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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科90巻10号

2018年09月発行

雑誌目次

特集 どこが変わった頭頸部癌診療ガイドライン

ページ範囲:P.797 - P.797

ここが変わった頭頸部癌診療ガイドライン

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.798 - P.799

 頭頸部には呼吸や摂食・嚥下など生命維持に必須の臓器とともに,聴覚や視覚,嗅覚や味覚などの感覚器,発声機能を司る喉頭など,ヒトが「人」として生きるために欠かすことができない多くの臓器が存在する。このため,頭頸部に発生した悪性腫瘍の治療に対しては,がんの根治とともに,臓器や機能の維持,生活の質(QOL)の維持が求められる。この困難な命題に対して,1960年代より他の領域に先駆けて手術や化学療法,放射線治療を組み合わせたさまざまな集学治療が全国各地の施設で行われてきた。しかし,がんの根治とQOLの向上を目指す思いは共通していても,術式や化学療法の組み合わせ,放射線量はまちまちで,近年に至るまで標準治療は確立されていなかった。

 こうした状況のなか,わが国における頭頸部癌治療の均てん化を目指し,2009年に『頭頸部癌診療ガイドライン』初版が出版された。その後,『TNM悪性腫瘍の分類』と『頭頸部癌取扱い規約』の改訂を受けて2013年に第1回の改訂版『頭頸部癌診療ガイドライン—2013年版』が発刊され,以来5年が経過した。この間,鼻・副鼻腔癌や喉頭・下咽頭癌に対する内視鏡手術は標準治療の1つとして各施設で行われるようになり,免疫チェックポイント阻害薬,甲状腺癌に対する分子標的薬など,従来の抗癌剤と全く作用機序の異なる薬物療法が登場した。さらに,2017年末に改訂されたAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)・Union for International Cancer Control(UICC)のTNM分類では,ヒトパピローマウイルス(HPV)関連中咽頭癌が古典的な中咽頭癌から独立して扱われることになり,p16陽性の原発不明癌はp16陽性中咽頭癌,EBER陽性の原発不明癌は上咽頭癌として扱われるようになった。

口腔癌

著者: 朝蔭孝宏

ページ範囲:P.800 - P.805

POINT

●T分類に深達度(depth of invasion:DOI)の概念が追加された。

●アルゴリズムに関しては変更はない。

●クリニカルクエスチョンは倍増した。

●早期舌癌に対する予防的頸部郭清のランダム化試験が行われている。

上顎洞癌

著者: 本間明宏

ページ範囲:P.806 - P.809

POINT

●上顎洞癌の治療は手術を主体とした治療が標準治療とされているが,施設により手術術式,放射線治療,化学療法の内容は異なっているという実情がある。

●動注化学療法は広く行われているものの,ガイドラインで強く推奨できるエビデンスはない。

●眼窩骨膜を超えて進展している場合には,多くは眼球摘出が適用され,温存した場合でも視機能に障害を生じる可能性があることを術前に患者と十分に話し合って判断する。

●上顎洞癌のような希少癌は,多施設で共同して新たなエビデンスを創出していかなければならない。

上咽頭癌

著者: 古平毅

ページ範囲:P.810 - P.814

POINT

上咽頭癌での主な変更点は以下の通りである。

●治療各論のアルゴリズム:Stage Ⅱ以上をⅡ期とⅢ-ⅣA期に分割し治療内容を細分類した。

●CQ4-2:導入化学療法の意義を追加した。

●CQ4-3:早期上咽頭癌の化学放射線療法を追加した。

●CQ4-4:追加化学療法の意義を追加した。

中咽頭癌

著者: 中島寅彦 ,   瓜生英興

ページ範囲:P.815 - P.819

POINT

●前版と比して治療アルゴリズムに大きな変更はない。QOLを考慮した集学的治療が推奨される。

●p16免疫染色検査がTNM分類の決定のために必要な検査であることが記載された。

●ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)感染(p16免疫染色性)による治療個別化のエビデンスはまだ明らかではなく,治療強度を変更することは推奨されない。HPV関連癌,非関連癌で治療アルゴリズムに区別はない。

下咽頭癌

著者: 松浦一登

ページ範囲:P.820 - P.825

POINT

●N分類にN3bが新設され,節外浸潤を認めた場合は数や大きさを問わずN3bとなった。

●アルゴリズムがT1,T2,T3,T4aに細分化され,導入化学療法が新しい選択肢として示された。

●T1,T2例に対する喉頭温存手術の選択が上位に位置づけられ,症例によっては適応範囲がT3症例にまで広げられた。

喉頭癌

著者: 藤井隆

ページ範囲:P.826 - P.831

POINT

●喉頭癌ではUICCのT分類に大きな変更がないため,口腔・咽頭癌に比べて診療ガイドライン上の変更点は少ない。

●診療ガイドラインの治療アルゴリズムに,他の原発部位にはないTis(上皮内癌)が追加された。

●進行癌に対する治療アルゴリズムに導入化学療法が追加され,喉頭温存治療に関するクリニカルクエスチョン(CQ)が増加した。

●化学放射線療法後の救済手術は,頭頸部癌全体としては救済率が高くないこともあり推奨グレードがC1にとどまっているが,喉頭癌に関しては救済率が高く推奨されている。

甲状腺癌

著者: 門田伸也

ページ範囲:P.832 - P.836

POINT

●2016年に発行された『AJCC/UICC TNM分類—第8版』に準拠して,甲状腺癌の新しい病期分類が記載された。

●ATA-DTC 2015,revised ATA-MTC 2015,NCCN 2017など,新規ガイドラインの考え方を盛り込んで治療ガイドラインが作成された。

●新しいT分類,N分類を基本にアルゴリズムが刷新された。

●新規標準治療(主に分子標的薬治療)について記載された。

唾液腺癌

著者: 大月直樹

ページ範囲:P.838 - P.844

POINT

●唾液腺(耳下腺)癌の『頭頸部癌診療ガイドライン—2018年版』における変更点ついて解説した。

●病期(Stage)分類に変更はないが,N分類の変更により,臨床的に節外浸潤のあるリンパ節が認められればN3bとなり,Stage ⅣBに分類されることとなった。

●悪性度診断は唾液腺腫瘍WHO分類の改訂により変更があった。

●TNM分類に基づいた治療アルゴリズムに変更はない。

●頸部転移が陽性の場合には全頸部郭清を行うことが推奨される。

原発不明頸部リンパ節転移癌

著者: 別府武

ページ範囲:P.845 - P.849

POINT

●今回の第3版で,初めて原発不明頸部リンパ節転移癌の項目が新設された。

●頸部リンパ節の組織診断で扁平上皮癌が検出された場合,p16の免疫染色とEpstein-Barr virus encoded RNA in situ hybridization(EBER-ISH)が必須となった。

●p16免疫染色が陽性の場合はp16陽性中咽頭癌,EBER-ISH法が陽性の場合は上咽頭癌に分類されることになった。

●頸部リンパ節の組織診断で扁平上皮癌が検出された場合,口蓋扁桃摘出術が推奨される。

放射線治療

著者: 古平毅

ページ範囲:P.850 - P.854

POINT

放射線治療での主な変更点は以下の通りである。

●「治療総論」が新設された。

●CQ12として放射線治療のクリニカルクエスチョン(CQ)が独立した。

●CQ12-3(化学放射線療法後の救済手術),CQ12-4(化学放射線療法後の再照射)が新設された。

●CQ12-1(術後化学放射線療法),CQ12-2(強度変調放射線治療)が修正され,CQ12-5〜CQ12-7では粒子線治療を細分化して解説された。

がん薬物療法

著者: 清田尚臣

ページ範囲:P.855 - P.860

POINT

●プラチナ抵抗性頭頸部扁平上皮癌に対する免疫チェックポイント阻害薬,また甲状腺癌に対する血管内皮成長因子受容体(VEGF-R)を標的とする分子標的薬が登場し,頭頸部癌領域の臨床は大きく変わった。

●これらの薬剤の登場により治療オプションは増えたが,有害事象への対応などがん薬物療法はますます複雑化している。

●ガイドラインでは治療総論に「がん薬物療法」が新設され,治療目標を①根治を目指した集学的治療,②再発・転移に対する化学療法,に分けて解説されている。クリニカルクエスチョン(CQ)でも変更点や新規CQが加わっている。

Review Article

アレルギー性鼻炎の診療・臨床研究に関する現状と今後の展望

著者: 山田武千代

ページ範囲:P.862 - P.866

Summary

●本邦では,アレルギー疾患対策基本法ならびに臨床研究法のもとで,疫学・基礎・臨床研究が促進されている。

●アレルギー疾患においてもプレシジョン・メディシン(精密医療)が注目されており,バイオマーカーや遺伝因子,環境因子,地域差などを考慮して分類し,適合した治療を選択するためのエビデンスの蓄積が求められている。

●有病率が高いアレルギー性鼻炎は,寛解率や自然治癒率が低く,他のアレルギー疾患に大きな影響を与えるため,その診断と治療は他のアレルギー疾患の病態においても重要である。

原著

両側外耳道に生じた限局性皮膚アミロイドーシスの1例

著者: 松見文晶 ,   清水雅子

ページ範囲:P.867 - P.871

はじめに

 アミロイドーシスは,全身の諸臓器の細胞外に線維状構造をもつ特異な蛋白質であるアミロイドが沈着し,機能障害を引き起こす疾患群で,全身諸臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスと,ある臓器に沈着が限局する限局性アミロイドーシスに大別される。耳鼻咽喉科領域でもアミロイドーシスの報告は散見されるが,部位別では喉頭が多く1),外耳道に生じたアミロイドーシスの報告は少ない。今回われわれは,両外耳道限局性皮膚アミロイドーシスの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

食道癌術後挿管を原因とした声帯突起部癒着の1例

著者: 白倉聡 ,   別府武 ,   得丸貴夫 ,   畑中章生 ,   岡野渉 ,   藤川太郎 ,   千田邦明 ,   河邉浩明 ,   福田俊

ページ範囲:P.873 - P.876

はじめに

 声門癒着症は後天性の慢性喉頭狭窄の1つであり,比較的稀な病態である。その原因は外傷,炎症,化学薬品の吸引などの稀なものもあるが,気管内挿管の既往と声帯麻痺の頻度が高い。声門癒着はその部位により前方癒着症と後方癒着症に分類され,後方癒着症は両側性の声帯麻痺との鑑別が重要となる。今回われわれは,食道癌術後に呼吸状態が悪化し気管内挿管を行った症例の声門後部癒着症の手術を経験し,過去の症例との比較検討を行ったので報告する。

ニボルマブ投与後に生じた甲状腺機能障害の3例

著者: 横川泰三 ,   川浪康太郎 ,   坂下智博

ページ範囲:P.877 - P.882

はじめに

 ニボルマブはヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体である。ニボルマブはPD-1とそのリガンドとの結合を阻害することで,がん抗原に特異的なT細胞の増殖,活性化を促進し,腫瘍細胞の増殖を抑制している1)

 本邦では2014年7月に切除不能な悪性黒色腫に対して使用開始となり,その後,切除不能な進行・再発非小細胞性肺癌や根治切除不能な進行または転移性の腎細胞癌などに適応疾患が拡大されてきた。耳鼻咽喉科領域では,再発または転移性頭頸部癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験(ONO-4538-11/CA209141試験)が行われ,主要評価項目である全生存期間はニボルマブ投与群で7.49か月と,対照群の5.06か月に対して有意な延長を示した(ハザード比0.70,97.73%信頼区間:0.51〜0.96,p=0.0101)2)。そして2017年3月に,再発または遠隔転移を有する頭頸部癌に使用可能となった。

 一方でニボルマブをはじめとするがん免疫チェックポイント阻害薬は,プラチナ製剤などの従来の化学療法で用いられてきた薬剤と作用機序が異なるため,出現する副作用も異なり,リンパ球の活性化に伴う自己免疫性機序に基づく副作用(免疫関連有害事象,immune-related adverse event:irAE)を経験することとなった。irAEの発現と抗腫瘍効果に相関性があると報告があり3),適切な副作用マネジメントによってよりよい治療成績が期待できる。

 今回,当院でニボルマブを使用し,甲状腺機能障害をきたした3症例を経験したので報告する。

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目次

ページ範囲:P.793 - P.793

欧文目次

ページ範囲:P.795 - P.795

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.883 - P.883

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.888 - P.888

 FIFAワールドカップ ロシア大会,SAMURAI BLUEは大健闘でしたね。前回優勝のドイツなど強豪が相次いで敗退するなか,見事グループステージを突破し優勝候補のベルギーをあと一歩まで追い詰めました。今年に入って不振が続いていた日本代表。監督が交代しただけで,こんなにもチームは変わるものなのですね。組織にとってトップが如何に重要であるか再認しました。

 さて,本号の特集は昨年末に改訂された「頭頸部癌診療ガイドライン」です。2013年の改訂以来,わずか5年の間に,鼻副鼻腔癌や喉頭下咽頭癌に対する内視鏡手術は標準治療として全国の施設で行われるようになり,免疫チェックポイント阻害薬や甲状腺癌に対する分子標的薬など,従来の抗がん剤と全く作用機序の異なる薬物療法が登場しました。さらに,2017年末に改訂されたAJCC・UICCのTNM分類では,HPV関連中咽頭癌が古典的な中咽頭癌から独立し,p16陽性の原発不明癌はp16陽性中咽頭癌,EBER陽性の原発不明癌は上咽頭癌として扱われるようになりました。今回の改訂では,こうした目覚ましい進歩と変化をクリニカルクエスチョンとして取り上げるとともに,「Ⅲ.治療」では,「治療総論」の項が新設され,外科療法,化学療法,放射線治療に加えて支持療法,頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション,緩和ケアについての解説が加わりました。本特集では今回の改訂に関わったエキスパートの先生方を中心に,改訂のポイントを解説していただいています。時代とともに治療後の生活の質に対する国民の期待は高まり,類をみない高齢化社会を迎えて,併存症を抱えた高齢者が増加しました。個々の症例に対して,年齢や職業,家族構成といった社会的背景,生活環境など様々な要素を考慮して治療の戦略を立てることが求められます。本特集がますます多様となってきた治療法のなかから,個々の症例に最適の治療を選択するための道標となれば幸甚です。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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