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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科88巻10号

2016年09月発行

雑誌目次

特集 外リンパ瘻診療の新しい展開

ページ範囲:P.715 - P.715

外リンパ瘻とは—疾患概念と病態

著者: 内藤泰

ページ範囲:P.716 - P.720

POINT

●外リンパ瘻とは,内耳と中耳の間に異常な交通がある状態をさす。

●圧外傷やアブミ骨損傷のような急性症の診断には大きな問題はない。

●慢性状態になった外リンパ瘻や特発性発症例の診断と治療判断には困難を伴う。

●慢性例では,難聴や末梢前庭障害だけでなく高次脳機能への影響が生じることがある。

●側頭骨病理のfissula ante fenestrumと本症の関連が示唆されるが,確定はしていない。

●外リンパ固有蛋白であるCTPの検査が本症の診断と治療に貢献すると期待される。

外リンパ瘻の診断基準

著者: 池園哲郎

ページ範囲:P.722 - P.727

POINT

●外リンパ瘻は,内耳リンパ腔と周辺臓器のあいだに瘻孔が生じ,生理機能が障害されてめまい,耳鳴,難聴などが生じる疾患である。瘻孔から外リンパが漏出すると,症状が増悪,変動する。

●新しい診断基準では「瘻孔が確認できたもの,もしくは外リンパ特異的蛋白が検出されたもの」となった。

●外リンパ瘻の診断基準を発表しているのは日本のみで,諸外国からの発表はない。診断・治療方針は国によって大きく異なる。

●外リンパ瘻は発症の誘因によりカテゴリー1から4まで分類された。これらを別々に論じることが大切である。

●CTP検査は侵襲が少なく客観的な評価指標であり,外リンパ瘻の診断に有用である。

外リンパ瘻の治療

著者: 萩森伸一

ページ範囲:P.728 - P.733

POINT

●外リンパ瘻の治療には保存的治療と手術治療がある。

●耳掻きなどが原因の外傷(カテゴリー1)ではアブミ骨偏位がなく内耳障害が軽度であれば保存的治療を行うが,アブミ骨脱臼や高度の内耳障害がみられれば緊急に手術治療を行う。

●カテゴリー2,3,4ではまず保存治療を行うが,難聴やめまいが増悪すれば躊躇することなく手術治療に切り替える。

●外リンパ瘻手術の聴力成績は,発症から手術までの日数が短いほどよい。めまいを伴う急性感音難聴例では,常に外リンパ瘻の可能性を念頭に置き診療にあたらなければならない。

《外リンパ瘻関連疾患》

機械的外傷と外リンパ瘻

著者: 岩﨑真一

ページ範囲:P.734 - P.740

POINT

●外リンパ瘻の原因のうち約4割が機械的外傷によるものであり,最多である。本邦における特徴として,耳かきによる外傷性外リンパ瘻が多いことが挙げられる。

●耳かき外傷後の外リンパ瘻では,めまい,難聴,耳鳴を主訴とする例が多い。「水が流れるような耳鳴」を訴える例は多くはない。

●診察では,鼓膜穿孔の有無だけでなく,発赤や出血,鼓室内貯留液の有無にも着目する。

●聴力検査では混合性難聴を呈することが多いが,伝音難聴の症例もある。また,徐々に聴力が悪化する症例もあるので,複数回の検査を行う。

●側頭骨CTでは,耳小骨の離断や偏位,迷路気腫の有無について読影を行う。異常を認めない場合も多いので,総合的に診断を行う必要がある。

●外傷性の外リンパ瘻では,早期より手術が勧められる。手術を施行する場合には,事前にめまい・平衡障害の改善については成績良好であるが,聴力改善についての成績は必ずしもよくないことを患者に十分説明する必要がある。

気圧外傷と外リンパ瘻

著者: 三保仁

ページ範囲:P.742 - P.749

POINT

●スキューバダイバー(以下,ダイバー)に発症する全潜水障害のうちの約80%が耳鼻咽喉科領域であり,その約90%が中耳腔圧平衡障害(以下,耳抜き不良)に合併する耳気圧外傷で,中耳気圧外傷および内耳気圧外傷である外リンパ瘻が発症する可能性がある。

●過去15年間に,耳抜き不良を主訴に当院を受診したダイバーの9.5%が外リンパ瘻を合併していた。その多くが,高音障害型感音難聴を呈する軽症例であり,安静にて自然治癒した。外科的治療が必要な中等〜高度難聴は,外リンパ瘻症例の約7%であった。

●スキューバダイビング(以下,ダイビング)における外リンパ瘻発症例のめまい合併例は,高度難聴を伴う重症型が多い。その他の内耳潜水障害には内耳型減圧症があり,これはめまい型が多い。これらの鑑別が重要であるが,鑑別困難なケースにしばしば遭遇する。

●ダイビング直後に発症した急性感音難聴および回転性めまいは,約80%が外リンパ瘻,約20%が内耳型減圧症によるものであり,突発性難聴ではない。早期に的確な診断・治療を行わないと,内耳障害の後遺症を残すことがある。

外リンパ瘻と内リンパ水腫

著者: 福嶋宗久 ,   北原糺

ページ範囲:P.751 - P.757

POINT

●外リンパ瘻から続発性に内リンパ水腫が生じうる。

●誘因の問診が診断の第一歩となる。

●保存的治療に抵抗性であり,内耳窓閉鎖術が基本となる。

外リンパ瘻と脳脊髄液減少症

著者: 相馬啓子 ,   國弘幸伸

ページ範囲:P.758 - P.763

POINT

●外リンパ瘻と脳脊髄液減少症の症状は,めまい,難聴,耳閉感など類似している。

●鑑別点は,外リンパ瘻では瘻孔現象陽性,患側下でめまいが増強し,脳脊髄減少症では横になると症状が軽減する点である。

●両者とも,交通外傷,転落,転倒,頭部打撲,力み,重いものを持ち上げるなどが誘因となり,両者が合併していることもある。

●初期治療はどちらも安静である。

●2016年4月1日より脳脊髄液漏出症に対して硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)が保険適用された。

書評

臨床研究の教科書—研究デザインとデータ処理のポイント

著者: 尾崎紀夫

ページ範囲:P.764 - P.764

 評者が初めて医学部生向けに臨床研究について講義した際,参考にしたのは学生時代に受けた講義であった。一方,大学院教育はまったく受けていなかったが,ありがたいことにNIH(National Institutes of Health)で臨床研究に参加して,臨床研究に必要な事項を学ぶことができた。(研究デザインをした上で)研究倫理委員会への申請,研究参加した患者を含む一般へのアウトリーチ活動,そして統計学の重要性といった事柄である。

 当方の大学院生には,〈患者・家族のニーズを踏まえ,日々の臨床疑問の解決と病因・病態を解明し,病因・病態に即した診断・治療・予防法の開発を目指すことが基本方針〉であり,〈臨床研究のしっかりしたお作法,すなわち研究デザインやデータ解析などを身につけることが重要〉と説明し,参考図書を紹介してきた。ところが,研究デザインやデータ解析に関する図書は,臨床的観点が乏しい,あるいは数式が多すぎて取っ付きの悪いものになりがちである。さりとて,あまりに簡略化したものは食い足りず,良い臨床研究の教科書はないものかと,探し続けていた。

原著

当科における外耳道がん症例の臨床的検討

著者: 松村聡子 ,   井上準 ,   久場潔実 ,   大庭晋 ,   南和彦 ,   小柏靖直 ,   蝦原康宏 ,   中平光彦 ,   菅澤正

ページ範囲:P.765 - P.769

はじめに

 外耳道がんは頭頸部悪性腫瘍全体の約1%と比較的稀な疾患で,臨床の場で遭遇する機会は多くはない1)。また,発症早期は症状に乏しく,出現する症状も耳漏や耳痛といった非特異的なものが主であるため,外耳炎や中耳炎として加療される場合も少なくない。さらに,周囲の重要臓器へ容易に浸潤する部位にあるため,進行した段階で悪性疾患と診断されることが多く,根治治療には難渋する。近年外耳道がんに対しては,外科的切除のみならず,サイバーナイフによる放射線療法や,超選択的動注ならびに放射線化学療法が有効との報告も認められる2-9)

 今回,当科で経験した外耳道がん症例11例について,臨床像・治療法・予後についてretrospectiveに解析し,当該疾患の治療について文献的考察を加え報告する。

傍咽頭間隙へ迷入した下顎智歯の1例

著者: 冨岡亮太 ,   岡本伊作 ,   佐藤宏樹 ,   高瀬聡一郎 ,   渡嘉敷邦彦 ,   上田百合 ,   塚原清彰

ページ範囲:P.771 - P.774

はじめに

 抜歯操作は日常歯科診療において頻繁に行われる手技の1つである。その合併症として,歯牙の口腔底や上顎洞への迷入がある1-3)。迷入歯とは異所へ迷入した歯牙をさし,下顎の迷入歯は智歯に特に生じやすい。この理由は舌側歯肉が歯槽骨から容易に剝離されやすいこと,下顎舌側歯槽骨が菲薄で破折,穿孔しやすいためである。そして,大部分は前方,舌側に迷入する4)

 一方,後方である傍咽頭間隙の迷入歯はきわめて珍しく,その報告はない。今回われわれは傍咽頭間隙へ迷入した下顎智歯を経験したので報告する。

耳下腺に発生した基底細胞腺腫

著者: 一條研太郎 ,   松田絵美 ,   金谷佳織 ,   馬場美雪 ,   八木昌人 ,   岸田由起子 ,   田村浩一

ページ範囲:P.775 - P.779

はじめに

 基底細胞腺腫は唾液腺,特に耳下腺に好発する良性腫瘍である。耳下腺における基底細胞腺腫の発生頻度は多形腺腫,ワルチン腫瘍に次いで3番目に高いが,耳下腺腫瘍に占める割合は約3%であり,比較的稀な腫瘍といえる1)。今回われわれは,病理組織学診断では基底細胞腺腫が第一に疑われたが,多形腺腫との鑑別が必要であり,確定診断に免疫組織学的検索が有用であった耳下腺基底細胞腺腫例を経験したので若干の考察を加え,報告する。

診断に苦慮した成人Still病の1例

著者: 中座資実 ,   大橋健太郎 ,   大木幹文

ページ範囲:P.781 - P.785

はじめに

 耳鼻咽喉科は咽頭痛,発熱,リンパ節腫脹などを主訴とする上気道感染症の治療を行うことが多い。そのなかで,速やかに症状が改善せず遷延化して治療に苦慮する症例をしばしば経験する。一般に成人Still病は内科で診断・治療する疾患のため耳鼻咽喉科医が遭遇することは少ない疾患であり,発熱,皮疹,関節炎を主な症状とする以外には,検査所見の少ない疾患である1)。今回われわれは,咽頭痛・頸部痛で来院し診断に苦慮した患者を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

耳管通気により発症した外リンパ瘻確実症例

著者: 篠原宏 ,   清水啓成 ,   吉田沙絵子

ページ範囲:P.787 - P.790

はじめに

 カテーテルによる耳管通気は耳鼻咽喉科で日常よく行われる処置であるが,時に咽頭粘膜下気腫などの副損傷をきたす1,2)。耳管通気によって外リンパ瘻が起きることは稀であり,国内外で4例が報告されているに過ぎない。今回われわれは耳管通気後に難聴をきたし,中耳洗浄液からcochlin-tomoprotein(CTP:コクリントモ蛋白)が検出され外リンパ瘻確実例と診断できた症例を経験したので報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.713 - P.713

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.791 - P.791

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.792 - P.792

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.796 - P.796

 本誌9月号が発刊されるころには閉会になっていると思いますが,今年8月5日から8月21日まで第31回夏季オリンピックが南米ブラジルのリオデジャネイロで開催されます.南アメリカ大陸でオリンピックが開催されるのは,これまでの第31回の歴史のなかで初めてで,南半球での開催としても1956年開催のメルボルンオリンピックと2000年のシドニーオリンピックに続き16年ぶり3度目の開催となります.4年後の2020年が東京オリンピックということもあり,徐々に盛り上がってきました.今回の新競技,7人制ラグビーや,1904年の第3回セントルイスオリンピック以来,112年ぶりの復活となるゴルフなどを含めて大変楽しみです.2020年の東京オリンピック開催にあたっては,新国立競技場やオリンピックエンブレムの問題など,多くの物議を醸してきましたが,今回のリオデジャネイロオリンピックも突っ込みどころ満載です.まずは治安問題.ブラジルはいま経済悪化と不安定な政治情勢の影響で大規模なデモが多発するなど,オリンピックどころではないとの声も聞こえてきます.先日のニュース報道でもリオデジャネイロの警察官によるデモで掲げられた「Welcome to hell:地獄へようこそ」というプラカートが放映されましたが,治安大丈夫かと本当に心配です.また,ロシアのドーピング問題も世界中で注目の的になっています.次にジカ熱です.ジカ熱はミクロネシア連邦やフランス領ポリネシアなどで流行したジカウイルス感染症で,妊婦が感染すると小頭症の子どもが生まれる可能性が高くなることで一躍有名になりました.ゴルフの松山英樹選手が代表の座を辞退したことでも注目されましたが,オリンピック期間中を含めて感染が蔓延しないことを祈りたいと思います.

 さて,今月号の特集は「外リンパ瘻診療の新しい展開」です.診断,治療が難しい外リンパ瘻の診断基準も整備され,その疾患概念から診断,治療の最前線に触れる絶好の機会です.また,原著も力作ぞろいです.リオデジャネイロオリンピック期間中は眠れない夜も多くなると思いますが,競技観戦の合間に通読していただければと思います.最後に特集をご執筆いただいた先生方,原著をご投稿いただいた先生方に改めまして御礼申し上げます.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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