

●後鼻漏による刺激,後鼻漏による下気道の過敏性を亢進させるなどが機序と考えられるが,不明な点が多い。

●副鼻腔気管支症候群とは,慢性・反復性の好中球性気道炎症を上気道と下気道に合併した病態である。

●わが国でのびまん性汎細気管支炎の症例は少なくなってきていると考えられる。

●原発性線毛運動不全症の症例の多くは,まだ診断されていない。

喉頭疾患による咳

著者: 齋藤康一郎

ページ範囲:P.798 - P.801

POINT

●8週間以上症状が持続する慢性咳嗽のなかで,喉頭疾患によるものは多くはないことを知り,主たる疾患が見逃されていないか留意する。

●日本は結核の中蔓延国であり,その感染性からも,結核に関連した咳を診療に際して常に念頭におく必要がある。

●慢性咳嗽のなかに,「ニューロパチー」の症状としての咳という概念が提唱され,注目されている。

●さまざまな原因を適切に診断・除外しながらの治療には,複数診療科,コメディカルと連携して患者に対応する必要がある。

喉頭アレルギー

著者: 内藤健晴

ページ範囲:P.803 - P.807

POINT

●耳鼻咽喉科領域の慢性咳嗽の原因としては後鼻漏症候群,喉頭アレルギー,胃食道逆流症(咽喉頭逆流症)が重要である。

●喉頭アレルギーは急性と慢性に分類され,慢性はさらに季節性と通年性に分類される。慢性咳嗽の原因となるのは慢性通年性喉頭アレルギーである。

●通年性喉頭アレルギーは診断基準(2011年版)が提唱されている。

●喉頭アレルギーの咳嗽には抗ヒスタミン薬が有効である。

●慢性咳嗽は喉頭癌,肺癌,肺結核,肺線維症など重篤な疾患の除外が重要である。

胃食道逆流症・咽喉頭逆流症

著者: 田辺輝彦 ,   折舘伸彦

ページ範囲:P.808 - P.812

POINT

●胃の内容物が食道に逆流する現象を胃食道逆流といい,胃食道逆流によって引き起こされる病態を胃食道逆流症という。

●胃の内容物が咽喉頭に逆流する現象を咽喉頭逆流といい,それにより引き起こされる病態を咽喉頭逆流症という。

●病歴や質問票は診断に有用とされるが,各種検査法については,咳嗽との関連が証明できておらず,侵襲性などの観点からも確立していない。

●GERDを伴う原因不明の慢性咳嗽に対する治療はPPIの内服,ヒスタミンH2受容体拮抗薬の内服,消化管運動改善薬,生活指導,噴門形成術が効果のある可能性があるとされている。

●第一選択とされるPPIにおいても,治療効果はないか,限定的との報告があり,現状ではエビデンスのある有効な治療法はない。

咳喘息と喘息

著者: 田中裕士 ,   加藤冠

ページ範囲:P.813 - P.819

POINT

●咳喘息の咳嗽は,夜間〜早朝に悪化する傾向があり,典型的喘息に認められる喘鳴や呼吸困難はない。

●咳嗽には季節性変動があり,典型的な喘息の場合と似たアトピー素因がある。

●呼吸機能の低下はなく,気道過敏性亢進が認められることが多い。

●呼気中一酸化窒素は上昇している場合が比較的多いが,平均値では健常人と典型的喘息の中間の値である。

●治療は吸入ステロイド(ICS)または長時間作用性β2刺激薬との吸入配合薬(ICS/LABA)が著効する。

●アレルギー性鼻炎や胃食道逆流症の合併があると,ICSまたはICS/LABAのみでは咳嗽が止まらない。

百日咳とマイコプラズマ肺炎

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.821 - P.827

POINT

●百日咳の患者年齢に変化が認められる。

●百日咳の症状は,ワクチン接種や月齢・年齢によりさまざまである。

●百日咳に特徴的な咳を問診で聞き出すことが大切である。

●マイコプラズマ肺炎治療の第一選択薬は,マクロライド系抗菌薬である。

●マクロライド系抗菌薬に対して耐性かどうかの判断法と治療上の注意点をまとめた。

肺炎・気管支炎

著者: 鳥羽聡史 ,   門田淳一

ページ範囲:P.828 - P.834

POINT

●感染症が咳嗽の原因となる頻度は急性で最も多く,遷延性から慢性になるに従い低下する。

●遷延性咳嗽を引き起こす原因微生物にはマイコプラズマ,クラミドフィラ,百日咳がある。

●咳嗽が主体の感染症の多くは抗菌薬が不要である。

●抗菌薬が必要な活動性感染症を見逃さないためには,胸部X線写真が必要である。

心因性の咳

著者: 古川智一 ,   須藤信行

ページ範囲:P.836 - P.840

POINT

●咳嗽の性状や出現のタイミングなどの臨床的特徴のみでは,心因性咳嗽の診断は困難である。

●心因性咳嗽の診断には,慢性咳嗽をきたしうる器質的・機能的疾患の除外が重要である。

●トゥレット症候群を含むチック障害との鑑別も必要である。

●鎮咳薬など通常の身体治療が無効であり,心理療法や向精神薬などの薬物療法が奏効することがある。

●治療が困難な症例は,心療内科など専門医への紹介が望ましい。

原著

術後に遅発性の顔面神経麻痺・内耳障害を発症した中耳結核例

著者: 竹久誠 ,   安井拓也 ,   伊藤健

ページ範囲:P.841 - P.846

はじめに

 成人の難治性中耳炎の鑑別疾患としては,真珠腫性中耳炎,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎性中耳炎,中耳結核(結核性中耳炎),好酸球性中耳炎,悪性腫瘍などがある。今日,中耳結核は稀ではあるが,一般細菌による慢性中耳炎との鑑別は時に困難である。その要因としては古典的な症状がみられにくくなったことやニューキノロン点耳薬に感受性を示す場合があることなどが挙げられる。側頭骨CTでも特異的な所見はなく,肺に病変を伴っていない例,結核菌への曝露歴が不明な例も挙げられる。今回われわれは鼓室形成術後に進行性の鼓膜壊死,顔面神経麻痺,内耳障害をきたし,最終的に中耳結核の診断に至った1例を経験したので報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.765 - P.765

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.847 - P.847

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.848 - P.848

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.852 - P.852

 慶應義塾大学病院から中央線の線路を渡った南側に神宮外苑があります。病院からの借景として長年親しんできた壮大な公園です。神宮外苑は明治天皇崩御後に明治天皇の業績を後世までに残すという趣旨で1926年に完成しました。銀杏並木からの景観が素晴らしい聖徳記念絵画館を中心として,明治記念館,明治神宮外苑競技場,野球場などの施設が整備されました。明治神宮外苑競技場は戦時中の出陣学徒壮行会の会場としても有名です。戦後,この競技場は1958年に予定されていた第3回アジア競技大会の主会場となることが決まり,収容力7万人の大スタジアムとして建て替えられましたが,招致を表明していた東京五輪での使用も視野に設計されました。着工からわずか1年2か月で完成したというスピード建築からも国家事業としての気合いがわかります。落成式の様子を伝えるニュースでは「世界的水準」や「世界一級の大スタジアム」といった賞賛の言葉が並び,戦後の復興期に国を挙げて寄せていた大きな期待を感じます。当時の国立競技場の総工費は13億円でしたが,その設計,建設には批判の声はまったくありませんでした。総工費が2,520億円に膨らんだ結果,白紙撤回された新国立競技場,新旧の国立競技場の船出はまったく対照的です。どのような新国立競技場になるのか,後世まで借景としても親しめる新国立競技場となることを切に期待したいと思います。

 さて,今月号の特集は「長引く咳を診る」です。耳鼻咽喉科臨床の現場でも「咳」は頻度の高い症状の1つです。特に検査所見に乏しい「咳」は治療に難渋することも少なくありません。つまり,その診断と治療には経験が必要であり,エキスパートの所見の見方や治療戦略を学ぶことは,「長引く咳」に精通する近道です。本特集では「成人の咳嗽の鑑別」,「小児の咳嗽の鑑別」,そして「咳に対する対症療法」の総論から,疾患別:咳の診かたとして,代表的な8疾患について,それぞれの領域のエキスパートに咳の診かたのポイントをご教示していただきます。今回は「長引く咳を診る」に集中していただき,咳の診かたをマスターしましょう。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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