原著
血清・中耳組織中IgG4高値を認めた中耳炎の1例
著者:
坂本龍太郎
,
増田正次
,
濱之上泰裕
,
長濱清隆
,
大原有紗
,
尾川昌孝
,
齋藤伸夫
,
木村泰彰
,
奥羽譲
,
村上諄
,
齋藤康一郎
ページ範囲:P.383 - P.390
はじめに
IgG4関連疾患は,単一または複数臓器にびまん性あるいは限局性腫大,腫瘤,結節,肥厚性病変を認める疾患である1)。2001年にわが国から発信された疾患概念で2),2019年に国際的なIgG4関連疾患分類基準が発表され3),2020年にIgG4関連疾患包括診断基準改定が発表されたばかりである(表1)1)。病態に関しては,IgG4そのものに病原性はなく,IgG4の産生を促進する免疫環境に病原性があることが報告されはじめているが,未解明である4)。治療に関しても,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)の全身投与に対する反応が良好なのが特徴の1つであるものの1),現状では免疫抑制薬,生物学的製剤,外科的切除などによる治療報告があり,エビデンスに基づいた治療ガイドラインがまだない。耳鼻咽喉科領域では唾液腺炎,頸部リンパ節腫脹として遭遇する機会があるが,中耳病変の病理組織像とともに中耳のIgG4関連疾患(以下,IgG4関連中耳炎)を報告した文献は少ない5〜16)。
耳科学の観点から国際分類基準で注目すべきことは,IgG4関連疾患として疑うべき疾患(entry criteria)として中耳病変が含まれていないことである3)。国際分類基準に中耳疾患が含まれていない理由の一端は,耳科領域における本疾患の報告数が少ないためと考えられる。
今回われわれは,最新のIgG4関連疾患包括診断基準に照らすと本疾患の確診群に相当する中耳病変を,妊娠中の上気道炎を契機に発症した症例に遭遇したが,中耳病変の減量手術とステロイド局所投与により病勢が制御可能であった。これまで,IgG4関連中耳炎に対するステロイドの局所投与の有効性に関する報告はない。IgG4関連中耳炎の発症機転や治療方針に新たな知見を与える症例としてここに報告する。