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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科89巻6号

2017年05月発行

雑誌目次

特集 抗菌薬を使いこなす

ページ範囲:P.381 - P.381

抗菌薬の考え方と使い方

著者: 小山泰司 ,   岩田健太郎

ページ範囲:P.382 - P.388

POINT

●感染症の診断は,病歴と培養採取が重要である。

●感染症の三角形(臓器,微生物,重症度)を大切にする。

●抗菌薬は十分量を投与する。

高齢者への抗菌薬の使い方

著者: 石井正紀 ,   秋下雅弘

ページ範囲:P.389 - P.395

POINT

●高齢者感染症を診療する際には,患者背景を十分考慮し,使用薬剤による副作用などに注意する。

●高齢者は加齢に伴う腎機能や肝薬物代謝の低下を念頭においた抗菌薬の選択が重要である。

●高齢者という理由だけで,投与量を減量するという原則が成り立たない抗菌薬もある。ただし,薬剤感受性判明後は,速やかなデエスカレーションが肝要である。

●高齢者感染症における抗菌薬処方の際には,基礎疾患に対する多剤服用の観点からも,薬物有害事象のリスクに注意する。

妊婦・授乳婦への抗菌薬の使い方

著者: 山口晃史

ページ範囲:P.396 - P.403

POINT

●妊娠中の母体環境は大きく変化し,免疫力が低下し易感染性となる。

●腎機能,肝機能,循環血漿量,血漿成分の変化により薬物動態も変化する。

●胎児への安全性(催奇形性,胎児毒性)を常に配慮する必要がある。

●胎児奇形発生への影響が強い時期は絶対過敏期(妊娠4〜7週)であるが,以降も胎児毒性という点で注意が必要である。

●使用にあたっては添付文書の指示に従うべきであるが,有益性投与薬において,使用の必要性が高くなった場合は,蓄積された情報をもとに安全性の高いことを確認し,患者に十分説明するとともに承諾を得てから使用する。

《耳領域》

小児急性中耳炎

著者: 伊藤真人

ページ範囲:P.404 - P.408

POINT

●本邦では,小児急性中耳炎の起炎菌としてインフルエンザ菌の比率が高まっている。

●本邦における小児急性中耳炎症例からの検出菌と抗菌活性は欧米とは大きく異なり,薬剤耐性菌の検出頻度が高い。

●肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)は急性中耳炎難治例を減少させる。

●難治性急性中耳炎には遷延性と反復性(otitis prone)があり,抗菌薬治療ではコントロールできない真の難治性中耳炎とは反復性中耳炎である。

●難治例の抗菌薬選択の基本は,遷延例ではテビペネムもしくはアモキシシリン高用量+鼓膜切開,反復例(otitis prone)ではトスフロキサシンもしくはセフジトレン高用量+鼓膜切開である。

慢性中耳炎

著者: 木村百合香

ページ範囲:P.410 - P.413

POINT

●慢性中耳炎の根本的な治療は外科的治療である。それに至るまでの感染制御や外科治療を希望しない患者に対する耳漏の停止には,抗菌薬の投与が有効である。

●慢性中耳炎では,鼓膜穿孔が存在することから,外耳道経由で点耳抗菌薬の使用が有効である。

●鼓膜穿孔が小さく点耳抗菌薬の投与ルートが確保できない場合や乳突腔への感染拡大が懸念される場合には,内服抗菌薬の投与も検討する。

●抗菌薬治療によっても良好な経過が得られない場合には,結核性中耳炎や,ANCA関連血管炎性中耳炎,好酸球性中耳炎,聴器がんなどの可能性も考慮する。

《鼻・副鼻腔領域》

急性鼻副鼻腔炎

著者: 保富宗城

ページ範囲:P.414 - P.418

POINT

●急性鼻副鼻腔炎に対しては,重症度に基づいた抗菌薬治療を行うことが『急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年度版』で推奨されている。

●軽症例では抗菌薬非投与で経過観察を行い,症状が悪化した場合に抗菌薬を投与する。中等症例以降は,年齢を問わず初回治療より抗菌薬を用いる。

●膿汁の排泄を促す鼻処置やネブライザー治療の併用が重要である。

●初回抗菌薬の投与で改善がみられない場合には,薬剤の感受性を考慮したうえで薬を切り替える。重症例の場合には,上顎洞穿刺洗浄や上顎洞穿刺も考慮する。

慢性鼻副鼻腔炎

著者: 都築建三 ,   橋本健吾

ページ範囲:P.419 - P.426

POINT

●好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は新たな診断基準が提唱され,2015年に厚生労働省指定難病となり,患者数も1990年代後半から増加傾向にある。

●MRSA(25.9%),H. influenzae(66.0%),M. catarrhalis(96.4%)の耐性株が増加している。

●慢性副鼻腔炎に対しては耐性菌に留意しながらマクロライド系抗菌薬を投与し,慢性副鼻腔炎急性増悪に対してはキノロン系抗菌薬を選択する。

●ECRS診断基準に従いnon-ECRSとECRSを判断し,それぞれ適切に薬物治療(抗菌薬およびステロイド薬),外科的治療(ESS)を組み合わせる。

副鼻腔真菌症

著者: 角田梨紗子 ,   東海林史 ,   太田伸男

ページ範囲:P.427 - P.431

POINT

●浸潤型副鼻腔真菌症では,抗真菌薬の投与が必要となる。

●抗真菌薬は,その排泄経路も加味して処方する。

●浸潤型副鼻腔真菌症に対する抗真菌薬の投与期間については一定の見解がなく,患者の状態に合わせて個別に対応する。

●残存真菌による再発の可能性もあるため,治療後も注意深い観察が必要である。

《咽喉頭・頭頸部領域》

急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍

著者: 鈴木正志

ページ範囲:P.432 - P.436

POINT

●急性扁桃炎ではウイルス性,軽症例では抗菌薬の使用を可能な限り控える。

●急性扁桃炎ではA群β溶連菌を鑑別する。

●扁桃周囲膿瘍では嫌気性菌が原因菌として重要である。

●扁桃周囲膿瘍では耐性菌の観点からクリンダマイシン,カルバペネム系抗菌薬の使用は控えるようにする。

性感染症

著者: 余田敬子

ページ範囲:P.437 - P.444

POINT

●口腔咽頭梅毒では,梅毒特有の病変である初期硬結,硬性下疳,粘膜斑,口角炎がみられ,診断の契機となりやすい。

●梅毒の治療には,ベンジルペニシリンベンザチン 400万単位またはアモキシシリン500mg 1日3回,ペニシリンアレルギーの場合はミノサイクリン100mgを1日2回,第1期は2〜4週間,第2期は4〜8週間,感染後1年以上または感染時期不明の場合では8〜12週間投与する。

●淋菌とクラミジアの咽頭感染は無症候感染例が多いが,一部の感染者は咽頭炎,扁桃炎,上咽頭炎を発症する場合がある。

●淋菌の咽頭感染にはセフトリアキソンを,クラミジアの咽頭感染ではアジスロマイシンまたはクラリスロマイシンを投与し,治療2週間後に治癒確認検査を実施する。

急性喉頭蓋炎

著者: 齋藤康一郎 ,   渡邉格

ページ範囲:P.445 - P.448

POINT

●急性喉頭蓋炎は耳鼻咽喉科における救急診療において念頭に置くべき炎症性疾患の1つであり,迅速かつ適切な診断と治療が必須である。

●本疾患は,Hibワクチンにより小児症例が激減したとはいえ,消滅したわけではなく,成人症例はむしろ増加傾向にある。

●治療は気道確保を最優先し,そのうえで抗菌薬の静注投与を行う。

深頸部膿瘍

著者: 星川広史

ページ範囲:P.449 - P.453

POINT

●いったん頭頸部の間隙に炎症が波及し膿瘍を形成すると,気道狭窄,縦隔炎,敗血症などを併発し,致死的となる可能性がある。

●歯性感染,扁桃炎,唾液腺炎などに起因すると考えられるが,原因がはっきり同定しがたい場合も多い。

●疑わしいときは,頸胸部の造影CTをただちに撮影する。

●菌検査で原因菌が同定されない場合も多く,嫌気性菌の関与を念頭に抗菌薬の選択と膿瘍腔の開放を遅滞なく行う。

嚥下性肺炎

著者: 山岸亨 ,   松瀬厚人

ページ範囲:P.454 - P.458

POINT

●嚥下性肺炎の抗菌薬治療は医療・介護関連肺炎(NHCAP)の治療戦略と大きく異なるところはないが,口腔内常在菌や嫌気性菌の関与も考慮して薬剤を選択する。

●治療中も誤嚥を繰り返し難渋することが多く,治療と同時に予防策も行うことが大切である。

●患者背景は個体差が大きく多様であるため,コメディカルと連携を図り,個々に応じたアプローチが必要である。

周術期予防投与

著者: 林達哉

ページ範囲:P.459 - P.464

POINT

●喉頭微細手術では予防抗菌薬投与を推奨しない。

●その他の耳鼻咽喉科,頭頸部外科手術では全身麻酔導入時にセファゾリン1gの投与を開始する。

●ただし,口腔・咽頭に切開が及ぶ悪性腫瘍手術では嫌気性菌をターゲットにスルバクタム/アンピシリン1.5〜3gを選択する。

●術中,セファゾリンは3〜4時間ごとに,スルバクタム/アンピシリンでは2〜3時間ごとに予防抗菌薬を追加する。

原著

開口障害を伴った小児蝶形骨洞炎例

著者: 直井勇人 ,   橘智靖 ,   牧野琢丸 ,   小松原靖聡 ,   三森天人

ページ範囲:P.465 - P.469

はじめに

 急性副鼻腔炎は重症化すると周囲に炎症が波及し,眼窩・頭蓋内合併症を生じることがあるが,開口障害を伴うことはきわめて稀である1)。今回われわれは,蝶形骨洞の炎症が側頭下窩に波及し,開口障害を伴った小児蝶形骨洞炎の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

tcDCS(経頭蓋小脳直流電気刺激)を用い前庭リハビリテーションの効果増強を試みた2症例

著者: 五島史行 ,   荒井美希 ,   利國桂太郎 ,   若林毅 ,   細谷誠 ,   山本修子 ,   南修司郎 ,   松永達雄 ,   角田晃一 ,   美馬達哉 ,   小金丸聡子

ページ範囲:P.471 - P.475

はじめに

 めまいの原因はさまざまであるが,その1つに末梢前庭障害によるものがある。多くの場合には前庭代償によって症状は改善するが,代償不全となり症状が遷延する症例もある。そのような慢性期の治療として重要なのは,前庭代償を目的とした前庭リハビリテーションである。しかし,リハビリテーションによっても十分な効果が得られない症例は少なくない。これらの症例に対しては,より効果的なリハビリテーションが必要である。

 リハビリテーションの効果を促進するための新しい方法として,頭蓋の外から大脳に対して直流電気刺激を与える経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)(図1)が注目されている。経頭蓋的に大脳に直流電気刺激を加えることでリハビリテーション効果が促通することが報告されており1),近年この方法を応用したtcDCS(transcranial cerebellar direct current stimulation,経頭蓋小脳直流電気刺激)が報告されている2,3)。前庭代償で重要な役割を果たす小脳に電気刺激を加えることで,難治性めまいのリハビリテーション治療に対する促通効果が期待できる可能性がある。今回,tcDCSを用い,難治性の代償不全となった片側前庭障害症例に対して前庭リハビリテーション治療を試みたので報告する。

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欧文目次

ページ範囲:P.379 - P.379

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.478 - P.478

 風薫る季節となりましたが,いかがお過ごしでしょうか?

 今月の特集は「抗菌薬を使いこなす」です。耳鼻咽喉科医にとって,感染症は普段の臨床現場で最も診察する機会が多い疾患の1つであり,抗菌薬の適切な投与が求められます。1920年代に英国人アレクサンダー・フレミングによりペニシリンが発見され,その20年後に実用化されて以来,抗菌薬は毎年のように新薬が開発され,さまざまな菌種に対応し高い効果を示します。一方で,薬剤耐性菌も次々と出現し,われわれ医療従事者と患者さん双方を困らせます。残念ながら日本は国際的にみても薬剤耐性菌が多い国と認識すべき状況でしょう。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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