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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻6号

2019年05月発行

雑誌目次

特集 細菌感染に立ち向かう—抗菌薬使用の新常識

ページ範囲:P.405 - P.405

《押さえておくべき現状と対策》

薬剤耐性の新常識

著者: 中川一路

ページ範囲:P.406 - P.415

POINT

●薬剤耐性菌が身近な感染症の原因として注目されるようになってきた。

●抗菌薬の最終兵器と呼ばれていたカルバペネムに対する耐性菌が世界的に増加傾向にある。

●新規抗菌薬については,世界中で開発が滞っている。

●抗菌薬の適正使用として,適切な抗菌薬を選択し,適切な量を,適切な期間,適切なルートで投与することが重要である。

薬剤耐性の現状と対策アクションプラン

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.416 - P.420

POINT

●薬剤耐性(AMR)菌が世界中で問題となっている。

●新規抗微生物薬の開発は停滞している。

●近い将来には治療に必要な抗微生物薬が枯渇する可能性がある。

●この状況に対応するため,わが国では2016年4月にAMR対策アクションプランが制定された。

耳鼻咽喉科領域の細菌感染性疾患—最近の動向と対応

著者: 杉田玄 ,   保富宗城 ,   杉田麟也

ページ範囲:P.421 - P.426

POINT

●耳鼻咽喉科における3大起炎菌のインフルエンザ菌,肺炎球菌,モラクセラ・カタラーリスの変貌を取り上げた。

●肺炎球菌ワクチンの普及により,インフルエンザ菌56.5%,肺炎球菌26.0%と,インフルエンザ菌が優位に検出される率が多くなった。

●ガイドライン,迅速診断を活用して,肺炎球菌が起炎菌であればアモキシシリン(AMPC)高用量,もしくはアモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA),インフルエンザ菌感染であればセフジトレン ピボキシル(CDTR-PI)の高用量,もしくはテビペネム ピボキシル(TBPM-PI)12mg/kgを使用する。モラクセラ・カタラーリスが起炎菌であればAMPC/CVAを使用し,起炎菌に見合った処方を行うことが重要である。

結核に関する最近の動向と治療

著者: 佐々木結花

ページ範囲:P.427 - P.431

POINT

●本邦の結核罹患率は緩徐ながら減少している。内因性再燃で発症する高齢者に偏在しているが,若年層では新たに外国人結核患者が増加し,20歳台の結核患者数は外国人が日本人より多数となった。

●薬剤感受性結核の標準治療は,初期2か月にはイソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+ピラジナミド(PZA)に,エタンブトールないしはストレプトマイシンを併用し,維持期4か月にはINH,RFPを用いる6か月治療である。

●結核治療を成功させるためには,結核菌を確保して薬剤感受性を確認し,それによって治療薬を正しく選択する必要がある。

●多剤耐性結核は海外で大きな問題であり,本邦に外国人結核患者が増加しつつあることから,本邦で治療を行う多剤耐性結核症例が増加する可能性がある。

《感染症予防マニュアル》

細菌により生じる院内感染と防止対策マニュアル

著者: 中澤靖

ページ範囲:P.432 - P.436

POINT

●耳鼻咽喉科領域では院内感染が発生しやすい。

●日常診療で標準予防策をどのように実践するかがポイントである。

●処置環境や内視鏡の管理にも気をつけたい。

耳鼻咽喉科実地診療における感染対策

著者: 松塚崇

ページ範囲:P.437 - P.441

POINT

●耳鼻咽喉科診療に用いるほとんどすべての器具・器械は,Spauldingの分類によればセミクリティカルであり,洗浄・消毒の際は滅菌または高水準消毒の対象となる。

●耳鼻咽喉科内視鏡はセミクリティカル器具に属するとみなされ,高水準消毒薬での消毒が適応される。

●内視鏡の洗浄・消毒は,消毒前の酵素系洗剤による適切な洗浄が重要であり,高水準消毒薬で消毒後の器具・器械には十分なすすぎを要する。

《抗菌薬使用の手引き》

—見慣れた感染症を見直そう—抗菌薬の適応と適正使用

著者: 平井由児

ページ範囲:P.442 - P.448

POINT

●抗菌薬の適応か否かを検討することは,抗菌薬の適正使用の重要な要素である。

●「かぜ」はウイルス感染症であり,抗菌薬は不要である。

●「かぜ」に抗菌薬を投与しても,その後に発症する中耳炎などの細菌感染症を予防できない。

●急性扁桃炎は,A群溶連菌が強く疑われる際にペニシリン系抗菌薬で治療を行う。

乳幼児・学童への抗菌薬投与法と注意点

著者: 尾内一信

ページ範囲:P.449 - P.453

POINT

●小児科領域における抗菌薬療法の基本は,小児の特殊性に配慮しながら感染症の原因菌を想定し,感受性のある抗菌薬を投与することである。

●適切に作成された最新のガイドラインを参考にして治療することが現実的である。

●耐性菌を増やさないように常に抗菌薬の適正使用に心掛けたい。

妊婦・授乳婦への抗菌薬投与法と注意点

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.454 - P.459

POINT

●妊婦が感染症になっても,医師から薬を処方してもらうのをためらうことが多く,医師も妊婦にはできるだけ薬剤の投与を避けたいと考えている傾向にある。

●妊娠期間中の薬物体内動態の変化(腎機能,肝機能,分布容積,蛋白結合率の変化)を考慮して処方する。さらに胎盤の通過性は,妊婦へ投与する薬物を選択するうえで重要な因子である。

●海外の公的リスクカテゴリーとして,アメリカ(FDA)のリスクカテゴリー,オーストラリア(ADEC)の分類がある。

●1955年に母子化学療法研究会が設立され,抗菌薬の母子間移行(経胎盤移行・乳汁内移行),羊水中濃度の意義などに関して検討が行われた。

●安全と考えられる抗菌薬:ペニシリン系,セフェム系,マクロライド系,クリンダマイシン

●注意しながら使用可能な抗菌薬:アミノグリコシド系,メトロニダゾール,ST合剤,グリコペプチド系

●禁忌とされる抗菌薬:テトラサイクリン系,ニューキノロン系

《細菌感染に関する新たな知見》

細菌感染症に対するワクチン療法

著者: 石和田稔彦

ページ範囲:P.460 - P.466

POINT

●4種混合ワクチンは,ジフテリア・破傷風の予防効果は高いが,百日咳に関しては,ワクチンスケジュールの見直しが必要となっている。

●インフルエンザ菌b型ワクチンは,小児の急性喉頭蓋炎に高い予防効果を示した。

●肺炎球菌ワクチンは,ワクチン含有血清型の肺炎球菌感染症に高い予防効果を示しているが,多剤耐性化傾向のあるワクチン非含有株が新たな問題となっている。

●ワクチン接種による積極的な予防と抗菌薬適正使用を組み合わせることで,効率的な細菌感染症対策が可能となる。

腸内細菌に関する最近の話題と糞便微生物移植法

著者: 水野慎大 ,   金井隆典

ページ範囲:P.467 - P.471

POINT

●腸内細菌が攪乱されたdysbiosisは全身疾患の発症と関わっている。

●糞便微生物移植法(FMT)はdysbiosisの改善を強力に誘導する治療法である。

●FMTは多数の全身疾患の治療法として期待されている。

●安全面・有効性のいずれにおいてもFMTは発展途上の治療法である。

原著

確定診断が困難であった鼻腔原発悪性末梢神経鞘腫疑いの1例

著者: 塚本裕司 ,   佐々木徹 ,   西野宏

ページ範囲:P.473 - P.477

はじめに

 悪性末梢神経鞘腫はSchwann細胞由来の腫瘍であり,頭頸部では前庭神経,迷走神経,横隔神経,頸部交感神経幹などに発症する。頭頸部領域のうち鼻腔内に発症する神経鞘腫は稀であり,悪性末梢神経鞘腫は少数の報告しかみられない。今回,われわれは鼻腔原発腫瘍を手術摘出し,病理組織検査で悪性末梢神経鞘腫が疑われたものの富細胞性神経鞘腫との鑑別が困難で確定診断に至らなかった稀な症例を経験したので,文献的考察とともに報告する。

再発性早期胃管癌に合併した下咽頭梨状陥凹癌の1例

著者: 西村省吾 ,   菅原一真 ,   堀健志 ,   竹本洋介 ,   樽本俊介 ,   津田潤子 ,   廣瀬敬信 ,   山下裕司

ページ範囲:P.478 - P.482

はじめに

 近年,内視鏡機器が発達し,narrow band imaging(NBI)により病巣をbrownish areaとして認識することで,より早期の咽頭癌の発見が増えてきている1)。また,食道癌の治療成績の向上に伴い胃管癌の検出が認められるようになったが,胃管癌の経過観察中に下咽頭癌が同時に発見された報告は少ない。

 今回われわれは,食道癌術後に再発を繰り返す胃管癌の経過観察中に下咽頭梨状陥凹癌が発生し,当院消化器内科と同時手術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

当院で経験した中耳放線菌症3例の検討

著者: 中西啓 ,   水田邦博 ,   星野知之 ,   遠藤志織 ,   大和谷崇 ,   細川誠二 ,   峯田周幸

ページ範囲:P.483 - P.488

はじめに

 放線菌症は,嫌気性または微好気性グラム陽性桿菌であるActinomyces israeliiA. israelii)などのActinomyces属によって引き起こされる,慢性化膿性もしくは肉芽腫形成性の稀な疾患である1)Actinomyces属は口腔内に常在しており,齲歯などにより繁殖して深部組織に移行し,顔面・頸部や呼吸器に感染症を生じる2)。放線菌症の約60%は顔面・頸部に生じるとされているが3),稀に中耳への感染例も報告されている4-8)。中耳放線菌症はきわめて稀な疾患であるため,これまでの報告はほとんどが1例報告であった。今回われわれは,浜松医科大学医学部附属病院(以下,当院)で経験した中耳放線菌症3例について,初診までの経過,検査所見,治療法についてまとめたので,文献的考察を含めて報告する。

ドクターヘリ搬送によって救命しえた小児咽後膿瘍の1例

著者: 田畑貴久 ,   渡慶次資博 ,   新里勇二 ,   玉榮剛

ページ範囲:P.489 - P.493

はじめに

 われわれ耳鼻咽喉科において,咽後膿瘍は頭頸部領域の重症感染症の1つである。特に,小児期では咽後間隙に存在するリンパ節が急性咽頭炎や扁桃炎などの炎症を契機に感染して発症するといわれ,男児での発生頻度が高く,成長とともに減少する。本疾患では,稀に気道確保を目的とした気管内挿管や気管切開などの処置が行われるが,離島医療ではこのような外科的治療が困難であり,島外への搬送を余儀なくされることもある。

 今回,ドクターヘリ搬送によって救命しえた小児の咽後膿瘍の1例を経験したので報告する。

顔面神経減荷術後の聴力予後

著者: 福家智仁 ,   山田弘之 ,   福喜多晃平 ,   金児真美佳 ,   澤允洋 ,   上田航毅 ,   小林大介

ページ範囲:P.495 - P.498

はじめに

 顔面神経減荷術は,その適応についての論議はあるものの,高度の末梢性顔面神経麻痺に対する有効な手術である。本邦では経乳突アプローチ法が選択されることが多く,顔面神経の開放・減荷に際して,キヌタ骨をいったん摘出することが一般的である。この操作が内耳への障害を回避し,十分な神経の開放を可能とする。一方で,その後キヌタ骨をreplacementして耳小骨連鎖を維持するとはいえ,術後の聴力を悪化させる懸念が残るのも事実である。今回筆者らは,経乳突法で神経減荷術を行った症例において,術後の聴力について検討を行ったので報告する。

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目次

ページ範囲:P.401 - P.401

欧文目次

ページ範囲:P.403 - P.403

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.500 - P.500

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.504 - P.504

 穀雨の候,皆様いかがお過ごしでしょうか? 本号が発刊されるのは平成最後の月,平成最終号となります。いよいよ新元号とともに新たな時代が始まります! 小生,医大の卒業が平成元年で,入局したころは「平成の新人類」と言われていました。あれから30年,医療は目覚ましい進歩を遂げました。遺伝子,再生医療,新薬,移植,ロボット,遠隔医療などなど,キーワードだけでも枚挙にいとまがないほどです。これからの新時代,どんな新規医療が登場してくるのかワクワクしますね。でも一方で,普遍的なものもたくさんあります。例えば,手術をする人間にとって最も大切な人体解剖には,先人の英知に学ぶところが多々あります。これを習得しなければ,どんなハイテクな支援機器があってもしっかりした手術などできるはずがありません。かつて「平成の新人類」だった一人として,これからの時代を担う若手には,この普遍的なことを的確に伝え,新規医療と上手に融合させる作業を手間暇をかけてサポートしなければ,と気を引き締めているところです。

 さて,本号の特集は「細菌感染」です。抗菌薬投与による治療など,この分野も平成時代に大きく変遷・進歩しています。われわれ臨床医には,細菌感染に関する正しい知識と適切な抗菌薬使用が以前にも増して求められるようになりました。細菌感染症の現状,薬剤耐性,院内感染予防,患者の状況に応じた抗菌薬の選択と投与,また糞便微生物移植やワクチン療法など,最近の話題も含めて最新の知見に触れていただき,明日からのご診療にぜひお役立てください。お忙しいなかご執筆いただきました著者の先生方には心より御礼申し上げます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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