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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科88巻13号

2016年12月発行

雑誌目次

特集 聴神経腫瘍診療のNew Concept

ページ範囲:P.993 - P.993

聴神経腫瘍の疫学と病態—最近の考え方

著者: 橋本省

ページ範囲:P.994 - P.999

POINT

●聴神経腫瘍の年間診断数は診断技術の発達により年々増加してきた。

●最近の聴神経腫瘍の発生率は人口100万人当たり年間19程度である。

●発生率の人種差は社会制度の影響が強く判断できない。

●携帯電話と聴神経腫瘍の発生のリスクは無関係とする報告が多い。

●喫煙は発がん性は明らかだが,聴神経腫瘍発生のリスクは低下させる。

●聴神経腫瘍における聴力障害の機序について新知見が報告されている。

聴神経腫瘍の臨床像と鑑別診断

著者: 本村和也 ,   棚橋邦明 ,   夏目敦至 ,   曾根三千彦

ページ範囲:P.1000 - P.1007

POINT

●聴神経に発生する腫瘍の大部分は神経鞘腫(schwannoma)であり,そのほとんどが孤発例である。両側聴神経腫瘍は神経線維腫症Ⅱ型(NF2)に合併する。

●本邦における神経鞘腫の発生頻度は10%であり,女性に多く,40〜60歳に多くみられる。

●神経鞘腫のなかでは,小脳橋角部に85%が発生する。

●症状は,聴力障害(高音性難聴),前庭神経症状(めまい,ふらつき)が多い。

●聴神経腫瘍の画像所見として,MRIではT1強調画像にて軽度低信号〜等信号,T2強調画像にて高信号,ガドリニウムにて通常著明な造影効果を示す。聴神経腫瘍の内耳道拡大やhigh jugular valveの有無を確認することが重要である。

●聴神経腫瘍と鑑別を要する疾患として,髄膜腫,類上皮腫,三叉神経鞘腫,顔面神経鞘腫,頸静脈孔腫瘍(舌咽,迷走,副神経鞘腫),脊索腫,グロームス腫瘍,血管外皮腫(血管周皮腫),孤立性線維性腫瘍などが挙げられる。

神経線維腫症Ⅱ型の臨床像と関連遺伝子

著者: 大石直樹

ページ範囲:P.1008 - P.1011

POINT

●神経線維腫症Ⅱ型(Neurofibromatosis type 2;NF2)は,常染色体優性遺伝を呈する遺伝性疾患で,22番染色体長腕に存在するNF2遺伝子が唯一の原因遺伝子として同定されている。

●30歳までにほとんどの患者において両側性に聴神経腫瘍がみられるようになるのが,本疾患の最大の特徴である。

●聴神経腫瘍に対する一般的な治療の選択肢である経過観察,手術,放射線のいずれによっても,腫瘍制御率および聴力予後は孤発例に対する治療成績に比べて明らかに劣る。

NF2遺伝子が作り出す蛋白Merlinの下流のpathwayに対する基礎研究が進んだ結果,欧米では,分子ターゲット薬を用いた複数の臨床試験が進行中である。

●抗VEGF(vascular endothelial growth factor)抗体であるBevacizumabを用いた臨床試験がもっとも進んでおり,一定の腫瘍制御率および聴力温存率が報告されている。

Growth rate

著者: 高橋真理子 ,   関谷健一

ページ範囲:P.1012 - P.1019

POINT

●聴神経腫瘍の約50%は増大するが,約50%は短期的には増大しない。

●聴神経腫瘍の増大速度は約1〜2mm/年である。

●聴神経腫瘍の聴力悪化は約2dB/年である。

●囊胞化する聴神経腫瘍では腫瘍の増大や聴力悪化が早い傾向があり,慎重にフォローアップする必要がある。

《治療戦略》

Wait and scan

著者: 佐藤輝幸 ,   石川和夫

ページ範囲:P.1020 - P.1025

POINT

●Wait and scanを選択するためには,聴神経腫瘍を無症状もしくは症状軽微な内耳道内腫瘍や小腫瘍のうちに早期診断することが重要である。

●Wait and scanの選択に当たっては,メリットとデメリットを説明し,患者自身とよく話し合いながら治療方針を決定していくことが肝要である。

●定期的なwait and scanを行い,腫瘍増大と自覚症状の観察を行いながら,手術や放射線療法も考慮する。

●Wait and scanという考え方の基本は,患者の全人的なQOLの維持である。

放射線治療

著者: 周藤高

ページ範囲:P.1026 - P.1030

POINT

●脳槽部最大径が2〜2.5cm以下の腫瘍がガンマナイフ治療のよい適応である。

●ガンマナイフによる本腫瘍の制御率は5年以上の経過観察でおおむね90%以上であり,現在の治療技術を用いれば合併症としての顔面神経麻痺をきたすことは稀である。

●本腫瘍に対するガンマナイフ治療後の約5%で,交通性水頭症の合併をみる。

●再発腫瘍に対するガンマナイフ再照射は選択肢の1つとして考慮しうる。

●神経線維腫症Ⅱ型(neurofibromatosis type 2:NF2)の聴神経腫瘍に対するガンマナイフによる腫瘍制御率,聴力温存率はともにnon-NF2例に比して不良である。

手術:経迷路法・中頭蓋窩法

著者: 山本裕

ページ範囲:P.1032 - P.1038

POINT

●術式の選択に際しては,腫瘍の大きさと性状,患者の年齢のほか,聴力,顔面神経の温存性などの機能面に関して十分検討する必要がある。

●中頭蓋窩法では,若年で有効聴力が保たれており,腫瘍が内耳道内に限局している症例がよい適応となる。

●経迷路法では,実用聴力が廃絶している小〜中等度の大きさの腫瘍症例がよい適応となる。

●経迷路法では術後髄液漏の防止に十分配慮する必要がある。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年12月)。

手術:後頭蓋窩法

著者: 河野道宏

ページ範囲:P.1040 - P.1046

POINT

●聴神経腫瘍の手術適応は,若い患者,放射線治療の適応外である脳槽部25〜30mm以上の大きさの腫瘍や囊胞性の腫瘍,聴力温存目的あるいは成長速度の速い小さい腫瘍である。

●後頭蓋窩法の強みは,どのような大きさの腫瘍に対しても聴力温存を企図することが可能であること,術野が広くオリエンテーションがつけやすいことである。

●機能温存のために顔面神経や蝸牛神経上にわずかに腫瘍を残存させたとしても,再発予防のため,内耳道内に腫瘍を残存さないことが重要である。

●連続的に顔面神経を直接刺激する持続顔面神経モニタリングこそ,腫瘍の剝離操作中に顔面神経機能の落ち際を捉えられる唯一の「リアルタイムモニタリング」である。

●機能温存のために重要なポイントは,後頭蓋窩法,必ずしも全摘に固執しない手術ポリシー,持続顔面神経モニタリングなどであると考えている。

●経過観察・手術・放射線治療がケースごとに適切に選択されれば,手術の「センター化」と相まって,聴神経腫瘍の治療成績は今後さらに向上してゆくことが期待される。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2018年12月)。

原著

未成年に生じた唾液腺上皮性腫瘍の検討

著者: 中村哲 ,   石永一 ,   濱口宣子 ,   竹内万彦

ページ範囲:P.1047 - P.1051

はじめに

 成人例における唾液腺腫瘍は稀ではなく,諸施設より多くの報告がなされているが,小児・若年者における発生頻度は低く,日常診療において遭遇する機会も少ない。成人同様,根治性と顔面神経の取り扱いが重要となるが,悪性例において低悪性度癌の占める割合が高いこと,良性腫瘍のほとんどが多型腺腫であることなどの特徴があり,これらを念頭に置いて診断治療にあたる必要がある。今回,当科で加療を行った未成年唾液腺上皮性腫瘍症例について検討したので報告する。

腫瘍様所見を呈した単純ヘルペスウイルスによる扁桃炎例

著者: 清水藍子 ,   橘智靖 ,   牧野琢丸 ,   松山祐子 ,   小松原靖聡 ,   和仁洋治 ,   永谷たみ

ページ範囲:P.1053 - P.1056

はじめに

 思春期以降の患者に急性扁桃炎を生じる病原ウイルスとしては,HSVおよびEBウイルスが挙げられる1)。HSVの診断は,通常血清HSV抗体価の測定を用いることが多い2,3)。病理組織学的診断の有用性も報告されている2,3)が,腫瘍性疾患との鑑別を要した報告はこれまでにない。今回われわれは腫瘍様所見を呈した口蓋扁桃に対して病理組織学的検査を行い,HSVによる扁桃炎と診断し得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

書評

医師の感情—「平静の心」がゆれるとき

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 この本が書店に並べられて最初にタイトルを見かけた時,ある種の衝撃を受けた。というのは,タイトルは『医師の感情』であるが,副題が“「平静の心」がゆれるとき”となっていたからだ。「平静の心」とはオスラー先生が遺した有名な言葉であり,医師にとって最も重要な資質のことであったからだ。医師にとって最も重要な資質である“「平静の心」がゆれるとき”とはどういうときなのか,これは非常に重要なテーマについて取り組んだ本であると直観的にわかった。

 この本を実際に手に取ってみると訳本であった。原題は“What Doctors Feel”である。なるほど,この本はあの良書“How Doctors Think”(邦題『医者は現場でどう考えるか』,石風社,2011年)が扱っていた医師の思考プロセスの中で,特に感情について現役の医師が考察したものである。“How doctors think”は誤診の起こるメカニズムについて医師の思考プロセスにおけるバイアスの影響について詳細に解説していた。一方,この本は,無意識に起きている感情的バイアスについて著者自身が体験した生々しい実例を示しながら解説したものである。リアルストーリーであり,説得力がある。

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欧文目次

ページ範囲:P.991 - P.991

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1059 - P.1059

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.1060 - P.1060

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.1064 - P.1064

 すばらしい快挙です。昨年の大村智先生に続いて2年連続でノーベル医学・生理学賞を東京工業大学栄誉教授の大隅良典先生が受賞しました。日本人のノーベル賞受賞は物理学賞を入れて3年連続,通算では25人目です。大隅良典先生は細胞が不要になった,タンパク質などを分解する「オートファジー」と呼ばれる細胞内機構を解明しました。細胞は栄養が足りない状態になると,生き残るために自らのタンパク質をアミノ酸に分解し,新しいタンパク質の材料やエネルギー源として利用します。また,不要なタンパク質も同じように再利用するなど,オートファジーは,細胞を正常に保つうえで欠かせない細胞内機構です。パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経疾患では正常のオートファジーが機能せず異常なタンパク質が細胞内に蓄積することがその発症機序の1つとされており,これら異常なタンパク質を分解するオートファジーを誘導することで根治療法につながる可能性があり,今後の研究の進展が期待されています。また,一部の進行性感音難聴でも異常なタンパク質が関与していることがわかっており,慢性感音難聴の予防法や治療法としても期待されます。もう1つの衝撃的なニュースはボブ ディラン氏のノーベル文学賞受賞です。賛否両論あるようですが,学生時代から愛聴してきたボブ ディラン氏の歌手としての初めての受賞は個人的には大変うれしいニュースでした。毎年期待されている村上春樹氏の受賞は残念ながら今年も見送りになりましたが,一ハルキストとして来年に期待したいと思います。

 さて,今月号の特集は「聴神経腫瘍診療のNew Concept」です。聴神経腫瘍の疫学と病態,臨床像と鑑別診断,神経線維腫症II型の臨床像と関連遺伝子,growth rateなど聴神経腫瘍の疾患理解のための最新知見と治療戦略に関する最新情報まで,聴神経腫瘍診療のすべてを網羅した素晴らしい特集になりました。また,手術に関しては,動画付き論文としていただきました。QRコードまたはURLにアクセスして動画をご覧いただけます。また,2編の原著も力作です。ボブ ディランの名曲を聴きながら是非お読みいただければと思います。最後に特集をご執筆いただいた先生方,ご投稿いただいた先生方に改めて御礼申し上げます。

人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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