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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻6号

2020年05月発行

雑誌目次

特集 高齢者のめまいを治す

高齢めまい患者を診断する際のポイント—加齢性平衡障害の診断基準を中心に

著者: 堀井新

ページ範囲:P.416 - P.420

POINT

●高齢者では体平衡維持に関わるすべての感覚器官(末梢・中枢前庭系,視覚系,体性感覚系),中枢での感覚統合,および出力系である運動器官の機能低下から,平衡障害をきたす。

●良性発作性頭位めまい症(BPPV)は高齢者に比較的多くみられるめまい疾患である。

●presby-vestibulopathy(加齢性平衡障害)は,持続性の平衡障害を主症状とし軽度〜中等度の両側前庭機能低下を認める疾患として,2019年にBárány Societyから診断基準が提起された。

●presby-vestibulopathyの診断基準が提起されたことで,今後,高齢者のめまいの原因疾患の分布が変化すると考えられる。

高齢めまい患者への急性期治療

著者: 將積日出夫

ページ範囲:P.422 - P.426

POINT

●まず急性脳血管障害の可能性を問診,眼振検査を含めた神経学的検査で評価する。

●急性脳血管障害が疑われたら,至急画像検査を行い,専門科医にコンサルトする。

●脳血管障害の可能性がなければ,抗めまい薬を中心としためまいの治療を開始する。

●高齢者では薬物治療時に投与量を減らし,副作用の出現に留意する。

高齢めまい患者へのリハビリテーション

著者: 長沼英明

ページ範囲:P.427 - P.436

POINT

●加齢により中枢・末梢前庭機能の退行変性が生じる。

●中枢前庭の代償機能を促進させるためのリハビリテーションが行われている。

●リハビリテーションの効果判定について解説する。

●体幹・下肢の筋力増強のためのリハビリテーションも重要である。

《高齢めまい患者特有の病態》

高齢者の平衡機能と自律神経の特徴

著者: 新井基洋

ページ範囲:P.404 - P.408

POINT

●高齢者の平衡機能を考えるうえで必要な,前庭系と自律神経の加齢変化を中心にまとめた。高齢者は末梢前庭,中枢前庭,視覚,反射,筋力や骨,自律神経などに機能低下を認め,平衡システム全体が障害された病態である。

●高齢者は前庭のみならず視覚器の加齢変化を認め,深部知覚情報への依存が高くなり,転倒する可能性が高い。

●高齢者の自律神経機能は低下し,さらに各種合併症が循環系に常に負担をかけており,軽微な自律神経異常で起立性低血圧や食後性低血圧をきたす。

●今後さらに高齢めまい患者は増加の一途を辿るので,われわれ耳鼻咽喉科医はその病態を理解し,適切な助言とリハビリ指導ができるようにならなければならない。

歩行機能と転倒

著者: 岩﨑真一

ページ範囲:P.410 - P.414

POINT

●さまざまな歩行パラメータのうち,加齢変化を最も典型的に示すのは,歩行速度の低下である。

●高齢者の歩行障害は均一でなく,感覚障害,前庭障害,視力障害など,障害の種類に応じてさまざまなパターンを呈する。

●転倒の危険因子として,筋力の低下,転倒歴,歩行障害,バランス障害の影響が大きい。

●高齢者の歩行障害に対する治療としては,ウォーキングや下肢の筋トレなどのエクササイズが有効である。

《高齢者のめまい疾患別 最新治療》

メニエール病

著者: 北原糺

ページ範囲:P.437 - P.441

POINT

●高齢者のメニエール病に対しては,生活のリズムを整える指導を行い,水分と適度な運動を勧め,保存的治療を試みる。

●保存的治療に抵抗する場合,手術治療に進む前に中耳加圧治療を考慮する。

●体動による誘発性浮動感が続く場合,剝離耳石の半規管内浮遊による可能性があり,良性発作性頭位めまい症に準じた治療を考慮する。

●メニエール病による耳石器・半規管障害は,メニエール病の病勢が落ち着いていても転倒・骨折の原因になるため,前庭リハビリテーションによる平衡訓練は重要である。

良性発作性頭位めまい症

著者: 中山明峰 ,   蒲谷嘉代子

ページ範囲:P.442 - P.447

POINT

●良性発作性頭位めまい症(BPPV)は加齢で悪化する可能性はあるが,断定するにはエビデンスに欠ける。

●高齢者はBPPVを感知する感覚が衰えているため発見が遅れる。

●高齢者は骨変形,内耳障害や全身合併症によりBPPVを起こしやすい。

●高齢者がBPPVに罹患した場合,若年者よりもQOLが悪化する。

脳血管障害によるめまい

著者: 橋本誠 ,   山下裕司

ページ範囲:P.448 - P.451

POINT

●脳血管障害によるめまいは,必ずしも片麻痺のような典型的な症状を伴わず,見落としやすい。

●既往歴や随伴する症状,軽微でも神経症候の有無を確認し,中枢性眼振の要素を見逃さないことが重要である。

●脳血管障害が疑わしい症例は頭部MRIの施行を検討するが,発症早期の拡散強調画像でも梗塞巣を検出できないことがある。

●診断がつく前は対症療法を行うが,脳血管障害の診断となれば,速やかに専門医へ紹介し,治療に精通した医師・看護師などの専門チームで診療を行う。

心因性めまい

著者: 五島史行

ページ範囲:P.452 - P.456

POINT

●心因性めまいには純粋に心因で発症する狭義の心因性めまいと,前庭障害によって生じためまいに心因が合併した広義のものがある。

●広義の心因性めまいでは,過去に罹患した前庭神経炎の脱代償に心因が合併しているものがみられる。

●薬物治療ではポリファーマシーに注意し,薬剤を投与することよりも減らすことを意識する。

●非薬物治療ではリハビリテーションと認知療法が中心となる。めまいを治したいという気持ちを引き出すとともに患者家族のサポートを得ることがポイントとなる。

原著

深頸部膿瘍の入院長期化に関する指標

著者: 各務雅基 ,   坂下智博 ,   八木建樹 ,   井戸川寛志 ,   飯村泰昭 ,   井上玲

ページ範囲:P.459 - P.462

はじめに

 深頸部感染症は,頭頸部に存在する筋・骨・神経・血管を包む筋膜間の疎な結合織からなる間隙に生じる感染症の総称である。深頸部膿瘍はそのなかでも最も重篤な疾患の1つであるが,近年では抗菌薬や感染症治療の発展に伴い,比較的軽症で推移して退院できる症例が増加している。一方で,縦隔炎や気道狭窄,敗血症などの重篤で致死性を有する合併症を引き起こす症例も依然として存在する。

 今回われわれは,最近2年間に経験した深頸部感染症症例を対象として,入院期間が長期化する指標について検討したので文献的考察を交えて報告する。

動眼神経単独麻痺で発症した蝶形洞疾患の2例

著者: 駒林優樹 ,   國部勇

ページ範囲:P.463 - P.468

はじめに

 蝶形洞は,解剖学的に視神経管や海綿静脈洞,上眼窩裂と近接しているため,同部の病変により脳神経障害をきたし,眼症状を呈することがある。しかし,動眼神経麻痺単独で発症する症例は稀である。今回われわれは,初発症状として動眼神経麻痺を呈した蝶形洞疾患の2症例を経験したため報告する。

悪性腫瘍を疑った耳下腺放線菌症の1例

著者: 山下俊彦 ,   梶本康幸 ,   四宮瞳 ,   大月直樹 ,   丹生健一

ページ範囲:P.469 - P.473

はじめに

 放線菌症は,口腔内に常在するActinomyces属が原因とされる嫌気性菌感染症である1)。頭頸部領域で頰部,頸部に発生するという報告が多いが,唾液腺を原発とすることは稀であり,耳下腺に発生する例は数件の症例報告が散見されるのみである。本症は,境界不明瞭な硬結および腫脹を示し,皮膚の発赤や自潰を伴うことから,悪性腫瘍との鑑別を要することがある。細菌培養検査や病理組織検査により診断されるが,臨床的には硫黄顆粒の存在が特徴的であり,診断の助けになる2)

 今回われわれは,硬結と皮膚の発赤および自潰を呈し,画像検査でも境界不明瞭な腫瘤性病変を示したことから悪性腫瘍を疑った耳下腺放線菌症の1例を経験したので報告する。

お知らせ

第38回 耳鼻咽喉科ニューロサイエンス研究会

ページ範囲:P.414 - P.414

書評

顔面骨への手術アプローチ

著者: 楠本健司

ページ範囲:P.457 - P.457

 本書は,Edward EllisⅢとMichael F. Zideによる名著『Surgical Approaches to the Facial Skeleton』第3版(Wolters Kluwer, 2018)の日本語訳本である。頭蓋顎顔面領域の骨格へのアプローチは,骨折治療,変形症などでの骨切り,腫瘍切除後の再建,顔面輪郭形成など多様な病態での治療で必要になる。現在,多くの施設で治療前に3次元CTをはじめ,多種の画像データを容易に取得し参照できる。これらを基に骨格再建法を想定し計画できるものの,目的とする骨格部位に到達するには,切開線を設定して切開・剝離を進め,皮膚面から軟部組織を経過しなければならない。手術を安全に,合併症なく,計画どおりに完遂するには,該当の骨格部分を3次元的に把握するだけでなく,皺の方向,神経,血管,筋や唾液腺などについての局所解剖を十分に把握し,目的部位へのアプローチにて適切な処理と展開を行うことが良い手術を達成する鍵になる。

 本書では,実際の手術写真の提示にとどまらず,知っておくべき場面の多くの付図や解剖体写真に要点の適切な解説が加えられている。2次元画像での提示であるものの,連続付図が並び,手術解剖の説明に次いで手術のステップごとの解説がなされており,解説付きの動画のごとくの流れで手術アプローチを理解できる。さらに特筆すべきは,これらの写真や付図と解説から術中にいかなる器具をどのように扱うか,鉤はどのように引くか,牽引糸をどこに掛けて引っ張るか,挿管チューブはどこに設定すると手術しやすいかなど,手術の実際を多分に学ぶことができる。付図や解説からメスの入れ方から剪刀や剝離子の正しい進め方までもが把握することができる。配慮された構成は,初学者のみならず,専門医資格取得前後の医師やより良い手術を探求する医師にとっても得るものが多い。

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目次

ページ範囲:P.393 - P.393

欧文目次

ページ範囲:P.395 - P.395

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.474 - P.474

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.478 - P.478

 若葉の候,皆様いかがお過ごしでしょうか。

 本来であれば,ゴールデンウィークを楽しく過ごし,肌に心地よい季節のなかで仕事もプライベートも充実する時期です。しかしこの原稿を書いている3月末,関東は季節外れの積雪。新型コロナウイルス感染症の広がりに備えた外出自粛要請があり,緊急事態宣言の発令も間近と考えられる瀬戸際にいます。これからは数多くの対策が次々と施されると思いますが,その効果もあって本号が発刊される頃には状況が少しでも好転していることを願ってやみません。耳鼻咽喉科は新型コロナウイルスに最も曝露されやすい診療科です。耳鼻咽喉科医の感染例や,不幸にも重症化したケースが欧米から報告されています。姿の見えない敵が大きな脅威となってプレッシャーをかけてきますが,正確な情報を共有し,一致団結して徹底的にこのウイルスと戦い,勝利すると信じています。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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