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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻13号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 カラー術中写真でよくわかる 達人による頭頸部がん拡大切除

ページ範囲:P.1059 - P.1059

エキスパートに学ぶ頭頸部がんの拡大切除

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.1060 - P.1062

 2000年以降,シスプラチン(CDDP)をベースとした化学放射線療法や,多剤併用導入化学療法,超選択的動注化学療法同時併用放射線治療(RADPLAT)が,進行頭頸部扁平上皮癌に対して,臓器温存を目指した標準治療として実施されるようになった。これに対抗するかのように,近年,喉頭や咽頭,鼻副鼻腔の早期がんに対して内視鏡下の低侵襲な手術法が相次いで開発され,本誌でもたびたび特集として取り上げてきた。その一方,専攻医や頭頸部がん専門医を目指す耳鼻咽喉科専門医が,進行頭頸部がんの未治療新鮮例に対する根治手術を術者として経験し,手術手技を学ぶ機会はめっきりと減少した。しかし,化学放射線療法後の残存・再発や,頭頸部に照射歴のある症例,臓器機能や併存症により化学放射線療法を施行できない高齢者では,今尚,手術が根治を期待できる唯一の治療法であり,頭頸部がん専門医には必須の技術である。

 そこで,本号の特集は「カラー術中写真でよくわかる 達人による頭頸部がん拡大切除」と題して進行頭頸部がんに対する手術を取り上げ,日本を代表する施設で,日々,後進の指導にあたっているエキスパートの先生方に,術中写真や動画を交えて「手術の肝」を解説していただくようお願いした。頭頸部がん専門医を目指す先生方はもちろんのこと,すでに頭頸部がん専門医の資格を取得されている皆様もぜひご一読いただき,指導の参考にしていただきたい。

《顎顔面・頭蓋底手術》

舌半側切除術

著者: 安藤瑞生

ページ範囲:P.1063 - P.1067

POINT

●舌癌の深部浸潤の見極めと筋層切離には熟練を要する。切離中によく触診し,確実な深部安全域を確保する。

●pull-through法の意義は口腔底と舌根方向の良好な視野を得ることであり,pullだけでなくrotateを意識する。

●口腔底のリンパ節群は頸部郭清術で取り残す可能性があるため,注意を要する。

上顎全摘術

著者: 蓼原瞬 ,   丹生健一

ページ範囲:P.1068 - P.1073

POINT

●侵襲の大きな手術であり,術前に手術の内容と術後の機能,後遺症について,患者や家族に十分な理解を得ることが求められる。

●術前に歯科口腔外科を受診させ,ソフトシーネ(仮義顎)を作成しておく。

●口蓋の切断と翼突板の切離は最後に行う。

●気管切開は必ずしも必要ではない。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月)。

前中頭蓋底手術

著者: 朝蔭孝宏

ページ範囲:P.1074 - P.1079

POINT

●前頭蓋底手術の適応は嗅神経芽細胞腫,篩骨洞癌,鼻腔癌,前頭洞癌などである。

●前頭蓋底手術のアプローチ法には頭部冠状切開+外側鼻切開,頭部冠状切開+経鼻内視鏡,経鼻内視鏡単独の3つの方法がある。

●前中頭蓋底手術の適応としては上顎進行癌が最も多い。

●頭蓋底手術は,耳鼻咽喉科・頭頸部外科,脳外科,形成外科の3科がそれぞれ高度な知識と技術を持ち合わせていることが成功の必須条件である。

側頭骨亜全摘術—聴器癌の拡大切除

著者: 藤本保志

ページ範囲:P.1080 - P.1085

POINT

●聴器癌進行例に対して側頭骨亜全摘術は有効な治療法である。

●側頭下窩の安全な展開が,顎関節・耳下腺から深部への浸潤の制御の鍵である。

●側頭骨亜全摘術においても顔面神経再建は可能である。

●術前のシミュレーション,多科合同の検討が重要である。

《喉頭・咽頭手術》

拡大喉頭部分切除術

著者: 藤井隆

ページ範囲:P.1086 - P.1092

POINT

●喉頭部分切除術の定型的な切除範囲を把握する。

●前頸部の組織で欠損部の再建が困難な場合には,遊離組織移植による再建を考える。

●披裂軟骨合併切除を要する場合には披裂の高まりを再建する。

●手術適応は切除範囲だけでなく,術後の嚥下機能障害を克服できる患者要因も重要である。

喉頭亜全摘術—基本的な手技と留意すべき点とは?

著者: 宮本俊輔

ページ範囲:P.1094 - P.1099

POINT

●輪状軟骨上喉頭切除術(supracricoid laryngectomy)は喉頭亜全摘術の1つであり,高い根治性と社会復帰可能な機能温存の両立を可能とする術式である。

●手術の目的を達成するには,喉頭の解剖・機能と術式の特性を理解した適切な症例選択と切除が重要である。

●腫瘍進展範囲の術前評価と術中所見との間には乖離が生じうるため,喉頭全摘出術への術中移行の可能性について術前に同意を得る必要がある。

●良好な視野を確保しながら,切除安全域と術後機能の両方に留意した綿密な操作を行うことが良好な手術成績に繋がる。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月)。

喉頭全摘術

著者: 吉本世一

ページ範囲:P.1100 - P.1104

POINT

●喉頭全摘の準備は尾側から頭側にかけて行う。

●薄くなりすぎた梨状窩の粘膜は切り捨てる。

●切除後の咽頭縫合に最も注力する。

●オトガイ下の死腔形成に注意する。

中咽頭癌拡大切除術(拡大扁桃摘出術)

著者: 鬼塚哲郎

ページ範囲:P.1106 - P.1112

POINT

●副咽頭間隙側から流入する血管解剖を知ることが重要である。

●口蓋扁桃被膜の深部にある上咽頭収縮筋は厚さ約2mm足らずであるため,容易に副咽頭間隙に達する。

●口蓋扁桃の流入血管の処理では,血管断端が副咽頭間隙側に深く入り込みやすい。

●咽頭収縮筋の欠損修復には,Gehanno縫合,顎下腺弁などを組み合わせる。

●経口法のみで行う際には,経口的に深部で止血できる器械の用意と,内視鏡での視野確保が必要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年12月)。

喉頭温存・下咽頭部分切除術

著者: 松浦一登

ページ範囲:P.1113 - P.1119

POINT

●完全喉頭温存とは,「電話での会話が通じること」「外食ができること」「肩まで風呂に入れること」を意味する。

●外切開による喉頭温存・下咽頭部分切除術は有用な治療手段である。

●切除範囲の設定が難しいとされるが,咽喉頭展開を行い,内視鏡下で切除範囲の設定を行うと過不足のない切除が行える。

●再建方法は切除範囲によって決定される。披裂喉頭蓋ひだに代わる高まりを作ることと,喉頭挙上術や輪状咽頭筋切開術による排水路の拡張を組み合わせることが重要である。

下咽頭喉頭全摘術(咽喉頭食道摘出術)

著者: 三谷浩樹

ページ範囲:P.1120 - P.1127

POINT

●原発巣切除に先立ち頸部郭清を行い,両側頸動脈内側ならびに原発巣の頭尾側切除ラインを確実にフリーにしておくこと。

●遊離空腸再建が苦労なく行えるよう,栄養血管を挫滅・損傷させないこと。

●残存気管血流が確実に得られる位置で気管孔を作成する。特に化学放射線療法(CCRT)後や頸部食道への下方進展例での気管壊死は致死的になりうるので,細心の注意を払うこと。

頸部食道摘出術(喉頭温存)

著者: 門田伸也

ページ範囲:P.1128 - P.1133

POINT

●手術適応は慎重に。

●頭側方向への進展範囲の把握が重要。

●反回神経の遊離温存操作は丁寧に。

●気管への血流温存にも注意を払うこと。

原著

外耳道炎を伴わなかった非典型的な頭蓋底骨髄炎の1例

著者: 堀中昭良 ,   成尾一彦 ,   松山尚平 ,   北原糺

ページ範囲:P.1135 - P.1141

はじめに

 典型的な頭蓋底骨髄炎は,高齢糖尿病患者に発症した緑膿菌による悪性外耳道炎を契機として頭蓋底へ炎症が波及したもので,時に致命的となりうる疾患である1,2)。近年,それらとは所見を異にする非典型的な頭蓋底骨髄炎の報告がみられる3〜5)。今回われわれは,外耳道炎を伴わない頭蓋底骨髄炎例を経験したので報告する。

書評

NHKスペシャル 人体Ⅱ 遺伝子

著者: 石野史敏

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 2003年にヒトゲノム計画は完了し,全ゲノム配列が明らかになった。しかし,計画が最終目標に掲げていた「ヒトゲノムの機能を完全に読み解く」ことはまだできていない。予想よりもはるかに少ない2万の遺伝子しかなく,それが占める部分はゲノム全体のたった2%ほどしかない。ヒトゲノムの残り98%は一見,訳のわからない無意味なDNAで占められているが,世界中が競って集めた疾患SNPデータのその多くがここにマップされた。

 NHKスペシャル『シリーズ「人体」Ⅱ 遺伝子』には,このヒトゲノムの98%部分に潜んでいる機能に関する研究の最前線が取り上げられている。第1集では,この未知の部分にあるたった1つのDNA塩基の変異(SNP)がヒトの表現型に影響を与える例がいくつか紹介されている。これは,さまざまな環境に適応してきたヒトの進化における自然選択の歴史を物語っている。最先端の分子生物学は,これにどのような説明を与えるのか? SNPが遺伝子発現メカニズムに与える影響を,CGの力も借りてわかりやすく紹介している。ここからわかるのは,疾患にかかわる1つひとつの遺伝子変異やSNPがヒトの表現型に与える影響を,丁寧に深く掘り下げていく地道な研究者の努力が心踊る発見につながっていくのであり,その成果の積み重ねが,最終的に「ヒトゲノムの機能を完全に読み解く」ことにつながることである。

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目次

ページ範囲:P.1055 - P.1055

欧文目次

ページ範囲:P.1057 - P.1057

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1142 - P.1142

あとがき

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.1146 - P.1146

 去る10月6日(火)と7日(水)の二日間,岡山にて第121回日本耳鼻咽喉科学会学術講演会が開催されました。新型コロナウイルス感染症の蔓延による厳しい状況のなか,1000名を超える先生方が現地参加し,Web参加登録も含めると総参加者数は6000人以上に上ったそうです。現地参加された方々の大半は終日会場内に留まり,両日とも宿題報告と臨床講演の会場は満員で,熱気に満ちた二日間でした。本当に久しぶりに生の「学会」を堪能させていただきました。綿密な計算に基づいた周到な準備により,未曾有の困難な状況を見事に乗り越え,初のハイブリッド型の総会・学術講演会を成功裏に収められた西﨑和則会長と岡山大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教室の皆様,同門の皆様に心より感謝申し上げます。

 さて,今月の特集号のタイトルは「カラー術中写真でよくわかる 達人による頭頸部がん拡大切除」です。2000年代に入り,化学放射線療法や超選択的動注化学療法同時併用放射線治療が,進行頭頸部扁平上皮癌に対して臓器温存を目指した標準治療として実施されるようになり,専攻医や頭頸部がん専門医を目指す耳鼻咽喉科専門医が,進行頭頸部がんの未治療新鮮例に対する根治手術を術者として経験し,手術手技を学ぶ機会はめっきりと減りました。しかし,化学放射線療法後の残存・再発や,頭頸部に照射歴のある症例,臓器機能や併存症により化学放射線療法を施行できない高齢者では,今尚,手術が根治を期待できる唯一の治療法であり,頭頸部がん専門医には必須の技術です。

人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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