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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻1号

2020年01月発行

雑誌目次

特集 補聴器と人工聴覚器の最前線2020

著者: 小川郁

ページ範囲:P.7 - P.7

 超高齢社会を迎えて補聴器と人工聴覚器を取り巻く環境も大きく変化してきている。電子技術の目覚ましい進歩やIoT,AI,そして新しい通信法としての5Gの導入など,これから補聴器と人工聴覚器の活用法やフィッティング法なども大きく姿を変えることになると予測される。

 本特集「補聴器と人工聴覚器の最前線2020」では,≪最新モデルの新機能≫として,スタンダードな補聴器,わが国発の新しいコンセプトの補聴器である軟骨伝導型補聴器,耳鳴制御のための補聴器,人工中耳,そして人工内耳に関する最新情報を紹介していただき,次に≪有効活用するためのポイント≫として,日本における補聴器の現状と医療費控除制度,補聴器と人工聴覚器の適応の接点,補聴器と人工聴覚器の両耳装用の効果,補聴器適合検査の実際,そして人工聴覚器のフィッティング・マッピングについての最前線をそれぞれの分野のエキスパートの先生方に解説していただくことにした。

《最新モデルの新機能》

補聴器の最新情報

著者: 柘植勇人

ページ範囲:P.8 - P.13

POINT

●補聴器はデジタル信号処理技術の発展により大いに進歩している。言葉によるコミュニケーションの回復を目的にしながら,装用時の快適性,ワイヤレス通信による電話や音楽,テレビ音声の聴取と関連した拡張性のほか,多様な進化を遂げている。

●補聴器は進化した機能の本質を把握しづらい側面をもつ。

●最先端の補聴器を購入しても,適合不良により活用できていない難聴者は現在も少なくない。進化した補聴器を活用するためにも,耳鼻咽喉科医,言語聴覚士,認定補聴器技能者は連携して「フィッティングレベルの向上」を目指す必要がある。

軟骨伝導補聴器の効果

著者: 松本希

ページ範囲:P.14 - P.17

POINT

●軟骨伝導補聴器は,耳介の軟骨に振動子を弱く接着させて音を伝える新しい原理の補聴器である。

●軟骨伝導補聴器は,従来の補聴器に比べて外耳道を閉鎖しないこと,頭部皮膚への圧迫が弱いことが特長である反面,出力があまり強くない。

●軟骨伝導補聴器は,(先天性/後天性)外耳道閉鎖症例,耳漏のある慢性中耳炎症例に好評である。

補聴器と耳鳴

著者: 加藤匠子

ページ範囲:P.18 - P.22

POINT

●耳鳴には難聴を伴うことが多く,補聴器は音響療法の一つとして「耳鳴診療ガイドライン2019年版」で強く推奨されている。

●補聴機能,ノイズなどの治療音は,ともに出力や調整可能な周波数が高くなることで適用範囲が広がりつつある。

●スマートフォンなどの周辺機器との連動やAI機能などの搭載により,患者の自己調整の自由度や補聴器自体の自立性が増していく方向にある。

●特にスマートフォンとの連動によって,使用可能な治療音の範囲が広がった。

●耳鳴治療の観点からは,それらの新機能の長所と短所をよく知って,さらに十分なカウンセリングのもとに活用することが必要である。

人工中耳の最新情報—Vibrant Soundbridge(VSB)

著者: 土井勝美

ページ範囲:P.23 - P.27

POINT

●伝音難聴と混合性難聴に対するVibrant Soundbridge(VSB)手術の有用性と安全性は高い。

●国内ではoval window vibroplasty(OWV),round window vibroplasty(RWV),そしてvibrating ossicular prosthesis with VSB(VORP)の手術が可能である。

●OWVとRWVとの間で,手術後の聴取成績には差はない。

●OWVは,RWVと比較して,より安全な手術である。

人工内耳の最新情報

著者: 高木明

ページ範囲:P.28 - P.33

POINT

●現行の人工内耳について3社の製品を対比・説明し,限界についても言及した。

●人工内耳の電極アレイは,入れやすいことと蝸牛を傷つけないことの両立が目指されている。

●人工内耳の性能の比較は困難である。装用者の蝸牛神経,中枢の機能に依存する。

●人工内耳手術は小児においてさらに低年齢化の傾向があり,術後の母子に対し,発達に応じた適切な介入体制の確立が急務である。

《有効活用するためのポイント》

日本における補聴器の現状と医療費控除制度

著者: 小川郁

ページ範囲:P.34 - P.40

POINT

●JapanTrak2018にみる日本における補聴器の現状として,欧米に比べて補聴器購入に際しての耳鼻咽喉科受診率,補聴器満足度,補聴器装用率の低さが顕著であった。

●2018年から補聴器に関する医療費控除制度が発足し,補聴器相談医が発行する「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」によって,当該年度の確定申告における医療費控除の対象となることになった。

●認知症の危険因子の一つに「難聴」が挙げられ,今後,補聴器の重要性がますます高くなることが予測される。

●補聴器に関する医療費控除制度にはまだ多くの問題はあるが,今後,この制度を正確に運用し,難聴者→補聴器相談医での診断→「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」→補聴器外来または認定補聴器専門店という,補聴器購入の流れの確立が必要である。

補聴器と人工聴覚器の適応の接点—補聴器と人工内耳を中心に

著者: 新田清一

ページ範囲:P.41 - P.47

POINT

●すべての高度難聴患者に対して,少なくとも3か月は補聴器による聴覚リハビリテーションを両耳装用(非良聴耳が聾である場合を除く)で試してみる。

●両側高度感音難聴患者のほとんどが補聴器による両耳での聴覚活用ができており,補聴器両耳装用のよい適応である。

●良聴耳が高度感音難聴,かつ非良聴耳が重度難聴の患者でも,約半数は補聴器両耳装用に価値を感じており,可能な限り補聴器による両耳の聴覚活用をする意義がある。

●高度感音難聴患者のうち,装用下の最高語音明瞭度が50%以下,かつ非良聴耳が重度難聴で補聴器の装用効果が得られない場合には,非良聴耳の人工内耳装用により言語聴取が改善する可能性が高く,人工内耳は有力な選択肢となる。

補聴器と人工聴覚器の両耳聴効果

著者: 西山信宏

ページ範囲:P.48 - P.51

POINT

●両耳聴効果(binaural effect)には加重効果,頭部陰影効果,雑音下でのコトバの聞き取り,方向感の向上などがある。

●補聴器の両耳装用や人工内耳の両耳装用により,コトバの聞き取りの向上をはじめとした両耳聴効果が期待される。左右差が大きい例では両耳聴効果が発揮しきれないこともある。

●補聴器と人工内耳のbimodal装用では,音響刺激と電気刺激が中枢で処理されて両耳聴効果が認知される可能性がある。

●小児では早期から両耳聴を実現して両側からの入力を確保し,療育,教育の効果を最大限とする努力が必要である。

補聴器適合検査の実際

著者: 亀井昌代

ページ範囲:P.52 - P.57

POINT

●「補聴器適合検査の指針(2010)」には,医療として補聴器の適合を行う際に必要な適合検査について,必須検査2項目と参考検査6項目が記載されている。

●実際の補聴器外来では,まず使用しやすく信頼できる検査をベースにほかの検査を組み合わせていく。

●検査は患者に負担が少ないような配慮が必要である。

●患者の日常生活のパフォーマンスがよりよくなるための補聴器適合検査のプランニングが必要である。

人工聴覚器のマッピング

著者: 諸頭三郎 ,   内藤泰

ページ範囲:P.58 - P.65

POINT

●わが国の人工聴覚器には人工内耳や残存聴力活用型人工内耳,人工中耳などがある。

●人工聴覚器のマッピングの目標は,快適に装用でき,良好な聴取能が得られるマップを設定することであり,成人例と乳幼児例でのマッピングのポイントを解説した。

●不快閾値を超える刺激強度で測定することや,過度な刺激強度のマップでの装用は避けるべきである。

Review Article

睡眠障害診療の現状と今後の展望

著者: 平田正敏 ,   中田誠一

ページ範囲:P.66 - P.79

Summary

●成人の睡眠時無呼吸の診断,治療について概説した。

●小児の睡眠時無呼吸の診断,治療について概説した。

●睡眠時無呼吸と鑑別診断しなければならない睡眠障害としては,ナルコレプシー,特発性過眠症,周期性四肢運動障害など,多岐にわたる。

●今後の睡眠障害診療の展望として,検査・治療機器の進歩,遠隔診療が期待される。

原著

頸部リンパ節生検術に際し,悪性リンパ腫を疑う術前データについて

著者: 實川純人 ,   山﨑徳和 ,   高野賢一

ページ範囲:P.80 - P.84

はじめに

 頸部リンパ節腫脹は,耳鼻咽喉科の日常診療において遭遇する機会の多い症状の1つである。その多くが細菌感染やウイルス感染による炎症性疾患であり,抗菌薬の投与や消炎治療により軽快するものが多い。しかし悪性リンパ腫や悪性腫瘍のリンパ節転移などの悪性疾患も存在し,診断のために手術を行うべきか,経過観察をすべきか迷う症例にしばしば遭遇する。そこで,診断のためにリンパ節生検を行うかどうか判断するための指標を見出すことを目的とし,悪性リンパ腫の鑑別のため頸部リンパ節生検術を施行した85例について検討した。

軟口蓋裏面に発生した血管平滑筋腫の1例

著者: 平賀幸弘 ,   坂本要 ,   岡本篤司 ,   霜村真一

ページ範囲:P.85 - P.88

はじめに

 血管平滑筋腫は,1937年にStout1)により自験例15例を加えたうえで,孤立性の皮膚または皮下平滑筋腫瘍として初めて報告された。主に下肢に発生する有痛性・孤立性の皮下結節を特徴とし,頭頸部における発生は稀である。

 今回,われわれは軟口蓋裏面に発生した血管平滑筋腫の1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

フレイルを合併した難治性めまい患者におけるめまいリハビリテーションと漢方併用療法の効果

著者: 新井基洋

ページ範囲:P.89 - P.98

はじめに

 めまい患者は精神的不安を認め1,2),自宅安静となり,サルコペニアを合併するなど難治化することがある3)。最近はサルコペニアを中核症状にもつフレイルという概念が注目されている。これは,要介護の手前の虚弱状態を表す症候群で,①体重減少,②疲労感,③歩行速度低下,④活動性低下,⑤筋力低下の5症状(以下,5症状)のうち3症状以上を有する場合にフレイルと診断4)する。

 そこで今回,慢性難治性めまい(以下,難治性めまい)患者のフレイル合併率が高値であることを明らかにし,難治性めまいの治療にフレイル治療も併せて行う必要性について検討した。最近の研究5〜7)から,漢方薬の人参養栄湯はフレイルやサルコペニアにも効果が期待されている。これをめまいリハビリテーション(以下,めまいリハ)と併用し,患者を(イ)フレイルと非フレイル,(ロ)65歳未満と65歳以上で分けて比較した後ろ向き研究(横浜市立みなと赤十字病院医療倫理委員会 承認番号2017-33)の結果を報告する。

お知らせ

第37回 耳の手術研修会

ページ範囲:P.6 - P.6

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目次

ページ範囲:P.3 - P.3

欧文目次

ページ範囲:P.5 - P.5

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.100 - P.100

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.104 - P.104

 世界的に「難聴」が注目されています。WHOの「難聴と聴覚障害」のファクトシートによれば,①全世界でおよそ4億6600万人が日常生活に支障をきたす聴覚障害を抱えており,②2050年までには9億人以上になると推測され,③11億人の若者たちが,デジタル音楽再生機による音楽聴取などによって将来的に難聴のリスクをもつと危惧しています。④しかし,聴覚障害への取り組みは十分ではなく,世界での年間コストは7500億米ドルにのぼると試算されますが,聴覚障害予防の費用対効果は高いことから,早急な対応が必要であると警鐘を鳴らしています。WHOは2007年3月3日に国際耳の日(International Ear Care Day)を制定し,難聴予防のためのキャンペーンを行ってきました。日本の「耳の日(3月3日)」は,1955年に日本聴覚医学会によって制定され,その後は日本耳鼻咽喉科学会がイベントを主催しています。今年は第64回「耳の日」が全国で開催されたように,世界に先駆けた「耳の日」行事を行ってきました。2015年の国際耳の日のキャンペーンは“Make listening safe”,今年は“Check your hearing”で,難聴予防の重要性を啓発しており,“hearWHO”という聴力自己チェックの無償アプリケーションを発表しました。また,2017年のアルツハイマー病協会国際会議の議論をまとめたLancetの総説により,認知症予防のために介入可能な35%の要因のうち,難聴が9%と最も介入効果が高いと報告されたことも,世界的に「難聴」が注目されるきっかけになりました。このような世界的な情勢を受けて,2019年4月に石原伸晃衆議院議員を会長とし,自民党国会議員を中心に「難聴対策推進議員連盟」が結成されました。この議員連盟の第一弾の要望事項として,新生児難聴のスクリーニング体制と聴覚支援学校の整備について概算要求を出していただきました。成人の難聴に関しては現在検討中です。このように「難聴」対策は世界的にも日本でも大きく動き出しており,今後の成果を期待したいと思います。

 さて,今回の特集はまさに「難聴」に対する「補聴器と人工聴覚器の最前線2020」で,最先端の情報をまとめていただきました。原著も力作揃いですので,「難聴」に対する世界的な流れを実感しながらお読みいただきたいと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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