水痘・帯状疱疹ウイルスと前立腺癌頭蓋底転移によるAvellis症候群の2例
著者:
木村寛
,
古井英介
,
山本晃彦
,
田近洋介
,
藤本勝明
ページ範囲:P.845 - P.849
はじめに
Avellis症候群は,1891年にAvellis1)が片側性声帯麻痺と同側の軟口蓋麻痺を伴った10症例を報告したことに由来する,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺を主徴とする症候群である2)。Avellis症候群はよく知られた症候群ではあるが,頻度は稀であると佐藤3)は記している。
本症候群の定義に関しては,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺に加え,麻痺とは反対側の頸部以下の温痛覚脱失も合併する症例をAvellis症候群とする意見もあれば4,5),反対側の温痛覚脱失を合併する症例はAvellis症候群ではないとする意見もあり6),報告者により本症候群の見解に相違がある2)。
ところで,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺は,片側性の舌咽神経(第Ⅸ脳神経)麻痺と迷走神経(第Ⅹ脳神経)麻痺により起こる場合がある7)。舌咽神経と迷走神経は機能上不可分な関係にあり,舌咽・迷走神経と一括される7)。
今回われわれは,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による舌咽・迷走神経麻痺で片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺が生じ,反対側頸部以下の温痛覚脱失を合併しないAvellis症候群症例と,前立腺癌の頭蓋底転移の舌咽・迷走神経麻痺で片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺が起こり,反対側頸部以下の温痛覚脱失を合併しないAvellis症候群の希少な2症例を経験した。本稿ではAvellis症候群の定義についての文献的考察を加えて,上記の2症例を報告する。