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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科91巻8号

2019年07月発行

雑誌目次

特集 耳管診療の手引き—基本から最新治療まで

著者: 小川郁

ページ範囲:P.613 - P.613

 耳管は成人では35〜40mmの長さの管腔器官であり,鼓室と上咽頭をつないでいる。耳管骨部は側頭骨内の骨性管腔構造で,側頭骨を出た耳管は耳管軟骨部となり,頭蓋底を走行し,上咽頭の耳管咽頭孔に開口する。耳管鼓室口は鼓室を開放すれば確認でき,耳管咽頭孔は鼻腔からの内視鏡で観察可能であるが,その全体を手術的に明視下におくことは困難であり,まさにno man's landともいえる器官である。耳管は音を効率的に中耳から内耳に伝えるために機能する器官であり,鼓室内圧が外気圧と同じになるように日常的に機能している。昨今の住環境・移動手段の変化によって,高層住居のエレベータ移動や新幹線・飛行機での移動など,外気圧の急激な変化に曝されることが多くなっていることからも,耳管の果たす役割は重要になってきているといえる。

 耳管疾患としては耳管狭窄症と耳管開放症が代表であり,特に耳管狭窄症は古くから知られており,Politzer法やValsalva法による治療が行われてきた。PolitzerやValsalvaの時代から問題となってきた疾患であるといえる。一方で耳管開放症は比較的新しい疾患概念であり,日本耳科学会による耳管機能検査マニュアル(2004年初版,2016年改訂)および耳管開放症診断基準案2016が作成され,新しい疾患概念として定着している。なお,耳管狭窄症に対するバルーン耳管開大法などの新しい治療法に対応するために,耳管狭窄症診断基準2018も作成されているように,耳管を取り巻く問題は急速に,かつ新しく展開しているといえる。

耳管の解剖と生理

著者: 大島猛史

ページ範囲:P.614 - P.618

POINT

●耳管は頭蓋底深部を走行する管状構造物で,全長の約1/3が骨部,約2/3が軟骨部,その境界が峡部に分類される。軟骨部で耳管の生理機能が発揮される。

●耳管管腔の周囲には多くの構造物があり,全体として複雑な構造になっている。特に口蓋帆張筋は耳管開大筋であり,耳管軟骨外側板を牽引して耳管を開大させる。

●耳管の生理機能は,古くから防御,排泄,換気といわれているが,それらにより中耳腔の正常な機能が保たれており,その破綻は深刻な中耳病変をきたす。

●耳管の通過性は受動的耳管開大能であり,これに対して嚥下時に生じる通過性の変化は能動的耳管開大能という。

聴覚検査からみる耳管機能

著者: 坂田俊文

ページ範囲:P.620 - P.624

POINT

●聴力閾値の経時的変化や耳管処置による閾値変化を捉えることによって,純音聴力検査は耳管疾患を診断する一助となる。

●耳管が閉じにくい状態にあるのか,開きにくい状態にあるのかを想定するとともに,双方向への変化がありうることを念頭に置く。

●低音部の骨導聴力で伝音性か感音性かを鑑別することは必ずしも容易でない。

●耳管狭窄症では,鼻すすり型耳管開放症などの耳管閉鎖障害の可能性も念頭に置く。

最新の耳管機能検査と結果解釈のコツ

著者: 菊地俊晶

ページ範囲:P.626 - P.629

POINT

●耳管開放症診断基準案の歴史,変遷を知る。

●耳管機能検査のTTAG法は鼓膜の呼吸性動揺を反映し,鼓膜穿孔があっても評価可能である。

●耳管機能検査の音響法(sonotubometry)は偽陽性が多く,注意が必要である。開放プラトー型と提示音圧100dB未満は耳管開放症に特異性が高い。

●臥位や前屈などの体位変化で耳症状が改善すれば,耳管開放症「疑い例」となる。

耳管画像検査の基本と読影のコツ

著者: 稲垣彰

ページ範囲:P.630 - P.635

POINT

●耳管の画像検査のうち,姿勢で症状の変化する耳管開放症の検査には,症状のある状態での検査が可能なコーンビームCTが適している。

●コーンビームCTの撮影のコツは,撮影された画像に患者の主訴を反映させるため,必要に応じて撮影前に必要最小限の耳管開放処置を行うことである。

●耳管の状態の質的診断には核磁気共鳴検査(MRI)が有用である。

耳管狭窄症の病態と診断

著者: 吉田晴郎 ,   髙橋晴雄

ページ範囲:P.636 - P.640

POINT

●耳管開放症と類似する臨床所見を呈することがあるため,鑑別を慎重に行う必要がある。

●原因としては,小児(低年齢)以外の理由としては上気道炎や鼻副鼻腔炎(アレルギー性鼻炎を含む)によるものが多い。

●耳管狭窄症を呈する疾患であっても,耳管が開放状態の場合もある。

●正しい診断のためには,問診,鼓膜所見,耳管機能検査,聴覚検査などの結果を総合的に判断することが重要である。

耳管狭窄症の最新治療

著者: 浦野正美

ページ範囲:P.642 - P.645

POINT

●従来の耳管狭窄症の治療にはさまざまなものがあるが,決め手がない。

●近年,欧米では耳管にバルーンカテーテルを挿入して開大する方法が行われている。

●同法は器質的耳管狭窄症が適応であるが,施行基準や術後評価法についてはまだ確立していない。

●同法を本邦に導入する際には,この点についての十分な検討が必要である。

耳管開放症の病態と診断

著者: 大田重人

ページ範囲:P.646 - P.651

POINT

●耳管開放症の背景因子として最も多いのは体重減少である。

●体重減少に伴うOstmann脂肪体減少は,耳管への組織圧を低下させ,開放耳管を生じる。

●診断には「耳管開放症診断基準案2016」を活用し,耳管機能検査装置による客観的評価を行うことが望ましい。

●体位変換耳管機能検査は,体位により症状が変化する耳管開放症の大きな特徴を生かした新しい検査方法で,診断率を向上させる。

耳管開放症の最新治療

著者: 真鍋恭弘

ページ範囲:P.652 - P.656

POINT

●耳管開放症を漢方製剤で治療する場合には,まず患者が虚証であることを確認し,次に患者の精神的訴えの程度によって,加味帰脾湯か補中益気湯かを選別すれば,病名処方ではない本来の漢方診療に近い処方ができる。

●耳管腔内へ挿入する閉塞材料は,世界的にみても小林式耳管ピンが最も多くの症例で使用されており,安定した成績を出している。

●耳管粘膜下に異物を注入する手技は,技術的な困難さを解決できた報告はまだ認められない。

●耳管開放症の鼻すすり型と非すすり型とでは,主症状をきたす機序が異なり,治療戦略が異なってくることに留意する必要がある。

中耳手術における耳管機能の重要性

著者: 小林泰輔

ページ範囲:P.658 - P.662

POINT

●術前の耳管機能評価は,真珠腫性中耳炎のみならず,慢性穿孔性中耳炎でも必須である。

●慢性穿孔性中耳炎においては,詳細な問診と,パッチテスト,耳管機能検査を行い,耳管開放症が疑われる場合は十分な術前の説明を行う。

●弛緩部型真珠腫に鼻すすり型耳管開放症を合併することは決して稀でない。

●鼻すすり型耳管開放症を伴う真珠腫性中耳炎では,術前に鼻すすりの中止を指導するが,鼻すすりが止められない場合は,手術時に鼓膜換気チューブを留置する。

診断・治療の難しい耳管疾患への対処法

著者: 池田怜吉 ,   小林俊光

ページ範囲:P.663 - P.668

POINT

●耳管開放症のタイプの1つに,発声時のみに耳管が開き自声強聴を訴える例がある。従来の他覚的検査で異常を検出しにくく,診断が難しい。

●耳管開放症との鑑別疾患として上半規管裂隙症候群が重要である。

●耳管ピン手術において,複数ピンの併用が奏効した難治例を経験した。

●耳管狭窄症に対して,自己通気をはじめとした保存的治療は重要である。

原著

周術期免疫栄養療法が有用であった再発舌根部癌の1例

著者: 山本美佐子 ,   森照茂 ,   大内陽平 ,   岸野毅日人 ,   星川広史

ページ範囲:P.671 - P.674

はじめに

 耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域における異時性重複癌は20%程度と,実臨床においてよく遭遇する。しかし,頭頸部癌の重複癌患者は,初回治療の影響や2次癌に伴う栄養障害から低栄養であることが多く,再発転移に対する根治術を実施しようにも体力的に難しい症例が多い。今回われわれは周術期において適切なアセスメントを行い,免疫栄養療法を行うことで合併症なく治療完遂しえた再発舌根癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を交えて報告する。

放線菌症に合併したメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患の1例

著者: 三嶽大貴 ,   川原弘匡 ,   本間明宏

ページ範囲:P.675 - P.679

はじめに

 メトトレキサート(methotrexate:MTX)には副作用の1つにリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders:LPD)がある。今回,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate-associated lymphoproliferative disorders:MTX-LPD)に放線菌症を合併した1例を経験した。MTX-LPDの病因にはBリンパ球のEBウイルス(EBV)感染が示唆されており,EBV潜伏感染遺伝子の発現様式に基づく発症機序が報告されている1,2)。そこで本稿では,放線菌症の関与やLPDの発症予測を文献的に考察した。

読話で言語を習得し,成人後に人工内耳埋め込み術を施行した先天性難聴の1例

著者: 利國桂太郎 ,   山本修子 ,   南修司郎 ,   榎本千江子 ,   加藤秀敏 ,   加我君孝

ページ範囲:P.681 - P.685

はじめに

 人工内耳は,重度の聴覚障害があり,補聴器では十分な装用効果が得られない症例に対する最近の治療選択肢の1つである。成人後の人工内耳埋め込み術では,先天性難聴患者は言語獲得後失聴患者よりも語音聴取能や聴覚活用の成績が悪く,リハビリテーションも困難であると報告されている1,2)。日本耳鼻咽喉科学会が制定している成人人工内耳適応基準(2017年)でも,言語習得前あるいは言語習得中の失聴例の場合は慎重な適応判断が必要と明記されている。

 今回,手話を用いず,読話を用いて言語を習得した先天性難聴患者で,成人後に人工内耳埋め込み術を施行し,聴覚活用可能となった症例を経験したので,報告する。

SAPHO症候群の治療に口蓋扁桃摘出術が著効を示した1例

著者: 笹沼里圭子 ,   平賀幸弘 ,   荒井秀寿 ,   森山元大 ,   霜村真一

ページ範囲:P.687 - P.692

はじめに

 SAPHO症候群は,1987年にChamotら1)によって提案された疾患概念である。滑膜炎(synovitis),痤瘡(acne),膿疱症(pustulosis),骨化過剰症(hyperostosis),骨炎(osteitis)の頭文字を取り命名された症候群で,多彩な皮膚および筋骨格系徴候を有する稀な疾病である。皮膚所見としては,掌蹠膿疱症,集簇性痤瘡,劇症痤瘡および化膿性汗腺炎がみられ,主要な筋骨格系所見としては胸鎖骨肥厚症および脊椎骨増殖症,慢性再発性多発性骨髄炎,体軸関節炎または末梢関節炎がみられる。

 今回われわれは,SAPHO症候群の治療に両側口蓋扁桃摘出術(以下,扁桃摘出)が著効を示した1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

鼻腔総鼻道内に生じた異所性歯牙の1例

著者: 大平真也 ,   長舩大士 ,   松浦賢太郎 ,   松井秀仁 ,   中澤宝 ,   梶原理子 ,   福生瑛 ,   松島康二 ,   和田弘太

ページ範囲:P.693 - P.697

はじめに

 異所性歯牙とは,通常とは異なる部位に萌出した歯牙のことをいう。下顎頭,下顎骨筋突起,眼窩,硬口蓋,鼻腔内などに萌出する1)が,鼻腔内の萌出は稀である。今回われわれは,総鼻道内に発生した逆性歯牙の1例を経験したので,文献的考察をふまえて報告する。

書評

音声障害治療学

著者: 大森孝一

ページ範囲:P.670 - P.670

 長年にわたって日本の音声言語医学を牽引してこられた廣瀬肇先生が『音声障害治療学』を上梓された。廣瀬先生は日本音声言語医学会理事長を10年余り務められ,この領域における臨床,研究の発展に尽力され,優れた医師や言語聴覚士を育成されてきた。特に音声障害の治療に力を入れ,医師と言語聴覚士が協力して行うチーム医療を早くから実践してこられた。今までの臨床経験に基づいて,音声障害の治療に焦点を当てて本書を企画された。

 音声障害の治療は,主に耳鼻咽喉科医による医学的治療と,言語聴覚士による行動学的治療に大別される。このうち医学的治療には音声外科治療と薬物治療がある。行動学的治療は患者の望ましくない行動を望ましい行動に変えようとする行動変容をめざすものであり,本書では発声訓練や音声治療を行動学的治療としてとらえ,運動学習理論,認知行動療法について記載している点に特徴がある。

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目次

ページ範囲:P.609 - P.609

欧文目次

ページ範囲:P.611 - P.611

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.699 - P.699

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.704 - P.704

 平成31年4月30日,退位礼正殿の儀が皇居宮殿正殿にて行われ,第125代天皇明仁が生前退位されました。翌日の5月1日に皇太子徳仁親王が第126代天皇に即位し,元号も「平成」から「令和」に改められました。「令和」の由来は,万葉集の梅花の歌三十二首の序文とされており,初めて漢籍ではなく日本の国書から選定されたそうです。わが国の天皇制の象徴の一つである元号が,これまで中国漢籍の由来であったというのも驚きでしたが,「春の訪れを告げ,見事に咲き誇る梅の花のように,一人ひとりが明日への希望とともに,それぞれの花を大きく咲かせることができる,そうした日本でありたい」との願いを込め,「令和」と決定されたそうです。「令和」がこの願いのように希望に満ちた素晴らしい時代となることを期待したいと思います。

 「令和」最初の第120回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講演会が,鹿児島大学の黒野祐一教授が会長を務められ,5月8日〜10日に大阪国際会議場で開催されました。「令和」になり,今年のゴールデンウィークは10連休。その直後の週ということもあり,参加者が少なくなるのではとの危惧もありましたが,大変素晴らしいプログラムのためもあり,多くの参加者によって大変盛り上がった総会・学術講演会になりました。今年の特徴は会長の地元ではなく,大阪市で開催されたことであり,120回の歴史のなかでも初めての試みでした。最近の総会・学術講演会は専門医制度の影響もあって4000〜5000人が参加するようになっており,なかなか地方都市での開催が難しくなっているといわれていますが,今回の試みが大成功だったことから,今後も地元開催が困難でも会長を務めることが可能になったという大きな意義がありました。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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