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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科90巻8号

2018年07月発行

雑誌目次

特集 知っておきたい遺伝学的検査と遺伝外来ABC

ページ範囲:P.597 - P.597

遺伝学的診療の進め方

著者: 松永達雄

ページ範囲:P.598 - P.604

Point

●遺伝情報には不変性,予見性,共用性という特殊性がある。

●遺伝学的検査前の情報収集と遺伝カウンセリングは重要であり,十分に行う。

●遺伝学的検査は患者の背景,臨床像と検査提供体制に応じて最適な実施計画を立てる。

●遺伝学的検査結果の解釈は専門家を交えたカンファレンスで判断する。

●他科との連携では,他科の方針も尊重する。

最新の遺伝学的検査

著者: 西尾信哉 ,   宇佐美真一

ページ範囲:P.606 - P.615

Point

●現在,耳鼻咽喉科領域で最も普及している「難聴の遺伝学的検査」では次世代シークエンス法とインベーダー法が用いられている。

●インベーダー法は,特定の遺伝子変異の有無を2段階の反応で調べる検査法であり,正確性が高く簡便であるが,新規の遺伝子変異を検出することができないため,適宜他の検査手法を組み合わせて用いる必要がある。

●次世代シークエンス法は,膨大なデータを短時間で解析でき,現在最も注目されている遺伝子解析技術である。

●保険診療の遺伝学的検査を実施しても原因が特定されない場合には,次世代シークエンサーを用いた解析が有用である。

●わが国では,AMED臨床ゲノム統合データベース整備事業により遺伝性難聴の臨床情報と遺伝情報の統合データベース構築が進められており,病原性を判断するうえで非常に重要かつパワフルなツールとして活用されている。

遺伝情報の取り扱い

著者: 石川浩太郎

ページ範囲:P.616 - P.621

Point

●遺伝情報は,臨床的にも社会的にも究極の個人情報として取り扱う必要がある。

●遺伝学的検査実施前には,インフォームド・コンセントが必須である。

●遺伝学的検査実施時には,同時に複数名の検者から採血する可能性があるため,取り違いがないよう十分注意する。

●採取した検体には個人情報を除き,番号のみをふって匿名化する。また検体番号と個人との対応表を作成し,施錠できる場所に保管するなど厳重に管理する。

●遺伝カウンセリングに際しては,患者・家族が遺伝学的検査の結果を理解できるよう,気持ちに寄り添いながら,時間をかけて丁寧に説明する。

遺伝外来で行う遺伝カウンセリング

著者: 野口佳裕

ページ範囲:P.622 - P.627

Point

●遺伝カウンセリングの基礎的知識や技能は,すべての医師が習得することが望ましい。

●耳鼻咽喉科医が難聴カウンセリング,臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーが遺伝カウンセリングを主に担当する。

●両親の責任論にならないよう留意する。

●多くの遺伝性難聴は補聴器や人工聴覚器で対応可能であるため,前向きなカウンセリングが望まれる。

《遺伝子変異による耳鼻咽喉科疾患》

伝音難聴・混合難聴

著者: 神崎晶

ページ範囲:P.628 - P.630

Point

●中耳疾患を有する遺伝性疾患の多くは症候群性の難聴を伴う。

●耳小骨に病理を有するため,鼓室形成術やアブミ骨手術などが適応となるものもある。補聴器の適応を検討する場合もある。

●外耳道閉鎖をきたすものは,人工中耳やBaha®のよい適応となると考えられる。

●CHARGE症候群のうち,高度感音難聴を示すものでは人工内耳の適応となる。

●骨形成不全症のような全身性の骨疾患では骨粗鬆症薬であるビスホスホネートを投与する場合もある。

●ムコ多糖症のように手術適応はなく,酵素補充を要する疾患もある。

感音難聴

著者: 北尻真一郎 ,   西尾信哉 ,   宮川麻衣子 ,   宇佐美真一

ページ範囲:P.632 - P.638

Point

●遺伝性難聴は日常診療で高頻度に遭遇する疾患であり,遺伝と難聴の両方の知識と対応が求められる。

●難聴に対する遺伝学的検査は保険収載されており,正確な診断に基づく適切な医学的介入のために有用な情報が得られる。

●遺伝性難聴の原因となる遺伝子は数多く存在しており,それぞれ臨床像が異なる。

●遺伝学的検査は,適切な遺伝カウンセリングとともに実施することが望ましい。

めまい・平衡障害

著者: 伊藤卓

ページ範囲:P.640 - P.646

Point

●めまい診療において,遺伝子の関与を念頭に置いた診療が重要となってきている。

●前庭平衡器には数多くの遺伝子が発現しており,それらの遺伝子の機能欠損から起こる症状はめまい・平衡障害の病態理解に役立つ。

●代表的な耳鼻咽喉科疾患であるメニエール病やめまいを伴う突発性難聴などにおいても,疾患感受性遺伝子の関与が考えられている。

●めまいに関連する遺伝子の研究は,新薬の開発や改良,個別化治療の確立に貢献しうる。

神経線維腫症

著者: 和田哲郎

ページ範囲:P.648 - P.652

Point

●神経線維腫症は2つの型に分けられるが,それぞれ原因遺伝子,臨床症状とも異なり,両者は異なる疾患である。

●家族発症,孤発例ともに存在し,症例をみたときに遺伝的背景の考慮が必要である。

●難治性,進行性の疾患であり,説明に際しては特に慎重を期する必要がある。

●臨床遺伝専門医との連携のもと,適切な遺伝カウンセリングを行う。

オスラー病と原発性線毛運動不全症

著者: 竹内万彦

ページ範囲:P.654 - P.659

Point

●オスラー病は常染色体優性遺伝形式をとり,鼻出血のほか,大きな動静脈奇形が肝,肺,脳にみられる。

●オスラー病の診断は臨床所見の組み合わせによるが,遺伝学的検査が必要になることがある。

●原発性線毛運動不全症は常染色体劣性遺伝形式をとり,湿性咳嗽が主症状である。

●原発性線毛運動不全症の診断は,電子顕微鏡検査による線毛構造の異常,あるいは遺伝子検査による線毛関連遺伝子の変異の証明による。

頸動脈小体腫瘍

著者: 志賀清人

ページ範囲:P.660 - P.663

Point

●頸動脈小体腫瘍(CBT)は病理学的には傍神経節腫であり,腹腔内の副腎髄質に発症する褐色細胞腫と同一である。

●CBTはさまざまな遺伝子変異を伴うことが多く,また褐色細胞腫も同様なことから,総じて遺伝性褐色細胞腫・傍神経節腫症候群(HPPS)と呼ばれる。

●HPPSの患者数は,従来考えられていた数よりもはるかに多いことが指摘されており,日本頸動脈小体腫瘍研究会(JCBTRG)では,日本におけるCBTの現状について調査を行っている。

●治療は手術摘出が第一選択であり,若年者ではなるべく早い手術摘出が勧められる。高齢者では,増大速度が遅く,良性腫瘍が大半を占めることから,経過観察も可能である。

●家族例のあるHPPSでは傍神経節腫が多発する場合があること,両側同時にCBTが認められる場合には迷走神経傍神経節腫や褐色細胞腫との合併もあることなどから,定期的な画像診断による経過観察が勧められる。

甲状腺髄様癌

著者: 内野眞也

ページ範囲:P.664 - P.669

Point

●すべての甲状腺髄様癌に対して,術前にRET遺伝学的検査を行う。

RET遺伝学的検査を行うにあたっては,適切な遺伝カウンセリングのもとに同意を得る必要がある。

●甲状腺髄様癌に対するRET遺伝学的検査は保険適用である。

●甲状腺髄様癌が診断されていない血縁者に対するRET遺伝学的検査は自費診療である。

原著

当科で手術を行った喉頭蓋囊胞の臨床的検討

著者: 甲藤麻衣 ,   佐伯忠彦 ,   渡邊太志 ,   佐藤恵里子 ,   大河内喜久 ,   橋本大

ページ範囲:P.671 - P.677

はじめに

 喉頭蓋囊胞は日常臨床において比較的よく遭遇する良性疾患であるが,自覚症状に乏しく機能障害もきたしにくいため臨床上あまり注目されないことが多い。しかし,腫大するに従い,喉の違和感や嚥下障害などを訴えるようになり,手術適応になる例も存在する。今回われわれは当科で手術を行った喉頭蓋囊胞について臨床的検討を行ったので,若干の考察を加えて報告する。

肺結核から診断された結核性中耳炎の1例

著者: 古舘佐起子 ,   岩崎聡 ,   高橋優宏 ,   品川潤 ,   岡野光博

ページ範囲:P.679 - P.683

はじめに

 結核性中耳炎の古典的特徴としては,耳介周囲リンパ節の腫脹,多発性鼓膜穿孔,一側性顔面神経麻痺,早期の高度難聴,骨壊死などの症状を示すとされているが1),近年では肺結核の減少に伴い,血行性感染からこれらの症状を示す例も減少し,診断が困難となってきている。今回われわれは鼓膜穿孔を含む古典的特徴をまったく伴わずに発症し,中耳組織の病理検査では確定診断できなかったが,術後の咳嗽からの精査の結果肺結核と診断され,肺結核の治療とともに中耳病変も改善がみられた結核性中耳炎の1例を経験したので報告する。

書評

外科系医師のための手術に役立つ臨床研究

著者: 吉川貴己

ページ範囲:P.670 - P.670

 ヒトの体や病気のメカニズムはすべて解明されているわけではなく,完璧な治療法もありません。医師は,限定された情報のなかで,先人が積み上げてきた,知識や経験,臨床研究の結果を生かしつつ,現時点で最善と判断される方法で,患者さんの診療にあたっています。診療をしていくなかでは,数多くの疑問が生まれます。生まれた疑問は,成書や文献で解決できるものもあれば,できないものもあります。解決できない疑問をどうするか,どうすれば解決できるか,ここに臨床研究の意義が生まれます。

 医師として外科医として生きていく以上,診療と研究は切り離せないものです。もちろん,すべては診療から始まります。主治医として,期待どおりの結果が得られれば,患者さんも笑顔を見せてくれますし,医師としてもこの上ない喜びでしょう。ですが,1人の外科医が一生で患者さんによい結果がもたらせる数など知れています。せいぜい数百人,数千人でしょう。一方,患者さんの予後やQOLを改善できるような臨床研究の結果を世界に発信できたとしたら,その報告で世界中の数多くの外科医が診療を変えたとしたら,患者さんへのインパクトは数万人,数十万人となることでしょう。

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目次

ページ範囲:P.593 - P.593

欧文目次

ページ範囲:P.595 - P.595

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.684 - P.684

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.688 - P.688

 歴史的な2018年南北首脳会談が4月27日に板門店で開催され,南北融和モードが一気に進んでいます。これを受けてノーベル平和賞の候補者として金正恩委員長と文在寅大統領,そしてドナルド・トランプ大統領の名前が挙がっています。ノーベル平和賞は「国家間の友好関係,軍備の削減・廃止,及び平和会議の開催・推進のために最大・最善の貢献をした人物・団体」に授与すべしとしてノーベル賞の創設者であるアルフレッド・ノーベルがスウェーデンとノルウェー両国の和解と平和を祈念して設立し,その授与式のみがノルウェーのオスロ市庁舎で行うことになっています。平和賞のみスウェーデンではなくノルウェー政府が授与主体となっていることが特徴です。1901年の第1回受賞者は赤十字社を設立したスイスの実業家アンリ・ジュナンとフランスの経済学者で国際仲裁委員会の提唱者であるフレデリック・パシーです。ノーベル平和賞は他のノーベル賞と比べて政治的な色合いが強く,アメリカのジミー・カーター元大統領やアル・ゴア元副大統領の授賞も多分に政治的力学が働いたといわれています。バラク・オバマ前大統領が理念的な「核なき世界」演説で受賞したことも記憶に新しいところです。日本人でノーベル平和賞を受賞したのは「非核三原則」を提唱し1974年に受賞した佐藤栄作元首相ですが,これものちに在日アメリカ軍の「核兵器持ち込み」に関する密約があったことで物議を醸しました。金正恩委員長,文在寅大統領,そしてドナルド・トランプ大統領のノーベル平和賞授賞はあるのでしょうか。

 さて,今月の特集は「知っておきたい遺伝学的検査と遺伝外来ABC」です。難聴の遺伝学的検査が保険適応になるなど,遺伝子異常に関連する耳鼻咽喉科疾患の理解が必要になっています。この分野はもちろん私が医学生の頃には授業もなかった分野で新しく,かつ進歩の著しい領域ですので,これを機に知識を整理しておきましょう。2編の原著も臨床上重要なテーマです。今年も猛暑が予想されていますので,冷房のきいた部屋でじっくりお読みいただければと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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