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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科93巻4号

2021年04月発行

雑誌目次

特集 あたらしい聴覚・平衡機能検査の見方と臨床応用

ページ範囲:P.293 - P.293

《あたらしい聴覚検査の新展開》

ワイドバンドティンパノメトリ

著者: 水足邦雄

ページ範囲:P.294 - P.297

POINT

●ワイドバンドティンパノメトリ(WBT)は,幅広い周波数帯での中耳機能の測定が可能な新しい検査法である。

●WBTでは,従来のティンパノグラムで使用している226Hzだけでなく,新生児に対する1000Hzを含む任意の周波数における反応が短時間で容易に得られる。

●滲出性中耳炎,耳小骨離断,耳小骨固着などの中耳疾患の鑑別に,WBTはきわめて有用である。

雑音下語音聴力検査

著者: 川瀬哲明

ページ範囲:P.298 - P.302

POINT

●雑音下語音聴力検査は,易マスキング性の評価として重要な検査である。

●補聴器,人工内耳などの人工聴覚器の評価としても汎用されている。

●hidden hearing loss(HHL),聴覚情報処理障害では,病態を考慮した条件設定が重要になる。

●施設間での検査データの比較・共有には検査の標準化が重要になる。

両耳聴検査

著者: 西村忠己

ページ範囲:P.304 - P.307

POINT

●両耳聴検査は中枢の聴覚機能の評価に適している。

●両耳融合能,両耳分離能,方向感を評価する方法などがある。

●選択した評価方法により,評価している機能は異なり,解釈には注意が必要である。

●さまざまな評価方法があり,臨床検査として定まった方法は現時点ではない。

chirp音を用いたABRとASSR

著者: 伊藤吏

ページ範囲:P.308 - P.313

POINT

●chirp音とは,蝸牛基底板に音が伝搬する際の高周波数成分と低周波数成分の時間差(cochlear delay)を代償して周波数ごとの反応に同期性をもたせ,より大きな反応を得ようと工夫された音である。

●Elberlingらは正常なヒト蝸牛の閾値付近の音圧に最も合致するcochlear delayモデルを考案し,このモデルの遅延を適正に代償するchirp音を開発し,自身の名Claus Elberlingの頭文字をとってCE-Chirp®と名づけた。現在,このCE-Chirp®はさまざまな検査機器で利用されている。

●Broad Band CE-Chirp®刺激による自動聴性脳幹反応(ABR)が新生児聴覚スクリーニングに利用され,検査時間の短縮化が報告されている。

●異なる搬送周波数と刺激頻度をもつNarrow Band CE-Chirp®を組み合わせた複合音刺激による聴性定常反応(ASSR)が乳幼児の精密聴力検査として用いられ,検査時間の短縮化が可能となった。

聴覚皮質中枢誘発電位検査

著者: 加我君孝

ページ範囲:P.314 - P.319

POINT

●聴覚皮質中枢誘発電位は,認知・識別・判断が関与するトップダウン型と,関与のないボトムアップ型に分けることができる。

●トップダウン型には代表的な誘発電位として,2つの音の認知・判断課題が関与するP300とmismatch negativityがあり,前者は意思的,後者は自動的な課題である。

●ボトムアップ型には中枢聴覚伝導路を上昇し聴覚皮質中枢が関与するクラシカルな中間潜時反応と緩反応がある。聴覚の脳磁図におけるPam,N1mは聴覚誘発電位のPa,N1に対応する。

補聴器適合検査—実耳測定と雑音下での語音明瞭度の測定の臨床応用法

著者: 上野真史 ,   新田清一

ページ範囲:P.321 - P.325

POINT

●「補聴器適合検査の指針(2010)」で示されている8つの検査法のうち,実耳挿入利得の測定と雑音下での語音明瞭度の測定の臨床応用法について概説した。

●実耳挿入利得の測定は,特に小児例やオープンフィッティング例において有用である。小児例などで実耳測定が困難な場合は,real-ear to coupler difference(RECD)を活用すれば実耳測定を一度で済ませることができる。

●雑音を負荷したときの語音明瞭度については,雑音なしとSN比+10dB,+5dB,+0dBの4条件での評価を行うことで,患者が聴取困難をきたす条件を明らかにし,環境調整などの指導に活用できる。

●57-S語表により4条件の測定を行うと検査時間が長時間となり,集中力が持続せず1日での測定が困難な場合が多い。67-S語表を活用することでより短時間で施行でき,患者や医療者の負担軽減につながる。

《あたらしい平衡機能検査の新展開》

重心動揺負荷検査(ラバー負荷)

著者: 岩﨑真一

ページ範囲:P.326 - P.330

POINT

●ラバー負荷検査は,ラバー上に起立した際の重心動揺を解析することによって,末梢前庭障害の有無について予備的判定をする検査である。

●ラバー負荷検査は,上前庭神経だけでなく,下前庭神経の障害も検出可能であり,慢性期の前庭障害も検出可能な検査である。

●フォームラバー上では,両側の踵が接するように起立させ,ある程度身体の動揺がおさまって安定した揺れとなってから,記録を開始する。

●被検者が転倒しないよう,常に注意を払う。

video head impulse test(vHIT)

著者: 山野邉義晴 ,   神崎晶

ページ範囲:P.332 - P.336

POINT

●video head impulse test(vHIT)は肉眼で観察できないcatch-up saccade(CUS)を記録でき,各半規管機能を個別に検査することができる。

●個別の半規管機能評価は前庭リハビリテーションの処方内容を考慮するうえで有用である。

●vHITの検査上の留意点は非常に多いため,講習会への参加や,すでに導入している施設への見学が勧められる。

cVEMP,oVEMP,head tilt SVV検査

著者: 室伏利久

ページ範囲:P.338 - P.342

POINT

●耳石器機能検査として,前庭誘発筋電位検査(vestibular evoked myogenic potential:VEMP),および主観的視性垂直/水平位検査(subjective visual vertical/horizontal:SVV/H)が挙げられる。

●胸鎖乳突筋で記録するcervical VEMP(cVEMP)は球形囊機能検査,外眼筋で記録するocular VEMP(oVEMP)は卵形囊機能検査として位置付けられる。

●SVVに頭部傾斜に対する感受性の要素を加え,特に卵形囊機能の評価に焦点を絞った機能検査としてhead tilt SVVが開発され,臨床研究が開始されている。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年4月)。

前庭電気刺激検査(galvanic sway検査)

著者: 菅原一真 ,   山下裕司

ページ範囲:P.344 - P.346

POINT

●前庭電気刺激検査の1つである電気性身体動揺検査は,後迷路性の前庭機能を評価する方法として古くから行われている。

●前庭電気刺激はリハビリや道案内に応用されつつある。

●電気性眼振は赤外線カメラを使用することで詳細な記録・評価が可能となった。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2024年4月)。

Review Article

中耳真珠腫の新分類

著者: 東野哲也

ページ範囲:P.348 - P.360

Summary

●日本耳科学会の中耳真珠腫進展度分類は,真珠腫に対する術式選択や術後成績を論じる際に共有すべき最低限の臨床情報として,2008年に弛緩部型,2010年に緊張部型,2015年に二次性と先天性を加えた形で完成した。

●本分類がわが国において真珠腫の臨床現場で広く活用されるとともに,本邦初となるAll Japanの大規模疫学研究にも貢献した。

●本分類をもとにヨーロッパ耳科学会との同意案が形成され,中耳真珠腫という多彩な病態は,「世界共通の用語」を用いて国際的な議論が可能となった。

●今後,本分類を用いたデータベースが構築され,わが国,そして世界の真珠腫治療の標準化に寄与することが期待される。

原著

左扁桃周囲炎による敗血症性ショック後にMiller Fisher症候群を発症した1例

著者: 中島一鴻 ,   井上彰子 ,   中澤宝 ,   福生瑛 ,   川島孝介 ,   神山和久 ,   中村允人 ,   綱由香里 ,   和田弘太

ページ範囲:P.361 - P.365

はじめに

 Guillain-Barré症候群(GBS)・Miller Fisher症候群(MFS)は,先行感染に伴う自己免疫機序によるニューロパチーである。われわれは,46歳の男性が左扁桃周囲炎後に歩行障害・構音障害をきたしMFSの診断に至った症例を経験したので報告する。GBS・MFSはともに比較的稀な疾患であるが,特にMFSは先行感染の大多数が上気道感染である。したがって,耳鼻咽喉科領域の感染症患者が失調症状を伴う際にはGBS・MFSの発症を念頭に置く必要があると考えられた。

全身性エリテマトーデス(SLE)の神経耳科学的検討

著者: 落合敦

ページ範囲:P.367 - P.372

はじめに

 膠原病は中枢から末梢にわたる多彩な神経症状を呈することが知られており,時にめまい・平衡障害を起こす。われわれ耳鼻咽喉科医が最終的に膠原病を診断する機会はないが,他科で診断された患者がめまい・平衡障害を起こして耳鼻咽喉科にコンサルトされることがある。しかし,その詳細についての報告は稀である。今回,北里大学病院耳鼻咽喉科めまい外来および北里大学東病院神経耳科を受診した,膠原病の代表的疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)患者の神経耳科学的所見について検討したので報告する。

経外耳道的内視鏡下耳科手術での薄切軟骨併用の小児鼓膜形成inlay法

著者: 木下慎吾 ,   西嶌渡

ページ範囲:P.373 - P.378

はじめに

 経外耳道的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic ear surgery:TEES)の有用性は広く知られている。筆者らはTEESと鼓膜形成inlay法の両方の利点を生かし,小児の鼓膜形成を軟骨膜付き薄切軟骨の移植により行った。良好な上皮化が得られ,有用な鼓膜形成法の1つと考えられたので報告する。

書評

別冊『呼吸器ジャーナル』COVID-19の病態・診断・治療—現場の知恵とこれからの羅針盤

著者: 藤田次郎

ページ範囲:P.347 - P.347

 医学書院から別冊『呼吸器ジャーナル』として『COVID-19の病態・診断・治療—現場の知恵とこれからの羅針盤』という本が出版された。多くの臨床医の興味を引きつけるテーマである。私自身,『呼吸器ジャーナル』の編集,および執筆に携わったことがあるものの,これまでの企画とは異なるスタイルの本であると感じた。

 まず,Ⅰ章ではCOVID-19に関する総論を,Ⅱ章ではCOVID-19を理解するために必要な基礎知識を示している。Ⅲ章では,各論として疫学・診断・治療を示している。これらの章からCOVID-19に関する基礎知識を学ぶことができる。なかなか見ることができない病理像まで紹介されている点に感心した。また臨床医の関心の高いワクチンの開発状況も参考になった。

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目次

ページ範囲:P.289 - P.289

欧文目次

ページ範囲:P.291 - P.291

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.380 - P.380

次号予告/増刊号予告

ページ範囲:P.381 - P.381

あとがき

著者: 小川郁

ページ範囲:P.384 - P.384

 2回目の緊急事態宣言の発出から1か月が経過し,新型コロナウイルス新規感染者も減少傾向にあり,ワクチン接種も2月17日からやっと開始されました。2019年12月に中国武漢で発見された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが,1年以上経ってやっと若干の落ち着きを取り戻してきた感があります。本年の東京オリンピックがどのようになるのかいまだ全く予測できませんが,明るい希望に満ちた2021年となるよう期待したいと思います。

 さて,新型コロナウイルス感染拡大のなかで今年3月31日に定年退任を迎えることになりましたので,今回が最後の「あとがき」になります。2010年から編集委員を担当させていただきましたので,12年目になるかと思います。この間,2011年の3.11東日本大震災をはじめとするさまざまな大災害もありました。原発問題も含めていろいろと考えさせられる事件や社会問題も毎年のようにあったと思います。もちろん,嬉しいニュースも多く,山中伸弥 京都大学教授をはじめとする多くの日本人学者のノーベル賞受賞もありました。メダルラッシュで盛り上がったロンドンオリンピックなど,多くのオリンピックも話題になりました。しかし,なんといっても最後に経験した今回の新型コロナウイルスパンデミックは衝撃的でした。診療をはじめとする仕事や会議,学会活動など多くの社会活動が激変,この1年は本編集委員会もすべてWeb開催となりました。しかし,社会構造の変化は多くのメリットもありました。デジタル化,キャッシュレス化やSDGsに対する対応など,とかく先進国として遅れていた日本の社会構造を有無を言わせず変化させたこと,さまざまな旧態然とした社会構造を国民の衆目に晒したことなどです。この機会をうまく利用して,いち早く本当の先進国になってもらいたいと思います。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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