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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻10号

2020年09月発行

雑誌目次

特集 今さら聞けない自己免疫疾患の基礎知識

ページ範囲:P.771 - P.771

自己免疫疾患の基礎知識

著者: 岡野裕

ページ範囲:P.772 - P.775

Point

●多くの自己免疫疾患では,自己を構成する成分に対する抗体「自己抗体」が産生され,病態形成に関わっている。

●自己抗体の検出は,実臨床の場では診断や治療戦略の確立に大きく役立つ。

●自己免疫反応は自己寛容の破綻により生じるとされ,多くの機序が提唱されている。

ステロイド依存性難聴などの免疫異常に伴う難聴—新しい知見も含めて

著者: 神崎晶

ページ範囲:P.776 - P.780

Point

●免疫異常に伴う難聴については,ステロイドに依存するものとそうでないものがある。

●最近の知見では,ステロイド依存性難聴はTNFαなどの関与が,非依存性難聴はIL-1βの関与が示唆されている。

●ステロイド依存性難聴に対してはステロイド,特にプレドニゾロンを40mgから投与開始し,10mgまでは1〜2週間で漸減し,さらに10mg以下からは1mgずつゆっくり漸減していくことが肝要である。

遅発性内リンパ水腫

著者: 川島慶之

ページ範囲:P.782 - P.786

Point

●高度感音難聴の発症から数年〜数十年後にメニエール病様の発作を発症する。

●回転性めまい発作のみの同側型と,良聴耳の聴力変動を伴う対側型に分けられる。

●内耳造影MRIでは,原因となっている内耳に高率に内リンパ水腫を認める。

●生活指導,薬物治療,中耳加圧治療から開始し,症状が緩和しない症例では内リンパ囊開放術や選択的前庭機能破壊術を考慮する。

Vogt-小柳-原田病

著者: 柿木章伸

ページ範囲:P.788 - P.793

Point

●Vogt-小柳-原田病(VKH病)は,メラニン色素を産生するメラノサイトに対する自己免疫疾患で,ぶどう膜髄膜炎症候群として知られる。両側性,慢性,広範性肉芽腫性の汎ぶどう膜炎であり,しばしば中枢神経系,聴覚系,上皮系の傷害を合併する。

●VKH病には,前駆期,眼病期,回復期,慢性再発期がある。耳症状は比較的多く随伴する症状で,発症早期から認められることが多い。

●VKH病の診断は主に臨床的特徴に基づいており,国際診断基準が2001年に報告され,完全型,不完全型,疑い型に分類される。

●治療の中心は,高用量全身性コルチコステロイドの経口または静脈内投与である。眼科領域では本邦を含め各国で治験が行われ,効果が認められているプロトコルもある。これらの治療法が聴力改善に有効かの検証が待たれる。

ANCA関連血管炎性中耳炎

著者: 森田由香

ページ範囲:P.794 - P.798

Point

●難治性中耳炎の鑑別疾患としてANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)を疑う。

●難治性耳漏・中耳炎をきたす疾患の特徴を知る。

●ANCA陰性OMAAV例は頭蓋底骨髄炎との鑑別が困難である。

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)

著者: 吉田尚弘

ページ範囲:P.800 - P.807

Point

●多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA)はANCA関連血管炎の代表的な疾患である。

●限局型と全身型に分かれるが,限局型から全身型へ進展する症例があり,早期の診断・治療が重要である。

●耳鼻咽喉科領域の上気道(耳,鼻,喉頭など)症状が初発症状となることがある。

●免疫抑制療法が行われる。副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の併用療法に加え,近年はリツキシマブを用いた治療の有効性が報告されている。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)—耳鼻咽喉科疾患とのオーバーラップ

著者: 坂下雅文

ページ範囲:P.808 - P.811

Point

●好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)はANCA関連疾患のうちの一つである。

●喘息,好酸球性副鼻腔炎が中心の気管支喘息相がある。

●血管炎相に進行すると四肢のしびれが出現する。

●耳鼻咽喉科医は血管炎への進行を早期に捉えて適切な診療科へコンサルトすることが大切である。

類天疱瘡・ベーチェット病

著者: 大木雅文

ページ範囲:P.812 - P.818

Point

●類天疱瘡,ベーチェット病ともに難治性口腔粘膜病変を呈することが多い。

●類天疱瘡は表皮病変を呈する自己免疫性水疱症であるが,ベーチェット病はアフタ性潰瘍を呈する疾患であり,表皮にとどまらず真皮あるいは皮下組織まで障害部位が及ぶ。

●口腔咽頭粘膜病変の所見のみでは診断することは困難である。

●両者とも全身疾患であり,他科との連携が必須である。

シェーグレン症候群・IgG4関連疾患

著者: 高野賢一

ページ範囲:P.820 - P.824

Point

●シェーグレン症候群とIgG4関連疾患は似て非なる疾患である。

●両疾患とも腺外症状に注意する必要がある。

●治療方針は大きく異なる。

●いずれも指定難病医療費助成制度の対象疾患である。

再発性多発軟骨炎

著者: 永野広海

ページ範囲:P.826 - P.830

Point

●再発性多発軟骨炎(PR)は,軟骨と結合組織に症状を認め,寛解と増悪を繰り返す慢性炎症性疾患である。

●McAdamら1)やDamianiら2)の診断基準に加えて,厚生労働省研究班が作成した診断基準があり,確定診断と重症度判定に用いることができる。

●診断基準を用いる場合,基礎疾患に対してステロイドを服用している症例では,臨床症状や病理組織検査結果に影響を及ぼしている可能性があり注意が必要である。

●重症の場合,膠原病の専門医と連携し,速やかに治療を開始する必要がある。

サルコイドーシス

著者: 室野重之

ページ範囲:P.831 - P.836

Point

●サルコイドーシスは全身のほとんどの臓器が罹患しうる疾患であり,上気道,唾液腺,頸部リンパ節も例外ではない。

●病理学的な特徴は乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫であるが,病理組織像のみで確定診断はできず,臨床所見と併せて総合的な診断が必要である。

●多彩な臨床症状を示し臨床経過も多様であるため,他科へのコンサルトを要するとともに,「サルコイドーシス診療の手引き2018」が参考となる。

●全身的治療は副腎皮質ステロイド薬の投与が第一選択であるが,症状が軽微で自然改善が期待される場合には無治療で経過観察することもある。

原著

呼吸困難を伴った振り子様に腫大した高度ポリープ様声帯の1例

著者: 勢井洋史 ,   吉田正 ,   林祐志 ,   青石邦秀

ページ範囲:P.837 - P.840

はじめに

 声帯粘膜固有層のいわゆるReinke's spaceに主病変を有し,声帯膜様部全長にわたりびまん性の浮腫状腫脹を呈するラインケ浮腫(Reinke's edema)を,わが国ではポリープ様声帯と呼んでいる。本疾患は40歳以上の喫煙者に多く1),慢性に経過し嗄声や声の低音化が主症状であるが2,3),稀に呼吸困難をきたす症例4,5)もある。今回われわれは,呼吸困難を伴った高度ポリープ様声帯の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

外耳道に生じた皮膚混合腫瘍の1例

著者: 寺村侑 ,   柿木章伸 ,   安原一夫

ページ範囲:P.841 - P.844

はじめに

 皮膚混合腫瘍(mixed cutaneous tumor)は青壮年の顔面・頭頸部に好発するとされる比較的稀な皮膚付属器良性腫瘍であり,軟骨様汗管腫(chondroid syringoma)と同義である1)。その80%以上は上口唇,鼻,頭部に生じることが報告されており,外耳道に生じたものはきわめて珍しく,数例の症例報告が散見されるのみである2,3)。治療は手術による全摘出に限られる。

 今回われわれは,外耳道に生じた皮膚混合腫瘍に対し耳内切開で摘出術を施行した症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する。

水痘・帯状疱疹ウイルスと前立腺癌頭蓋底転移によるAvellis症候群の2例

著者: 木村寛 ,   古井英介 ,   山本晃彦 ,   田近洋介 ,   藤本勝明

ページ範囲:P.845 - P.849

はじめに

 Avellis症候群は,1891年にAvellis1)が片側性声帯麻痺と同側の軟口蓋麻痺を伴った10症例を報告したことに由来する,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺を主徴とする症候群である2)。Avellis症候群はよく知られた症候群ではあるが,頻度は稀であると佐藤3)は記している。

 本症候群の定義に関しては,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺に加え,麻痺とは反対側の頸部以下の温痛覚脱失も合併する症例をAvellis症候群とする意見もあれば4,5),反対側の温痛覚脱失を合併する症例はAvellis症候群ではないとする意見もあり6),報告者により本症候群の見解に相違がある2)

 ところで,片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺は,片側性の舌咽神経(第Ⅸ脳神経)麻痺と迷走神経(第Ⅹ脳神経)麻痺により起こる場合がある7)。舌咽神経と迷走神経は機能上不可分な関係にあり,舌咽・迷走神経と一括される7)

 今回われわれは,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による舌咽・迷走神経麻痺で片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺が生じ,反対側頸部以下の温痛覚脱失を合併しないAvellis症候群症例と,前立腺癌の頭蓋底転移の舌咽・迷走神経麻痺で片側性の声帯麻痺と軟口蓋麻痺が起こり,反対側頸部以下の温痛覚脱失を合併しないAvellis症候群の希少な2症例を経験した。本稿ではAvellis症候群の定義についての文献的考察を加えて,上記の2症例を報告する。

AYA世代女子に発症した上顎エナメル上皮線維肉腫の1例

著者: 野田洋平 ,   橘智靖 ,   丸中秀格 ,   黒田一範 ,   牧野琢丸 ,   假谷伸

ページ範囲:P.851 - P.856

はじめに

 エナメル上皮線維肉腫は,2017年のWHO分類において歯原性肉腫に分類され,エナメル上皮線維腫に類似した病理組織像ではあるが,外胚葉性間葉成分が肉腫の特徴を呈するきわめて稀な腫瘍である1)。Chrcanovicら2)が報告したエナメル上皮線維肉腫103例のレビューによると,診断時の年齢は平均27.7歳であり,思春期および若年者に好発する疾患である。2017年に日本癌治療学会より「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン」3)が発表された。したがって本疾患の治療においては,根治性のみではなく,妊孕性の温存を十分考慮する必要がある。

 今回われわれは,adolescent and young adult(AYA)世代とされる思春期に発症した上顎エナメル上皮線維肉腫の1症例を経験したので,治療および妊孕性温存について,若干の文献的考察を加えて報告する。

書評

顔面骨への手術アプローチ

著者: 鄭漢忠

ページ範囲:P.807 - P.807

 手術で最も大事なことは,どのようにして目的とする場所に到達するかということである。そのためには切開線の設定が大切だということを先輩たちから幾度も教わった。確かにそこに到達する道はいろいろあるかもしれないが,解剖をよく考えるとおのずと決まってくるものだ。この『顔面骨への手術アプローチ』を読んだとき,先輩たちに教わった数々のことが思い出された。臨床は経験だという。いや,それだけではない。この本を読んだとき,いかに多くの先輩たちから最もトラブルの少ない,安全なルートを教わっていたのかということをあらためて知らされた。

 本書は少ない労力で安全確実に目的とする場所に到達する道を指南する書である。正確で豊富な図や写真はさすがに臨床家であるEllis先生ならではのわかりやすさである。随所にちりばめられているキャダバーを用いた重要な解剖単位の剖出写真は非常に参考になるものと思われる。また,何より訳者の正確な日本語は素晴らしく,とても読みやすい内容に仕上がっている。

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目次

ページ範囲:P.767 - P.767

欧文目次

ページ範囲:P.769 - P.769

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.858 - P.858

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.862 - P.862

 梅雨が明け,夏の訪れとともに消えてくれると信じていた新型コロナウイルス感染症。全国的に第二波が訪れつつあります。これを見越して,7月12日日曜,第43回日本嚥下医学会総会がWEBで実施されました。会場を一つに絞り,発表と質疑応答の時間を十分にとったプログラムをZoom Webinarで視聴するというスタイルです。音声も画像も明瞭で,皆さん集中して視聴できたのでしょう。どの演題でもリアルタイムで活発な質疑応答が繰り広げられました。勿論,「続きはフロアで」という訳にはいきませんでしたが,本来の研究会・学会のあるべき姿をWEBの世界で実現していただけたと思います。倉智雅子会長のご英断に心より敬意と感謝の意を表します。さて,新型コロナウイルス感染症の影響を受けたのは学会ばかりではありません。感染の収束が見えないなか,「新しい生活様式」という社会の変革に対応困難との判断で,制度発足以来,専門医試験の会場を担ってきた霞が関ビル35階の東海大学校友会館が2020年7月31日をもって営業終了となりました。これを受け,本年9月に予定されている専門医試験は,東京周辺以外,各地区単位で実施されます。

 ということで,今月は「今さら聞けない自己免疫疾患の基礎知識」と題し,専門医試験必出の「自己免疫疾患」を特集として取り上げました。ステロイド依存性難聴,遅発性内リンパ水腫,Vogt-小柳-原田病,ANCA関連血管炎,類天疱瘡,IgG4症候群,再発性多発軟骨炎など,毎年,多肢選択問題に出てくる代表的な疾患について,最新の知見を加えエキスパートの皆様に解説していただきました。既に専門医を取得されている先生方もぜひ,お目通しください。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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