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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻12号

2019年11月発行

雑誌目次

特集 診療で役に立つ味覚・嗅覚障害の知識

ページ範囲:P.997 - P.997

《味覚》

患者さんにも知ってほしい味覚のしくみ

著者: 田中真琴

ページ範囲:P.998 - P.1002

POINT

●食品の味の感じ方には,味覚以外の五感や心理状態・社会的背景も関与する。

●味覚の末梢受容器は,主に舌の乳頭に存在する味蕾である。

●味神経は,左右の顔面神経,舌咽神経,迷走神経である。

●味覚の情報は,大脳皮質で嗅覚やその他の情報と統合される。

味覚障害の原因診断フローチャート

著者: 任智美

ページ範囲:P.1003 - P.1007

POINT

●味覚障害の診療においては,狭義の味覚のみならず「おいしさ」「食欲」を考慮した対応をめざす。

●現在の味覚障害の原因分類を障害部位から捉えることが必要であると考える。

●口腔内,口腔外の随伴症状にも留意する。

●味覚障害は全身を診る疾患である。

味覚障害の治療

著者: 山村幸江

ページ範囲:P.1008 - P.1012

POINT

●味覚障害の治療は亜鉛補充療法を主体に,病態に応じて唾液分泌促進薬,抗うつ薬,鉄剤,ビタミンB12,漢方薬などを選択する。

●血清亜鉛値は60μg/dL未満を亜鉛欠乏症,60〜80μg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏症と判断する。午前の値は高く,午後・食後は低下するので,経時的評価には同一時間帯での測定が望ましい。

●亜鉛補充療法の効果を得るには数か月を見込む。亜鉛投与量が過少・過剰とならないよう,血清亜鉛値は1〜2か月ごとに確認する。

●味覚障害の一部には舌痛症治療に用いる抗うつ薬や漢方が有効である。

《嗅覚》

患者さんにも知ってほしい嗅覚のしくみ

著者: 上羽瑠美

ページ範囲:P.1014 - P.1018

POINT

●“におい”は,嗅覚受容体である嗅神経細胞から嗅神経へと伝わり,篩板を通って嗅覚一次中枢である嗅球へ伝わる。さらに前梨状皮質,扁桃体,視床下部,大脳皮質嗅覚野などに伝わることで“におい”として認識される。

●嗅覚受容体である嗅神経細胞は,基底細胞(嗅覚前駆細胞)から未熟嗅神経細胞,成熟神経細胞へと分裂・成熟し,ターンオーバーを繰り返す。

●“におい”の受容器である嗅神経細胞は1つにつき,1つのにおい情報をもった「におい受容体」のみを発現している(1細胞-1受容体)。

●あるにおい情報をもった嗅神経細胞と嗅球内の糸球体とは,1対1で対応している(1受容体-1糸球体)。

嗅覚障害の原因診断フローチャート

著者: 藤尾久美

ページ範囲:P.1020 - P.1022

POINT

●嗅覚障害は気導性嗅覚障害(慢性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎,鼻腔腫瘍,稀に鼻中隔骨折などの形態変化)・嗅神経性嗅覚障害(感冒後嗅覚障害,薬剤性・中毒性嗅覚障害,外傷性嗅覚障害,開頭手術後)・中枢性嗅覚障害(脳挫傷,脳腫瘍,脳出血,脳梗塞,神経変性疾患)に分類される。

●それぞれ障害部位が違うため,治療法も異なる。そのため的確な診断が重要である。

嗅覚障害の治療—薬物療法

著者: 柴田美雅 ,   鈴木秀明

ページ範囲:P.1023 - P.1025

POINT

●鼻茸を有する慢性副鼻腔炎による嗅覚障害には,ステロイドの局所・経口投与を行う。

●アレルギー性鼻炎による嗅覚障害には,ステロイド局所投与や抗ヒスタミン薬の経口投与が望ましい。

●感冒後嗅覚障害と外傷性嗅覚障害には,当帰芍薬散の内服や嗅覚刺激療法(olfactory training)の効果が期待される。

嗅覚障害の治療—手術療法と術後管理—嗅裂病変の取り扱い

著者: 常見泰弘

ページ範囲:P.1026 - P.1032

POINT

●好酸球性副鼻腔炎は増加傾向を認め,嗅裂病変の取り扱いは今後重要になると考えられる。

●嗅覚予後に関するインフォームド・コンセントが重要である。

●嗅粘膜を温存し,かつ嗅裂を開放して癒着させないことが肝要である。

●好酸球性副鼻腔炎術後の局所処置による再燃コントロールの可能性が示唆されている。

嗅覚障害の治療—嗅覚刺激療法

著者: 奥谷文乃

ページ範囲:P.1034 - P.1038

POINT

●嗅覚刺激療法は英語ではolfactory trainingと記される。

●匂い分子が嗅細胞に到達できない気導性嗅覚障害は,嗅覚刺激療法の適応にならない。

●嗅覚刺激療法の神経基盤はシナプス可塑性である。

●嗅覚刺激療法によって嗅覚域値および同定能の改善が期待される。

《最近の話題》

香りが脳のストレス応答に及ぼす影響

著者: 増尾好則

ページ範囲:P.1040 - P.1044

POINT

●香りとストレスの関連性はいまだ解明されていない。

●筆者らは,脳内ストレス応答バイオマーカー(ストレスマーカー)の探索を行ってきた。

●特定の香りは,ストレスによる脳内因子の発現変化を抑制することがわかってきた。

●香りによる脳機能の変化を解明することは,心の健康に貢献する。

高齢者の嗅覚・味覚障害

著者: 杉浦彩子 ,   鈴木宏和

ページ範囲:P.1046 - P.1050

POINT

●加齢に伴い,嗅覚は検知域値,認知域値,弁別能,同定能のいずれも低下するが,認知機能低下を伴う症例では,検知域値に比して認知域値,弁別能,同定能が悪い場合が多い。

●味覚も加齢に伴って低下するが,嗅覚よりもその影響は少ない。

●女性は嗅覚・味覚のどちらも男性より鋭敏である。

●嗅覚低下の有無は,アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患を鑑別するのに有効である。

原著

治療関連骨髄異形成症候群を発症後,下咽頭癌再発病変に対し救済手術を行った1例

著者: 池田篤生 ,   小林謙也 ,   赤松摩紀 ,   坂井梓 ,   松村聡子 ,   小村豪 ,   松本文彦 ,   吉本世一

ページ範囲:P.1052 - P.1057

はじめに

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)は血球減少と急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)への進展を特徴とする症候群で,原発性と二次性がある。二次性は化学療法あるいは放射線治療などの細胞障害性治療後に発症するMDSで,WHO分類第3版では,治療関連MDS(therapy-related MDS:t-MDS)として従来のMDSとは独立して分類された。WHO分類第4版では,t-MDSは治療関連骨髄性腫瘍(therapy-related myeloid neoplasms:t-MN)に統合された。WHO分類改訂第4版では,AMLおよび関連腫瘍(AML and related neoplasms)のなかに分類された1)

 本稿では理解しやすいように,t-MNではなくt-MDSと表記する。

 今回,下咽頭癌(cT1N3M0:『頭頸部癌取扱い規約 第5版』に準ずる)に対して,頸部リンパ節のみへの緩和目的の放射線照射後2年8か月(下咽頭の原発巣への照射後4か月)でMDSを発症し,その後,局所再発病変に対して喉頭全摘術+下咽頭部分切除術を行った症例を経験したので報告する。頭頸部領域に関するt-MDSの報告は散見されるが,t-MDS発症後というハイリスクな状況で救済手術を行った報告はわれわれが調べた限り認めなかった。

当院での小児睡眠時無呼吸症候群に対する術後経過の検討—アンケート調査から

著者: 山本圭介 ,   三谷健二 ,   鎌倉綾 ,   岩橋利彦 ,   佐々木崇博 ,   堀田沙矢香 ,   野口夏衣 ,   河崎浩子 ,   金井悠 ,   秋田佳名子 ,   宣原佳奈

ページ範囲:P.1059 - P.1064

はじめに

 小児睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の原因として口蓋扁桃肥大,アデノイド増殖症があり,そのため両側口蓋扁桃摘出術+アデノイド切除術が多くのOSASに奏効することは知られている。しかし何歳で手術するのがよりよいのか,また手術によりどのような症状が改善するのかなど,詳細に検討された報告は少ない。

 今回,当院で診療を行っている小児OSAS児に対して,術前と術直後,術後1年ごとにアンケートを行って臨床症状を調査し,術後の治療効果を明らかにしたので,若干の文献的考察をふまえて報告する。

当科における顎下腺癌の眼球転移に関する検討

著者: 高橋亮介 ,   鈴木政美 ,   江原威

ページ範囲:P.1065 - P.1070

はじめに

 悪性腫瘍の眼球転移は,原発巣として乳癌,肺癌の頻度が高いとされており,頭頸部癌による眼球転移の報告は海外を含めても少ない1,2)。今回,当科で3例目となる顎下腺腺様囊胞癌の眼球転移を経験した。経過を報告するとともに,当科で加療した顎下腺癌の眼球転移,ならびに過去の報告をふまえ,頭頸部癌の眼球転移について検討する。

頸部リンパ節結核18症例の臨床的検討

著者: 横井純 ,   四宮瞳 ,   堀地祐人 ,   小嶋康隆 ,   雲井一夫

ページ範囲:P.1071 - P.1076

はじめに

 2017年に日本では新たに1万6789人の結核患者の届け出があり,10万人対の結核罹患率は13.3であった1)。日本での結核登録率は過去数年間減少傾向が続いているが,欧米諸国と比較するといまだに高い状況である。頭頸部領域を含めた肺門部以外のリンパ節結核は,肺外結核のなかで胸膜炎の次に多く,2017年に日本では新たに779人の届け出があった1)。当院の医療圏である神戸市の結核罹患率は19.7(10万対,2017年)と,政令指定都市のなかでは大阪市(10万対で32.4,2017年),北九州市(10万対で21.6,2017年)に次いで多い1)

 今回われわれは,当科で経験した頸部リンパ節結核18症例の臨床的検討を行ったので報告する。

外切開により摘出したEagle症候群の1例

著者: 小川剛 ,   髙田健之 ,   持木将人 ,   伊藤健

ページ範囲:P.1077 - P.1081

はじめに

 Eagle症候群は,以前は異常茎状突起症や過長茎状突起症と呼ばれ,近年では茎状突起過長症とも呼ばれることが多いが,いずれも同一の疾患を指す。

 過長な茎状突起により舌咽神経や頸動脈,頸動脈周囲の神経叢に圧迫をきたし,咽喉頭部や頸部に異常感や疼痛などを起こす疾患である。症状が多様であり,X線検査設備のない施設などではしばしば見逃される。診断にはX線やCT検査が有用であり,治療は非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs),抗てんかん薬などの内服が効果的なこともあるが,過長な茎状突起による合併症をきたす場合や,保存的治療が無効な場合は手術が選択される。

 今回,茎状突起から舌骨まで茎状舌骨靱帯の全長が骨化を示し,外切開により切除したEagle症候群の1例を経験したので報告する。

書評

内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術—CT読影と基本手技 第2版[手術動画・3DCT画像データDVD-ROM付]

著者: 川内秀之

ページ範囲:P.1083 - P.1083

 今般,中川隆之先生の編集による本書の書評の執筆を依頼され,当初は気軽に引き受けたものの,本書を目の当たりにして,これは腰を据えてじっくり読み込んでいかなければ書評など書く資格はいただけないと思った。全ての章を読破したときに感じた正直な感想を述べると,本書は当該領域の手術に関する当代きっての国内屈指の手術書であり,さらには本領域の手術を志す若手の耳鼻咽喉科医への座右の銘となる指導書である,ということである。

 本書は当該領域の手術手技の全てを包括しており,内容の量,質のいずれもが他に比類ない。また,模式図,CT,MRI画像,内視鏡下での術中写真,動画,cadaverでの解剖所見などを数多く使用し,何よりも読者に理解しやすく解説している点は,まさに称賛に値すると同時に,編集者の意図がひしひしと伝わってくる。慢性副鼻腔炎や鼻茸の手術はもちろんのこと,鼻中隔手術,外傷や腫瘍,各種頭蓋底病変に対する内視鏡手術についても,詳細な臨床解剖に基づいた手術手技が紹介されている。

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目次

ページ範囲:P.993 - P.993

欧文目次

ページ範囲:P.995 - P.995

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1084 - P.1084

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.1088 - P.1088

 霜秋の候,皆様いかがお過ごしでしょうか。

 小生,先日久しぶりに米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会に参加してきました。米国の学会は,色々な意味で刺激をもらえます。自分たちが取り組んでいることの方向の確認にもなり貴重な時間でした。さて,会場となったルイジアナ州ニューオリンズは,ご存じジャズ発祥の地。空港や公園にはサッチモことルイ・アームストロングの名が冠され,街の至る所が音楽の都の雰囲気に包まれた感じです。ホテルでもタクシーでも空港のゲートでも,現地の人たちの話し方がどことなく陽気でリズミカルで。声もよく通るし,会話も音楽なのでしょうか。帰りの機内ではずっとバーボンを飲んでいました。あの味と香りに触れると,ちょっと格好つけてバーボンを飲んでいた学生時代を鮮明に思い出します。味覚・嗅覚って不思議ですよね。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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