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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻10号

2019年09月発行

雑誌目次

特集 嚥下障害を診る!—プロに学ぶ実践スキル

ページ範囲:P.805 - P.805

嚥下障害の診かた

著者: 香取幸夫

ページ範囲:P.806 - P.809

POINT

●嚥下障害を診る目的は,経口摂取の改善と,誤嚥による肺炎や窒息の予防のためである。後者はとくに嚥下障害患者の生命予後に関与する。

●はじめに患者,家族,治療に関係するスタッフの考えている治療の目標を確認し,その時々の治療のゴールを調整して共有することが大切である。

●診断では問診から嚥下内視鏡検査に至る一連の手順が行われ,治療では全身状態の改善と口腔ケア,リハビリテーションが最初に選択される。加えて,症例により手術治療がQOLの改善に大きく貢献する。

●嚥下障害を診る際には,咽喉頭の感覚の評価が重要である。感覚機能が著しく低下していると,食物を用いた摂食訓練が難しく,また喉頭の音声機能を残す嚥下機能改善手術の適応が困難である。

●嚥下診療の充実には多職種が参加した各地域での診療連携が重要と考えられる。医師会,歯科医師会,行政の参入が特に望まれる。

《病態と診断》

嚥下のメカニズムと嚥下障害

著者: 千年俊一

ページ範囲:P.810 - P.816

POINT

●嚥下は,口腔期,咽頭期,食道期の3期よりなり,これに先行する先行期,準備期の2期を含めて摂食・嚥下の5段階という。

●嚥下運動を担う神経・筋機構は,脳幹の嚥下中枢でプログラムされている。

●嚥下反射は一定の時間間隔をもって協調的に活動し,一連の運動を遂行する。

●嚥下障害の原因となる疾患は多く,嚥下に影響する因子もさまざまである。

超高齢社会における嚥下トリアージ

著者: 上岡美和 ,   古川竜也 ,   丹生健一

ページ範囲:P.818 - P.823

POINT

●増加する嚥下評価の需要に対し,嚥下に関わる医療資源は限られている。

●当院では摂食・嚥下障害看護認定看護師や言語聴覚士による「嚥下トリアージ」を行っている。

●診療録のレビュー,問診,スクリーニング検査など,複数の情報を組み合わせて誤嚥・窒息リスクを評価している。

●検査の特徴や精度,限界などを理解し,危険な症例を極力見落とさないように注意する。

嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査

著者: 長尾明日香 ,   兵頭政光

ページ範囲:P.825 - P.829

POINT

●嚥下内視鏡検査は嚥下機能評価に必須の検査と位置付けられるが,一方で咽頭期以外の評価は困難なことなど,その限界も理解しておく必要がある。

●嚥下造影検査は嚥下器官全体の運動や誤嚥の程度の評価が可能であるが,放射線被曝や検査場所が限られるなどの問題点がある。

●嚥下内視鏡検査と嚥下造影検査の利点と欠点を理解し,それらを必要に応じて使い分け,あるいは併用することが重要である。

●嚥下機能検査による病態評価に基づいて治療方針や治療手技を立案し,経時的に再評価することが必要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年9月)。

嚥下圧検査—高解像度マノメトリー検査

著者: 熊井良彦 ,   松原慶吾

ページ範囲:P.830 - P.834

POINT

●嚥下圧検査機器の1つである高解像度マノメトリー(HRM)について概説する。

●HRMを用いた嚥下圧検査の検査方法について説明する。

●HRMを用いた嚥下圧検査結果の解析方法について説明する。

●リハビリテーション手技の1つであるchin-downを機能解剖学的に区別し,その効果をHRMを用いて検証したことについて説明する。

《治療》

嚥下訓練

著者: 藤谷順子

ページ範囲:P.835 - P.841

POINT

●軽症例では交互嚥下や喀出の励行指導と合わせて,喉頭挙上の訓練を指導する。

●骨盤を含めた体幹のアライメント,頸部体幹筋力の訓練を,理学療法士も動員して行う。

●訓練の経過が停滞しているときには,積極的に嚥下造影検査や内視鏡検査で再検討する。

●嚥下機能改善手術を行う症例では,それまでの訓練傾向を把握し,術後の経口摂取再開に必要な訓練を術前から行う。

咽頭期の咽喉頭運動に対応した嚥下機能改善手術手技

著者: 小川真

ページ範囲:P.842 - P.847

POINT

●嚥下咽頭期において嚥下反射により惹起される咽喉頭運動には,鼻咽腔閉鎖,喉頭閉鎖,喉頭挙上,咽頭収縮,食道入口部開大がある。

●咽頭期嚥下機能改善手術の本質は,これらの嚥下咽頭期に生じる咽喉頭運動に関与する筋肉が収縮した状態,あるいは弛緩した状態を作り出すことで障害を改善することである。

●嚥下咽頭期の咽喉頭運動のそれぞれの障害に対する術式がある。したがって,術式を適切に選択するためには,嚥下造影検査を施行し,異常を示す咽喉頭運動を同定することが必須である。

声門閉鎖術

著者: 内田真哉

ページ範囲:P.848 - P.852

POINT

●声門閉鎖術は術式としての完成度とともに臨床的意義が高まっている。

●本術式は対象患者の音声機能喪失や人生の終末期に関わるため,術前に臨床倫理的な検討を行うことが望まれる。

●本術式には声門上閉鎖術,声門閉鎖術,声門下閉鎖術の3タイプがあるが,簡便で確実性が高く嚥下機能改善効果のある声門下閉鎖術の方法を示した。

●本術式は気管腕頭動脈瘻の危険性が少ない誤嚥防止術である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年9月)。

《病態別の対応法》

認知症・高齢者の嚥下障害

著者: 津田豪太

ページ範囲:P.853 - P.855

POINT

●認知症でみられやすい障害は摂食開始困難・摂食中断・食べ方の乱れである。

●認知症も疾患によって嚥下障害の程度や対応に違いがある。

●高齢者は口腔諸器官の機能低下に加えて,喉頭下垂が嚥下障害に影響する。

脳卒中の嚥下障害

著者: 國枝顕二郎 ,   藤島一郎

ページ範囲:P.856 - P.863

POINT

●延髄より上部の両側性皮質延髄路障害があると偽性球麻痺,延髄の嚥下中枢に病変があると球麻痺をきたす。

●脳卒中の嚥下障害を理解することは,あらゆる疾患の嚥下障害を扱ううえでも重要である。

●近年,神経筋電気刺激療法や非侵襲的脳刺激療法など,新しい治療機器によるニューロリハビリテーションが注目されている。

神経変性疾患の嚥下障害

著者: 二藤隆春

ページ範囲:P.864 - P.868

POINT

●神経変性疾患の特徴を理解したうえで対応法を決定する。

●問診や精神・身体機能,発声機能の評価が重要である。

●姿勢や食形態の調整による代償的嚥下法の指導が主体となる。

●誤嚥性肺炎を反復する場合,誤嚥防止手術を検討する。

頭頸部癌・食道癌術後の嚥下障害

著者: 丸尾貴志

ページ範囲:P.870 - P.874

POINT

●術前に切除範囲がわかるため,術後の機能予測ができる。

●術式ごとに特徴的な術後嚥下動態があり,それぞれに改善するための工夫がある。

●嚥下改善手術(喉頭挙上術,輪状咽頭筋切断術)の併施が有効である。

●長期経過後の機能低下にも積極的に介入する意義はある。

原著

下顎骨正中離断法を併用し摘出した舌根部巨大血管腫の1例

著者: 辻華子 ,   岡本伊作 ,   佐藤宏樹 ,   井谷茂人 ,   勝部泰彰 ,   冨岡亮太 ,   檜原浩介 ,   岸田拓磨 ,   塚原清彰

ページ範囲:P.877 - P.881

はじめに

 血管腫は身体各部に発生するが,頭頸部領域に好発する。治療としては,保存・対処療法,血管内治療(塞栓術・硬化療法),外科手術などが挙げられるが,早期治療介入の必要性や治療目標(根治,整容・症状・機能改善,進行抑制など),侵襲度および合併症を考慮する必要がある。

 今回,われわれは舌根部に発生した巨大血管腫に対し,下顎骨正中離断法を併用し摘出しえた1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。

悪性外耳道炎が疑われた閉塞性角化症の1例

著者: 西岡恵美 ,   宮下武憲 ,   高橋幸稔 ,   柳絵里子 ,   星川広史

ページ範囲:P.882 - P.886

はじめに

 閉塞性角化症(keratosis obturans)は,外耳道皮膚の自浄能障害により,角化上皮が外耳道全周性に堆積する比較的稀な疾患である1,2)。堆積した角化上皮により外耳道骨の圧排性の非薄化を引き起こすことがあり,さらに感染を合併して肉芽を形成すると,悪性外耳道炎や外耳悪性腫瘍との鑑別が必要となる1-4)。今回われわれは,悪性外耳道炎として治療開始され,局所麻酔下に肉芽を鉗除して病変部を内視鏡にて精査することで閉塞性角化症と診断し,保存的治療で軽快した1例を経験したので報告する。

診断に苦慮した鼻腔初発のCD8 cytotoxic T cell lymphomaの1例

著者: 宮倉裕也 ,   舘田勝 ,   石田英一 ,   大島英敏 ,   小柴康利 ,   廣崎真柚 ,   橋本省

ページ範囲:P.887 - P.890

はじめに

 CD8 cytotoxic T cell lymphomaは,WHO2016分類で末梢性T細胞性リンパ腫(peripheral T cell lymphoma:PTCL)に分類される疾患であり1),報告例はきわめて少ないが予後は不良とされている。鼻腔に初発した場合には,節外性T/NK細胞リンパ腫に類似した顔面正中部の破壊性病変や鼻炎様症状で耳鼻咽喉科を受診することがある。一方,通常の病理検査では診断が難しく,詳細な免疫学的特性検査を行って診断されることが少なくない。今回,系統立ったリンパ腫解析システムによって診断しえた鼻腔初発のCD8 cytotoxic T cell lymphomaの1例を経験したので報告する。

書評

図説 医学の歴史

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.875 - P.875

 650点を超す図版を収載した656ページに及ぶ大冊である。「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史」との表紙帯が付けられている。私からみれば,わが国の明治の近代医学の導入(1868年)以来,150年の年月を経て,わが国の人々が手に入れることができた「医学の歴史」教科書の決定版である。医師・歯科医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師などの医療関係者だけでなく,一般の方々にも広く読んでいただきたい。豊富な図版は,専門知識の有無を問わず本書を読める内容としている。

 教科書としてお読みいただく以上,「飛ばし読みは禁」である。まずは,573ページの「あとがき」からお読みいただきたい。坂井建雄先生の解剖学者・医史学者としての歩みの中から,本書誕生の歴史をたどることができる。坂井先生のこれまでの多数の学会発表,論文,書籍などから,幅広く資料収集に努めていられることは推察していたが,「ここまで!」との絶句が,本書を拝見しての私の第一印象である。

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目次

ページ範囲:P.801 - P.801

欧文目次

ページ範囲:P.803 - P.803

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.892 - P.892

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.896 - P.896

 6月下旬,第81回耳鼻咽喉科臨床学会総会・学術講演会に次期米国耳鼻咽喉科学会理事長のCarol Bradford先生(Michigan大学),7月上旬は第31回日本頭蓋底外科学会に前米国頭頸部癌学会理事長のEhab Hanna先生(MD Anderson Cancer Center),7月中旬には第17回日本臨床腫瘍学会学術集会に来年の国際頭頸部癌学会会長Robert Ferris先生(Pittsburgh大学)と,米国頭頸部癌学会のビッグネームが相次いで来日し,日本に居ながら最先端の頭頸部癌の情報を世界のトップクラスから学べる実に贅沢な1か月でした。ちなみにCarol先生は「米国における女性頭頸部外科医のキャリアパス」についてもご講演されましたが,ご一緒に来られたご主人にこっそりお伺いしたところ,お子さんの送り迎えは毎日ご主人の担当だったそうです。

 さて,今月号の特集は「嚥下障害を診る!—プロに学ぶ実践スキル」です。世界に類をみない高齢化を迎えたわが国において,嚥下障害は年々大きな問題となっています。本特集ではまず初めに東北大学の香取幸夫先生に嚥下障害の診療の概要を,久留米大学の千年俊一先生に嚥下機能障害の病態を解説していただきました。診断については,最初に「超高齢社会における嚥下トリアージ」と題して摂食・嚥下障害看護認定看護師の上岡美和氏に耳鼻咽喉科医による精査が必要な患者さんの振り分けについて神戸大の流れを紹介してもらい,続いて内視鏡検査と造影検査を長尾明日香先生(高知大)に,嚥下圧検査を熊井良彦先生(熊本大)に解説していただいています。治療については藤谷順子先生(国際医療研究センター・リハ科)にリハビリテーションを,小川真先生(大阪大)と内田真哉先生(京都第二日赤)にお得意の手術についてご執筆いただき,続いて病態別の対応法について認知症・高齢者を津田豪太先生(聖隷佐倉市民病院),脳卒中を國枝顕二郎先生(浜松市リハ病院),神経変性疾患を二藤隆春先生(埼玉医大川越),頭頸部癌を丸尾貴志先生(名古屋大)に解説していただいています。豪華執筆陣によりすべての耳鼻咽喉科医にとって必読の特集となりました。ぜひ,通読をお願いいたします。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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