椎骨脳底動脈循環不全の診断の一助となる問診チェックリスト作成の試み
著者:
松吉秀武
ページ範囲:P.1157 - P.1163
はじめに
椎骨脳底動脈循環不全(vertebrobasilar insufficiency:VBI)は,椎骨動脈系の一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)とほぼ同様の病態である。めまいを主症状とし,めまい以外の神経症状を伴うことがある。椎骨脳底動脈系の動脈硬化などによる狭窄・閉塞,血圧変動による血行力学的な異常,頸部の回旋による環椎・軸椎レベルでの椎骨動脈の圧迫,椎骨動脈起始部の奇形などによる椎骨脳底動脈系血流量の一過性減少,が原因と想定される病態1)を総称していると考えられている。治療薬は前庭機能改善薬としてのビタミンB12,アデノシン三リン酸(ATP),脳神経保護薬としてのエダラボン,脳循環代謝改善薬としてのイブジラスト(抗血小板作用も有する),ニセルゴリン,抗血小板薬としてのアスピリン,塩酸ジラゼプ,自律神経調整薬としてのトフィソパムなどが報告されている。耳鼻咽喉科診療所においては,MRI,MR血管造影(MRA),頸部血管超音波検査などの画像診断を即時に行いにくいため,初診時での確定診断が困難であり,治療方針も確立されていないのが現状である。
こうした背景から,日本めまい平衡医学会にて作成された「めまいの診断基準化のための資料」2)の「病歴からの診断」に基づき,問診によりVBIの診断を行うチェックリストの作成を試みた。この問診チェックリストからVBIの重症度を数値化(VBIスコア)し,このVBI診断としての妥当性を検討した。
病歴から診断したVBI群と,頭位変換によりめまいが誘発されやすいという症状においてVBIと類似している良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)症例に仮のVBIスコアを付けて非VBI群(BPPV確実例)とし,比較した。さらに内服療法を「ATP+イブジラスト」によって行い,治療経過中のVBIスコアとめまいによる日常障害度アンケート(Dizziness Handicap Inventory:DHI)のスコア3)を比較検討した。