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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻7号

2019年06月発行

雑誌目次

特集 甲状腺腫瘍の診療最前線

ページ範囲:P.509 - P.509

大きく変わった甲状腺癌の診断と治療

著者: 杉谷巌

ページ範囲:P.510 - P.514

POINT

●甲状腺乳頭癌の初期治療においては,予後因子が勘案されたリスク分類に基づく「リスクに応じた取り扱い」,すなわち,低リスク群には葉切除,高リスク群には全摘・補助療法が推奨される。

●微小な乳頭癌の過剰診断・過剰治療が問題となっており,超低リスク乳頭癌(cT1aN0M0)に対する取り扱い法として,非手術経過観察(active surveillance:AS)が注目されている。

●甲状腺癌の生物学的性質と自然史の理解に基づき,患者のQOLを重んじて保存的治療を選択し過剰治療を避けてきた日本の先達の考えと,日本発のエビデンスの影響もあって,日米のガイドラインでは乳頭癌に対する初回治療はほぼ同様の内容となった。

《診断法の最近の動向》

分化癌のTNM分類

著者: 小野田尚佳 ,   野田諭 ,   石原沙江 ,   柏木伸一郎 ,   高島勉 ,   大平雅一

ページ範囲:P.516 - P.520

POINT

●UICC第8版と甲状腺癌取扱い規約第7版の分類との差異が生じている。

●UICC第8版のTNM分類では,甲状腺周囲脂肪組織までの軽微な浸潤はT3に分類しない。

●UICC第8版の病期分類では,年齢区分が引き上げられ,45歳以上55歳未満のⅡ〜Ⅳ期がⅠ〜Ⅱ期にダウンステージされた。55歳以上でもT2N0がⅠ期に,T3やN1がⅡ期に,T4aがⅢ期に,T4bがⅣA期に,M1がⅣB期にダウンステージされた。

●UICC第7版に比較して第8版の病期分類は,疾患特異的生命予後をよりよく反映する。

●TNM分類,予後不良因子,ガイドラインのそれぞれについて,意義を理解した使い分けが必要である。

病理・細胞診断法

著者: 廣川満良 ,   鈴木彩菜 ,   樋口観世子 ,   林俊哲

ページ範囲:P.521 - P.527

POINT

●WHO分類第4版では,境界悪性の疾患概念が採用された。

●ベセスダシステム第2版では,乳頭癌様核所見を有する非浸潤性濾胞性甲状腺腫瘍(NIFTP)の疾患概念が導入された。

●ベセスダシステム第2版では,良悪性鑑別困難例の臨床的対応にオプションとして遺伝子検査が追加された。

超音波診断

著者: 古川まどか

ページ範囲:P.528 - P.532

POINT

●Bモード画像の画質と動画像の追随性の飛躍的向上があり,2000年以降目覚ましい発展となった。

●カラードプラが精細化し,さまざまな太さの血管や血流を捉え,描出することができるようになった。

●組織弾性イメージング(エラストグラフィを含む)は,組織の硬さを表示し,記録に残すことができる画期的なモダリティで,甲状腺乳頭癌の検出に有用である。

●画質の向上と新たなモダリティの普及によって,これまでの診断基準を見直し,更新していくことが重要である。

《各疾患の治療ストラテジー》

微小癌

著者: 伊藤康弘 ,   宮内昭

ページ範囲:P.534 - P.539

POINT

●リンパ節転移,遠隔転移および浸潤性のない微小癌の多くは進行しないか,したとしてもきわめて緩徐である。

●定期的に経過観察し,腫瘍の増大や新たなリンパ節転移が出現してから手術を行っても患者の予後に影響しない。

●したがって上記に対するマネジメントとしては経過観察を第一選択とし,その間に進行してくれば手術を施行するのが妥当である。

乳頭癌

著者: 森谷季吉

ページ範囲:P.540 - P.544

POINT

●甲状腺腫瘍診療ガイドラインの改訂では,乳頭癌のリスク分類が変更された。

●リスク別に甲状腺切除と補助療法の推奨が示された。

●高リスク群(特に隣接臓器浸潤)に対する治療のコンセンサスは得られていない。症例ごとに手術の可否を決定する。

●切除不能局所再発・転移に対しては,放射性ヨウ素内用療法(RAI)や分子標的薬(TKIs),または放射線外照射などが適応となる。

濾胞性腫瘍

著者: 杉野公則

ページ範囲:P.546 - P.551

POINT

●濾胞性腫瘍とは濾胞腺腫と濾胞癌を合わせた総称である。

●術前に濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別は困難である。

●濾胞癌は構造異型(被膜浸潤,血管侵襲)の有無で診断される。

●濾胞癌の予後はおおむね良好であるが,遠隔転移を起こすと予後不良となる。

髄様癌

著者: 内野眞也

ページ範囲:P.552 - P.555

POINT

●甲状腺髄様癌に対するRET遺伝学的検査は保険適用であり,すべての甲状腺髄様癌に対して術前に行う。

RET遺伝学的検査の結果,遺伝性と判明した場合は,褐色細胞腫の有無の検索が必要であり,甲状腺手術では全摘を行う。

●本邦の多発性内分泌腫瘍症(MEN)コンソーシアムデータによれば,生化学再発を含む小児再発率は約40%と非常に高い。

●MEN2Bの国際共同研究データによれば,1歳以降で甲状腺全摘を行うと,1歳以下で行う場合よりも寛解率が有意に低い。

●本邦の小児の血縁者に対しては,これまで以上に積極的な介入を行い,予防的甲状腺全摘の時期を考えていくべきである。

未分化癌

著者: 菅澤正

ページ範囲:P.556 - P.560

POINT

●予後予測因子(PI)は治療方針決定に有用である。

●PI=0,1および2の一部の症例は積極的に(拡大)根治手術を施行し,根治を目指す。

●レンバチニブは大出血,気管瘻,食道瘻などの重篤な副作用を認めるが,早く奏効し,有用性は高い。

●免疫チェックポイント阻害薬,BRAF阻害薬などの導入が期待されている。

《治療法の最近の動向》

内視鏡下甲状腺手術—video-assisted neck surgery(VANS法)

著者: 野村研一郎

ページ範囲:P.561 - P.565

POINT

●内視鏡下甲状腺手術は2018年度より良性腫瘍,悪性腫瘍ともに保険収載となった。ただし,実施には施設基準を満たす必要がある。

●さまざまなアクセス部位からの術式があるが,国内では前胸部外側からアクセスするVANS法が最も普及している。

●VANS法では良性結節性甲状腺腫,甲状腺容量がそれほど大きくないバセドウ病,早期の分化癌が適応となる。

●VANS法はラーニングカーブが安定後は片葉切除を2時間以内で行うことが可能であり,合併症の発生頻度も通常手術と変わらない。

放射性ヨウ素内用療法

著者: 絹谷清剛

ページ範囲:P.566 - P.571

POINT

●アブレーションとアジュバントの定義を理解すること。

●内用療法不応性イコール分子標的薬適応ではない。

●アクティブサーベイランスでは,画像所見,腫瘍マーカー,病巣部位などを総合的に考えること。

●分子標的薬の適応を画一的に記載することは不可能であり,個々の症例で検討することが重要である。

分子標的薬

著者: 小山泰司 ,   清田尚臣

ページ範囲:P.572 - P.578

POINT

●分子標的薬が出現してから甲状腺癌の治療は大きく変わった。

●現在,本邦ではソラフェニブ,レンバチニブ,バンデタニブの3剤が使用可能である。

●特徴的な副作用がみられ,治療継続のためにはその対策が重要である。

●分子標的薬不応後の治療選択肢は乏しく,新規治療の開発が望まれる。

Review Article

多彩な唾液腺疾患に対する診療と唾液に関する新知見

著者: 吉原俊雄

ページ範囲:P.580 - P.587

Summary

●唾液腺疾患は多岐にわたり,鑑別診断・治療が困難な疾患が多い。日常診療で症例を積み重ね,比較検討していくことが大切である。

●本邦の唾石に対する内視鏡手術は,欧米と比較して症例は少ないが,今後の発展が望まれる。

●将来,唾液腺機能低下に対する唾液腺細胞の再生医療の発展が待たれる。

原著

鼻副鼻腔血瘤腫の3例

著者: 牧原靖一郎 ,   内藤智之 ,   浦口健介 ,   松本淳也 ,   假谷伸 ,   岡野光博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.588 - P.593

はじめに

 血瘤腫は臨床上の診断名であり,出血像や凝血塊を主体とした腫瘤性病変の総称で,良性疾患である。詳細な成因や病態は解明されていないが,抗凝固薬や抗血小板薬の服用などによる出血傾向が血瘤腫形成に関与する可能性が示唆されている。片側性鼻出血を反復する症例,あるいは画像検査にて骨びらんや骨破壊が認められ悪性腫瘍やアレルギー性真菌性副鼻腔炎などが疑われる症例については,鑑別疾患として本疾患も念頭に置く必要がある1)

 鼻副鼻腔血瘤腫の治療法は基本的に外科的切除であり,内視鏡手術や外切開による摘出が行われる。また術前に,出血のコントロールを目的として栄養血管に対して塞栓術が施行されることもある2)

 今回われわれは,当院で経験した鼻副鼻腔血瘤腫3例について,若干の文献的考察を加えて報告する。

非定型悪性外耳道炎の2例

著者: 牧原靖一郎 ,   假谷伸 ,   内藤智之 ,   松本淳也 ,   石原久司 ,   岡野光博 ,   西﨑和則

ページ範囲:P.594 - P.599

はじめに

 悪性外耳道炎は,外耳道の細菌感染が側頭骨や周囲軟部組織から頭蓋底に波及して髄膜炎や脳神経麻痺を合併し,時に致命的になりうる壊死性外耳道炎である。明確な診断基準はなく,耳痛,頭痛,耳漏などの症状,肉芽形成,骨破壊などの局所所見,画像所見,全身の炎症反応などを総合して診断する。起炎菌は緑膿菌が多いが,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌,Proteus属,真菌なども報告されている1)。今回われわれは,診断に難渋した非定型の悪性外耳道炎の2例を経験したため,その治療経過を報告するとともに文献的考察を行った。

神経鞘腫と鑑別を要した耳後部結節性筋膜炎の1例

著者: 大平真也 ,   本間尚子 ,   松浦賢太郎 ,   松井秀仁 ,   梶原理子 ,   古谷花絵 ,   澁谷和俊 ,   和田弘太

ページ範囲:P.600 - P.604

はじめに

 耳後部の腫瘤は,耳下腺腫瘍のほかに神経鞘腫など,さまざまな腫瘤形成性病変の鑑別が必要とされる。今回,右耳後部の腫瘤を主訴に受診し,術前検査にて神経鞘腫が疑われたために全身麻酔下に摘出術を施行したところ,病理組織学的検査の結果,結節性筋膜炎と診断された1症例を経験したため,文献的報告をふまえて報告する。

書評

国際頭痛分類 第3版

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.533 - P.533

 頭痛はさまざまな診療科の医師がかかわるコモン・ディジーズである。脳神経内科,脳神経外科,内科,小児科医,総合診療医のみならず,耳鼻咽喉科や眼科,ペインクリニックなどにも患者が訪れる。また救急外来においても多くの頭痛患者が来院する。よってこれらの医師は頭痛診療をマスターする必要があるが,頭痛の診断や治療は必ずしも容易ではない。それは,頭痛は非常に多彩な原因があるため,正しい診断にたどり着かず,その結果,正しい治療が行われないことがあるためである。頭痛は患者のQOLに直結し,かつ生命にもかかわることがあるため,正しい診療がなされない場合,患者への影響は大きい。また医師の立場からすると,自らの診断や治療による頭痛の改善の有無が明瞭にわかるため,改善が乏しい患者を複数経験した結果,頭痛診療を苦手と感じてしまう。その一方で,正しく診断,治療し,患者から「頭痛が良くなった」という報告を聞くときは非常に嬉しく,やりがいを感じる。

 私は,病棟の若い医師に,頭痛の診断をする際には『国際頭痛分類 第3版』に則って診断をするように強く勧めている。分類を暗記する必要はなく,病棟や外来に一冊置いて,必要に応じてその都度,辞書のように使用する。初めは億劫で,内容も複雑に思えるかもしれないが,継続して丹念に頭痛を分類に当てはめることにより,徐々に頭痛診療において重要なポイントがわかってくる。明白な片頭痛や緊張型頭痛であればこの分類は必ずしも必要はないが,診断がはっきりしないときや,その他の特殊な頭痛が疑われる場合には非常に有用である。治療については併せて『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』を読み実践することで,頭痛診療の能力は飛躍的に向上する。そこまで到達したらぜひ日本頭痛学会の定める認定頭痛専門医にも挑戦していただきたい。

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目次

ページ範囲:P.505 - P.505

欧文目次

ページ範囲:P.507 - P.507

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.579 - P.579

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.608 - P.608

 5月10日,第120回日耳鼻総会で宿題報告を務めさせていただきました。「頭頸部がんの最適化医療—根治とQOLの両立を目指して」と題し,これまで教室員や学内外の多くの方々と取り組んできた頭頸部癌の診断と治療,トランスレーショナル・リサーチの成果を報告いたしました。振り返りますと,小生が入局した昭和61年は,ちょうど遊離皮弁による再建が世に広まり出した頃で,進行癌を「どこまで切除できるか?」を競っていた時代のように思います。あれから30年余り,低侵襲な経口切除,強度変調放射線治療,粒子線,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬など,多彩な治療法が選択できるようになり,頭頸部癌の治療においても根治とともに生活の質が問われるようになりました。どこまで会員の皆様のご期待に沿えたかは判りませんが,次世代の頭頸部外科医の皆さんの明日からの臨床や研究のヒントとなるものが一つでも見つかれば望外の喜びです。

 さて,今月号では吉原俊雄先生のReview Article「多彩な唾液腺疾患に対する診療と唾液に関する新知識」を掲載しています。本誌編集委員の大先輩,日本唾液腺学会前理事長 吉原先生のライフワークをぜひ,ご一読ください。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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