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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科92巻9号

2020年08月発行

雑誌目次

特集 唾液腺腫瘍の診療最前線

ページ範囲:P.675 - P.675

唾液腺腫瘍の診断と治療—最新情報

著者: 丹生健一

ページ範囲:P.676 - P.677

 耳下腺腫瘍は,われわれ耳鼻咽喉科医が日常診療でしばしば遭遇する馴染みのある頭頸部腫瘍の一つですが,良性から高悪性度まで多彩な病理組織型を呈し,しばしば診断の確定に難渋します。しかし,近年,各病理組織型に対して特異的な遺伝子の高発現や融合遺伝子の存在が相次いで報告され,これらの遺伝子をターゲットにした分子病理診断や治療法が実臨床に応用されつつあり,ここ数年で耳下腺腫瘍の診断と治療に大きな進歩が訪れています。そこで,本特集では,わが国を代表するエキスパートの面々に耳下腺腫瘍の診断から治療まで最新の情報を解説していただくことにいたしました。

《診断》

画像診断

著者: 白倉聡

ページ範囲:P.678 - P.682

POINT

●耳下腺腫瘍の良悪性診断や質的診断は単純MRIである程度可能である。

●ただし,質的診断に必要な充実成分の同定には造影MRIが有用であるため,造影剤の使用を考慮することも多い。

●悪性腫瘍における骨破壊や,リンパ節転移,遠隔転移の評価についてはCTが有用である。

●CT,MRIの長所・短所を理解して相補的に用いることが望ましい。

超音波検査—ガイド下細胞診も含めて

著者: 八木正夫

ページ範囲:P.684 - P.691

POINT

●超音波検査は唾液腺の腫瘍性疾患における初期診断ツールであるが,エラストグラフィを含めて超音波検査における唾液腺腫瘍診断のエビデンスは少ない。

●骨に隠れる部位の観察には不向きである。例えば舌下腺,耳下腺深葉腫瘍や,副咽頭間隙進展例,神経浸潤や神経鞘腫の側頭骨内進展などは評価困難である。

●多形腺腫とワルチン腫瘍それぞれの特徴を知ることが唾液腺超音波検査の第一歩である。囊胞性変化を示す無エコーはワルチン腫瘍のほうが多くより内部不均一で,分葉状を示すものは多形腺腫に多い。また多形腺腫は低血流,ワルチン腫瘍の血流は豊富なことが多い。

●良悪性の鑑別には境界不明瞭と辺縁の形状が重要であるが,組織型によってオーバーラップする超音波像が多く,境界や辺縁の性状のみで良悪性の判断はできない。そのため超音波ガイド下穿刺吸引細胞診を正確に行うことが重要である。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2023年8月)。

細胞診

著者: 浦野誠

ページ範囲:P.692 - P.695

POINT

●唾液腺の穿刺吸引細胞診は簡便・低侵襲で病変の質的診断に有用である。

●パパニコロウ染色,ギムザ染色,液状化検体の併用と適切な補助診断法の施行によって診断精度の向上が期待できる。

●国際的な報告様式である「ミラノシステム」の使用により,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医に対して悪性の危険度に基づく適切な唾液腺病変の取り扱い指針を示すことが可能になる。

●唾液腺細胞診による正確な組織型の推定には,診断クルーになる特徴的な細胞所見,背景所見の把握に加えて,患者年齢や発生部位などの臨床像,画像所見を併せた総合的判断が必要である。

病理診断

著者: 稲垣宏

ページ範囲:P.696 - P.702

POINT

●近年,多くの唾液腺腫瘍特異的遺伝子異常(特に融合遺伝子)が報告されている。

●これらの遺伝子異常の検索は病理診断の補助診断として重要である。

●遺伝子変異情報は,治療方針の決定,予後予測,分子標的薬の選択などに用いられつつある。

《治療》

耳下腺良性腫瘍の手術戦略

著者: 横島一彦 ,   加藤大星

ページ範囲:P.703 - P.707

POINT

●耳下腺良性腫瘍手術の目標は,完全摘出と顔面神経の確実な保護である。

●安全に手術を行うためには,術前診断の確実性が重要であり,腫瘍の局在,良悪性の鑑別や組織型の推測を総合的に行うことが必要である。

●術中に想定外の所見に遭遇した場合には臨機応変な対応が必要であり,術前からそれをイメージしておくことが肝要である。

耳下腺悪性腫瘍の手術戦略

著者: 関水真理子 ,   小澤宏之

ページ範囲:P.709 - P.712

POINT

●耳下腺悪性腫瘍の治療を考えるうえで重要な要素は,組織学的悪性度と病期である。

●顔面神経は術前に麻痺がなく,腫瘍との癒着がなければ温存を図る。

●顔面神経の合併切除に備えて迅速病理診断,即時再建の準備は常にしておく。

耳下腺腫瘍手術のポイント—最近の動向と難症例への対応法

著者: 手島直則 ,   丹生健一

ページ範囲:P.714 - P.719

POINT

●耳下腺細胞診で良・悪性鑑別困難例や悪性度不明例には針生検の適応についても検討する。

●術中顔面神経モニタリングを併用することで顔面神経の同定や,神経への負担の少ない安全な手術操作が可能である。

●副咽頭間隙進展例や側頭骨内進展例ではそれぞれの解剖を熟知し,顔面神経へ配慮した手術操作が必要である。

顔面神経の再建

著者: 亀井譲 ,   神戸未来

ページ範囲:P.720 - P.724

POINT

●神経移植を行う際,血流のよい組織で覆うことが重要である。

●陳旧例では神経血管付き遊離筋弁移植が有用である。

●最近では患側の咬筋神経を加えた二重神経支配の広背筋移植も行われている。

唾液腺悪性腫瘍に対する放射線治療—粒子線治療を中心に

著者: 出水祐介

ページ範囲:P.725 - P.729

POINT

●唾液腺悪性腫瘍に対する放射線治療(X線治療)は,主に術後照射として用いられてきた。

●陽子線治療や重粒子線治療といった粒子線治療は,根治照射としても良好な治療効果が期待できる。

●唾液腺悪性腫瘍に対する粒子線治療は保険適用となっている。

●粒子線の照射方法のなかでもスキャニング法が唾液腺悪性腫瘍には適している。

薬物療法

著者: 多田雄一郎

ページ範囲:P.730 - P.738

POINT

●再発転移唾液腺癌では各腫瘍型の生物学的特徴に応じて薬物治療の適応を検討する。

●比較試験を経たエビデンスのある薬物治療はない。

●本邦で白金製剤とタキサン系抗癌剤の併用療法の有用性が報告されており,有力な選択肢となる。

●NCCNガイドライン2020年版では,唾液腺導管癌には抗アンドロゲン療法や抗HER2療法,分泌癌には抗NTRK療法,腺様嚢胞癌にはレンバチニブの投与が呈示された。

原著

前頭洞に発症した真菌症の1例

著者: 笠原健 ,   大久保啓介 ,   菅野雄紀

ページ範囲:P.739 - P.744

はじめに

 副鼻腔真菌症は,日常診療においてしばしば遭遇する疾患であり,重篤な症状を呈する浸潤性と非浸潤性とに大別される。Bent & Kuhnの分類では,①急性浸潤性,②慢性浸潤性,③慢性非浸潤性,④真菌の抗原性が関与するアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の4つに分類され,なかでも慢性非浸潤性は副鼻腔真菌症のうち最も発生頻度が高く,罹患洞としては上顎洞が最多である1)。長谷川ら2)は浸潤型および非浸潤型を含めた副鼻腔真菌症54例のうち83.3%が上顎洞に発生していたと報告している。これに対して,前頭洞真菌症は1.9%と非常に少数であると報告しており,前頭洞に発症する副鼻腔真菌症は稀であると考えられる。今回,われわれは左前頭洞真菌症に対して内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を行い,良好な治療経過を得た症例を経験したため,若干の文献的考察とともに報告する。

Tullio現象を示した両側上半規管裂隙症候群の1例

著者: 川瀨勝隆 ,   間多祐輔 ,   植木雄司 ,   今野昭義

ページ範囲:P.745 - P.749

はじめに

 上半規管裂隙症候群は上半規管天蓋の骨が欠損するために,圧刺激や音刺激が加わることでめまいや眼振が誘発される疾患である。1998年にMinorら1)によって最初に報告されてから,欧米諸国では多くの症例が報告されている。一方でアジアからの報告は少なく,本疾患の発症には人種差がある2,3)と考えられており,本邦では稀な疾患と思われる。

 今回われわれは,Tullio現象を示す両側の上半規管裂隙症候群の1例を経験したので報告する。

感音難聴,めまいともに認めなかった外傷性鼓膜穿孔に伴う外リンパ瘻症例

著者: 米谷公佑 ,   篠原宏 ,   中野光花 ,   久保田俊輝 ,   清水啓成

ページ範囲:P.751 - P.755

はじめに

 外リンパ瘻は内耳リンパ腔と周囲臓器との間に瘻孔が生じ,内耳の生理機能が障害される疾患として定義される1)。外リンパ瘻の主症状はめまい,難聴であるが1),特異的な症状はなく,明確な誘因を認めない症例ではメニエール病や突発性難聴との鑑別がしばしば問題となる1,2)。cochlin-tomoprotein(CTP)検査が報告されるまでは,外リンパの漏出を顕微鏡下あるいは内視鏡下に直接観察する必要があり,その診断に苦慮していたが,2009年,Ikezonoら3)によって外リンパ中のタンパク質であるCTPが外リンパ瘻の生化学的診断マーカーとなることが報告された。CTP検査の感度,特異度はともに高く4,5),CTP検査を用いることで,より低侵襲,かつより正確に外リンパ瘻を診断することが可能となった。

 これまで,難聴のみを自覚症状とする外リンパ瘻の症例は数多く報告されていたが6),CTP検査の普及に伴い,難聴のない,めまいのみの外リンパ瘻の症例も報告されるようになった7)。今回われわれは,伝音難聴しか認めず,骨導閾値の上昇やめまいがなかったにもかかわらず,CTPが高値を示した外傷性外リンパ瘻の症例を経験したので報告する。

篩骨動脈を茎とする鼻中隔粘膜弁を用いた鼻中隔穿孔閉鎖術の1例

著者: 勝俣量平 ,   鈴木正宣 ,   中薗彬 ,   中丸裕爾 ,   本間明宏

ページ範囲:P.757 - P.760

はじめに

 鼻中隔穿孔は,鼻中隔矯正術や鼻粘膜焼灼術などの外科治療,六価クロムなどの薬物による中毒,多発血管炎性肉芽腫症,梅毒などの全身疾患にて生じる1)。無症状の症例も多いが,穿孔の大きさと位置によっては穿孔部の痂皮形成,反復性鼻出血,笛様音などを生じ,患者のQOLを低下させる。これまでにさまざまな閉鎖法が報告されているが,再穿孔をきたし治療に難渋することも多い。今回われわれは,篩骨動脈を茎とする鼻中隔粘膜弁で鼻中隔穿孔を閉鎖した1例を報告する。

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目次

ページ範囲:P.671 - P.671

欧文目次

ページ範囲:P.673 - P.673

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.762 - P.762

あとがき

著者: 鴻信義

ページ範囲:P.766 - P.766

 季夏の候,皆様いかがお過ごしでしょうか。

 突然ですが,我が家には1歳8か月のワンちゃんがいます。オスのトイプードル,毛色はホワイト。もう,とにかく,「癒し」です。新型コロナ感染症で緊急事態宣言まで発令され,会合にも学校にも行けず心が荒んでしまいそうな日々をステイホームで過ごすなか,どれだけ家族みんなの心を明るくしてくれたことか。子供たちと違って受験戦争がなく,ただひだすら「可愛いね,良い子だね」と連呼しているうちに本当に「可愛くて良い子」だなと思うようになりました(笑)。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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