icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科88巻7号

2016年06月発行

雑誌目次

特集 顔面神経麻痺—新たな展開

ページ範囲:P.455 - P.455

顔面神経麻痺の診断

著者: 江崎伸一 ,   村上信五

ページ範囲:P.456 - P.460

POINT

●中枢性顔面神経麻痺では前頭筋の麻痺を認めない。

●末梢性顔面神経麻痺はBell麻痺とHunt症候群が約2/3を占める。

●耳介,耳内だけでなく口腔・咽頭にも生じることがあるので,注意深く観察することが重要である。

●進行性,治療抵抗性,反復性の顔面神経麻痺は腫瘍性麻痺を疑う。

●ガドリニウム造影MRIはBell麻痺やHunt症候群と他の麻痺との鑑別に有用である。

顔面神経麻痺評価法

著者: 濵田昌史 ,   小田桐恭子

ページ範囲:P.461 - P.466

POINT

●国際的に使用される顔面表情運動の評点法には3つある。

●40点法(柳原法)ではある程度の予後診断が可能である。

●Sunnybrook法は麻痺後遺症の評価に有用である。

●エレクトロニューロノグラフィー(ENoG)検査は現時点で最も信頼度の高い電気生理学的評価法である。

●唾液分泌機能検査にも予後診断的価値がある。

《顔面神経麻痺の治療法》

保存療法

著者: 國弘幸伸

ページ範囲:P.467 - P.473

POINT

●急性期におけるBell麻痺およびRamsay Hunt症候群の薬物療法では,ステロイドと抗ウイルス薬が主体となる。

●Bell麻痺の治療に際しては無疱疹性帯状疱疹(ZSH)の可能性も念頭に置く。

●発症早期に麻痺の程度を正確に評価することが,予後の改善には重要である。

手術治療

著者: 山田啓之 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.474 - P.479

POINT

●顔面神経減荷手術の目的は骨性の顔面神経管を開放することで神経の絞扼を解除し,神経障害の進行を予防することである。

●顔面神経減荷手術の適応は一般的に40点法で8点以下,ENoG値が10%以下の条件を満たす症例である。

●顔面神経減荷手術の問題点として,①神経再生効果がなく,手術至適時期(発症2週間以内)に手術を行える症例が少ないこと,②難易度の高い耳科手術手技を要すること,③エビデンスが確立されていないこと,などが挙げられる。

●徐放化栄養因子を用いた顔面神経減荷手術は神経再生を目的とした新たな術式であり,発症2週間以降の症例に対して有効であった。

《病的共同運動への対応》

ボツリヌス毒素の応用

著者: 坂本崇

ページ範囲:P.480 - P.484

POINT

●片側顔面痙攣のボツリヌス治療に準じて行う。

●やや少なめの量で効果があることが多い。

●治療対象筋を的確に同定する。

●顔面の小さな筋では効き過ぎること・近接部位への浸潤が起こり得ることに留意する。

●あらかじめ患者に本治療の利点・欠点をよく説明し,十分な共通認識・合意を得ておく。

病的共同運動の予防のためのミラーバイオフィードバック

著者: 中村克彦

ページ範囲:P.486 - P.491

POINT

●ミラーバイオフィードバックは,病的共同運動の予防に有効である。

●顔面神経麻痺の予後は,神経断裂の線維の割合に左右される。

●ENoGによる予後診断は,病的共同運動の予後判定にも有用である。

●ミラーバイオフィードバックを行うためには,患者教育が重要である。

●集団リハビリテーションは,患者の理解を深めるために有用である。

《顔面神経麻痺の機能再建・再生医療》

顔面神経麻痺に対する動的再建

著者: 多久嶋亮彦

ページ範囲:P.492 - P.497

POINT

●顔面神経麻痺に対する再建術は,静的再建術と動的再建術に分けられる。

●麻痺が不可逆性であると判断された場合は,できるだけ早期に表情筋を再利用する動的再建術が行われるべきである。

●急性期に行われる動的再建術としては,残存する神経近遠位端間の神経欠損部へのケーブルグラフトを第一選択とする。

●顔面神経近位端が確保できない場合は,顔面交叉神経移植術や神経移植術,あるいはその両者を組み合わせて動的再建を行う。

●麻痺後,時間が経過した場合は陳旧性麻痺として,部位別に再建術を行う。

●頬部への動的再建術は積極的に行われるべきであり,眼瞼に対しては眼痛,角膜損傷などの症状がみられる場合に動的再建術が勧められる。

顔面神経麻痺に対する静的再建

著者: 松峯元 ,   新美陽介 ,   櫻井裕之

ページ範囲:P.498 - P.503

POINT

●顔面神経麻痺があり遊離組織移植などの動的再建の適応が難しい症例に対しては,静的再建の利用頻度は高い。

●眉毛部の麻痺では,効果的な動的再建術が考案されていないことや,正面視では眉毛の高さのみが確保されていれば開瞼障害は生じないため,眉毛挙上術が広く用いられている。

●眼瞼周囲では,原因部位が上眼瞼か,下眼瞼かによって術式が異なりさまざまな術式があるが,手術のタイミングや術式の選択はいまだ定型化されていない。

●口角,鼻唇溝から頬にかけての神経麻痺があり,高齢者や長時間手術が好ましくない症例に対しては静的再建術が施行される。

●近年,顔面神経下顎縁枝麻痺に対する静的再建術式が諸家により模索されており,適応例は限定されるがBidirectional/double fascia graftingは非常に優れた下口唇再建を可能とする術式として期待されている。

人工神経を用いた顔面神経麻痺の治療

著者: 中村達雄 ,   稲田有史 ,   茂野啓示

ページ範囲:P.504 - P.510

POINT

●人工神経を用いた再建手術は神経断裂による顔面神経麻痺に対して適応がある。

●神経断裂部を人工神経で架橋し,中枢断端よりの神経軸索の伸展を誘導する。

●神経再生(軸索の伸展)の足場(scaffold)として人工神経ではコラーゲンが用いられる。

●術後の機能再生には,人工神経の周囲に良好な再生の「場」をつくることが重要である(再生の場の理論)。

●人工神経による再建は自己神経グラフト採取の必要がなく,手術手技も自家神経移植に比べてシンプルである。

原著

下眼瞼向き眼振を呈した17症例の臨床的検討

著者: 松吉秀武 ,   山西貴大 ,   後藤英功 ,   三輪徹 ,   栗崎玲一

ページ範囲:P.513 - P.518

はじめに

 下眼瞼向き眼振(DBN:down beat nystagmus)は約40%が特発性で原因不明とされている1)。DBNが前庭小脳の障害によって認められるとの報告は多く,局在診断的意義も大きいとされている。脊髄小脳変性症(SCD:spinocerebellar degeneration)とDBNとの関係については,同眼振を認める50症例の検討を行ったところ38症例が中枢性であり,そのうち,13症例の非遺伝性多系統萎縮症(MSA:multiple system atrophy)型のSCDを含んでいたとの報告がある2)。またSCDのうち脊髄小脳変性症6型(SCA6:spinocerebellar ataxia type 6)においては84%の症例に頭位変換時のDBNを認めたのに対してMSA症例では6.3%にとどまり,DBNはSCA6に有意に多いと報告されている3)。SCDによる小脳機能不全症状がしばしば末梢性めまいと類似するため,約25%の患者が耳鼻咽喉科を受診すると報告されている4)。このためSCDを適切に診断し,治療および社会支援に向けての耳鼻咽喉科医の責務は大きなものと考える。そこで,当院を受診したDBNを認めた17症例についての検討を行った。

気管切開術に縦隔気腫,皮下気腫,気胸を合併した1例

著者: 石原明子 ,   融衆太 ,   横山和明 ,   大野玲 ,   児玉真

ページ範囲:P.519 - P.523

はじめに

 外科的気管切開術や経皮的気管切開術は,日々の臨床において広く行われている手技である。合併症で比較的頻度の高いものには,感染,術後出血,気管孔肉芽や狭窄,皮下気腫や縦隔気腫,カニューレ関連(自己抜去,痰閉塞,カフ圧)などがある。稀な合併症として,気管腕頭動脈瘻,気胸などが報告されている。

 今回,外科的気管切開術施行直後に突然の換気困難を呈し,皮下気腫・縦隔気腫・右気胸を発症した症例を経験したので報告する。

内視鏡下鼻内手術を施行した巨大な鼻口蓋管囊胞例

著者: 牧原靖一郎 ,   浦口健介 ,   岡愛子 ,   石原久司 ,   宮武智実 ,   假谷伸 ,   岡野光博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.525 - P.530

はじめに

 鼻口蓋管囊胞は上顎正中部に生じる非歯原性囊胞で,鼻口蓋管(切歯管)の遺残上皮に由来するとされる1)。根治的治療法として囊胞全摘出が行われるが,巨大な囊胞の場合,摘出後の死腔の処理が問題となる。今回われわれは,内視鏡下鼻内手術で鼻口蓋管囊胞を両側鼻腔に開窓した症例を経験したため,若干の文献的考察とともに報告する。

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.453 - P.453

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.531 - P.531

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.532 - P.532

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.536 - P.536

 4月14日21時26分,熊本県熊本地方を震源とする平成28年熊本地震(前震:マグニチュード6.5)が発生しました。東京でも少し揺れを感じましたが,直後に熊本県益城町で震度7を観測したとのテレビ報道がありました。さらにその28時間後の4月16日1時25分には,同じく熊本県熊本地方を震源とする本震が発生し,再度,震度7を観測しました(マグニチュード7.3)。夜景に浮かび上がる熊本城から埃が舞い上がる映像から熊本城も甚大な被害があったことが予測されましたが,その詳細を目の当たりにしたのは翌朝の報道からでした。熊本市のシンボルである熊本城は1601年に加藤清正が大改修し天守閣を完成させたとされ,明治時代の西南戦争で薩軍に対して弱小の鎮台軍が城を守り抜くことができたことから,その堅固さが証明されました。このように最強の城の1つである熊本城にも大きな被害を与えた今回のマグニチュード7.3は1995年に発生した阪神・淡路大震災と同規模の大地震です。ちなみに2011年の東日本大震災はマグニチュード9.0という日本で観測史上最大の地震でしたが,震源は仙台市の東方沖70kmの太平洋の海底であり,地震の大きさは平成28年熊本大地震と同じ震度7でした。今回の大地震の特徴は余震の多さで,震度5以上の余震も18回以上観測されています。熊本大学病院をはじめ熊本県の多くの病院も甚大な被害があったようです。被災された皆さまに改めまして心よりお見舞い申し上げます。また,お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに,そのご遺族の方々に謹んでお悔やみ申し上げます。いまはただ,被災された皆さまの安全と健康の回復,また少しでも早い生活の復興を願うばかりです。

 さて,今月号の特集は「顔面神経麻痺—新たな展開」です。顔面神経麻痺の診断・治療の現状から病的共同運動への対応,そして最新の顔面神経麻痺の機能再建・再生医療まで,顔面神経麻痺についての最新知見を網羅しています。また,3編の原著も力作ぞろいです。最後に特集をご執筆いただいた先生方,ご投稿いただいた先生方に改めまして御礼申し上げます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

95巻13号(2023年12月発行)

特集 めざせ! 一歩進んだ周術期管理

95巻12号(2023年11月発行)

特集 嚥下障害の手術を極める! プロに学ぶコツとトラブルシューティング〔特別付録Web動画〕

95巻11号(2023年10月発行)

特集 必見! エキスパートの頸部郭清術〔特別付録Web動画〕

95巻10号(2023年9月発行)

特集 達人にきく! 厄介なめまいへの対応法

95巻9号(2023年8月発行)

特集 小児の耳鼻咽喉・頭頸部手術—保護者への説明のコツから術中・術後の注意点まで〔特別付録Web動画〕

95巻8号(2023年7月発行)

特集 真菌症—知っておきたい診療のポイント

95巻7号(2023年6月発行)

特集 最新版 見てわかる! 喉頭・咽頭に対する経口手術〔特別付録Web動画〕

95巻6号(2023年5月発行)

特集 神経の扱い方をマスターする—術中の確実な温存と再建

95巻5号(2023年4月発行)

増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

icon up
あなたは医療従事者ですか?