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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科89巻8号

2017年07月発行

雑誌目次

特集 ここが知りたい! 高齢化時代の頭頸部がん診療

ページ範囲:P.569 - P.569

高齢者への化学放射線療法

著者: 山﨑知子

ページ範囲:P.570 - P.576

POINT

●高齢者のがん治療の可否は,身体所見,合併症の有無,認知機能,患者を取り巻く家族背景などを含めた総合的評価が必要となる。

●高齢者における切除不能局所進行頭頸部がんの化学放射線療法,術後再発ハイリスク症例における補助化学放射線療法は,高齢者を対象とした大規模な臨床試験が行われておらず,有用性と安全性が十分に評価されているとは言い難い。

●加齢に伴い嚥下機能の低下がみられる。よって,高齢者へ喉頭温存目的の化学放射線療法を施行する際は,特に留意すべきである。

●高齢者は非高齢者と比較して,薬物療法,放射線療法の副作用が強く出ることがある。

●高齢という理由のみで,安易にセツキシマブ併用放射線療法を選択すべきではない。全身状態,治療前の嚥下機能しだいでは,放射線単独療法,手術も選択肢に挙げるべきである。

後期高齢者の手術適応

著者: 手島直則 ,   松本文彦 ,   吉本世一

ページ範囲:P.578 - P.583

POINT

●後期高齢頭頸部がん患者の主たる治療方法は手術であり,手術による機能温存もしくはQOL維持が可能な治療戦略を立てる。

●後期高齢者における手術適応は,実年齢ではなくperformance statusや併存疾患をもとに判断する必要がある。

●進展範囲に応じて予防郭清の省略など柔軟な術式選択を行い,再建を要する際には可能であれば遊離皮弁の使用を検討する。

●後期高齢者の周術期管理においては重篤な術後合併症の発生があることを念頭に置き,注意深く評価しなければならない。

高齢者に対する喉頭温存手術の適応と限界

著者: 大久保淳一 ,   松浦一登

ページ範囲:P.584 - P.588

POINT

●65歳以上人口が全人口の25%を超え超高齢社会を迎えた本邦では,後期高齢者のみならず,超高齢者を対象とした手術は珍しくない時代となった。

●下咽頭がん・喉頭がんを中心に,高齢者を対象とした喉頭機能温存手術の現況と今後の展望について解説した。

●高齢者の喉頭温存手術後の機能障害で最もQOLに影響するのは嚥下機能障害であり,術前の嚥下機能評価は必須である。

●家族が協力的であり,なおかつ本人の喉頭温存に対する強い意志があり,術前の下咽頭・食道透視で誤嚥がなく,重篤な全身疾患がない高齢者に対しては,喉頭温存手術は選択肢となりうる。

●適応基準は75歳以下であることが原則ではあるが,高齢者に対してもオーダーメイド化治療が求められる時代であり,適応基準のみで年齢の上限を画一的に定めるのではなく,同じ75歳でも個人差が大きいことを踏まえ,幅を持たせて対応することが求められる。

重複癌の治療戦略

著者: 中島寅彦 ,   瓜生英興 ,   増田智也

ページ範囲:P.590 - P.594

POINT

●頭頸部領域の重複癌症例は増加しており,高齢化社会の現代では避けて通れない課題である。

●頭頸部領域の一次癌の治療においては,将来の二次癌発症の可能性も念頭に置くことが必要である。

●高齢者同時重複癌の治療においては他科,多職種連携が重要である。

再発・転移に対する薬物療法

著者: 岡野晋

ページ範囲:P.596 - P.601

POINT

●高齢者の診療に際しては,暦年齢だけでなく,個々の余命,生活レベル,身体的特徴などを総合的に考える必要がある。

●治療適応患者の選択は,評価ツールの使用,もしくはツールに準じた問診も有用である。

●治療目標は生存延長だけでなく,症状緩和,QOL維持など多角的に考える。

●臨床研究が多数進行中であり,他がん種を含めた研究の動向に注視する。

認知症・せん妄への対応

著者: 花井信広

ページ範囲:P.602 - P.608

POINT

●認知症患者の治療適応についての判断材料は多岐にわたり,あくまで総合的に評価されるべきものである。

●せん妄は迅速な診断と積極的な介入を必要とするという点で見落とされるべきでない。CAM-ICUやICDSCは簡便なせん妄評価ツールである。

●せん妄の原因となる身体疾患として脱水,電解質異常,感染,また薬剤としてオピオイド,睡眠薬,抗不安薬,抗コリン作用をもつ薬剤,H2ブロッカーに注意が必要である。

●せん妄の治療は,非薬物療法が第一選択である。薬物療法に関しては特に高齢者に対する薬物療法では少量から開始し,丁寧に処方量を調節していく。

術後摂食嚥下障害への対応

著者: 古川竜也 ,   丹生健一

ページ範囲:P.609 - P.615

POINT

●高齢者では摂食・嚥下に関するさまざまな機能が低下している。頭頸部がん治療を契機に,顕在化して,予想以上に高度の障害を発症することを常に念頭に置く。

●治療前,治療直後からのオリエンテーション,リハビリテーション,栄養療法が重要である。

●嚥下機能改善手術は高齢者では効果が不良との報告が散見され,侵襲的な介入は慎重に検討する。

●最終手段として誤嚥防止術を施行する場合がある。創傷治癒不良の患者にも対応できるように,低侵襲で安全な術式を検討すべきである。

代用音声

著者: 佐藤雄一郎

ページ範囲:P.616 - P.622

POINT

●頭頸部がんの多くを占める下咽頭・喉頭がん治療において,昨今は非手術治療による機能温存を期待する患者が多い。

●しかし,放射線治療を選択した場合,合併症の1つである誤嚥性肺炎は臓器予備能の低下している高齢者にとっては致命的となる。

●つまり,高齢者だからこそ全身状態など一定の条件がクリアされれば,喉頭全摘などの拡大切除を積極的に選択することも理論として成立する。

●喉頭全摘者が高齢であっても,若年者と同様に,食道発声,電気喉頭発声,シャント発声を患者のライフスタイルに合わせて公平に提案する。

●高齢者の喉頭全摘患者では,保温・加湿されない吸気による下気道障害への対策として人工鼻の使用は推奨される。

退院支援

著者: 中平光彦

ページ範囲:P.624 - P.631

POINT

●これからのわが国を取り巻く高齢がん患者の問題点の1つはその数の多さであり,従来型の医療システムでは機能不全に陥ることが明白である。

●団塊の世代が後期高齢者になる2025年に向けて,「施設」から「地域」へ,「医療」から「介護」へシステムを変更しようという取り組みが,法律の制定や定期的な介護・診療報酬改定を通して行われている。

●頭頸部がん患者は他がん患者と比べその解剖生理学的特性から退院後も継続して医療や介護を要することが多く,入院早期から医師は退院支援チームの一員として患者の退院支援に積極的に関与していくことが求められる。

原著

頸部リンパ節腫脹にて発症した年長小児川崎病の3例

著者: 田中稔丈 ,   吉田友英 ,   本山治 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.633 - P.637

はじめに

 川崎病は,小児急性皮膚粘膜リンパ節症候群ともいわれ,1967年に小児科医の川崎富作によってはじめて報告されている1)。多彩な臨床症状をきたす疾患として知られており,しばしば診断に難渋する。診断とそれに続く治療の遅れによって,冠動脈病変が進展し致死的となることが知られており2),早期の診断が大切である。しかし,特徴的な臨床症状は初診時には認めないことが多く特異的な検査所見もないことが,本症の早期の診断を難しくしている。

 耳鼻咽喉科外来では,発熱・頸部リンパ節腫脹を主訴に来院する例が多いが,そのなかからできるだけ早期に川崎病を見つけ出す必要がある。われわれは,2012年4月から2016年3月までの2年間に,発熱・頸部リンパ節腫脹を主訴に来院した,年長小児川崎病症例3例を経験し若干の知見を得たため,文献的考察とともに報告する。

異なる周波数でdip型突発難聴を3回反復した聴神経腫瘍の1例

著者: 酒井昇 ,   白取謙一 ,   今石寛昭 ,   松浦聖一

ページ範囲:P.639 - P.643

はじめに

 聴神経腫瘍は聴神経から発生する良性の腫瘍である。聴神経のうち前庭神経から生ずるものがほとんどであり,蝸牛神経に由来するものは極めて稀である。したがってめまいを初発症状として受診することが多いと考えられるが,臨床的には難聴・耳鳴などの蝸牛症状で受診することが圧倒的に多い。その理由は腫瘍がゆっくりと増大し,かつその間に前庭の代償機能が働くためと考えられる。

 一般に,聴神経腫瘍における難聴は腫瘍の増大に伴って徐々に進行する特徴があるが,なかには突発難聴で発症することも少なくない。突発難聴で発症する機序に関しては,蝸牛神経への急速な圧迫や血流障害が考えられている。今回われわれは周波数が異なるdip型の突発難聴を3回繰り返した特異な聴神経腫瘍の1例を経験した。本稿では症例の概要を報告するとともに,突発難聴を伴う聴神経腫瘍につき文献的なまとめを行った。

鼓室形成術における経外耳道的内視鏡下手術と顕微鏡下手術の比較

著者: 内田真哉 ,   出島健司 ,   越知康子 ,   村上怜 ,   村井尚子 ,   水田康博

ページ範囲:P.645 - P.649

はじめに

 1987年,Thomassinら1)によって硬性内視鏡が耳科領域に持ち込まれて以来,内視鏡単独での手術の普及まで数十年を要した。本邦でもその有用性2)が理解され,現在では死角が少なく低侵襲性な耳科手術として経外耳道的内視鏡下耳科手術3,4)(transcanal endoscopic ear surgery:TEES)が広く行われるようになってきており,当科でも2012年から鼓室形成術に内視鏡を導入している。今回われわれは,内視鏡手術の導入初期での術後成績をTEES群と顕微鏡下耳科手術(microscopic ear surgery:MES)群とに分けて比較検討を行った。

術後17年目を経て転移・再発を繰り返した後に未分化転化した甲状腺乳頭癌の1例

著者: 宮原裕 ,   中村恵 ,   笹井久徳 ,   鎌倉綾 ,   黒川雅史

ページ範囲:P.651 - P.656

はじめに

 甲状腺乳頭癌は高い治癒率が得られているが,10年生存率が議論されるように長期の経過観察が肝要といわれている。

 われわれは甲状腺右葉乳頭腺癌の術後,17年目に嗄声をきたし,CTで甲状腺左葉に異常陰影,甲状腺左葉直下と腕頭動脈直下のリンパ節腫脹が認められ,それらを頸部創部から摘出しえた症例を経験した。しかし,その後に転移・再発を繰り返し,初回の転移巣切除から7年の経過を経て縦隔リンパ節転移巣は未分化転化を示したので文献的考察を加え報告する。

書評

耳鼻咽喉科・頭頸部外科レジデントマニュアル

著者: 村上信五

ページ範囲:P.644 - P.644

 本書は京大耳鼻咽喉科・頭頸部外科で,15年前から教室員や医学生,看護師などのメディカルスタッフを対象に行ってきたモーニングレクチャーやイブニングレクチャーの資料を基に作成されたものである。

 “何事もまずは形から入る”とはよく言ったものである。本書はコンパクト! 縦18cm×横11cmで,iPhone Plusよりは大きいがiPad Miniよりは小さい。白衣のポケットにも収まり,片手でページをめくることができる。厚さはiPadの2倍あるが,重さは14g軽く,ジャスト300gである。光沢のある上質紙を使用しており,400ページ超ものコンテンツが収まっている。一目見ただけで,手に取って中身をのぞきたくなる。

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欧文目次

ページ範囲:P.567 - P.567

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.650 - P.650

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.660 - P.660

 IFOSとはInternational Federation of Oto-Rhino-Laryngological Societyの略でIFOS World Congressが世界耳鼻咽喉科会議として4年に1回開催されていますが,本年6月24日から第27回世界耳鼻咽喉科会議がパリで開催されます。IFOSと日本との関係は古く,1965年に第8回世界耳鼻咽喉科会議が東京で開催された際に,IFOSが組織化されました。それから約半世紀が経ちましたが,それ以降IFOS World Congressの日本での開催はありません。1965年といえば1964年に開催された東京オリンピックの翌年です。2020年には2回目の東京オリンピックの開催が決まっていますが,日本耳鼻咽喉科学会としても再度,東京オリンピックの翌年の2021年のIFOS World Congressを日本に誘致すべくIFOS誘致委員会を組織して,誘致活動を行っています。今回は文部科学省,厚生労働省,国土交通省,日本政府観光局,そして予定開催会場であるパシフィコ横浜を有する横浜市も加わったAll Japan体制で活動を展開しています。昨年,IFOS役員によるパシフィコ横浜のサイトビジットの結果,日本も正式候補国として認められ,現在,アルゼンチン,カナダ,UAE,モロッコという今回の候補国を加えた5か国で凌ぎを削っています。今回は初の立候補ですので,今回誘致ができなくても2025年には再度チャレンジすることになっています。パリIFOS World Congress最終日の6月27日にfinal presentationを行い投票となる予定ですが,2020年東京オリンピック開催が決まったときのような,「お・も・て・な・し」効果で誘致が成功するか,今からドキドキです。

 さて,今月号の特集は「ここが知りたい!高齢化時代の頭頸部がん診療」です。超高齢社会を迎えて咽頭がんに代表されるように頭頸部がん患者も急速に増加しています。高齢頭頸部がん患者の治療法の選択から重複癌の問題,認知症・せん妄や術後摂食嚥下障害への対応,代用音声の問題から退院支援まで,各分野のエキスパートによる解説で,まさに時代の要請を受けた特集となっています。また,原著4編も力作揃いです。是非,お読みいただければと思います。最後に特集をご執筆いただいた先生方,ご投稿いただいた先生方に改めまして御礼申し上げます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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