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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科88巻11号

2016年10月発行

雑誌目次

特集 頸部郭清術のNew Concept

ページ範囲:P.801 - P.801

《臓器別治療戦略》

口腔・中咽頭がん

著者: 野村文敬 ,   朝蔭孝宏

ページ範囲:P.802 - P.806

POINT

●口腔がん・中咽頭がんともに,郭清範囲は,原発巣の大きさや浸潤の程度,リンパ節転移の有無により決定される。

●通常,舌骨近傍領域は郭清範囲外だが,同部位に転移が認められ頸部郭清を実施する場合には,同領域も治療域に含めることが望まれる。

●臨床的にN0と診断された中咽頭がんでも,潜在的なリンパ節転移が疑われる場合には,予防的郭清を行う。

●HPV陽性中咽頭がんであっても,頸部郭清の範囲を縮小することは推奨されない。

●口腔がん,特に早期舌がんN0症例に対する予防的郭清については,さまざまな意見があり結論は出ていないが,センチネルリンパ節生検による手術適応の可否決定の有用性が報告されている。

喉頭・下咽頭がん

著者: 藤井隆

ページ範囲:P.807 - P.812

POINT

●頸部郭清術においても,画像診断などの診断精度の向上を考慮すべきである。

●頸部郭清術を行った場合のデメリットを考え,それを上回る必要性を検討する。

●喉頭・下咽頭がんでは,レベルⅠへの転移は稀である。

●レベルⅠでは顔面神経下顎縁枝と顔面動静脈,レベルⅤでは副神経への影響を考える。

●将来の重複がんに対して遊離組織移植が必要になった場合の吻合血管についても考慮する。

甲状腺・唾液腺がん

著者: 大月直樹 ,   丹生健一

ページ範囲:P.814 - P.820

POINT

●甲状腺乳頭癌リンパ節転移に対する治療的頸部郭清術(気管周囲および内深頸リンパ節)は生命予後を向上させるという明らかな根拠はないが,再発リスクを減少させることから,推奨される。

●甲状腺乳頭癌における気管周囲リンパ節の予防的頸部郭清術は,術後合併症に留意して行うことが望ましい。内深頸リンパ節の予防的郭清は推奨されない。

●耳下腺がんおよび顎下腺がんに対する治療的頸部郭清術では,レベルⅠ〜Ⅴの全頸部郭清が必要である。

●耳下腺がんに対する予防的郭清はT3およびT4,臨床的に高悪性度と考えられるものに対して,レベルⅠ,Ⅱ,Ⅴを含む頸部郭清が推奨される。

●顎下腺がんに対する予防的郭清はT3およびT4,臨床的に高悪性度と考えられるものに対して,肩甲舌骨筋上郭清が推奨される。

原発不明頸部転移がん

著者: 森田真吉 ,   松浦一登

ページ範囲:P.822 - P.827

POINT

●原発不明がんは除外診断名であり,第一に原発巣の検索を進める。

●転移病巣が頸部リンパ節への扁平上皮癌の転移であることが証明された症例では,原発巣が頭頸部領域である可能性が高い。

●一次治療後の経過観察中に原発巣病変が10〜30%程度出現してくるが,そのうち約80%の症例が扁桃もしくは舌根部に由来する。

●HPV陽性中咽頭がんが増加しており,臨床的には原発不明がんの様相を呈しやすい。

●NBI内視鏡の積極的な活用が,原発巣の発見に寄与する可能性がある。

●切除が可能である場合は,根治治療と診断を兼ねた頸部郭清術が広く行われている。一方切除不可能な場合は,放射線療法もしくは化学放射線療法が考慮される。

《手術手技》

肩甲舌骨筋上頸部郭清術

著者: 戎本浩史 ,   大上研二

ページ範囲:P.830 - P.835

POINT

●肩甲舌骨筋上頸部郭清術は,選択的頸部郭清術の一種であり,レベルⅠ〜Ⅲに含まれるリンパ節を一塊に切除する。

●主に口腔がんN0症例の予防的郭清,とりわけpull-through法による原発巣切除が必要となる症例や,遊離組織移植例に対して術野と再建血管の確保を兼ねて適応される。今後の臨床研究の結果によって,舌部分切除術単独例にも拡大されるかもしれない。

●当該領域の過不足ない切除を心がける。とりわけ郭清の下端となる肩甲舌骨筋上腹が,レベルⅢの下端の高さと必ずしも一致しない点に注意を要する。

側頸部郭清術

著者: 上村裕和

ページ範囲:P.836 - P.844

POINT

●側頸部郭清術の適応は中・下咽頭,喉頭のN0 neckが原則(予防的郭清術)であるが,術後補助療法追加などの条件によって適応が変化している。

●原発巣との関係を考慮して皮切線デザインを決定し,必要十分な剝離を行って安全で確実な手術操作のためのworking spaceを得る。

●筋膜・各臓器の特性の利用や,広範囲にわたり同じような深さとなるように均等に剝離を進めることが,小血管損傷を回避した良好な視野確保や安定した郭清のために大切である。

根治的頸部郭清術

著者: 松本文彦

ページ範囲:P.846 - P.851

POINT

●基本的な頭頸部手術の手技の取得が大切である。

●取り残しのない確実な郭清を目指す。

●合併切除が必要なものを十分に術前に検討し,予想される後遺症を説明する。

●特殊なケースに対してはアプローチを変えるが,手技に関しては特別なものはない。

咽頭後リンパ節郭清

著者: 四宮弘隆 ,   丹生健一

ページ範囲:P.852 - P.856

POINT

●外側咽頭後リンパ節は前方を上咽頭収縮筋筋膜,後方を椎前筋膜,側方を頸動脈鞘および交感神経に囲まれた領域に存在する。

●下咽頭がんの予防的郭清の必要性は定まっていないが,推奨される。

●手術においては筋膜に沿った視野の確保が重要である。

●喉頭を温存する際の郭清は視野の確保に難渋することが多く,適宜横断する動脈の処理などを要する。

●術後の嚥下リハビリテーションが重要である。

●近年は経口的な咽頭後リンパ節の摘出の報告が増加している。

上縦隔郭清

著者: 花井信広

ページ範囲:P.858 - P.866

POINT

●甲状腺がんの上縦隔転移は積極的な郭清の対象となる。

●経頸部アプローチでは114,106rec付近までの郭清が可能である。

●胸骨切開アプローチには複数の方法があるが,郭清の範囲,ワーキングスペースを考慮して選択する。

●頸部より行う頸胸境界部の郭清については習熟しておきたい。

●101Lでは左反回神経の前方,101Rでは右反回神経の後方を十分に郭清する。

化学放射線療法後の救済手術

著者: 菅澤正

ページ範囲:P.868 - P.874

POINT

●計画的頸部郭清術から,症例ごとに必要に応じた救済頸部郭清術に変更する。

●治療効果予測法として,CRT終了後12週前後にFDG-PETを施行する。

●皮膚血流を考慮した皮膚切開の工夫;三点縫合はできるだけ避ける。

●適切な郭清範囲の設定;転移周囲のみの超選択的頸部郭清も選択肢に入れる。

●愛護的処置;皮弁の挙上は最小限とし,必要があればDP皮弁などで張り替えも辞さない。

●死腔の防止;適切なドレーン管理を行う。

●栄養状態の改善;適切な術前・術後管理を行う。

書評

科研費 採択される3要素—アイデア・業績・見栄え

著者: 髙久史麿

ページ範囲:P.821 - P.821

 著者の郡健二郎先生は泌尿器科学を専門とされておられ,そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ,数々の賞を受賞されておられるが,そのなかに2004年に受賞された,「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある。私はそのとき,日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが,この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床の全ての分野の研究者から申請を受け,そのなかの3名だけに受賞が限られるので,泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった。そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた。その郡先生が上記の題で200ページ近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった。

 この本は「研究の楽しさ,美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが,特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で,それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と,実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており,科研費を申請される方にとって極めて有用かつ実用的な内容となっている。

頭頸部の臨床画像診断学 改訂第3版

著者: 林隆一

ページ範囲:P.829 - P.829

 「頭頸部の臨床画像診断学 改訂第3版」が発刊された。著者である尾尻博也先生は頭頸部領域の画像診断の第一人者であることはご存じのとおりである。今回の改訂は新たな疾患概念の登場と確立,頭頸部癌治療における治療後の画像診断の重要性が増したことなど,臨床側の変化が理由に挙げられている。第2版の発刊後4年弱経過しているがその間,頭頸部がんの治療は大きな変貌を遂げた。咽喉頭がんに対する経口的手術,新規薬剤の登場,化学放射線治療や分子標的薬併用放射線治療の普及と救済手術など治療法は多様化を極めている。このような状況下で体系的な成書を速やかに発刊されたことは,臨床面の変化を敏感に捉え,治療選択の判断に必要な情報は何であるかということを常に考えておられる結果であろう。

 本書では各部位の臨床解剖に加え,臨床病態の解説,腫瘍性疾患の進展様式や治療効果予測,術式,治療効果判定に至るまで,病態そのものを放射線画像診断でいかにとらえるか,それを治療にどう結びつけその結果をいかに評価すべきか,という尾尻博也先生の放射線診断学への姿勢が感じられると同時に,非常に多岐にわたる臨床面での知識の豊富さに感嘆させられる。治療方針の決定は基本的には病態の解析の上に成り立つものである。放射線診断と頭頸部外科と専門を異にするものであるが基本となる考え方を共有できることは本書の魅力の1つである。今回,悪性疾患以外にも新たな疾患概念としてIgG4関連疾患が取り上げられ,リンパ節に関しては転移性のリンパ節だけでなく非腫瘍性リンパ節病変についても加わった構成となっている。豊富な画像所見と,臨床分類や診断基準,病期診断を配置することできわめて実用的に整理されており,診断と治療,放射線診断医と治療者を有機的に結びつける力をもつものである。

原著

中咽頭に発生した平滑筋肉腫と扁平上皮との重複がん症例

著者: 森鮎美 ,   伊東明子 ,   岡峰子 ,   高橋一広 ,   木田渉 ,   稲吉康比呂 ,   井上亜希 ,   渕上輝彦 ,   中屋宗雄

ページ範囲:P.875 - P.879

はじめに

 咽頭に発生する悪性腫瘍は上皮系腫瘍が多く,肉腫は比較的少ない。そのうち,筋原性腫瘍のなかでも平滑筋肉腫の発生は稀である。本邦において咽頭に発生した平滑筋肉腫は,われわれが渉猟し得た範囲では16例のみであった。さらに本症例では扁平上皮癌の合併もあり,咽頭原発において検索し得た範囲ではこれが初めての報告である。今回われわれは中咽頭に平滑筋肉腫と扁平上皮癌を同時発生した稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

顎関節ヘルニアを伴った特発性外耳道骨欠損症の1例

著者: 西平茂樹 ,   三原国昭 ,   中津若菜 ,   林和紀子 ,   田中俊彦

ページ範囲:P.881 - P.887

はじめに

 特発性外耳道骨欠損は,外耳道の成長過程で本来5歳頃までに閉鎖する鼓室骨鼓室孔(foramen tympanicum,Huschke孔)に,原因不明の融合不全が生じ,骨部外耳道最深部の前壁皮下に骨欠損が遺残した状態である。同孔(以下,H孔)の存在のみでは無症状であるが,他疾患が併存しH孔を経て耳症状を呈すると特発性外耳道骨欠損症と称される。

 今回,筆者らは顎関節ヘルニアによる症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.799 - P.799

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.888 - P.888

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.892 - P.892

 それにしても,リオでの日本選手の活躍は凄かったですね.期待通りしっかりと結果を出した選手たち,期待以上の大活躍をした選手たちから,たくさんの感動をもらいました.いつの間に日本人はこんなに勝負強くなったのでしょう.東京オリンピックがますます楽しみです.

 さて,今日はオリンピックの興奮も冷めやらぬ8月28日日曜日.インドネシア耳鼻咽喉科学会総会から戻り,ボルドーの学会に向かう機内です.ジャワ島の中心部ソロで開かれた学会では,神戸大に留学していた先生が喉頭癌のシンポジウムで立派に演者を務めていました.人を育てるのは,患者さんを救うのとは,またまったく違った喜びを与えてくれます.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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