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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科87巻8号

2015年07月発行

雑誌目次

特集① 突発性難聴とその周辺疾患

ページ範囲:P.557 - P.557

突発性難聴の疫学

著者: 中島務

ページ範囲:P.558 - P.563

POINT

●日本で1970年代はじめに決められた突発性難聴の診断基準は,国際的なものに合うように2012年に変更になった。

●新しい診断基準を用いて2012年度発症の突発性難聴の疫学調査が岩手県,愛知県,愛媛県で行われた。3県は,開業医を含んでの調査が可能で,地理的に分散するように東日本,中部,西日本から選ばれた。

●2012年度の調査から,突発性難聴は人口10万人あたり年間60.9人発症していた。

●年代別の人口あたりの発症は,50代から70代に多く,60代にピークがあった。

●男女別では10代から50代は女性が多く,80代,90歳以上では男性が多かった。

●新しい診断基準を用いた調査では,急性低音障害型感音難聴確実例の診断基準にも相当する症例が全体の18%あった。

突発性難聴の病態

著者: 松永達雄 ,   瀧口洋一郎

ページ範囲:P.564 - P.572

POINT

●突発性難聴の病態として循環障害説とウイルス感染説が有力な説とされてきた。

●近年ストレス応答説が提唱されており,新たな病態論として注目が集まっている。

●内耳ミトコンドリアの急性障害による突発性難聴動物モデル(急性内耳エネルギー不全モデル)では蝸牛線維細胞の障害が主たる病態であり,組織再生と可塑的変化が続く。

●難聴発症には小胞体ストレス,カスパーゼ経路アポトーシス,炎症性サイトカイン・ケモカインなどが関与する。

●蝸牛線維細胞の変性に対して骨髄間葉系幹細胞移植,シャペロン分子リガンドの効果が認められる。

突発性難聴の臨床

著者: 曾根三千彦

ページ範囲:P.574 - P.578

POINT

●突発性難聴の臨床像の把握のためには,的確な診断が必要である。

●突発性難聴症例の重症度の割合は,診療施設により大きな隔たりがある。

●近年ステロイド鼓室内注入療法が頻用され,その有用性も報告されている。

●Grade 3症例の治癒および著明回復は53.5%,Grade 4症例では40%のみである。

●QOLに大きく影響する固定時の難聴遺残と耳鳴持続に対して,きめ細かな対応が必要である。

急性低音障害型感音難聴

著者: 野口佳裕

ページ範囲:P.580 - P.586

POINT

●急性低音障害型感音難聴は,最も頻度の高い急性の感音難聴である。

●2012年の診断基準(案)では,高音域3周波数の聴力レベルが低下していても健側と同程度のものは準確実例として定められた。

●原因は不明とされるが,病態の1つとして内リンパ水腫が想定されている。

●難聴不変例,反復例,再発例,悪化例,メニエール病への移行例が存在し,本疾患の長期的予後は必ずしも良好ではない。

外リンパ瘻と突発性難聴

著者: 池園哲郎

ページ範囲:P.588 - P.592

POINT

●外リンパ瘻診断に生化学的客観的診断法CTP検査が導入された。

●CTP濃度判定のカットオフ値が改訂され,より厳しい基準となった。

●受託検査会社の協力を得て全国約150施設で検査可能となっている。

●外リンパ瘻疑い例の約20%がCTP陽性であった。

●突発性難聴は特発性疾患であるが,その一部の原因として外リンパ瘻が挙げられる。

●手術の治療効果については今後の解析が待たれる。

急性音響外傷

著者: 松延毅

ページ範囲:P.594 - P.601

POINT

●音響性聴覚障害には急激に発症するものと緩徐に発症するものがある。

●強大音曝露により生じる一過性の聴力閾値変動をnoise-induced temporary threshold shift(NITTS)と呼び,閾値上昇が改善しない場合をnoise-induced permanent threshold shift(NIPTS)と呼ぶ。発症時にNITTSとNIPTSとを鑑別することは困難であるため,できるだけ早急に治療を開始する必要がある。

●これらの急性音響外傷や急性音響性難聴は予防が大切である。

聴神経腫瘍と突発難聴

著者: 高橋真理子 ,   村上信五

ページ範囲:P.602 - P.610

POINT

●突発性難聴の0.8〜5.7%に聴神経腫瘍が存在し,突発難聴の既往がある聴神経腫瘍は自験例で34.2%に認められた。

●聴神経腫瘍における突発難聴の聴力型は,谷型が多い。

●突発難聴の既往がある聴神経腫瘍の27%が2回以上突発難聴を繰り返していた。

●突発難聴はステロイド治療にて改善するが,繰り返すたびに改善率は低下する。

●突発性難聴で聴神経腫瘍が疑われる場合,ガドリニウム造影またはCISS画像のMRIで精査すべきである。

特集② 味と味覚障害の最前線

ページ範囲:P.611 - P.611

味覚はどこまでわかったか

著者: 長井孝紀

ページ範囲:P.612 - P.621

Point

●甘い,酸っぱいなどの味が味覚の受容器と神経系の働きで,どのように区別されているのか解説する。

●味蕾には苦味,甘味,旨味を受容する細胞群と塩味,酸味を受容する細胞群とがある。

●味覚の神経系が味質をどのように区別して脳へ伝えているかについて,ラベルドライン説とニューロンパターン説という2つの考え方がある。

●第一次味覚野では味質ごとの機能局在があるが,特定の味質に応答するニューロンの分布領域には重なりがあるといわれていた。

●第一次味覚野でCa2+濃度変化を測定した最近の研究では,苦味,甘味,塩味,旨味刺激に特異的に応答し,それぞれの味質ごとに明確に分離された領域が同定されている。

●顔面神経神経節の単一ニューロンで味刺激時のCa2+濃度変化を調べると,1種類の味刺激への特異性がきわめて高く,ラベルドラインによって情報伝達されるとの主張がある。

味覚の発達と妊娠・加齢による変化

著者: 太田康

ページ範囲:P.622 - P.625

Point

●ヒトの味蕾は胎生期7週くらいから茸状乳頭が発生し,14〜15週ころには大部分の味蕾の味孔が形成される。新生児では味を明確に識別できる。

●味細胞は常にターンオーバーをしており,増殖,分化,成熟,脱落を繰り返しており,加齢とともに増殖速度が低下していく。

●65歳から74歳の人口の約11%が味覚低下を自覚しており,75歳以上になると人口の約20%が味覚低下を自覚している。

●妊婦はその9割に嗜好の変化が認められるといわれており,酸味,塩味,甘味などを好み,また濃い味を好む。これらの妊婦の味覚の変化は妊娠の継続,維持において,合目的的な変化であると考えられる。

味覚障害の疫学と臨床像

著者: 三輪高喜

ページ範囲:P.626 - P.633

Point

●味覚障害患者は高齢社会の進行とともに増加し,今後も増加が予想される。

●おいしさは,味覚以外にも風味,食味に加え,外部環境,食環境,生体環境により影響を受ける。

●味覚の維持と障害の発生に亜鉛欠乏は重要な役割を果たす。

●味覚障害の原因として代表的なものは,薬物性,全身疾患性,口内疾患,心因性であるが,それぞれの原因が相互に関連し,悪循環を形成することが多い。

●味覚障害はQOLの低下を招くのみならず,健康状態へも悪影響を及ぼすことを認識しなければならない。

味覚障害の診断ABC

著者: 生井明浩

ページ範囲:P.634 - P.640

Point

●他疾患と同様,多種の原因が絡み合う場合も多い。

●4基本味以外の機能評価は難しい。

●一般開業医には,簡易濾紙ディスク検査法を勧めたい。

●常に薬剤が原因になる可能性があることを念頭に置くべきである。

●保険の効く味覚検査は電気味覚検査と濾紙ディスク味覚検査のみである。

●上記2種味覚検査は舌咽神経機能を定量的に測定できる唯一の検査法である。

●血清亜鉛(できれば血清銅,血清鉄も)を経時的に測定する。

味覚障害は治せるか?

著者: 任智美

ページ範囲:P.642 - P.648

Point

●味覚障害のエビデンスが確立された治療法はいまだ亜鉛内服療法のみである。

●自発性異常味覚や異味症などでは漢方学的診断に基づいての治療が有効なことがある。

●亜鉛キレート作用をもつ薬剤性味覚障害の場合,原因薬剤を中止変更が困難であれば通常より多量の亜鉛を内服させる。

●亜鉛内服療法に即効性はなく,3か月間は継続が必要である。

●症状や経過によっては味覚検査のほかに嗅覚検査,心理検査を施行し,病態を把握する必要がある。

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欧文目次

ページ範囲:P.555 - P.555

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.651 - P.651

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.652 - P.652

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.656 - P.656

 2015年5月20日(水)〜23日(土)の4日間,東京国際フォーラムを主会場として第116回日耳鼻学会総会・学術講演会を主催させていただきました。慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室としましては今回が4回目の担当ということになりますが,1951年の第52回を故西端驥一教授が担当したのが最初で,その後,1984年に故斉藤成司教授が第85回総会・学術講演会をホテルニューオータニで,2000年には第101回を神崎 仁教授が担当され,明治記念館と明治神宮会館で開催されたことはまだ記憶に新しいことです。宿題報告は村上信五名古屋市立大教授による「ウイルス性顔面神経麻痺—病態と後遺症克服のための新しい治療—」と宇佐美真一信州大教授による「難聴の遺伝子診断とその社会的貢献」,特別講演は岡野栄之慶應大生理学教授による「iPS細胞技術を用いた中枢神経系および内耳の再生医学と疾患研究」と村木厚子厚生労働省事務次官による「男女ともに働きやすい職場を目指して」,招待講演はD Bradley Wellingハーバード大教授による「Treatment Options and Outcomes in Vestibular Schwannomas」で,いずれも素晴らしい内容で聴衆の感動を呼びました。その他,2つのシンポジウム,1つのパネルディスカッション,臨床セミナーとモーニングセミナーが各10テーマ,ランチョンセミナー15テーマ,そして,一般演題が約580題と大変盛りだくさんの内容で,研修医・医学生や関係者を含めますと約5700名の参加者がありました。ご参加いただきました先生には改めて御礼申し上げます。

 さて,今月号は「特集① 突発性難聴とその周辺疾患」と「特集② 味と味覚障害の最前線」の2つの特集です。「突発性難聴」では,10年に1度の頻度で実施されている疫学調査の紹介,病態では,循環障害説・ウイルス説に加えて近年,注目されているストレス応答説に触れていただきました。臨床で述べていただいているように,罹患者数も増加傾向にあり,発症後数か月で固定する特徴を考慮した後遺症への対応も重要になってきます。周辺疾患の論文を含めて,日常の臨床に役立てていただければと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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