あとがき
著者:
小川郁
ページ範囲:P.852 - P.852
慶應義塾大学病院から中央線の線路を渡った南側に神宮外苑があります。病院からの借景として長年親しんできた壮大な公園です。神宮外苑は明治天皇崩御後に明治天皇の業績を後世までに残すという趣旨で1926年に完成しました。銀杏並木からの景観が素晴らしい聖徳記念絵画館を中心として,明治記念館,明治神宮外苑競技場,野球場などの施設が整備されました。明治神宮外苑競技場は戦時中の出陣学徒壮行会の会場としても有名です。戦後,この競技場は1958年に予定されていた第3回アジア競技大会の主会場となることが決まり,収容力7万人の大スタジアムとして建て替えられましたが,招致を表明していた東京五輪での使用も視野に設計されました。着工からわずか1年2か月で完成したというスピード建築からも国家事業としての気合いがわかります。落成式の様子を伝えるニュースでは「世界的水準」や「世界一級の大スタジアム」といった賞賛の言葉が並び,戦後の復興期に国を挙げて寄せていた大きな期待を感じます。当時の国立競技場の総工費は13億円でしたが,その設計,建設には批判の声はまったくありませんでした。総工費が2,520億円に膨らんだ結果,白紙撤回された新国立競技場,新旧の国立競技場の船出はまったく対照的です。どのような新国立競技場になるのか,後世まで借景としても親しめる新国立競技場となることを切に期待したいと思います。
さて,今月号の特集は「長引く咳を診る」です。耳鼻咽喉科臨床の現場でも「咳」は頻度の高い症状の1つです。特に検査所見に乏しい「咳」は治療に難渋することも少なくありません。つまり,その診断と治療には経験が必要であり,エキスパートの所見の見方や治療戦略を学ぶことは,「長引く咳」に精通する近道です。本特集では「成人の咳嗽の鑑別」,「小児の咳嗽の鑑別」,そして「咳に対する対症療法」の総論から,疾患別:咳の診かたとして,代表的な8疾患について,それぞれの領域のエキスパートに咳の診かたのポイントをご教示していただきます。今回は「長引く咳を診る」に集中していただき,咳の診かたをマスターしましょう。