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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科88巻1号

2016年01月発行

雑誌目次

特集 小児の中耳炎を究める

ページ範囲:P.9 - P.9

小児の中耳炎の疫学

著者: 林達哉

ページ範囲:P.10 - P.16

POINT

●3歳までに50〜71%の小児が少なくとも1回は罹患するcommon diseaseである急性中耳炎は1990年代以降難治化が進行した。

●難治化には,セフェム系抗菌薬の濫用を背景とする急性中耳炎原因菌,すなわち肺炎球菌とインフルエンザ菌の薬剤耐性化の進行が関与した。

●難治化対策として,ペニシリン系抗菌薬の第一選択を基本方針とする抗菌薬の適正使用が奨励され,「小児急性中耳炎診療ガイドライン」として結実した。

●抗菌薬使用の適正化に伴い,肺炎球菌ではPRSP,PISPが減少したが,インフルエンザ菌ではBLNARの増加が続いている。

●肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の登場により,ワクチン血清型肺炎球菌の検出率は減少したが,非血清型株は増加傾向にある。

●ワクチン時代にあっても,抗菌薬の適正使用の重要性は変わらず,ガイドラインに基づく診療が推奨される。

小児急性中耳炎起因菌の最近の動向

著者: 冨山道夫

ページ範囲:P.18 - P.26

POINT

●2014〜2015年に当院で治療した小児急性中耳炎のうち,上咽頭細菌検査でStreptococcus pneumoniaeもしくはHaemophilus influenzaeが検出された447名を対象として,細菌学的検討を行った。

●drug-resistant S. pneumoniae(DRSP)は32%,アンピシリン(ABPC)耐性H. influenzaeは76%検出され,2011〜2012年の調査と比較しDRSPの検出頻度が有意に減少した。

●3歳未満の群と3歳以上の群の薬剤耐性菌の検出頻度を比較すると,DRSPは差がなく,ABPC耐性H. influenzaeは3歳未満の群が有意に高かった。

●集団保育の有無と薬剤耐性菌の検出頻度の関係は,DRSPは差がなく,ABPC耐性H. influenzaeは集団保育ありの群が有意に高かった。

●今回みられたDRSPの検出頻度の変化は,7価肺炎球菌結合型ワクチンの効果と考えられるが,今後も小児急性中耳炎起因菌の動向を注視する必要がある。

≪小児の中耳炎の診断と治療≫

急性中耳炎

著者: 坂口博史

ページ範囲:P.28 - P.32

POINT

●小児急性中耳炎は耳鼻咽喉科のcommon diseaseであるが,治療方針は抗菌薬の進歩や起炎菌の動向に基づいて常にアップデートする必要がある。

●小児急性中耳炎のほとんどは細菌感染であり,近年では多くの症例において早期から適切な抗菌薬投与が推奨される傾向にある。

●治療方針を考えるうえで,2013年に改訂された小児急性中耳炎の診療ガイドラインが有用である。

●起炎菌と重症度に応じた適切な抗菌薬の選択と治療効果判定が求められる。

反復性中耳炎

著者: 丸山裕美子

ページ範囲:P.34 - P.39

POINT

●反復性中耳炎の症例の大多数が免疫能発育途上の2歳未満児である。

●小児の成長とともに急性中耳炎は反復しにくくなるため,この時期をいかに乗り切るかの対策が重要となる。

●診療ガイドラインや肺炎球菌ワクチンの普及,新規抗菌薬の開発などが進むなかでも反復性中耳炎症例はゼロにはならない。次世代を見据えた感染症対策が必要と考える。

●当院においては反復性中耳炎症例の85%を保存的加療と鼓膜切開術で対応していた。

●十全大補湯併用を含めた当院における診療の実際を紹介する。

真珠腫性中耳炎

著者: 新鍋晶浩

ページ範囲:P.40 - P.44

POINT

●顕微鏡あるいは内視鏡を用いた鼓膜の詳細な観察により,先天性真珠腫がより早期に発見されるようになった。

●鼓室内限局型の小さな先天性真珠腫は経鼓膜摘出のよい適応であるが,自然消退する可能性もある。

●鼓室形成術を行う場合には,外耳道後壁保存あるいは後壁再建をすべきである。

●アブミ骨上部構造破壊や広く進展した症例,あるいは耳管機能が不良な症例は,再手術,再々手術を要する可能性が高い。

●成長を考えた治療戦略と長期の経過観察が大切である。

滲出性中耳炎

著者: 仲野敦子

ページ範囲:P.46 - P.51

POINT

●滲出性中耳炎(OME)は,鼓膜に穿孔がなく中耳腔に貯留液を認める中耳炎であり,発症初期のものから遷延したもの,貯留液の量,鼓膜の病的変化の程度などさまざまであり,小児滲出性中耳炎診療ガイドラインが作成されているが,あくまでも診療を支援するものであり診療を拘束するものではない。それぞれの症例に最適な治療方法を選択する必要がある。

●OMEの診療にあたっては,鼓膜の詳細な観察が必要で,鼓膜の奥にある中耳貯留液の性状と量を推測し,それに基づいた治療が必要である。

●OMEの治療は,中耳貯留液や鼓膜の病的変化などOMEそのものに対する治療と,OMEの病態に影響を及ぼしている周辺器官の病変に対する治療とに分けて考える。

●周辺器官に炎症(鼻副鼻腔炎の合併)を認めた場合には抗菌薬の使用を検討するが,長期投与は避ける。

●鼓膜換気チューブ留置術は,両側難聴症例や鼓膜の病的変化の強い例で適応となる。長期型チューブでは穿孔残存率が高いことを考慮し,チューブの種類を選択する必要がある。

全身疾患と中耳炎

著者: 守本倫子

ページ範囲:P.52 - P.55

POINT

●中耳炎の原因として耳管の解剖学的,機能的な不全が挙げられる。

●耳管閉塞病変として,口蓋裂,リンパ管腫などの咽頭腫瘍,ムコ多糖症などの代謝性疾患がある。

●耳管開放病変として,ダウン症などの筋緊張低下や軟骨異形成症などがある。

●機能的要因として線毛運動障害や胃酸逆流による粘膜傷害が挙げられる。

●先天性(原発性)免疫不全や治療後の続発性免疫不全などでは中耳炎を反復しやすい。

原著

茎状突起過長症の手術治療

著者: 真栄田裕行 ,   親川仁貴 ,   鈴木幹男

ページ範囲:P.57 - P.60

はじめに

 茎状突起過長症は,変形した茎状突起により舌咽神経や頸動脈周囲の交感神経叢が過度の刺激を受け,その結果,頭頸部や顔面に種々の不快な症状が出現する病態をいう。茎状突起過長症に関するポイントは,①正確な診断,②安全な手術手技,③症状の消失もしくは緩和の達成に集約される。診断については画像検査の発達によりほぼ正確な診断が可能になったが,症状と画像所見が乖離している場合もあるので注意を要する。また安全で有効な手術法を選択することはいうまでもないが,治療が症状の緩和に必ずしも繋がらないケースもみられるため,治療前の入念な説明が不可欠である。以上の点を考慮しつつ自験例を供覧する。

篩骨洞に発生した骨肉腫の1症例

著者: 河口倫太郎 ,   寳地信介 ,   小泉弘樹 ,   田畑貴久 ,   池嵜祥司 ,   高橋梓 ,   西澤茂 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.61 - P.65

はじめに

 骨肉腫は原発性悪性骨腫瘍のなかで最も発生数が多く,本邦では人口100万人に対して年間約2人の発症頻度とされている。骨肉腫は一般的に膝関節周囲や上腕骨近位部に多く発生し,頭頸部領域に発生することは稀である。骨肉腫のうち頭頸部領域に発生するものは10%に満たないとの報告もある1)。今回,われわれは篩骨洞に発生した骨肉腫症例を経験したので報告する。

声門に病変を生じたRosai-Dorfman病の1例

著者: 真田朋昌 ,   清水義貴 ,   西原江里子 ,   上田哲平 ,   鵜久森徹 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.67 - P.70

はじめに

 Rosai-Dorfman病(RDD)はsinus histiocytosis with massive lymphadenopathy(SHML)とも呼ばれ,1969年RosaiとDorfmanによって提唱された原因不明の組織球増殖性疾患である1)。主病変はリンパ節であるが,皮膚や皮下組織,鼻腔,眼瞼・眼窩,骨,唾液腺,中枢神経系にも病変を生じることが報告されている1,2)。今回われわれは声門下腫瘤による気道狭窄が危惧されたために,外科的切除を行ったRDDの1例を経験したので報告する。

甲状腺内異所性副甲状腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症の1症例

著者: 渕上輝彦 ,   伊東明子 ,   小村さやか ,   木田渉 ,   中屋宗雄

ページ範囲:P.71 - P.74

はじめに

 原発性副甲状腺機能亢進症は適切な病的副甲状腺の局在診断が重要であり,手術療法が第一選択となる疾患である。今回,われわれは,頸部超音波検査,99mTc-MIBIシンチグラフィー,CTによる局在診断を行い甲状腺内の異所性副甲状腺腫を認め,甲状腺葉切除を施行し病変を摘除することによって良好な経過を得た原発性副甲状腺機能亢進症症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

輪状甲状靱帯切開後に輪状甲状靱帯開窓術を施行した1例

著者: 我妻道生 ,   飯島直也 ,   池野重雄

ページ範囲:P.75 - P.80

はじめに

 精神遅滞を有する患者を治療する場合,病識や理解力が乏しいため標準的な治療を行えないことが多い。また,セルフケアは十分には行われておらず,肥満を代表とする生活習慣病や齲歯に罹患しやすく重症化する傾向がある。今回,下顎の齲歯に起因するガス産生を伴う頸部蜂窩織炎のため気道狭窄を生じた症例に対し,輪状甲状靱帯開窓術を施行することにより,早期に元通りの生活に戻ることが可能であった症例を経験したので報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.81 - P.81

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.82 - P.82

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.86 - P.86

 今日は12月4日(金曜日),東京で開催された第13回日台耳鼻咽喉科学会から帰ってきたところです。小生が神戸で開催させていただいたのは4年前。私自身,この学会がきっかけとなりアジア・オセアニアの先生方との交流が一気に広がりました。次回は2年後の12月第1週に台湾での開催です。台湾の先生は皆さん優しく親日家揃いです。国際学会へのデビューにはうってつけの学会ですので,ぜひ,若い先生方をお誘いのうえ,ご参加ください。今年も振り返ればラグビーワールドカップの歴史的勝利,大村智氏・梶田隆章氏のノーベル賞ダブル受賞,国産ジェット機の初飛行など勇気づけられる嬉しいニュースが続きました。自分を信じ目標に向かってたゆまぬ努力を続けることの大切さを改めて教えてもらいました。一方,政治の世界では安全保障関連法,マイナンバー制度,18歳選挙権などこれからのわが国の行方を大きく左右する重大な法案が可決されました。10年後,20年後に振り返ったとき,本年が本当に良い年であったと心から思えることを願います。

 さて,今月号の特集は「小児の中耳炎を究める」です。急性中耳炎は3歳までに50〜70%の小児が少なくとも1回は罹患するcommon diseaseですが,1990年代後半から薬剤耐性化や,母乳栄養の短期化,集団保育の増加などを背景に急速な難治化が進んできました。そこで,本特集では急性中耳炎を中心に特集を企画し,林 達哉先生(旭川医大)に「小児の中耳炎の疫学」,冨山道夫先生(とみやま医院)に「小児急性中耳炎起因菌の最近の動向」,坂口博史先生(京都府立医大)に「急性中耳炎」,丸山裕美子先生(黒部市民病院)に「反復性中耳炎」,新鍋晶浩先生(自治医大大宮医療センター)に「真珠腫性中耳炎」,仲野敦子先生(千葉県こども病院)に「滲出性中耳炎」,そして守本倫子先生(成育医療センター)に「全身疾患と中耳炎」について解説していただきました。経験豊富な第一人者による最新の情報をぜひご一読いただき,明日からの臨床にお役立てください。原著論文も「茎状突起過長症の手術」(真栄田論文),「篩骨洞に発生した骨肉腫」(河口論文),「声門に病変を生じたRosai-Dorfman病」(真田論文),「甲状腺内異所性副甲状腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症」(渕上論文),「輪状甲状靱帯開窓術」(我妻論文)と貴重な症例報告が揃いました。ご投稿いただいた先生方に心より感謝申し上げます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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