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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻8号

2020年07月発行

雑誌目次

特集 エキスパートに学ぶ手術記録の描き方

ページ範囲:P.579 - P.579

《総論》

手術記録における手術イラストの役割と描き方

著者: 馬場元毅

ページ範囲:P.580 - P.584

POINT

●手術記録は行われた手術の時系列的記録ではなく,手術中の考察などを記載する考証記録であると考える。より質の高い手術記録を記載するための手術イラストの役割は重要である。

●本稿では,多忙な外科系医師やイラストを苦手とする医師がいくらかでも容易に手術イラストを描くための裏技と,より精度の高いイラストを描くための技術について述べる。

手術記録イラストレーション—デジタルの立場から

著者: 二井一則

ページ範囲:P.586 - P.590

POINT

●デジタルは修正・加筆・コピーが容易であり,素材を再利用することでイラスト作成時間が短縮できる。

●レイヤーと領域選択を駆使することで境界線での塗り効率を向上させる。

●組織ごとの色分けを規定しパレットに設定することでイラストに統一性をもたせる。

●簡潔な解説を引き出し線で加えることにより,文面を読まなくても手術の概略がわかるようにする。

《耳領域》

乳突削開型鼓室形成術

著者: 東野哲也

ページ範囲:P.591 - P.594

POINT

●手術記事に添える所見図(イラスト)は,文章だけでは表現しきれない解剖学的位置関係を補うためだけでなく,手術のエッセンスが瞬時に把握,共有できるものが望ましい。

●実際の経外耳道視野と経乳突腔視野から見える病巣の局在と摘出後の再建状態を描くことで,手術アプローチの把握が可能となる。

●中耳腔や外耳道の全体像,特に伝音系や鼓膜の病態,修復後の状態は前額断(冠状断)模式図,中耳真珠腫においては耳管上陥凹や鼓室洞,乳突蜂巣への進展状況を示す矢状断模式図が有用である。

●手術所見図を描くことは,手術解剖を視覚的記憶として定着させる教育効果が期待できる。

人工中耳・人工内耳手術

著者: 岩崎聡

ページ範囲:P.596 - P.599

POINT

●人工中耳手術では,正円窓とアブミ骨周辺の解剖学的所見と可動性について記載する。

●振動子と導線の固定方法を記載しておくと,術後のトラブルに対応する際の参考になる。

●人工内耳手術では,顔面神経と鼓索神経の状況を必ず記載する。

●抜去術の際,導線の位置を書いたイラストがあると大変参考になる。

聴神経腫瘍手術

著者: 村上信五

ページ範囲:P.600 - P.605

POINT

●画像や検査所見から,術前に手術をシミュレーションして記載しておく。

●手術記録は手術終了後,可及的早急に記載する。

●手術記録は自筆で記載し,術中写真の使用は必要最低限に留める。

●手術解剖は写実的よりは,むしろ要点を強調したイラストがわかりやすい。

《鼻領域》

内視鏡下副鼻腔手術

著者: 朝子幹也

ページ範囲:P.606 - P.610

POINT

●手術記録は公的文章であり,手術の内容が正確に理解できるものでなければならない。

●写真や図,表を使って術者以外が見ても理解の助けになるように作成する。

●術前から術中に得られた情報を手術記録に盛り込み,後日の診療の助けになるように記載する。

●術者自身のスキルアップのために手書きの図を作成することが望ましい。

鼻中隔手術—Killian法,hemitransfixion法

著者: 飯村慈朗

ページ範囲:P.612 - P.616

POINT

●手術記録は,術後形態に影響をおよぼす点について記載する。さらに効果不十分で再手術が必要となった場合には,どのように術式選択すればよいかの情報を記載する。

●手術記録に記載すべき事項は,術前の形態,実際の病態,施行術式,L-strut,合併症,となる。

●イラストを描き起こすのは,全体の病態について把握しやすくし,術終了時の病態を詳細に記録するためである。

下鼻甲介手術,後鼻神経切断・焼灼術

著者: 松根彰志

ページ範囲:P.618 - P.621

POINT

●手術全般にとっての手術記録作成時の必須項目は,最後の「まとめ」に記載した。

●本文では,下鼻甲介手術,後鼻神経切断術における手術記録作成時の必須項目を具体的に示した。

●自ら描くイラストを添付することが,記録としても,自らの学習のためにも重要である。

●手術記録を描く姿勢は,手術そのものや,個々の症例に対する臨床医としてのこだわりの反映である。

《頭頸部領域》

耳下腺腫瘍の手術

著者: 岩井大

ページ範囲:P.622 - P.627

POINT

●手術内容を想起し描画する行為は,手術の進行,手技,解剖,問題点の整理ができ,イメージトレーニングになり,復習材料ともなる。

●描画は,文章説明に比し即座に医療スタッフおよび第三者へ手術内容を伝達できる手段となる。

●教科書的・定型的手術所見とともに,その症例に特異的な部分を詳細に記す。

●描画にあたっては,術中の主要な場面について自分なりの絵のパターンを完成させておくのがコツである。

甲状腺腫瘍の手術

著者: 佐藤雄一郎

ページ範囲:P.628 - P.632

POINT

●手術記録は情報の集約と正確性だけが求められるものではない。後治療の可能性も考慮して手術内容が確実に伝わる工夫が求められる。

●手術はいつまでも修練を必要とする。術前の計画と執刀によりインプットできた情報を,手術記録としてアウトプットすることで,手術に関わる知識と技術は身につくと考える1)

喉頭・咽頭癌の手術

著者: 篠﨑剛

ページ範囲:P.634 - P.638

POINT

●術前に一度手術記録を書いてシミュレーションしておく。

●手術記録はその日のうちに書く。

●助手で入った手術でも記載して術者と議論する。

頸部郭清術

著者: 花井信広

ページ範囲:P.640 - P.645

POINT

●手術の “輪郭” を捉えたうえで,特別なことは詳細に記載する。

●詳細な部分に関してはできるだけ早く,記憶が鮮明なうちに記録する。

●JNDSG分類は欧米の分類と互換可能である。

●適切な図を描くことは,手術のトレーニングであると認識する。

原著

声門上癌に対する化学放射線治療後,晩期に喉頭蓋と咽頭後壁との癒着を生じた1例

著者: 野島知人 ,   三枝英人 ,   五島可奈子 ,   門園修 ,   野中学

ページ範囲:P.648 - P.654

はじめに

 頭頸部腫瘍に対する放射線治療後の晩期合併症には,組織の線維化と瘢痕狭窄(食道や下咽頭,鼻咽腔の狭窄など)や壊死(喉頭壊死,下顎骨壊死など),甲状腺機能低下,白内障,末梢神経(舌下神経や聴神経の障害など)や中枢神経系の障害(側頭葉壊死,脊髄障害),放射線誘発癌や肉腫などが知られている1)。これらのうち,放射線誘発癌や肉腫以外は,放射線感受性の高い小血管の内皮細胞が障害されることで血管内膜の線維化,硝子化が起こり,徐々に血管内腔の狭小化,血流不全へと進展し,組織の萎縮や線維化,壊死,神経障害が二次的に発症,進行すると考えられている2,3)。これらの晩期障害は,放射線治療単独よりも化学療法を併用する化学放射線治療の場合のほうが,より強く発現することが予測される。したがって,化学放射線治療後から数年以上経過した晩期に,離れて存在していた組織どうしが癒着を形成し,機能障害を呈することは稀であると考えられる。

 今回私たちは,声門上癌に対する化学放射線治療後晩期に喉頭蓋と咽頭後壁の強い癒着を認め,嚥下障害,呼吸困難感を呈した1例を経験したため報告する。

めまいとの関連が疑われた内側型高位頸静脈球の1例

著者: 直井勇人 ,   橘智靖 ,   小松原靖聡 ,   黒田一範

ページ範囲:P.655 - P.658

はじめに

 高位頸静脈球は,頸静脈球が中耳腔に突出する外側型と,錐体内側に突出する内側型に分類される。内側型高位頸静脈球と内耳の位置関係は多彩で,解剖学的には蝸牛,前庭,後半規管,内耳道,前庭水管,蝸牛小管と接触しうるため,内耳症状を生じる可能性がある。今回われわれは,めまい症状をきっかけに発見された内側型高位頸静脈球の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

当科における誤嚥防止術症例の検討

著者: 永井淳平 ,   蘆立雅紀 ,   東野正明 ,   河田了

ページ範囲:P.659 - P.664

はじめに

 嚥下障害はさまざまな要因で生じ,重篤になると繰り返す肺炎や低栄養を引き起こす。嚥下障害治療の基本はリハビリテーションであるが,リハビリテーションを施行しても誤嚥を繰り返し,経口摂取までたどり着くことが困難な症例が存在する。嚥下機能が著しく低下し,誤嚥を繰り返す場合には,肺炎により死に至ることも少なくない。そのような症例に対し,確実に誤嚥を防ぐことを目的とした誤嚥防止術が有効とされている1)。誤嚥防止術は,文字通り誤嚥を防止するための手術である。経口摂取が可能になるかどうかは不確定であるが,患者や家族は手術することで経口摂取が可能になるのではないかと期待する。

 今回われわれは,当科において重度の嚥下障害に対する誤嚥防止術として喉頭全摘出術を施行した症例について,術前後の状態を検討した。

書評

《ジェネラリストBOOKS》薬の上手な出し方&やめ方

著者: 秋下雅弘

ページ範囲:P.647 - P.647

 超高齢社会を迎えて患者の多くが75歳以上になる中,生活習慣病や老年症候群などで多病の高齢者は多剤服用となることが多く,薬物有害事象や服薬管理上の問題を生じやすい。国の統計では75歳以上の約4割が5種類以上,約4分の1が7種類以上の内服薬を1つの薬局から調剤されている現状がある。

 そこで重要なキーワードが「ポリファーマシー」である。ポリファーマシーは,単に薬剤数が多いこと(多剤服用)ではなく,薬剤が多いことに関連して薬物有害事象のリスク増加,服薬過誤,服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態,つまり「多剤服用+(潜在的な)害」を指す。したがって,ポリファーマシーの是正では,一律の薬剤削減をめざすのではなく,処方適正化という観点から,患者の生活機能や生活環境などを考慮に入れて包括的に処方を見直し,多職種で対策を講じることが求められる。

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目次

ページ範囲:P.575 - P.575

欧文目次

ページ範囲:P.577 - P.577

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.666 - P.666

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.670 - P.670

 新型コロナの第1波もやっと収束に向かっています。7月からは灼熱の真夏となり,今度は熱中症が問題となります。常にわれわれはその時期・季節に応じた疾患と向き合わなければなりません。熱中症は「暑熱障害による身体適応の障害によって起こる状態の総称」(日本医学会)であり,脱水による体温上昇と,それに伴う臓器血流低下により,めまい,失神,頭痛,吐気,強い眠気,気分不快,体温上昇や異常発汗などが生じるとされています。新型コロナでマスク着用が奨励される今年は特に熱中症に注意する必要があります。熱中症の歴史は古く,紀元前333年,ギリシャ マケドニアの王,アレクサンドロスがペルシャとの戦いでダレイオス3世を破った最も大きな原因が熱中症であったのではないかと記録されています。マケドニア軍は約4万人,一方のペルシャ軍は10万〜60万ともいわれ,圧倒的な劣勢のなかでマケドニア軍が勝利した原因として,暑さ対策であえて軽装にしたマケドニア軍に対し,重装備だったペルシャ軍兵士が熱中症により弱体化したのではといわれています。日本軍でこの問題にはじめて対応したのは当時の陸軍医総監であった森鴎外で,はじめて「熱中症」という病名を記載していますが,その後,昭和になり日本海軍がそのまま「熱中症」と呼んだのに対して,日本陸軍は「暍病」と病名を変えるなど,陸海軍での微妙な空気の違いが感じられます。いずれにしても世界大戦後の最も大きな問題である新型コロナのパンデミックのなか,熱中症に対しても例年以上に注意する必要がありそうです。

 さて,今月号の特集は日常的に処置や手術を行う耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にとって重要な学習課題でもある「手術記録の描き方」です。特に専門医を目指す若手耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にとっては,これまでエキスパートがどのように術野を捉え,それをどのように記録として描き残したのか,きわめて学ぶことの多い特集になっています。新型コロナ対応で大変お忙しいなか,ご執筆いただいたエキスパートの先生方に改めて敬意と感謝を表するとともに,原著を含めて少しでも多くの耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にお読みいただきたいと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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