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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻5号

2019年04月発行

雑誌目次

増刊号 救急・当直マニュアル—いざというときの対応法

序文

著者: 小川郁

ページ範囲:P.1 - P.1

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域は広く,聴覚・平衡覚,嗅覚,味覚などの感覚器,気道と食物道,そしてこれらを包み込む頭頸部からなる。これら耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の障害は生命予後や生活の質(QOL)に大きく影響することが多い。また,耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域は外界からの情報や空気,食物の入り口であり,異物などさまざまな外的物質に晒される領域ということもあり,救急疾患が多いのも特徴である。外来の救急疾患だけではなく,当直医としては術後急変の対応も求められる。本増刊号では救急・当直での心構えから準備,すべての耳鼻咽喉科・頭頸部外科医がマスターすべき基本手技,症状からみた鑑別診断,そして救急・当直で必要となる処置と治療,特に当直業務で問題となる術後急変への対応などの各論まで網羅して,各領域のエキスパートに執筆していただいた。

 さて,労働者の働き方改革が大きな社会問題となっている。労働基準法は,近代市民社会の契約自由の原則を修正し,労働者を保護する労働法の一つとして昭和22年に制定された。しかし,本法施行後70年以上が経過した現在においても,多くの企業において労働基準法に対する違反行為が常習化されていることが指摘されてきたこともあり,平成30年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立,本年4月1日から大企業を対象に罰則付き時間外労働の上限規制が施行された。中小企業は来年度からのスタートになる。時間外労働の上限は,月45時間,年360時間が原則とされている。医師に関しては現在,厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」で最終調整がなされている。医師の救急・当直業務は高度のプロフェッショナルな業務で,その習熟のためには経験学習は不可欠であり,自己研修や生涯教育が必須な特殊性のある業務であるという観点からさまざまな検討がなされている。このようななか,救急・当直業務も大きく変化すると考えられ,手術内容などのバックグラウンドの情報がない状況で救急・当直処置をしなければならないことも多くなると予測される。本増刊号はそのような状況でも対応できるようにすべてを網羅したマニュアルであり,通読していただくことはもとより,救急・当直の現場に常備しておきたいマニュアルでもある。ぜひ,座右のマニュアルとしていただき,救急・当直の際に活用していただければ幸いである。

Ⅰ.救急外来・当直での心得と準備

ページ範囲:P.7 - P.7

救急外来での心得と準備

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.8 - P.9

ポイント

●耳鼻咽喉科領域の救急疾患は多岐にわたる。突然の来院にも対応できるよう,常日頃から様々な疾患・病態に対応する能力を身につけるよう心掛ける。

●受診または搬送の連絡を受けたら,得られた情報から想定される疾患や病態を推定し,人員の確保や入院病棟の手配,緊急手術の交渉などの準備をしておく。

●到着したら,まず生命の維持を確保し,病態の全体像を正確に把握する。

●関連診療科への応援要請や高次機能病院への搬送の必要性を判断し,治療方針を決定する。

当直での心得と準備

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.10 - P.13

ポイント

●働き方改革関連法の制定に伴い,今後,当直勤務のあり方が変化する。

●相談やバックアップが可能な医師を確保する。

●他科当直医とも連携を図る。

●少ないスタッフのなかで患者の情報をしっかり共有する。

●患者の状態や処置後の経過を心配し,病状を軽く評価しない。

Ⅱ.救急外来・当直での基本手技

ページ範囲:P.15 - P.15

緊急気道確保

著者: 齋藤康一郎

ページ範囲:P.16 - P.20

ポイント

●経喉頭的な気管内挿管と外科的気道確保に大別される

●緊急気道確保の際は,外科的気道確保のうち,外科的気管切開術,輪状甲状靱帯(膜)穿刺術,輪状甲状靱帯(膜)切開術(外科的と経皮的を含む)に適応がある。

●外科的気管切開に際しては,患者・頸部の状態に応じて,上・中・下気管切開それぞれの特徴を知ったうえで,臨機応変に使い分ける。

●輪状甲状靱帯(膜)の穿刺・切開に際しては,輪状甲状動脈の存在を意識する。

●外科的気道確保に際しては,各手技の適応・禁忌や特徴を臨床解剖とともに理解したうえで慎重に施術する。

アナフィラキシーショックへの対応

著者: 川﨑泰士 ,   神崎晶

ページ範囲:P.21 - P.26

ポイント

●アナフィラキシーは的確な診断,重症度分類が必要である。

●アナフィラキシーショック時には立位でなく仰臥位にし,下肢を挙上させる。

●アナフィラキシーショック時には生理食塩水の点滴,酸素投与を行う。

●重症度に応じて大腿の付け根と膝の中央部分のやや外側にアドレナリン投与を行う。

反射性失神(迷走神経反射)への対応

著者: 西野宏

ページ範囲:P.27 - P.31

ポイント

●一過性の意識消失後,自然かつ完全に意識の回復がみられる。

●多くの場合,前兆を認める。

●迷走神経反射が静脈還流の減少,血圧低下,徐脈,心停止をきたす。

創傷処置

著者: 真栄田裕行

ページ範囲:P.32 - P.37

ポイント

●救命処置としての気道確保と止血を最優先する。

●創傷処置は保存的かつ非侵襲的であることを原則とする。

●十分な洗浄は最良の感染予防策である。

●縫合は慌てない。創縁が判明しない場合は無理に縫合せず,開放創のまま被覆材を当てて経過をみてもよい。縫合の際には瘢痕を残さないために縫合糸の幅(バイト)を大きくしすぎず,強く締めない。ダーマボンド®やステリストリップTMを利用してもよい。

●顔面組織のデブリードマンは最小限に留める。

救急処置に必要な薬剤

著者: 小林一女

ページ範囲:P.38 - P.42

ポイント

●アドレナリン,リドカイン塩酸塩は通常,耳鼻咽喉科ユニットに置いてある薬剤である。処置時の表面麻酔,止血などに使用する。

●院内の救急カートの配置場所,カート内の薬剤の種類を把握しておく。

救急外来での心身症への対応

著者: 五島史行

ページ範囲:P.43 - P.46

ポイント

●救急外来で心身症が疑われた場合には,可能であれば心理テストによる評価を行う。

●複数の医療機関の受診歴など,経過から心身症を疑うことは可能である。

●心身症が疑われた場合には,症状治療モードから患者の気づきを促すモードへ対応を変える必要がある。

●診断および治療に際して大切なことは,心身症の病態を患者に理解させることである。

●投薬を行う際には睡眠導入剤や抗不安薬が選択肢となる。

Ⅲ.症状からみた鑑別診断

ページ範囲:P.47 - P.47

耳痛/耳漏

著者: 小川洋

ページ範囲:P.48 - P.52

当直医へのコール

●一般的に耳痛・耳漏を訴える患者が救急外来を受診した場合,耳鼻咽喉科医がコールされることは多いが,初期対応は当直医が行うこともあり,それぞれの病院によって状況は異なってくる。

●特に小児の場合,小児科が初期対応し,必ずしも耳鼻咽喉科がコールされるとは限らないが,初期対応後に耳鼻咽喉科医がコールされる場合は重篤な症状を示していることが多く,迅速かつ適切な対応が求められる。

難聴/耳鳴/耳閉感

著者: 寺西正明 ,   曾根三千彦

ページ範囲:P.53 - P.57

当直医へのコール

●耳鼻咽喉科の医師が救急外来よりコンサルトを受ける症状としては,鼻出血,めまい,咽頭痛,呼吸困難,耳痛が多いが,難聴,耳鳴,耳閉感への対応を求められることもある。

●通常の耳鼻咽喉科外来では純音聴力検査は必須の検査であるが,夜間の当直時の検査施行は困難である。そのため,問診や身体所見による鑑別診断が重要である。

●本稿では救急外来・当直時における難聴/耳鳴/耳閉感の鑑別診断について概説する。

めまい

著者: 岩﨑真一

ページ範囲:P.58 - P.62

当直医へのコール

●(ナースから)めまいの患者さんが救急車で来院しました。救急部の医師が,眼振があるので耳鼻科で診てもらうように言っております。

●(救急医から)回転性めまいの患者が救急車で来ております。めまいは,耳鼻科が専門ですので,まずは診察していただいて,耳鼻科的なめまいか,神経内科的なめまいかの鑑別をお願いします。

●(神経内科医から)回転性めまいの患者が救急で受診されました。CTで異常なく,中枢を示唆する神経学的所見がありませんので,耳鼻科での診察・加療をお願いします。

顔面神経麻痺

著者: 山田啓之 ,   羽藤直人

ページ範囲:P.63 - P.66

当直医へのコール

●Bell麻痺:一側の顔面神経麻痺のみを呈し,他の脳神経麻痺などの随伴する症状がない症例

●Ramsay Hunt症候群:顔面神経麻痺のほかに難聴やめまいも呈している症例

●外傷性麻痺:事故などで頭部外傷を受傷した症例

●脳梗塞:一側の顔面神経麻痺を呈しているが,前頭筋の麻痺がない症例

視力障害/複視

著者: 太田康

ページ範囲:P.67 - P.72

当直医へのコール

●問診,視診,画像検査で鼻・副鼻腔病変が原因である場合は,手術的治療が必要な可能性がある。

●視神経の外傷性損傷に対する治療のゴールデンタイムは非常に短い。視力の急激な低下や視神経管骨折がある場合は緊急性がある。

●どのようなケースにおいても,眼科医と連携して治療にあたっていく。

鼻出血

著者: 片田彰博

ページ範囲:P.73 - P.77

当直医へのコール

 鼻出血は耳鼻咽喉科領域における代表的な救急疾患であるが,一般的なKiesselbach部位からの鼻出血は,鼻をつまんでいるだけで自然に止血することが多い。したがって,時間外の救急外来に鼻出血の患者が受診した場合,耳鼻咽喉科医がコールされるのは以下のようなケースが想定される。

●鼻出血が自宅での簡単な処置では止まらない。

●鼻出血が短時間に反復している。

●鼻出血が大量出血になっている。

●鼻出血の原因が外傷である。

●鼻出血のために救急車で来院した。

●重篤な合併疾患がある。

●抗血小板薬や抗凝固薬を使用している。

鼻閉/鼻汁

著者: 宮本秀高

ページ範囲:P.78 - P.80

当直医へのコール

 現実的には,救急外来の現場において,耳鼻咽喉科専門医が診察しなければならない緊急性のある鼻閉/鼻汁患者はかなり少ないと考えられる。しかし,専門的な診察は必要ないが鼻閉/鼻汁症状を訴える患者は比較的多いと考えられる。具体的には以下のような場合である。

●鼻水,鼻づまりがひどくて眠れない(全年齢)

●鼻に異物を詰めてしまい鼻がつまる,悪臭の伴う鼻汁が出る(小児)

●急激な喘息発作および鼻症状(鼻閉,鼻汁)の悪化:アスピリン喘息発作(成人に多い)

●外傷後,鼻副鼻腔手術・脳外科術後に水溶性の鼻汁が続く

●鼻出血→「鼻出血」の項(p.73)を参照

頭痛/顔面痛

著者: 横井秀格

ページ範囲:P.81 - P.86

当直医へのコール

●頭痛や顔面痛を呈する患者が救急外来を受診し,耳鼻咽喉科医が診察する際に最も頻度が高いものは鼻副鼻腔疾患のなかの急性炎症であり,感冒症状ののちに,急激に頭痛や顔面痛を自覚することが多い。

●成人や高齢者の鼻出血を伴う頭痛では,鼻副鼻腔の腫瘍性疾患が疑われる。

●次に頻度が高いものは,耳疾患の急性炎症やめまいを併発するものである。炎症による耳痛から頭痛を訴えるものは子どもに多く,めまい症状を伴う頭痛は成人から高齢者に多い。

●症状の程度によるが,全身状態が良好であればwalk inが多く,強いめまい,嘔気や意識レベルの低下,もしくは眼症状を伴う際は救急車での搬送となることもあり,脳外科や眼科からのコンサルトも稀ではない。

●注意を要するものとして,発症後早期には明らかな神経脱落症状などを伴わない中枢性疾患があり,念頭に置いておく必要がある。

音声障害

著者: 香取幸夫

ページ範囲:P.87 - P.90

当直医へのコール

●音声は,適切な呼気,正常な声帯運動と振動,正常な声道(口腔・咽頭)の構造と運動によって作られており,気道狭窄や,口腔・咽喉頭の炎症,腫瘍,麻痺によって音声障害が生じる(図1)。

●様々な疾病で音声障害を生じることから,年齢,性別に関係なく受診がある。

●音声障害の救急患者では嚥下障害や呼吸困難(感)を伴っていることが多い。

●音声障害に加えて呼吸困難の症状がある場合には早急な治療が必要になる。喘鳴,努力呼吸,チアノーゼなどがみられるときは上気道狭窄を強く疑う。

●音声障害の発現から救急受診まで短時間のものほど疾病の進行が速いことを考え,早急に上気道の内視鏡検査などの診察や気道確保の準備が必要になる。

●局所所見の確認と診断には,口腔,咽頭,喉頭を直接診察する機会の多い耳鼻咽喉科,麻酔科,呼吸器科の医師による診察が必要になる。

呼吸困難

著者: 平野滋

ページ範囲:P.91 - P.94

当直医へのコール

●耳鼻咽喉科医が呼ばれる呼吸困難は上気道狭窄によるものである。

●上気道の炎症性疾患が多く,咽頭痛や嗄声を伴うことが多い。

●年齢層,性別はさまざまである。

●異物は幼児〜小児に多いが,多くは下気道異物であるために呼吸器科が担当し,耳鼻咽喉科が呼ばれることは稀である。

●頭頸部癌による上気道狭窄は高齢者に多いが,甲状腺癌による気道狭窄は若年者でもありえる。

●上気道狭窄による呼吸困難の患者はwalk inで来ることが多いが,高度の場合は搬送されてくることもある。

嚥下障害

著者: 兵頭政光

ページ範囲:P.95 - P.99

当直医へのコール

●嚥下障害を主訴として耳鼻咽喉科救急外来を直接受診する患者は比較的少ないが,誤嚥性肺炎や窒息,嚥下困難などをきたして救急外来を受診した患者の診察を依頼されることは少なくない。

●他科に入院中の患者が食物誤嚥や窒息をきたして,緊急に対応を依頼されることもある。

●本稿では耳鼻咽喉科救急外来における嚥下障害や窒息患者診察時の注意点・対応について述べる。

咽頭痛

著者: 齋藤弘亮 ,   大上研二

ページ範囲:P.100 - P.105

当直医へのコール

●咽頭痛はかぜ症候群の症状の1つとして現れることが多く,小児から高齢者まで幅広い年齢層が救急外来を受診する。

●一般的なウイルス性咽頭炎から,急激に気道閉塞をきたす急性喉頭蓋炎など,多彩な疾患が原因となる。いわゆる“killer sore throat”(致死的となりうる咽頭痛)を除外することが重要となる。

●walk inで来院するケースがほとんどであるが,呼吸困難感や嚥下困難感,開口障害,激痛が随伴する場合は高度炎症性疾患や気道緊急の可能性を念頭に置く。

顔面腫脹

著者: 波多野孝 ,   荒井康裕 ,   佐野大佑 ,   折舘伸彦

ページ範囲:P.106 - P.110

当直医へのコール

●以下のような例がある。

 ・[症例1]:70代,男性。3日前から左眼痛が出現,2日前より眼瞼腫脹を認め,近医眼科を受診した。その後,複視,眼球運動障害も生じたため救急外来を受診し,画像撮影後に耳鼻科へコンサルトされた。

 ・[症例2]:60代,男性。1か月前から左上齲歯に対し近医歯科で治療中であったが,徐々に頰部腫脹を認め,左上顎歯肉からの出血も伴うようになったため救急受診した。

 ・[症例3]:70代,女性。2週間前より近医歯科で右下歯牙の根端治療を受けた。その後,右下顎から頰部の腫脹,疼痛,開口障害も出現したため救急受診した。

●救急外来への受診方法としては,顔面腫脹のみが主訴の場合はwalk inが多いが,呼吸困難症状をすでに訴えている場合には救急搬送もある。

●耳鼻咽喉科へ直接コールがある場合も多いが,腫脹の部位や随伴症状によってまず脳外科,歯科・口腔外科,眼科が救急で診察を行い,他科で画像検討などののちにコンサルトとなる場合もある。

頸部腫脹

著者: 鈴木基之

ページ範囲:P.111 - P.113

当直医へのコール

●頸部腫脹を呈する疾患は多岐にわたる。

●救急外来を受診せざるをえないという状況は,急激な腫脹の増大や発熱・疼痛,咽喉頭への何らかの症状を伴っている可能性が高いということを想定しておくべきである。

Ⅳ.救急外来・当直での処置と治療

ページ範囲:P.115 - P.115

外傷

外傷性鼓膜穿孔/耳小骨連鎖離断

著者: 坂口博史

ページ範囲:P.116 - P.120

当直医へのコール

●患者特性:年齢性別を問わず生じうる。

●主訴:耳痛,耳出血,耳閉感,難聴,めまい,顔面神経麻痺

●受傷機転:直達性外傷と介達性外傷がある。

 ・直達性外傷

  例1:耳掃除の際に押された,または壁にぶつかって受傷した。

  例2:溶接業務の際に火花が耳に入って受傷した。

 ・介達性外傷

  例1:平手打ちなどの暴力やスポーツなどで外耳を打撲した。

  例2:交通事故による側頭骨骨折に伴って鼓膜穿孔を生じた。

●受診手段:単純穿孔ではwalk inが多い。頭部外傷や外リンパ瘻を合併する症例では救急搬送がありえる。

●他科からのコンサルト:頭部外傷に伴う外傷性鼓膜穿孔では脳神経外科の診察が先行し,その後にコンサルトを受けることが多い。

側頭骨骨折

著者: 平海晴一

ページ範囲:P.121 - P.125

当直医へのコール

●側頭骨骨折は,頭部外傷として先に救急科医師や脳神経外科医師が診察したのちに,耳出血に対して耳鼻咽喉科当直医にコールされることが多い。

●脳挫傷や頭蓋内出血など頭蓋内合併症の精査加療が最優先であり,救急科医師や脳神経外科医師の診察内容と治療方針を確認する。

鼻骨骨折

著者: 鈴木久美子

ページ範囲:P.126 - P.130

当直医へのコール

●顔面打撲の症例で,外鼻の腫脹や変形,疼痛を呈した場合にコールされる。

●若い男性が多い。

●鼻骨骨折単独の場合はwalk inが多い。

●殴打,交通事故,スポーツによるものが多い。

●コールされたら,鼻部以外の受傷部位の有無と緊急度,全身状態,現時点での鼻出血の有無や程度などをまず確認する。

顎顔面骨骨折

著者: 中屋宗雄

ページ範囲:P.132 - P.135

当直医へのコール

 最終的に顎顔面骨骨折と診断される症例が救急外来から耳鼻科当直医にコールされるのは,

●気道緊急が疑われる場合,

●出血が持続する場合,

●緊急手術が必要な場合,

 である。

眼窩壁骨折

著者: 藤井博則 ,   御厨剛史 ,   山下裕司

ページ範囲:P.136 - P.140

当直医へのコール

●多発外傷,スポーツ外傷,殴打に伴う外傷で受傷する例が多い1)

●好発年齢はスポーツ外傷などが受傷原因となる10〜20歳にピークがあり,その後80歳台まで横ばいである2,3)

●複視,眼瞼腫脹,鼻出血,しびれなどを伴うことが多いが,無症状のこともある。

●「強い眼痛,嘔気」は外眼筋を含む眼球内容物が絞扼している可能性があり,緊急手術が必要となる。視神経管骨折による「視力障害」を合併している例でも即時コールが必要である。

●他部位(鼻骨・頰骨)の骨折を伴うこともある。

●walk inで来る例も多く,電話でのコンサルトを受けた際は緊急性の判断を的確に行う。

口腔外傷

著者: 横尾聡

ページ範囲:P.141 - P.146

当直医へのコール

●口腔外傷のなかでも歯の外傷は受傷者の口腔機能や心理面(美容面)に大きな影響を与える。

●歯の外傷は1〜2歳の乳幼児と7〜8歳の学童に多発する傾向がある。前者は運動協調性の発達前期にあたり,原因は転倒が最も多く,次いで衝突,転落,打撲と続き,多くが日常生活のなかで発生する。

●永久歯の外傷も原因はほぼ同様であるが,その背景は交通事故,暴行,スポーツなどであり,日常生活のなかで発生するものは比較的少ない。

●歯の外傷は迅速かつ適切な対応によって良好な結果が得られることが多い。

●緊急処置を行う可能性のある各科の医師は応急処置の目的を認識しておく必要がある。

●当直医が特に留意する口腔外傷は,歯の外傷のなかの「完全脱臼」と「舌を含めた口腔粘膜外傷」である。

喉頭・気管外傷

著者: 梅野博仁

ページ範囲:P.148 - P.151

当直医へのコール

 喉頭・気管外傷の患者が救急外来や時間外に受診する場合,開放性外傷または鈍的外傷が多く,呼吸苦を訴える症例があるので注意を要する。以下に当直医にコールがある場面の特徴について箇条書きで示す。

●開放性外傷

 ・包丁やナイフによる自殺企図が原因の多くを占める。

 ・年齢と性別は30歳以上の成人男性に多い。

 ・頸動脈損傷や呼吸困難を伴うことはほとんどないが,頸部からの出血が多く,救急車で救命救急センターへ搬入される例が多い。

 ・全身状態に問題がなければ,耳鼻咽喉科医での対応を依頼される。

●鈍的外傷

 ・剣道の竹刀による突き,格闘技の練習や試合中の打撲,野球の打球による外傷など,スポーツや喧嘩,交通事故による頸部打撲,転倒による頸部打撲などの過失,ロープや鉄筋による労働災害などによるものが多い。

 ・10〜50歳台の比較的若い年齢の男性に多い。

 ・全身状態は良好な場合が多く,交通外傷を除けば徒歩での受診例が多い。

●化学熱傷

 ・自殺企図によるアルカリの服用や酸性化学物質の吸入などの化学熱傷があるが,頻度は少ない。

 ・アルカリによる化学熱傷では重症化する。

 ・救急車による搬入例が多い。

●熱傷

 ・火事などによる気道熱傷があるが,頻度は少ない。

 ・救急車による搬入例が多い。

頸部外傷

著者: 橋本大

ページ範囲:P.152 - P.156

当直医へのコール

●頸部外傷は鋭的頸部外傷の頻度が高く,自殺企図の場合は精神疾患や薬物中毒を伴うことが多い。したがって,walk inで来院することは少なく,多くが救急搬送される。また,転倒・転落による頸部外傷(鋭的,鈍的を含む)がそれに続く頻度である。

●頸部熱傷も比較的頻度が高く,気道熱傷の有無の確認のために他科からコンサルトを受けることが多い。

●受傷状況の詳細な情報,特にどのような物で受傷したのか,また体内に異物として残存しているかどうかを確認する。開放性損傷の場合には,包丁,カミソリなど成傷器の種類や刃渡りの情報は損傷の深達度を予測するのに重要な情報となる。

●気道緊急やhard signは非常に緊急度が高い。

異物

外耳道異物

著者: 太田有美

ページ範囲:P.157 - P.161

当直医へのコール

●年齢層:外耳道異物はどの年齢層にもみられるが,小児では自分で入れてしまった小玩具などが多く,成人では綿花や,昆虫などの有生異物が多い。男女比は,小児ではやや男児が多い傾向である。

●主訴:昆虫などの有生異物では痛みや大きな音を訴える。就寝中に昆虫が入り込むと強い症状を生じることから,深夜でも救急受診することになる1)。無生異物では耳閉感程度の症状であることが多い。

●受診方法:外耳道異物では全身状態に問題はないので,救急搬送ではなくwalk in(自己来院)での受診がほとんどである。

鼻腔異物

著者: 小町太郎

ページ範囲:P.162 - P.167

当直医へのコール

●当直医へコールされる鼻腔異物は,ほとんどが幼小児であり,異物を誤って鼻腔へ入れてしまった場合,または異物挿入が疑われる場合に,時間外に受診することが多い1〜3)

●家族が付き添ってのwalk-inがほとんどであるが,家族や保育者の判断によっては,救急搬送される場合や,小児科や救命救急センターを受診後にコンサルトを受ける場合もある。

●対象異物の情報がボタン型電池,磁石など磁性異物であれば要注意である。

咽頭異物

著者: 佐藤公則

ページ範囲:P.168 - P.172

当直医へのコール

●異物を嚥下して咽頭痛・嚥下痛を訴える患者が救急外来を受診し,患者に開口させても咽頭に異物が見当たらないときに,救急外来から当直医にコールされる。

●窒息を伴う咽頭異物は緊急を要するため救急外来で対応され,当直医にコールされることは少ない。

喉頭・気管異物

著者: 二藤隆春 ,   上羽瑠美

ページ範囲:P.173 - P.177

当直医へのコール

●喉頭・気管異物は3歳未満の乳幼児と高齢者に多い。

●乳幼児では豆類や玩具,高齢者では米飯や肉類,歯科材料の異物が多い。

●発症直後は,咳嗽,呼吸困難,喘鳴,嗄声などがみられるが,数日経過して,気管支炎様の症状で受診することもある。

●当直医へのコールは,受診時から気道異物が疑われているとき,小児科医や内科医が診察して気道異物を疑ったときである。

食道異物

著者: 平林秀樹

ページ範囲:P.178 - P.182

当直医へのコール

●「子どもがおもちゃを飲み込んだ!」

●「老人が薬をPTPごと飲み込んでしまった!」

感染症・炎症・浮腫

急性中耳炎

著者: 増田正次

ページ範囲:P.183 - P.188

当直医へのコール

●小児の親が,耳痛を訴えるわが子の受診を希望して来院する。

●小児科医が,発熱などの全身状態不良を主訴に救急受診した小児に関し,中耳炎の可能性について診察依頼をしてくる。

●成人が,耳痛,難聴に加え,めまい,顔面神経麻痺などを訴え来院する。

●小児の親からの電話に対しては,全身状態(発熱,活気,食欲),耳介周囲の腫脹の有無を,コールを受けた時点で聞いておく。入院を要するほどの重症感染症を伴っているか否かをあらかじめ推測し,小児科との連携がとれるか確認をするためである。

●コールしてきた相手に「中耳炎のようなので診てください」と言われても,鼓膜をみるまでは急性中耳炎と決めつけてはいけない。そうでないと他の重症感染症を見逃してしまう。

慢性中耳炎急性増悪

著者: 奥野妙子

ページ範囲:P.189 - P.193

当直医へのコール

 「最終的に慢性中耳炎急性増悪」と診断される症例が救急外来から当直医にコールされるときは,以下のような重篤な耳症状,あるいは耳症状と緊急の合併症の発症時と思われる。

●耳漏が外耳道に充満している。

●外耳道にdebrisあるいは真菌塊が充満していて痛みを伴う。

●耳介の発赤・腫脹,稀に耳介聲立を伴う。

●耳漏があり,聞こえが急に悪くなった,大きな耳鳴りもある。

●耳漏があり,意識レベルが下がっている。

●透明な耳漏が大量にあり,止まらない。

●耳漏があり,顔面神経麻痺を伴っている。

●耳漏があり,めまいを伴っている。

 慢性中耳炎の急性増悪で受診する場合はほとんどが成人である。手術の既往がある場合もある。

耳性頭蓋内合併症

著者: 伊藤真人

ページ範囲:P.194 - P.198

当直医へのコール

●耳性頭蓋内合併症には,髄膜炎,脳(S状)静脈洞血栓症,頭蓋内膿瘍などがあるが,その原因や初期の病像は小児と成人では異なる1)

●小児例では髄膜炎でみられるような頭痛,嘔気,嘔吐,発熱などの全身症状が主体であるのに対して,成人例では脳梗塞様の意識レベルの低下や神経脱落症状が前面に出る場合が多い。

●救急外来において頭蓋内病変が認められた際に耳鼻咽喉科当直医がコールされるのは,①中耳・内耳の症状があるときと,②画像検査などで聴器に異常が疑われたときである。

●頭蓋内病変の診断がついていない場合もあることから,中耳・内耳疾患では常に髄膜炎や脳梗塞様の頭蓋内病変を示唆する所見を見落とさないことが大切である。

急性副鼻腔炎

著者: 高木大

ページ範囲:P.199 - P.203

当直医へのコール

 救急外来から急性副鼻腔炎を疑う症例の診療依頼で,耳鼻咽喉科当直医へのコールがある場合,下記のようなケースが多い。

 ●鼻汁や鼻閉といった鼻症状とは別の症状を併発している場合。

  ・眼瞼の発赤・腫脹,眼痛,視力障害,複視を訴えている。

  ・強い頭痛,嘔気を併発している。

  ・頰部や前頭部の発赤・腫脹・疼痛を訴えている。

  ・発熱,倦怠感を併発している。

 ●高齢者のほか,免疫不全,糖尿病などの合併症を有する場合。

 ●鼻出血を伴う場合。

 ●自分で症状の訴えができない乳幼児の場合。

 基本的にはwalk inが多いが,搬送されてくるようなケースでは入院,場合によっては臨時手術が必要となることがある。

鼻性頭蓋内合併症

著者: 村田英之 ,   桑原敏彰 ,   岩井大

ページ範囲:P.204 - P.208

当直医へのコール

●当直医へのコールは以下の場合が想定される。

・膿性鼻汁など鼻症状を伴った頭痛,発熱の精査依頼

・鼻手術後の水様性鼻汁や頭痛,発熱の精査依頼

・髄膜刺激症状がある場合,髄液検査で細菌性髄膜炎が疑われた場合の感染源の精査依頼

・画像診断で頭蓋内(硬膜下,硬膜外,脳実質)膿瘍とともに副鼻腔陰影が確認された場合の精査依頼

●コールされる診療科は脳神経内科,脳神経外科,小児科,一般救急外来が多い。全身状態は髄膜炎などの中枢症状の程度によってさまざまで,walk inの場合や,意識レベルが低下して搬送される場合も多い。

鼻性眼窩内合併症

著者: 宮本康裕

ページ範囲:P.209 - P.214

当直医へのコール

●突然の眼瞼腫脹や発赤,眼痛や頭痛,眼球突出,複視,視力障害で受診することが多い。

●walk inであることが多いが,小児から成人まで年齢層はさまざまである。

●前駆症状として発熱や全身倦怠などの感冒様症状に加え,膿性鼻漏などの急性副鼻腔炎症状を呈することが多い。

●耳鼻咽喉科を初診することも多いが,小児科,眼科,脳神経外科,内科などからのコンサルト例も多く存在する。

●高度の眼球突出や視力低下を伴う場合は重症例の可能性が高いので注意が必要である。

急性喉頭蓋炎

著者: 桑島秀

ページ範囲:P.215 - P.219

当直医へのコール

●著明な咽頭痛,嚥下時痛を訴える成人例であるが,中咽頭レベルの炎症所見に乏しい。

●仰臥位で悪化,起坐位で軽減する呼吸困難の訴えがある。

●口のなかに音がこもっているように聞こえる「含み声」がある。

遺伝性血管性浮腫

著者: 多田紘恵 ,   近松一朗

ページ範囲:P.220 - P.223

当直医へのコール

●突然の皮下浮腫,粘膜下浮腫により救急外来を受診する。膨疹(蕁麻疹)を伴わない場合が多い。

●粘膜下浮腫としての喉頭浮腫(ただし,3歳以下は稀)とそれに伴う気道狭窄の疑いで,耳鼻咽喉科としての救急対応が迫られる。

●好発年齢は10〜20歳台に多いといわれているが,発症年齢はさまざまである。

●精神的ストレス,外傷や抜歯,過労などの肉体的ストレス,妊娠なども契機となる。

●炎症性喉頭浮腫に対しての抗菌薬や,アレルギー性血管性浮腫に対しての抗ヒスタミン薬,グルココルチコイド,エピネフリンといった急性期治療にもかかわらず,発症後24時間は増悪傾向を認める。

扁桃炎/扁桃周囲膿瘍

著者: 菊地茂

ページ範囲:P.224 - P.228

当直医へのコール

 急性扁桃炎,扁桃周囲炎,扁桃周囲膿瘍のいずれも救急搬送されることはあまりなく,下記の症状があるときにコールされることが多い。

●発熱と強い咽頭痛があり,全身倦怠感が著明である。

●嚥下痛が顕著で摂食や飲水が困難である。

●咽頭痛に加えて開口制限がある。

●咽頭痛と呼吸困難(感)がある。

深頸部膿瘍/降下性壊死性縦隔炎

著者: 渡辺哲生

ページ範囲:P.229 - P.233

当直医へのコール

●糖尿病の合併,ステロイド投与中などの免疫能の低下した症例が多い。

●主訴は発熱,咽頭痛,嚥下痛,嚥下障害,開口障害,含み声,呼吸困難である。

●上記症状に加えて咽喉頭粘膜の発赤腫脹,頸部・前胸部の発赤腫脹がみられる。

●耳鼻咽喉科医のいる病院に,CT所見をもとに他院,他科から紹介されることが多い。

●搬送される症例も多い。

●気道確保が重要であり,呼吸状態の確認が必要である。

急性症状を示す聴覚器疾患

突発性難聴

著者: 中川隆之

ページ範囲:P.234 - P.237

当直医へのコール

●急激に発症した高度難聴として直接耳鼻咽喉科に問い合わせが来る。

●患者年齢は30〜60代,性差はなく,片側性がほとんどである。

●めまいを伴う場合,救急搬送で来院することが多い。

●両側性,小児,高齢者,めまい以外の随伴症状を伴う症例では,鑑別診断に注意し,他科との連携を想定する。

●突然の聴力低下により,精神的に混乱している(パニック状態にある)ことに配慮する。

外リンパ瘻

著者: 北原糺

ページ範囲:P.238 - P.242

当直医へのコール

●通常,急性発症の激しい回転性めまいと一側性の耳鳴,難聴を主訴に救急搬送される。

●めまい症状が軽い場合はwalik inで来院する可能性もある。

●強く鼻をかむ,重たい物を持つなど以外に,スキューバダイビング,交通事故などの外傷によるものもあり,年齢・性別を問わず発症する。

●激しいめまい症状に気を取られたり,難聴が軽度である場合には,耳鼻咽喉科に紹介されるタイミングが遅れることがある。

●めまい症状を主訴に他科から紹介された場合,難聴を見逃してはならない。

●外リンパ瘻の難聴は,タイミングがよければ手術で治癒する可能性があり,タイミングが悪ければ不可逆的な高度感音難聴に至る場合もある。

音響外傷

著者: 松延毅

ページ範囲:P.243 - P.247

当直医へのコール

●音響外傷は急性音響性聴覚障害である。

●耳鼻咽喉科医がコールされる状況としては,夜間や休診日,通常診療時間外での救急当番医(他科医)からのコンサルト・診療依頼が多い。ほとんどがwalk inでの受診であり,救急搬送されてくることは稀である。

●「耳の近くで他人が非常に大きい音を出してから耳鳴,耳閉塞感が生じ,聞こえが悪い」「コンサート会場から帰宅してから耳鳴,耳閉塞感が生じ,聞こえが悪いことに気づいた」など,きっかけとなるエピソードがあり,それに引き続き一側の耳鳴,耳閉塞感,聞こえの悪さを訴えることが多い。めまい,耳痛を訴えることはほとんどない。他の身体症状を訴えることもない。

メニエール病

著者: 堀井新

ページ範囲:P.248 - P.253

当直医へのコール

●当直医にコールされる典型的な症状としては,下記が挙げられる。

 ・悪心・嘔吐を伴う急性のめまい発作。

 ・裸眼でも確認できる自発眼振。

前庭神経炎

著者: 稲垣太郎

ページ範囲:P.254 - P.259

当直医へのコール

●当直医にコールされる典型的な症例は,下記のようなものである。

 ・46歳,男性。急激に発症した回転性のめまい。

 ・休んでも改善せず,吐き気も伴っていたため,救急車を要請し搬送された。

 ・難聴や耳鳴の訴えはなく,頭部CTでも異常所見はなかった。

 ・激しい眼振が続いているとのことで耳鼻咽喉科当直医がコールされた。

良性発作性頭位めまい症

著者: 肥塚泉

ページ範囲:P.260 - P.264

当直医へのコール

●更年期以降の女性に多い。

●中枢神経症状を認めない。

●めまいの持続時間は1分以内で,頭位を変えたとき,寝返り,振り向いたとき,急に立ち上がったときに生じる。

●耳鳴,難聴,耳閉感などの聴覚症状を随伴しない。

Bell麻痺とHunt症候群

著者: 濵田昌史

ページ範囲:P.265 - P.269

当直医へのコール

●年齢:Bell麻痺については原因不明であり,いずれの年代でも発症する。一方でHunt症候群は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によるので,小児例,特に乳幼児では少ない。

●主訴:Bell麻痺,Hunt症候群のいずれも顔面麻痺が主訴となるが,Hunt症候群では難聴,めまいとともに耳痛・側頭部痛が初発症状のことがある。

●受診状況:walk inのことがほとんどであるが,Hunt症候群でめまいが高度の例では搬送されることも想定される。

●依頼状況:施設によって対応が異なるものと思われる。中枢性麻痺が否定されれば基本は耳鼻咽喉科医が対応すべきと考えるが,昨今の医療事情によっては神経内科医や救急救命医が対応する病院も存在しうる。

●確認すべきこと:発症日時を確認する。中枢性麻痺の鑑別のためには顔面麻痺以外の神経症状の有無も確認する。加えてBell麻痺/Hunt症候群の鑑別のためにめまい,難聴・耳鳴ならびに耳帯状疱疹の有無も問い合わせる。

オンコロジック・エマージェンシー

薬剤性肺障害

著者: 西村明子

ページ範囲:P.270 - P.274

当直医へのコール

●発症時に来院,またはコールされる主な主訴

 ・咳嗽,呼吸困難感,頻呼吸,酸素化低下,発熱など。

●特に要注意な情報

 ・バイタルサインの異常:SpO2の低下,呼吸回数の増加,発熱。

 ・発症リスクの高い薬剤の投与歴:セツキシマブ,ニボルマブ,パクリタキセル。

 ・放射線照射歴:特に胸部(肺尖部も含む)。

発熱性好中球減少症

著者: 山崎知子

ページ範囲:P.275 - P.280

当直医へのコール

●化学療法を受けている患者が発熱を主訴に来院した場合は,発熱性好中球減少症を考えて,診察が速やかに受けられるようにする。

●体温以外のバイタルサイン(血圧,脈拍,酸素飽和度など)や全身状態を確認する。

●腋窩温37.5℃以上の発熱がある。発熱以外の症状がないことも多い。

●救急外来で,発熱性好中球減少症が疑われる患者がいるときは,初期対応を行いつつ,当直医へコールする。

がんの頸椎転移・浸潤による頸椎・頸髄障害

著者: 西田康太郎

ページ範囲:P.281 - P.286

当直医へのコール

●がんの既往がある患者が急激に頸部痛や頭痛を生じ,特に体動時に激しい痛みを訴える場合。

●同様の患者が,四肢の筋力低下や歩行障害を訴え搬送された場合。

●同様の患者が,片側上肢への放散痛や筋力低下,巧緻運動障害を生じた場合。

Ⅴ.当直での術後急変への対応

ページ範囲:P.287 - P.287

耳科手術後の血腫

著者: 山本和央 ,   山本裕

ページ範囲:P.288 - P.291

当直医へのコール

●通常の耳科手術後と比べ,患者の疼痛の訴えが強い。

●発熱が続いている。

●圧迫固定のガーゼへの血液の染み出し,汚染が多い。

耳科手術後のめまい・顔面神経麻痺

著者: 萩森伸一

ページ範囲:P.292 - P.296

当直医へのコール

≪めまい≫

●耳科手術後のめまいは,術直後〜当日に生じることが多い。

●麻酔覚醒直後からの激しい回転性めまいは主治医が対応するが,帰室し安静解除後の夜間帯以降,頭位や体位変換を機に急激なめまいを訴えた際には,当直医コールになる。

●嘔気・嘔吐を認めることも多い。

●疾患名と施行した手術,めまいが生じたきっかけ(頭位・体位変換,くしゃみや鼻かみなど),創部ガーゼ汚染の有無などが重要情報である。

≪顔面神経麻痺≫

●耳科手術後の顔面神経麻痺は,術直後から生じる即時型麻痺と数時間〜数日後に起こる遅発性麻痺に分けられる。

●夜間・休日に遅発性麻痺が生じた際に当直医コールとなる。

●施行した手術,術後から麻痺発症までの時間経過や創部ガーゼ汚染の有無が重要な情報である。

耳科手術後の髄液漏

著者: 土井勝美

ページ範囲:P.297 - P.301

当直医へのコール

●中耳手術後の患者が,鼻腔内もしくは上咽頭に液体が流れ落ちる感覚があると訴えて救急・当直医を受診することが多い。

●鼓膜および外耳道経由の髄液漏出もありうる。

●手術後の鼻かみや排便時の力み・いきみを契機として発症することが多い。

●主治医に直ちに連絡をとり,対応を協議する。ほぼ全例,手術中に髄液漏を発症しており,手術所見の確認も重要である。

●頭痛,悪心,高熱,意識低下,項部硬直を伴う場合には,髄膜炎の発症を考慮して,迅速な緊急対応が求められる。

内視鏡下副鼻腔手術後の鼻出血

著者: 赤澤仁司 ,   端山昌樹

ページ範囲:P.302 - P.306

当直医へのコール

●内視鏡下副鼻腔手術(ESS)後に出血が起こると「鼻出血が止まらない」「鼻に詰めた綿球がすぐ真っ赤に染まる」「口腔内に血が垂れ込みつづけている」などでコールされることが多い。また「目から血が出てくる」「眼が腫れている」などとコールされることもある。

●コールされた際に注意すべき情報は,出血の程度・手術日・いつから出血しているのか・眼瞼の腫脹の有無などである。

内視鏡下鼻副鼻腔手術後の眼瞼腫脹・複視・視力障害

著者: 志賀英明 ,   八尾亨

ページ範囲:P.308 - P.311

当直医へのコール

●全身麻酔から覚醒して数時間経過後に顕在化しやすい。

●患者自身が視力障害や複視を訴えるケースが多い。

●夜勤のナースが巡回時に眼瞼腫脹に気がつくケースも考えられる。

●午後の手術であれば深夜にコールされる可能性がある。

●安易に研修医に診察を委ねるのではなく,自ら病棟に足を運んで診察にあたるのが重要。

内視鏡下鼻副鼻腔手術後の発熱・意識障害

著者: 平野康次郎

ページ範囲:P.312 - P.317

当直医へのコール

●病棟から当直医に「鼻の手術後の患者さんが高熱になり意識がありません!」とコールがあったときには,まず次のようなことを考えるべきである。

 ・髄液漏から発生した髄膜炎や脳炎。

 ・黄色ブドウ球菌の毒素によるtoxic shock syndrome(TSS)。

 ・発熱と意識障害が別の病態により発生している可能性もあり,意識障害を起こす鑑別疾患の除外も必要である。

●コールの内容で重要なものは次のような情報である。

 ①ショックになっているか

 ②活動性の鼻出血はあるか

 ③意識障害は一過性であるか,現在も続いているか

 ④末梢静脈確保がされているか

 ⑤術後何日目か

 ⑥鼻内パッキングは入っているのか

 ⑦意識障害を起こすような既往歴をもっているか

トキシックショック症候群

著者: 吉川衛

ページ範囲:P.318 - P.321

当直医へのコール

●当直医へコールする側の認識にもよるが,トキシックショック症候群(TSS)は,比較的急激に病態が増悪する疾患であるため,コールされた時点でショック症状を起こしている可能性が高い点に注意が必要である。

●コールの内容としては,「患者が激しい筋肉痛を訴えています」「急に高熱が出てきました」あたりが初期症状を示しているため,TSSを念頭に置いて対応を準備する。

●さらに,コールの内容が,「激しい嘔吐や下痢をしています」「全身に皮疹(紅斑)が出ています」となれば,診察や検査を始める必要がある。

●「急に血圧が低下してきました」「意識が朦朧としています」とコールされたら,全力で患者のもとへ駆けつけて,ショック症状に対する治療を開始しなければならない。

口蓋扁桃摘出後の術後出血

著者: 中田誠一

ページ範囲:P.322 - P.327

当直医へのコール

●口蓋扁桃摘出後の術後出血と診断される症例について,病棟から連絡を受ける場合,看護側から「先生,扁桃摘出後の患者さんですが,口から血を何度となく吐き出しています」「先生,患者さんが気持ち悪いと言ったあと真っ黒な血の混じった嘔吐物を吐き出しました」などの報告があるパターンが多いと思われる。

●ただし看護側からのコールは,その看護師の経験度により重要度の伝わり方が異なり,その怖さを知らない看護師からのコールであると,「扁桃摘出後に出血した」という情報だけで,その緊急性が伝わらないことも多い。よって大事なのは,もし「扁桃摘出後に出血した」という事実があれば,何時であろうと直ちに患者のベッドに行き,できれば耳鼻咽喉科の診察椅子にて,明るい視野で口腔内をしっかり観察することがまずは肝要である。

●ゆめゆめ「どうも大した出血ではなさそうだね。看護サイドですこし様子をみてもらって,ひどくなるようだったら,また電話もらえるかな」などという対応をしてはならない。

気管孔からの出血

著者: 折田頼尚

ページ範囲:P.328 - P.331

当直医へのコール

●気管孔からの出血は部位・程度によってさまざまな報告が病棟よりなされ,時には鼻出血と報告されることもある。

 「カニューレのYカットガーゼの血性汚染が強いです」

 「気管孔から流血しています」

 「患者が喀血しています」

●気管孔も,頭頸部腫瘍の術後や上気道炎症性疾患で一時的に造設されたものから,上気道狭窄に対する気道確保と長期呼吸管理および肺ケア目的に実施されたもの,頭頸部進行癌による窒息防止で実施されたもの,あるいは咽喉摘などの術後永久気管孔までがあり,それぞれ気管孔の目的によって出血の意味合いや深刻度も異なる。

頸部手術後の呼吸困難

著者: 星川広史

ページ範囲:P.332 - P.335

当直医へのコール

●術後しばらくは呼吸苦を認めず,酸素投与も中止していたが,その後,喘鳴が出現,呼吸苦を訴えているとコール。

 ➡頸部操作に伴う局所(咽頭・喉頭)の腫脹からくる症状の可能性。

●咳や痰とともに呼吸苦を訴える,呼気の延長や呼吸音が弱くなっているなどのコール。

 ➡喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気道系の疾患がベースにある可能性。

●呼吸苦の訴えとともに唾液や痰に血が混じる,頸部が腫れているなどのコール。

 ➡出血に伴う呼吸困難の可能性。

●呼吸困難のほかに胸部痛,頻脈や血圧低下などバイタルサインの変化ありとコール。

 ➡無気肺,気胸,肺塞栓などの呼吸器疾患や心不全,心筋梗塞など,頸部以外に原因がある可能性。

●特に頸部や全身状態に変化は認められないが,酸素投与しても呼吸苦が改善しないとコール。

 ➡心因的な要因による過呼吸などの症状の可能性。

頸部手術後の出血

著者: 上村裕和

ページ範囲:P.336 - P.340

当直医へのコール

●「今日手術した患者Aさんが,術直後よりも首が痛くなったとおっしゃっています」

●「手術後患者Bさんのドレーンの血性排液が急に増えています」


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年4月)。

頸部郭清術後の乳び漏

著者: 小出悠介 ,   花井信広

ページ範囲:P.341 - P.345

当直医へのコール

 頸部郭清術後の患者が乳び漏を発症し,異常に気づいた看護師から当直医にコールが届く場合,どのような内容となるのか。いくつか例を挙げてみる。

●「頸部が腫れてきた」

●「ドレーンの排液が急に増えてきた」

●「ドレーンの排液が濁っている」

 おそらく上記のようなものではなかろうか。頭頸部外科手術の経験をもつ者であれば,肝を冷やす内容である。出血や膿瘍など,緊急性を要する合併症でもみられる症状であるためである。当直医は,まず緊急性のある合併症の鑑別を行い,乳び漏と診断できたのであれば保存的加療を開始する。ただし,診療経験の浅い医師ならば,その患者の主治医に一報しておくことを忘れてはならない。

術後せん妄

著者: 畑中章生

ページ範囲:P.346 - P.349

当直医へのコール

 最終的に術後せん妄と診断される症例について病棟から当直医にコールされるときには,以下のような状況が予想される。

●患者が興奮状態,高血圧状態になることで,手術後の安静が保たれない。あるいは身体の安全が担保できない。

●患者が周囲の状況を理解できずに,カニューレやドレーンを自己抜去する可能性が上昇している。

●興奮から二次的に血圧も上昇しうるため,術後出血の可能性が上がる。耳鼻咽喉科・頭頸部外科手術の特性上,術式によっては気道閉塞のリスクが上昇している。

●再建手術術後に頸部の安静が保たれないのであれば,遊離皮弁移植症例では皮弁壊死のリスクが上昇している。

●上記のことから,術後にせん妄が生じると,手術合併症が生じる可能性も上昇している。

●せん妄を疑うような状況ならば,ほかに鑑別すべきものはベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状,アルコール離脱症状,脳梗塞などである。

 いずれにせよ,耳鼻咽喉科・頭頸部外科の手術後のトラブルは術後出血による気道閉塞や皮弁壊死などのリスクと直結しているため,その状況を放置することは危険である。せん妄,もしくは何らかの類症が発生していると連絡を受けた場合には,病室を訪問すべきであると考えられる。

皮弁壊死

著者: 三谷浩樹

ページ範囲:P.350 - P.353

当直医へのコール

●「皮弁の色が悪いです」「鼻腔や口腔から出血しています(遊離空腸:静脈うっ血)」。このような看護師からのコールでは皮弁血流の異常を想定する。

●皮弁血流が途絶しても直ちに皮弁壊死にはならないが,皮弁救済までの猶予時間を推し量るためにも「いつから,どのように変化していったか」を聞き取っておく。

敗血症

著者: 上田百合 ,   岡野晋

ページ範囲:P.354 - P.359

当直医へのコール
①人工内耳術後の患者が発熱しており,創部の発赤と疼痛を認めている(創部感染)。
②昨日から食事開始した頭頸部癌再建術後の患者が,発熱と頻脈を認めている(吻合部リークからの感染)。
③術後ICUで人工呼吸器管理を受けている患者が,血圧低下と意識障害をきたしている(創部感染,肺炎,カテーテル感染などからの敗血症性ショックの可能性)。

深部静脈血栓症/肺塞栓症

著者: 辻明宏 ,   大郷剛

ページ範囲:P.360 - P.365

当直医へのコール

 肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)および深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)が疑われるのは以下の症状がある場合である。

●突然の呼吸困難,胸痛および失神(PEの可能性)。

●頻呼吸,頻脈,経皮的酸素飽和度(SpO2)の低下,血圧低下(PEの可能性)。

●片側性の下肢腫脹,疼痛,発赤,下腿の把握痛(DVTの可能性)。

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目次

ページ範囲:P.2 - P.5

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.367 - P.367

あとがき

ページ範囲:P.368 - P.368

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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